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白亜の騎士と癒しの乙女  作者: ゆきんこ
第三部

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協力者 2

 先生の頭痛が治まった後、先生とウルペスさんは、一生のお願い券に書き込む内容の相談に入った。あーでもない、こーでもないと、相談を続けている。


「ホムンクルスについて、叔父上がどこまで知っているのかが問題ですね」


 そう言ったのは先生。一生のお願い券を見つめ、難しい顔をしている。ウルペスさんも腕を組んで、難しい顔をしていた。


「本に出て来る破滅の魔術師ってブロイエ様でしょ? ある程度、エルフ族の青年から話を聞いている可能性が――」


「聞いていないかもしれませんよ? エルフ族の青年は協力者を得たとは書いてありましたが、それが破滅の魔術師だったとは書いてありません。事情だけ聞いて、ホムンクルスの事はほとんど聞かずに断った可能性だってあります」


 ウルペスさんの言葉を遮り、先生がそう言う。すると、ウルペスさんが更に難しい顔をした。


「じゃあさ、竜王様の蔵書の中に、ホムンクルスについての記述がある書物って無い? それを閲覧する為に力を貸してもらうとかどう?」


 ウルペスさんがそう言うと、先生が首を横に振った。


「禁術関連の書物は僕でも見せてもらえなかったので、ホムンクルス関連の書物があるかどうか、正直分かりません。叔父上の力を借りて禁術関連の書物を閲覧出来たとしても、ホムンクルスに関わる書物が無かったら無意味ですよね?」


「ブロイエ様の蔵書は? 屋敷の書庫に入ったんでしょ? どうだった?」


「たまたま、禁術関連の書物を一冊見つけましたけど……。それ以外も隠されていたのか、はたまた所持していないのかは分かりません」


「そっかぁ……」


 そのまま、二人は難しい顔で考え込んでしまった。私も一緒になって考え込む。一生のお願い券って、何でも一つお願いを叶えてくれる券だからなぁ。何個でもって訳じゃないからなぁ……。ホムンクルスの研究をしている最中も、ブロイエさんの力を借りたくなる事だってあるだろうし、ず~っと力を貸してくれたら良いのになぁ……。う~ん……。


 あ。そうだ! こう書けば良いんだ! 私はペンを取り、一生のお願い券にお願い事を書き始めた。


「ちょ――!」


 何か言いかけたウルペスさんを、先生が手で制す。二人が黙って見守る中、私のお願い事が書き上がった。


「これなら完璧っ!」


 自信満々、二人に一生のお願い券を掲げて見せる。私のお願いは、「ホムンクルスの研究に協力して」という、かなりざっくりしたもの。こういうのは、難しく考えたら駄目なんだと思う。色々してもらう為にも。


「すんごいざっくりしてるね」


「ええ」


「でもさ、これって解釈次第で何でもしてもらえるよね?」


「それこそ、ホムンクルスを作ってもらう事も不可能ではないでしょうね。それに、ホムンクルスの研究中は、何度でも力を貸してもらえる、と……」


「頭硬すぎたね、俺ら……」


「ですね……」


 ウルペスさんと先生が、乾いた笑い声を上げる。くふふ。私の案、採用決定! 後は、これをブロイエさんに渡せば任務完了! 意気揚々とソファから立ち上がり、ふと、ある事に気が付いた。ブロイエさんのお仕事部屋、場所知らないや!


「先生。ブロイエさんの所、一緒に来て?」


「ええ。行きましょう」


「俺も行く」


 こうして私達三人は、先生のお仕事部屋を後にし、ブロイエさんのお仕事部屋へと向かった。


 ブロイエさんのお仕事部屋は、先生のお仕事部屋の真上らしい。先生のお仕事部屋から一番近い階段を上り、廊下を少し進んだらすぐだった。ブロイエさんのお仕事部屋、初めて。ちょっとドキドキする。どんなお部屋なのかな? 先生のお仕事部屋と似てるのかな? ワクワク!


 先生が扉をノックすると、中からブロイエさんの間延びした返事が聞こえた。先生が先に入り、ウルペスさん、私と続く。


 ブロイエさんのお仕事部屋は、一言で言うと散らかっていた。汚い。先生のお仕事部屋とは大違い。真逆と言っても良いくらいだ。先生のお仕事部屋と同じくらいの広さのお部屋の中に、色々な物が溢れていて、これじゃ、どこに何があるのかすぐには分からないと思う。


 一番多いのは本。それに、書類らしき紙束。その中にローテーブルだったりソファだったり、変な壺だったり魔石だったり、よく分からない魔道具らしき物だったりが埋もれている。


「アイリスも一緒だなんて珍しいねぇ。面子的に、騎士団絡みじゃあないよね?」


「ええ」


 書類と本に埋もれた、机らしきものに向かってお仕事をしていたらしいブロイエさんが顔を上げてそう問うと、先生が一つ頷いた。私はそんなブロイエさんの元にタタタッと駆け寄り、一生のお願い券を差し出した。


「あのね、一生のお願い、思い付いたの! だからね、これ、叶えて!」


「うん。いい――やっぱ駄目!」


 笑顔で頷きかけたブロイエさんが、一生のお願い券に書かれた内容を見て、慌てた様子で首を横に振る。私はむ~っと頬を膨らませ、不服を顕わにした。


「ブロイエさんの嘘吐き。これ出せば、お願い、何でも叶えてくれるって言ったのに!」


「言ったけど、このお願いは駄目。ホムンクルスは禁術なんだから。犯罪者になっちゃうよ? 僕もアイリスも」


「嘘吐き。嘘吐き、嘘吐き! ブロイエさんの嘘吐きッ! お城のみんなに言いつけてやる!」


「ちょ――」


「だから言ったでしょ? それ出しても協力してくれないって」


 何か言おうとしたブロイエさんを遮るように、ウルペスさんは私の前にしゃがみ込んでそう言った。諦めたような、何かを悟ったような、そんな顔で。


「ブロイエさん、何でもお願い叶えてくれるって言ったんだよ! 私、騙されたの?」


「そうだよ。大人って汚いよね。すぐに子どもとの約束破るんだからね」


「ん。大人って汚い!」


「アイリスちゃんはこんな大人になったら駄目だよ?」


「ん。分かった! 私、ちゃんとした大人になる。ウルペスさんもね? 約束破る大人にならないでね?」


「うん。分かった」


 ウルペスさんが良い顔で笑い、親指を立てる。私も親指を立ててそれに答えた。そして、先生を見る。


「先生もね? 約束破る大人になったら嫌だからね?」


「ええ」


 先生もにこりと笑い、頷いてくれる。


「うわぁ……。僕、針の筵……」


 ブロイエさんはひとり、頭を抱えていた。でも、仕方ない。一生のお願い券をくれたのはブロイエさんだし、約束を破ろうとしたのもブロイエさんだもん。私、悪くないもん。つーんとそっぽを向いていると、ブロイエさんが大きな溜め息を吐いた。お?


「分かった……。アイリスの一生の願い、聞き届けましょう……」


「本当?」


「ホント、ホント……」


 わ~い。やったぁ! ウルペスさんと二人、「バンサ~イ!」と両手を上げて喜びを表現する。先生も嬉しそうにしているし、一生のお願い券を出した甲斐があったってものだ!




「それで――」


 荷物置き場となっていたソファを簡単に片付け、私はブロイエさんのお隣に座り、ブロイエさんの正面にウルペスさん、その隣に先生が座って、四人での話し合いが始まった。私が淹れたお茶を一口飲んだブロイエさんが、普段はあまり見せない真面目な顔で口を開く。


「まず、何から協力すれば良いのかな?」


「ホムンクルスについて、ブロイエ様が知っている事の全てを教えて下さい」


 ウルペスさんも真面目な顔でそれに答える。普段はにこやかな二人がこういう顔をしていると、ちょっと居心地が悪いな。私はビシッと背筋を正し、二人の様子を見守った。


「知っている事と言われてもねぇ。本に書いてあった事が全てだよ。殆ど何も知らない」


「ホムンクルス関連の資料は見てないんですか?」


「見てないねぇ」


 そう言ったブロイエさんが、涼しい顔でお茶を一口啜る。ウルペスさんはそんなブロイエさんをジッと見つめていた。二人の間に変な緊張感が漂ってるのは、私の気のせい?


「じゃあ、質問を変えます。エルフ族の青年が得たという協力者は、ブロイエ様ですか?」


「まあ、そうだね」


「研究概要は聞いたんですよね?」


「うん。かなりざっくりだけどね」


「どの程度研究が進んでいたのかは?」


「聞いた」


「実際、どの程度進んでいたんですか?」


「殆ど進んでいないみたいだったね。それは、主たる研究者――魔人族の男性って本には書いたっけ? その人の事をエルフ族の青年から聞いた限り、フィールドワーク向きの人みたいだったし、しょ~がないんじゃない?」


「それで、見かねたエルフ族の青年は、研究者気質の協力者を探そうと思い立った?」


「うん。そう」


 うむむ……。ブロイエさん、ウルペスさんの質問に対して、そっけなくしか答えてない気がする。こういうの、一問一答って言うんだっけ? さては、必要最低限の事しか教えないつもりだな! 協力するって言ったのに!


「ブロイエさん、ちゃんと答えて!」


 私がそう言うと、ブロイエさんが首を傾げた。とぼける気、満々らしい。


「答えてるよ?」


「最低限の事しか答えてないもん! 協力するって言ったのに! 嘘吐き! 先生! 私、また騙された!」


「悪い大人の見本ですね。こういう大人にならないように気を付けましょうね?」


 そう言って、先生がにっこりと笑う。私がうんうんと頷くと、ブロイエさんが「が~ん」って顔をした。でもちゃんと協力しないブロイエさんがいけない!


「寄ってたかって僕をいじめて……。もう、いじけてやる……」


 ブロイエさんは口を尖らせると、ソファの上で膝を抱えた。そんな彼を、先生とウルペスさんが冷ややかな目で見つめている。


 う~ん……。味方のいないこの状況……。ほんのちょこっとだけ、ブロイエさんが可哀想、かも……。


「あのね、ブロイエさん。ご褒美あげるから。だからね、ちゃんと協力して?」


「ご褒美って? 何くれるのかなぁ?」


「ん~……」


 ブロイエさんのやる気が出るご褒美、何かあるかなぁ? そう言えば、ブロイエさんの好きな物とか全然知らないや。ブロイエさんって、何あげたら喜ぶのかな? 想像もつかないなぁ。


「ブロイエさんは何が欲しい?」


「欲しいと言うか、何と言うか……。夢と言うかぁ、希望と言うかぁ……」


 ブロイエさんが頬を染め、もにょもにょと何か言い始めた。ん~? 何、この反応。私が首を傾げると、意を決したような顔でブロイエさんが口を開いた。


「お父様って呼んでみて欲しいなぁ、なんてっ!」


 キャッと両手で顔を覆うブロイエさんを、先生が汚い物を見るような目で、ウルペスさんが「うわぁ」って引いた顔で見つめていた。


「弟子二人の反応が冷たい! でも、めげない! アイリス。お父様って呼んでみて? そしたら、ちゃんと協力するから」


 私も先生を見習って、と。


「おとーさま」


 出来る限り冷たい目をして、棒読みで呼んでみる。すると、ブロイエさんが胸を押さえた。このポーズ、スマラクト兄様みたい。


「何故か心を抉られた! 今、お父様って呼んでもらったはずなのに……!」


「呼んだんだから協力して」


「弟子二人だけじゃ無く、アイリスまでもが冷たくなった! 僕が欲しかったのは、こんなご褒美じゃない!」


 この後しばらく、ブロイエさんはぎゃーぎゃー騒いでいたけど、先生が冷たく「うるさい」と言ったら落ち着いて、それからは協力的になってくれた。


 ホムンクルスの研究資料は、エルフ族の青年が、魔人族の男の人を弔う時に一緒に焼いてしまったらしい。だから、ブロイエさんはざっくりとした研究概要しか知らないんだとか。また、魔人族の男の人が亡くなった後、エルフ族の青年は旅に出てしまったらしい。エルフ族の青年が、今、どこで何をしているのかは、ブロイエさんでも知らないとの事だった。ず~っと会いに来ないし、生きているのかも怪しいって。


 今のところ、手がかりはエルフ族の隠れ里近くにある迷宮の中、か……。竜王様の蔵書の中にホムンクルス関連の本があれば良いんだけどなぁ……。無かったら、ウルペスさん、迷宮に行くとか言い出しそうで怖いな……。ブロイエさんが提供してくれた秘密の研究室を、先生、ウルペスさんと一緒に掃除しながら、私はこっそり溜め息を吐いた。

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