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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第三部

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緩衝地帯 4

 お昼の後、先生はヒロシさん、サクラさんに話があると告げ、二人のお部屋へと向かった。アオイは未だ、談話室のソファで寝ている。本当はアオイも一緒に、寄宿舎のお話をヒロシさんとサクラさんにするはずだったけど、いつ目が覚めるか分からないからって、先に話し合いを始める事にしたらしい。私はその間、ミーナのお手伝い。一緒に洗濯物を取り込む。


 私が先生を好きになったのはいつなんだろう? 雪狼から助けてもらった時? ううん。違うな。あの時はまだ、先生――魔人族が怖かった。薬草を渡していた時はどうだろう? う~ん……。気にはなっていたと思う。私のせいで、大怪我をしちゃってたから。それで、片目が見えないまま治らないって知った時、ショックだった。だから、責任を取りたいって思った。目を治してあげたいって思った。でも、それは好きだったからじゃない。


 でもなぁ。もう薬草はいらないって言われた時は、二度と会えないのかと思って悲しかったんだよなぁ。いつの間にか、先生に薬草を渡すのが楽しみになっていたんだと思う。薬草を受け取って嬉しそうに笑う先生をもっと見たいって思うようになっていた。そう考えると、好きになってたのかな? う~ん……。


「アイリス? どうしたの? 難しい顔して」


 ミーナが不思議そうに首を傾げる。私はそんな彼女をジッと見つめた。ミーナは小さい頃にヴォルフさんに命を助けられて、それからずっと彼の事が好きだった。私と状況は似ているような気がする。ただ、全く同じって訳じゃない。私はずっと先生と一緒だけど、ミーナはヴォルフさんと会えない日々が続いていた。それでも彼をずっと想い続けて、その想いを成就させた。


「ね、ねえ、ミーナ? 変な事、聞いても良い?」


「ん? どうしたの?」


「あ、あのね、好きと憧れって、どう違うの?」


「何? ずいぶん難しい事、考えてたのね?」


「ん。ミーナはヴォルフさんの事、ずっと好きだったんだよね? 憧れてたんじゃなくて」


「う~ん……。どうなのかしら……。考えた事、無かったわね……」


 ミーナは手を止め、難しい顔で考え込んでしまった。言う通り、今まで考えた事も無かったんだろう。でもきっと、答えを出してくれるはず。だって、ミーナはヴォルフさんと結婚したんだもん。ヴォルフさんの事、好きなんだもん。


「好きだから、ヴォルフさんと結婚したんでしょ? 違うの?」


「そうね。憧れだけじゃ、結婚なんて出来ないわよね。一緒にいる時間が長くなれば、短所だって目につくし……。ああ、そっか!」


 ミーナが閃いたとばかりにポンと手を打った。ミーナなりに答えが出たらしい。私は続く言葉を待った。


「ありのままを受け入れられのが、好きって事なんじゃないかしら? ほら。ウチの人ってあれなところがあるじゃない?」


「あ、あれ……?」


「すぐ調子に乗って失敗して、その時は反省するんだけど、またすぐ調子に乗って同じような失敗して……。学習能力無いのって思う事、結構あるの」


「そ、そうなんだ……」


「でもね、そういうところ、可愛いなって思えちゃうのよね、これが。憧れだけだったら、幻滅してたと思う。でもね、好きだから受け入れられたのよ、きっと」


 そう言って照れたように笑うミーナの顔は、今まで見た中でも特別綺麗だって思えた。ヴォルフさんの事を話すミーナが眩しい。


「あら? もしかして、余計に混乱させちゃった?」


「ううん。そんな事ないよ。ありがと、ミーナ」


「そう? それなら良いんだけど」


 そう言って、ミーナは再び洗濯物を取り込み始めた。私もそれに倣う。


 短所でも受け入れられるか否かが、好きか憧れかの違い。それは分かった。でも、先生の短所って何? 先生が何か失敗するなんて考えられないし、先生の嫌な所だって思い付かない。もし、これから先、先生の嫌な所とか駄目な所とかを見たとして、それでも私は先生の事を好きでいられるのかな? 分からない。それに、何だか怖い……。


 もやもやとした気持ちを抱えながら談話室に入ると、ソファで寝ているはずのアオイがいなくなっていた。目を覚まして、話し合いをしている先生と合流したのかな? 話し合い、上手くいってるかな? 気になる。でも、様子を覗きに行く訳にもいかないし……。


 ソワソワとしながら洗濯物をたたんでいると、談話室の扉が開いた。入って来たのは先生、アオイ、ヒロシさん、サクラさんの四人。思わず立ち上がった私を見て、先生が優しく微笑んだ。アオイもご機嫌な感じだし、話し合い、上手くいったのかな? そう思っていると、先生が小さく頷いた。やっぱり、話し合いは上手くいったらしい。嬉しそうな先生を見ていたら、私まで嬉しくなってきた。


 先生が嬉しそうにしていたら嬉しいし、楽しそうにしていたら楽しい。それはきっと、私にとって先生が特別だから。特別大事で、特別大好きな人だから。


 この気持ちはきっと、憧れなんかじゃない。やっぱりアクトは意地悪だ。あんな事言って、私を混乱させて泣かせようとしてたんだな!


「ミーナちゃん。これからみんなに大事なお話があるから、声を掛けて来てもらっても良い? 出来れば、緩衝地帯のみんなに聞いてもらいたいんだけど……」


「分かりました」


 サクラさんの言葉にミーナが頷いて立ち上がり、談話室を後にする。そうしてしばらくすると、二階の寝室にいたらしい子達がわらわらとやって来た。その少し後、外で遊んでいた子達やヴォルフさん、ノイモーントさんとフランソワーズ夫婦、フォーゲルシメーレさんとリリー夫婦も談話室へとやって来た。それぞれが思い思いの席に座り、報告会が始まる。私も部屋の隅っこ、壁に寄りかかってそれに参加した。


 この孤児院は、寄宿舎の寮になる。かなり古い建物で所々傷んでいるから、全体的に改修をして、ついでに間取りも大きく変える予定らしい。そして、ここの隣に、勉強をする為の建物を新たに建てる予定。建物の建設は、緩衝地帯に入る為の訓練を受けた職人さんがやってくれるとの事だった。辛い訓練を受けないといけない人達がたくさんいるのかぁ……。気の毒に……。私と同じ事を思ったのか、隊長さん三人組も気の毒そうな顔をしていた。


 建物の建設が終わったら、本格的に寄宿舎として運営するらしい。それまでは今まで通りに過ごして良いけど、寄宿舎の運営が始まったら勉強をしないといけない。主に、読み書き計算と農作業の。


 寄宿舎卒業後は、農業拠点への就職を斡旋してくれるとか何とか。人族と魔人族の領域を隔てる城壁の要所要所に、農業拠点とそれを中心に広がる町があるというのは本で読んだ事がある。町の真ん中に農業拠点があって、人族側には人族用の、魔人族側には魔人族用の農業拠点があるんだとか。そこで働くと、豊作になればたくさんお給金がもらえるし、冬場でも飢えるような事は無いし、人気の出稼ぎ先らしい。そこへ優先的に就職させてくれるなら、悪い話じゃないだろう。現に、大きい子達は目を輝かせている。


「緩衝地帯に残り、共に集落発展を支えて下さるのならば、それに越した事はありません。得たい知識や技術、就きたい職が決まっている者は私に相談を。そして、ノイモーント、フォーゲルシメーレ、ヴォルフ。寄宿舎の、ひいては集落発展への協力をお願いします」


 先生はそう話を締めくくると、深々と頭を下げた。まばらに拍手が起こり始め、それがだんだんと室内全体に広がる。顔を上げた先生は、ホッとした顔をしていた。


 先生が一番心配していたのは、この孤児院に住んでいる子達の反対。今のところ、反対意見を出す子はいない。みんな嬉しそうにしている。あのアクトでさえ、目を輝かせていた。


 私達には親がいない。だから、仕事を見つけるのには人一倍苦労する。身元を保証してくれる人がいないから。出稼ぎに出たって、自分の生活すらままならないって事もあるらしい。仕事が見つからなかったら、最悪、路上生活だ。それは誰だって避けたい。でも、ずっとここにいる事も出来ない。人が多くなれば、食料だって生活用品だってたくさん必要になって、お城からの援助だけじゃ足りなくなる事だってあるから。働ける子は町に出稼ぎに行くのがここの暗黙の了解。ある程度の年齢になると、みんなどこかの町に出て行っていた。


 でも、これからは違う。緩衝地帯の役に立つような仕事に就けば、ずっとここにいられる。無理して町に出なくても良くなる。それを喜んでいる子も多く、あっちこっちから「ずっとここにいて良いの?」「町に行かなくても良いの?」といった声が上がっていた。


「あの、質問……」


 そんな中、一人の女の子がおずおずと手を挙げた。先生がにこりと笑い、頷く。


「はい、どうぞ」


「魔術は? 教えてもらえるの?」


 この子はきっと、力ある者の務めを知らないんだろう。いつかの私のように。この質問を聞いて、不安そうな顔をしている子達は、力ある者の務めを知っている子達、なのかな……?


「寄宿舎では、魔術に限らず、戦う術を教えるつもりはありません」


「何で?」


「貴女は、力ある者の務めという言葉を聞いた事がありますか?」


「ううん」


「魔術や剣術といった、戦う術を持つ者は、戦の際には従軍しなければなりません。命を賭して国を、そして、民を守らなければならない。私は貴女達に、その務めを押し付けたくはありません」


「でも、アイリスは魔術の勉強をしてるんでしょ? アイリスに魔術を教えてあげたんでしょ?」


「ええ。彼女には、彼女の叶えたい夢があります。その為には従軍する事も厭わないと、彼女は私にそう言いました。もし、貴女に命を賭してまで叶えたい夢があり、それが魔術を習得する事でしか叶わないと言うのなら、私はその為の力となります。しかし、貴女の夢は、そこまでして叶えたいものですか?」


「ううん……。ただ、ちょっと魔術使ってみたいなぁって……」


「魔術に興味があっただけ、と?」


「うん。ごめんなさい……」


「謝る事はありません。一つ思い違いをして欲しくないのですが、好奇心旺盛な事は決して悪い事ではありません。むしろ、好ましくさえあります。もし、魔術の他に興味を持てるものが見つかった際は、是非とも私に教えて下さい。その時は貴女の力になると約束します」


「うん。分かった!」


 頷いた女の子を見て、先生が優しく微笑む。何だか面白くない。先生は私の先生なのに。寄宿舎が出来るまでは、私の先生なのに……!

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