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第三二話 『ハスキー』作戦(後編)




 今回はかなり文章量が多くなってしまいました....。


 遂にシチリア島をめぐる攻防に終止符が打たれます。


 また意外な人物が最後に登場します.....。










 1940年6月29日午後1時11分


 シチリア島 メッシーナから西約30km


 バルチェッローナ・ポッツォ・ディ・ゴット


 ドイツ帝国軍北アフリカ方面軍臨時司令部










 パレルモ陥落から一日近くが経ち現在ドイツ軍は偵察隊を派遣し、それはメッシーナの目と鼻の先まで進出していた。しかし最後の拠点であるメッシーナを死守せんとイタリア軍は幾重にも防衛線を構築。また天候回復によりレッジョ・ディ・カラブリアから幾千もの増援が送られて始めていることが発覚したことでここにおいて司令部は大きく二つの意見に分かれることになる。一つは兵達の疲労や部隊の再編制をまず行い最善の状態でメッシーナに侵攻すること。もう一つは敵が増援部隊の配置等に気をとられている隙に一気に攻め込み港を占領し敵増援部隊のこれ以上の侵入を防ぐことだった。パレルモ陥落にあまり多くの兵を使わなかったこともありこちらの案も有力ではあった。しかし僅か1日の休息で再び戦場に赴かせるのはやはり大きなリスクを伴う決断だった。そして今司令部では両派が激しく議論を交えていた。


「だから敵部隊はまさか我々が間髪入れず攻めてくるとは思っていません!!それに今動かなければ敵はどんどん強大化しシチリアに膠着戦線を作り出してしまいます!そうなれば向こうの思う壺です!!」

リヒトホーヘンは多少感情的になりながらもうまくそれを抑えつつ言った。


「だが明らかに兵達の疲労の色は日に日に濃くなっているだろ。今の状態では碌々戦えやしない。しかも未だに今回の戦闘で失った戦力の集計ですら終わっていないんだ。余りにそれは急ぎすぎている。看過できん。」

参謀長は冷静にそれに反論する。


「しかし...」


「まあまあ落ち着け二人とも。これではまるで仲間割れしたみたいじゃないか。」

ロンメルが苦笑いしながら二人の間に入り場を落ち着かせる。


「まず明らかなことにだけ注目しよう。敵増援は現在も増強中。確かに今攻め込めばこれ以上の増強は避けられる。しかし我が部隊は疲弊しており非常にリスクがある。こういうことだろ?」


『「はい。」』

二人も同調する。


「仮に今攻めるとしてだ.....モントゴメリー将軍はついてきてくれるのか?」

ロンメルが素朴な疑問を述べる。


「現在連絡を密に取っておりますが恐らく無理かと。あちらはカターニアの頑強な敵防衛線との死闘を終えたばかり。被害も疲労も甚大なようです。しかしどうしてもというのなら少しは部隊を出してくれるでしょうな。」

参謀長が答えた。


「成程。では今の所は部隊の再編成が先だな。」

ロンメルが結論を言った。


「しかし閣下!!今を逃せば敵防衛線が...」

リヒトホーヘンがなおも反論しようとする。


「今の状況で既に敵との兵力差が大きく広がっている。どっちにしようが甚大な被害を被るだろう。パレルモを再び敵の手に渡すわけにはいかん。だろ?」


「はい.....。」


「そうなるとここも敵の攻撃を受けるかもしれんな。参謀長。急ぎ撤退の準備を。」


「はっ。」

そういうと参謀長は部屋を出ていった。


部屋には二人だけが残された。


「おじさん.....。今しかないですよ。」

リヒトホーヘンは幾分か砕けた口調で不満を漏らした。


「ジュニア落ち着け。兵士は機械じゃない。彼らも疲れているんだ。」


「確かにそうですが....これ以上敵の増長を許してもよいのですか?」


「そうとは言ってない。お前の案が認められる唯一の可能性は....まあ兵達の負担が大幅に減る何らかの方法がないと駄目だな。例えば艦艇部隊がタラントから戻ってくるとか..」

その時部屋のドアがノックされた。


「入れ。」


「はっ。閣下これを。」

先ほど出ていった参謀長が一枚の紙を持ってきた。


「どれどれ.......ふむ...興味深いな。」


「既にイギリス軍との協議も終えました。こうなると即時攻撃ができるかと。」


「うむ。至急纏めてくれ。」


「了解しました。」


「あの.....何の連絡が来たんですか?」

リヒトホーヘンは半分話題に取り残され、ぽかんとした顔で訊いた。


『「ああ.....」』

二人は同時にそう言うと目を見合わせ微かに笑った。


「お前には運がまだあるらしい。」

ロンメルが言ったことの意味がリヒトホーヘンには未だ分かっていなかった。








 午後2時34分


 メッシーナ沖約12km


 「キング・ジョージ5世」主艦橋









「前方に敵イタリア地中海艦隊視認。このままの速度で行くとあと10分後に会敵します。」

双眼鏡を持った航空参謀が言った。


「うむ。各自事前に打ち合わせした通り単縦陣で接近した後、散開して半包囲陣形を形成しろ。」

ラムゼーは頷きながら各員に通達した。


「敵艦隊の詳しい情報はあるか?」

ラムゼーは参謀長に聞いた。


「はっ。現在敵艦隊はメッシーナへと渡っている上陸船団を護衛する様にメッシーナ海峡を北進中。上陸船団とは言っても往復でも大して時間はかかりませんので恐らくこれらの阻止は無理でしょう。我々としては敵艦隊を撃滅後敵上陸船団に向けて艦砲射撃を行い殲滅する方向で現在動いてます。敵艦隊はやはり当初の予想通りヴィットリオ・ヴェネト級戦艦4隻、ザラ型重巡洋艦6隻、空母...こちらは船尾の形から見るに恐らく『トール』と思われます。敵艦隊も恐らく我々の位置を捕捉しているでしょうから航空攻撃が来るのは間違いないでしょうな。」


「それに対しての我々の備えはどうなっている?」


「はっ。先ほどホルティ閣下から入電があり既にサラエボとベオグラードでは攻撃隊発進の準備が終わっているそうです。」


「流石だな.....。分かった。直ちに攻撃隊を発艦させるように言ってくれ。目標は敵空母の無力化だ。」


「はっ。」

すぐさま以下の内容を通信士が打電し始める。


「ほかの艦艇の状況は?」


「戦艦部隊は既に対艦隊戦装備に切替が終了しています。射程に入り次第、ムサシを中心に敵部隊に一斉射撃を加えた後、駆逐艦が煙幕を展開し重巡と共に突撃、魚雷を発射します。戦艦は援護しつつ一定のタイミングで入れ替わり前方に進出。艦隊決戦で決着をつける見込みです。」


「まあ定石ではあるな。だがあくまで今回の目的はシチリア島占領だ。上陸船団を攻撃できないのであれば意味がない。最悪撤退させるだけでもいい。」


「分かりました。全体に改めて通達しておきます。」

その時後方で幾つかの小さな点が飛び立っているのが見えた。


「どうやら攻撃隊が発進しだしたようですね。」


「ああ。間髪入れず敵に攻撃を仕掛けたい。速度を上げるぞ。」


「はっ。」


「イタリアには暫しの間地中海から退場してもらおう。」

ラムゼーはそう言うと口角を上げて笑い声を漏らした。








 午後2時52分


 メッシーナ南西約11km


 イタリア軍防衛線








「敵はすぐそこまで来ているぞ!!!各員装備点検を抜かるな!!」

指揮官の少佐が声を張り上げる。


「おい。敵はまだパレルモだぜ?まさか来ないだろ?」

アメリカ軍からの供与であるM1ガーランドを点検しながら一人の兵士が軽口を叩いた。


「いやあのゲルマン人共なら分かんねえな。」

それに対し銃座を点検する兵士が反論する。


「まあ奴らの進撃もここまでだな。何しろメッシーナにはどんどん増援が到着しているし...天気が安定すれば本土から航空攻撃もできるしな。とにかく今は警戒w...」

その時突如兵士の後ろにあった弾薬置き場が爆発した。


「どうした!敵襲か!」

そう少佐が言うとほぼ同時に一帯は重苦しいプロペラの駆動音と相反する甲高いサイレンに包まれた。


「敵の空襲です!」

その言葉に釣られてその場にいたほぼ全員が空を見上げた。


「おい...あれは...ドイツの戦爆じゃないか!」

攻撃の正体はユンカースJu87の放った250㎏爆弾だった。


「敵防衛線を発見。各隊攻撃開始せよ。」

爆弾を落とした攻撃隊長が無線で通達する。


『了解。第2分隊で対処する。他はメッシーナに向かえ。』


「了解。幸運を祈る。」

そう言った隊長の視線の先にはメッシーナの街並みが広がっていた。


何故ロンメルは急にメッシーナの即時攻撃を許したのか、それには先に述べた艦隊のメッシーナ攻撃に加え、天候回復の合間を縫った北アフリカ・ギリシャからの爆撃が可能になったからである。北モロッコ戦線はパットンの部隊に幾分か苦戦しているものの制空権を奪取したことで栗林によってすぐさま大量の増援が送られていた。またエジプト方面の航空機はここ数日で殆どがギリシャに移送され昼夜を問わない爆撃を可能にしていた。更に嵐の合間に少しずつ修繕していた南シチリアの飛行場が使用可能になったことでついに満を持して航空攻撃の嵐がイタリア軍を襲おうとしていた。当然本土のイタリア軍は反撃を開始。状況は少し流動的ではあるが一気に勝負をつけたい連合軍にとってそれは関係のないことだった。


「メッシーナ港は未だ敵上陸船団で溢れているな...予定通り敵は未だ防衛体制を固められていないようだ。」

キャノピーから見ても眼下の敵が明らかに焦っているのが見えた。


「敵さんもすぐ迎撃機を出してくるだろう!各員目標通り第一目標は港湾説備!第二は飛行場だ!さっさと済ませて帰還しよう!では行くぞ!」

そう言って隊長機は急上昇して降下態勢に入った。








 同時刻


「キング・ジョージ5世」主艦橋








「どうやら味方の航空支援が来たようだな。」

ラムゼーの目にはぽつぽつと出始めた対空砲火が見えていた。


その時、遠くから爆音が聞こえてきた。


「どうした?」


「はい。どうやら攻撃隊が敵空母に損害を与えたようです。恐らく....あの煙の出方から見るに発着艦不能でしょう。」

双眼鏡で状況を見ながら参謀長が答える。


「よし。あと何分で射程距離に入る?」


「あと5分です。」


「よし、直ちに空母を後方に退避。駆逐艦は煙幕展開次第一部は対潜警戒で残すように。」


『「はっ。」』

艦橋の全員が気を引き締め場の空気が変わった。


「ムサシからです。既に射程距離に入ったと。」


「流石最新の戦艦だ。なるべく合わせたいがここは先制攻撃でビビらせるか。許可する。」


「はっ。」

すぐさま発光信号が飛び交う。


「ではお手並み拝見といこう。」

武蔵の前部砲塔が射角を調整し敵艦隊に狙いを定める。


「第一射、ムサシ来ます!」

間髪入れず武蔵の51センチ三連装砲が火を吹く。


「着弾まで9、8、7、....」

すぐさま士官がカウントを始める。


「当たるな。」


「はい。」

参謀長がそう言うと同時に武蔵の放った砲弾が着弾する。


「どうだ?」


「はい....敵戦艦に命中。黒煙を挙げているようです。」

この報告に艦橋がざわついた。


「一射目で当てるとは...敵には回したくないですね。」


「ああ...全く末恐ろしいよ。」


「閣下。全艦射程距離に入りました。」

参謀の一人が言う。


「よし、全艦予定通り一斉射撃に移る。やってやれ!」


「目標、敵戦艦。準備出来次第待機せよ。」

その時前方のイタリア艦隊の砲塔から幾つかの点が現れた。


「敵艦発射しました!!」


「全員衝撃に備えろ!」


「着弾まで6、5.....」

全員が身構える。


「来ます!」

そして耳をつんざくような轟音と衝撃が艦橋を襲った。


「被害報告!」


「敵弾夾叉しました。被害は確認されていません。」


「次は一発くらい当たるかもな...。」

ラムゼーは制帽を被り直す。


「全艦射撃準備完了しました!」


「よし、撃て!!!」

ほぼ一列に並んだ戦艦から一斉に敵艦隊に向かって砲弾が発射される。


「頼む当たってくれ...。」

すぐさま観測手がカウントを始める。


「着弾まで3,2,1....」

カウントが終わると同時に鈍い爆発音が響いた。


「戦果観測始め!!」

ラムゼーは双眼鏡をもって目を凝らして前方の白煙を見つめた。


「どれ....うむどうやら三、四発の命中弾があったらしいな。」

参謀長が頷く。


「よし。これより各個自由射撃へと移る!敵艦隊を撃滅せよ!」


『「はっ。」』

すぐさま左右の戦艦から幾度となく弾が放たれる。


「第二段攻撃へと移る。駆逐艦と巡洋艦は魚雷攻撃を開始しろ!」

参謀長が命令すると間髪入れずにすぐさま駆逐艦部隊が急加速して前方に煙幕を張り始める。


「敵艦隊陣形を広げ我が艦隊を逆に囲い込もうとしようとしています!」

航海長が言った。


「では我々も陣形を広げ正面から当たろう。数的優位は我々にある。各艦に通達、敵艦隊と同様の行動をとり敵を正面から撃滅しろ!」

ラムゼーがそう言うとすぐに発光信号が各艦を飛び交う。


「我が艦はどうしますか?」


「うむ...正面の敵艦は何だったかな?」


「はい。煙幕を張る前は確かヴィットリオ・ヴェネトだったかと。」


「なるほど...イタリア海軍の象徴的戦艦だな。相手に不足なし!一気に行くぞ!」


『「「はっ!!!!」』

艦隊の士気は最高潮に達していた。



 同時刻 「ウィーン」主艦橋



「敵艦隊依然攻撃態勢を維持している様です。」


「ふむ...なかなかしぶといなこれは...どう見ても情勢は不利だというのに...。さすがは地中海の覇者として長年君臨してきただけはある。」

ホルティは相手の粘り強さに舌を巻きつつ次の戦略を練っていた。


「ブダペストから先陣を切るとのことです。」


「分かった。だが舐めない方がいいな。」

その時遠くで爆発音が挙がった。


「この音はなんだ?」


「はっ。恐らくは魚雷が命中した音と思われます。この破壊力のある轟音を出すのは我々の酸素魚雷しかありませんから。」

参謀の一人が返答する。


「日本人に感謝せねばならんな。あれは今や連合国の放つ最も強力な兵器の一つだ。」

酸素魚雷は戦前日本で開発され既に同盟国に技術供与され量産されている。


「ブダペストが砲撃を再開しました。」


「よし我々も始めよう。各砲塔自由射撃で構わん!やれ!」

途端に前部砲塔が火を噴く。


「敵艦既に黒煙をあげていますね...相当堪えている様です。」


「ああ。だが我々も『敵艦発砲しました!』」

ホルティの言葉は下士官の声に掻き消された。


「総員衝撃に備えろ!!」


「着弾まで6、5,4....」

カウントが始まる。


「そろそろ当たるかもな...。」

ホルティの悪い予感は的中する。


「着弾します!!」


「うわっ!!!」

主艦橋に鋭い衝撃が伝わり同時に激しい揺れが包む。


「被害報告!」

艦長がずれた制帽を被り直し大声で叫ぶ。


「敵弾第一砲塔付近と左舷対空砲群に命中...第一砲塔は無事なものの衝撃で旋回不能。また火災発生中により引火の危険性から鎮火まで射撃不能...。左舷対空砲群は全滅....死傷者多数で現在対応中。火災は発生していません。ほかの設備に問題は確認されていません。」

下士官が各部署から集まった情報を伝える。


「なかなかの被害ですね....。」


「ああ。ブダペストは?」

ホルティは右にいるはずのブダペストを見る。


「うむ....どうやらあちらの方が深刻っぽいな....。黒煙が出ているうえに二番砲塔がひしゃげている。一筋縄ではいかんか。」

ブダペストから発光信号が飛ぶ。


「報告します。ブダペストは敵砲弾が二番砲塔前方と右舷副砲群に命中。相当共に死傷者多数で使用不能。火災発生中につき一時後退するようです。」


「わかった。ウィーンもそうするか。」

ホルティは割れた窓ガラスを角に足で纏めながら左右の他国の艦を見た。


「ムサシも何発か命中しているが全く問題なさそうだな。射撃を続けている。キング・ジョージ5世はまだ当たってないな。」


「閣下!敵艦隊急速に後退していきます!!」


「何!」

ホルティが双眼鏡で見ると敵艦隊が黒煙を挙げながら急速に後退していくのが見えた。


「キング・ジョージ5世から発光信号。追撃不要。これより陸地の敵陣地及び上陸船団に艦砲射撃をするようです。」


「よし。我々も火災鎮火次第参加すると返答しろ。」


「はっ。」


「とりあえずひとまず勝ったか.....。」

ホルティは深呼吸を一つすると前方の海面に視線を移した。


こうしてメッシーナ海峡での海戦は幕を閉じた。








 午後5時36分


 ドイツ軍上陸部隊司令部








「モントゴメリー将軍。よくぞここまで来てくれました。」

司令部としている民家の前でロンメルは作戦会議以来モントゴメリーと顔を合わせた。


「ああ。もうすぐ我々の作戦目標も完遂されるしな。」

そう言うとモントゴメリーは車から降り手袋を脱いでロンメルと握手をした。


「現在の状況はどうなってるんだ?」


「はい。先ほど我が軍はメッシーナへ東から侵攻を開始しました。そちらはどうです?」


「ああ。さっき既に我々も市内に突入したらしい。陥落は時間の問題かね?」


「そう思います。三時間前の艦砲射撃で敵は物資集積所や港、また輸送船団も七割近くが海に沈んだようです。」

そう言いながらロンメルはモントゴメリーを応接室へと案内する。


「モントゴメリー将軍。」

先に座っていた士官が慌てて立ち上がり敬礼する。


「彼か?ドイツ軍最高の頭脳と言われる....」


「ええそうです。ご紹介します。マンフリート・フォン・リヒトホーヘン・ジュニア大佐です。」


「よろしくお願いします。」

リヒトホーヘンは一歩前に進み再び敬礼する。


「流石ドイツ軍、よく教育のできた士官だ。バーナード・モントゴメリーだ。宜しく。」


「大佐、状況は?」


「市内にはあちこちに防衛線が張られまさに要塞と化している様です。しかし先ほどモロッコから入電がありパットン将軍の部隊がチュニジアに引き始めたのでこれからは本格的に航空支援を行えるそうなのでそう時間はかからないかと。」


「うむ。なんとかお前の作戦通りにいきそうだな。」


「はい。しかし今作戦にここまで不測の事態が頻発するとは思いませんでした。そこは反省点です。」

リヒトホーヘンはそう言って制帽を被り直す。


「閣下はこの後はどうされるのですか?」

ロンメルがモントゴメリーに訊く。


「我々はこの作戦が終了次第本国に戻され恐らく休暇だろうな....。」


「それなら良かったですね。」


「ところがそうもいかん....。どうやらロンドンでは反転攻勢の一環として今度、カレーへの上陸作戦を練っているらしい。たぶん近いうちにベルリンで議題に挙がるだろう。そうなればまた我々が駆り出されるだろうな。」


「カレーに上陸といえば.....あのブラッディ・メアリ以来の凱旋ですか?」

リヒトホーヘンが尋ねた。


「おお若造の割にはイングランドの歴史にまで詳しいのか。まあそうなるな。」

モントゴメリーは感心と言わんばかりに口髭を撫でた。


「君達はどうするんだ?」


「我々はこの後エジプトに渡り反転攻勢への準備をします。」

ロンメルが答えた。


「君はどうするんだ?東京での会議に出るのか?」


「いえ。既に代理を送っているので....とびきり優秀な人材を...。」

リヒトホーヘンはそう言うと微かな笑みを浮かべた。


 そしてこの会話から2日後、メッシーナでの市街戦が終結しシチリアでの組織的抵抗全てが鎮圧された。ムッソリーニは無理な反撃を避け、シチリア島を包囲するように海軍基地や飛行場の建設を指令。更に今回の戦いでのフランス軍のふがいなさを聞き密かに同盟からの離脱を検討し始めていた。ワシントンにもシチリア陥落の一報がすぐさま入りルーズベルトは北アフリカと南米戦線へのさらなる増援を決定。またフランス本土にも多数の駐留軍を送り、ヴォードの悲願である第三次西欧侵攻を支援しようとしていた。そして舞台は東京に移ることになる......。








 1940年7月3日午後12時45分


 大日本帝国 東京


 調布飛行場








 夏真っ盛りであるここ東京は連日30℃近い日が続いており、6日後に控えている会議の為に来た各国の軍人達もかなり苦しんでいる様子だった。そんな中徳村と副本はドイツ軍代表として来る人物を迎えに調布飛行場へと足を運んでいた。


「ちょっと暑すぎやしないかこれ?」

徳村は首の後ろに滲んだ汗を手拭で拭きながら愚痴をこぼした。


「貴様も軍人ならこれくらい耐えろ。まして外国の客人を迎えるんだ。しっかりしろ。」

一方の副本は汗一滴すら滲ませず直立して到着を待っていた。


「山本閣下によると『リヒトホーヘンの右腕』らしいじゃないか何でも。」

副本が言った。


「あいつに副官がいること自体初耳だよ.....。」

その時丁度鉄十字が刻まれている輸送機が滑走路に着陸した。


「おっ来たじゃないか。早速お顔拝見といこう。」

徳村は身だしなみを整えこちらに寄ってくる輸送機を見つめた。


そして停止した輸送機からタラップが下りる。


「どれどれ....んっ?」

徳村が最初に見たのは優雅に階段を降りてくる黒い軍服...といっても黒いスカートを履きサングラスをかけた女性だった。


「グーテンターク。貴方がドイツ軍担当の方ですね?」

唖然とする徳村を後目に副本がすぐさま挨拶を交わす。


「ええそうです。貴方は?」


「私は大日本帝国国防省統合戦術情報部副部長、副本賢一中佐です。こっちが...」

そこまで喋ったところでようやく徳村は我に返った。


「ああ...私が部長の徳村剛太郎大佐です。宜しく。」

そういって手を差し出す。


「これは日本を代表する戦術家のお二人に迎えていただき光栄です。」

そう言って女性は手袋を脱いでサングラスを外す。


(綺麗な青い瞳だ.....。)

徳村は思わず口を半開きにしてしまいそうになった。


「ドイツ帝国軍参謀本部所属、エヴァ・アンナ・パウラ・ブラウン大尉です。どうぞエヴァと呼んでください。」

そう言ってエヴァは微笑み握手を交わした。



 








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