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野良猫は月の夢をみる  作者: yukosuke
2/2

惟子

ーなんでそんなに

愛されてないの?


貴方はそう言って笑った。





イヤホンから大音量で流れ出す音に

ぼんやりと聞き入りながら

足早に入り乱れる人波の中をくぐる。

いつものコンビニでいつものように

煙草と缶コーヒーを買って、ホームで電車を待つ。

木村産婦人科

波多江商店

エンゼルクリニック

ホームの宣伝用看板を眺めながら

ふと、思った。

例えばこのままホームに飛び降りたら、私は全て消えてなくなって、私の脳内に掛かった、この霧のような得体の知れないものもどこかあの空の彼方へと拡散してくれるかも知れない。

そんなことを考えては

あぁ だめか。確か電車止めたら

めちゃくちゃお金がかかるんやったっけ?と

妙に現実的な事も頭を過る。

耳元で煩いくらいになり響く音と

おかしな妄想に包まれながら

到着した電車に乗り込み

適当な席に座った。


見慣れた田舎町の景色が車窓を滑り

みるみるうちに鈍色に消えていく。

帰宅ラッシュ時の車内には

大荷物を抱えた部活生の集団や

疲れた顔をしたイカにもなサラリーマン。

飲み会だろうか?目一杯のお洒落をした若い男女。

目の前に座った男女は

仲睦まじく、顔を寄せ合っている。


あー‥あのひとあの服似合ってないな‥


丸々と肥えた、ハムのような

二の腕をシースルーに包んだおばさんを見ながらぼんやりと思った。



最寄り駅から一駅越えたら

地下鉄へと乗り換える。

最近漸く乗り換えにも慣れてきた。

社会人になってからは車の運転ばかりが増えて、殆ど電車になど乗る機会がなかったからか初めのうちはそわそわと落ち着かなかった。

いつものように目的地までの

250円の切符を買い、電車が来るまでの間、いつものようにトイレで身だしなみを整えた。




ハタチを過ぎたら早いもんよ。

周りからよく言われていたように

ほんとに時間の流れというのは

あっという間だと思う。

気付けば私も今年の春で26歳になった。高校生くらいの頃はそれくらいの歳になった自分はどんな大人になっているのだろうと想像に花を咲かせていたような気がする。

まぁなんでも希望通りにはいかないものだけど、まさかこんな状況になっているとは夢にも思っていなかった。まさかまさかだ。









ほんの10数分走っただけで

錆び付いた商店の看板は

煌びやかなネオンに変わり、

ふと車内を見れば、女臭い香水を漂わせながら

折れそうな高いヒールを履いた

おなじような顔をした女達だけが

ちらほらと器用にスマホを弄ったり、化粧を直したりしながら

閑散とした車内に身を置いていた。


ー中洲川端


耳元の爆音のおかげで

隔絶された空間の隙間から

滑り込んできた文字を確認すると

よたよたと立ち上がり電車を降りた。


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