侯爵令嬢の嗜み 1
……あーあ、嫌だな。
それが学園の門を潜るときの、私の素直な気持ちだった。
私の名前は、ミモザ。ミモザ・ダングレー。ダングレー侯爵の娘だ。
ダングレ侯爵家と言えば、このタスメリア王国の中で名家の一つに挙げられる。
お陰様で、食事は美味しいものをお腹いっぱい食べることができるし、お洒落なお洋服も着ることができる。
……だけど、物足りない。
このまま学園に入って、卒業して、適当な殿方と結婚して……という決められたレールの上をただひたすらに走っているなんて、つまらない。
贅沢なことを思っているという自覚はある。
けれども、どうしても思う。
何か、できないのか。成し遂げることができないのか。
私にしかできない、何かを。
物語の英雄のように、或いは賢王や美姫のように……その人にしかできない、何かを。
子どもじみた、憧れだ。
だって、本当は分かっている。
ダングレー侯爵家の娘として生まれたからには、学園への入学も、結婚も全て義務。
その義務から逃れ、何が何でも自らの道を進もうとする気概は、私にはない。
それに……いくら物語の主人公のように何かを成し遂げたいと願ったところで、私には圧倒的な武力も、知識も、美しさもない。
……きっと、物語で言えば私は脇役ね。
だから、学園への入学を嫌だと思うのも、ただ駄々を捏ねているだけ。
……あーあ、嫌だな。
そこまで分かっていて、それでも込み上げてくる気持ちを抑えきれず、溜息を吐きつつ門を潜った。




