侯爵令嬢の嗜み 3
悔しかった。何も、できなかった。
私がしてきたことは、アイリスを諫めること……ただ、それだけ。
本当は、他にできたことがあったのかもしれないのに。
それなのに、私はそれしかできなかったのだ。
自分で何かをすることが、怖くて。
結局、そうしてただ傍観して……私は、私の大切な友だちを失ってしまったのだ。
暫く私は塞ぎがちにはなった。
……考えても、考えても答えはでない。
それでも罪悪感と自責の念に駆られて、『あの時どうすれば良かったんだろう?』と、答えのない問を考え続けた。
そんな、ある日のこと。
「アイリス様は、どうしているの?」
そんな問いかけが、クラスメイトからあった。
きっと、野次馬よろしく面白がって情報を集めているのだろう……そう思って、まともには答えなかった。
むしろ、その問いの答えは私こそが知りたい。
けれども暫くしている内に、学園内の生徒の中にはアイリスに同情的な思いを抱いている者も多いことが分かった。
それは学園でアイリスが最後に仕掛けた、楔。
どうやらエドワード王子の茶番劇で敵役に配役されていた彼女は、その場で機転をきかせて自身こそが悲劇のヒロインと印象づけたらしい。
……これは、もしかしたら流れがきているのかもしれない。
この流れには、乗らない手はない。
それから私は、アイリスの名誉回復の為に動いた。
アイリスが打った楔を、更に深くまで打ち込む。
そうし続けると、一人、一人とアイリス側に傾いて行った。
そしてそんな人が増えれば増えるほど、その広がりは早まる。
そんな日々を過ごしていたら、突然、アイリスから手紙が届いた。
最初その手紙を受け取ったときは、本当に驚いた。
その差出人を見て、驚きのあまり暫く固まってしまったほど。
何杯もお茶を飲み、心を整えてから開封する。
けれども内容は私の想像とは全く違っていて、私は再び固まる羽目になった。
……領主代行?商会を立ち上げた?
……意味が分からない。
一つだけ分かるのは、読んだ私がそうと分かるぐらい、彼女がイキイキしているということ。
忙しいから暫く会えないけど、是非落ち着いたら領地に訪れて欲しいとの言葉までついていた。
「……アイリスに、幸あれ」
その文面に小さく笑みを漏らしつつ、呟いたのだった。