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第二六話 米軍反攻開始(中編)



 1940年5月27日午前3時21分


 南太平洋


 パプア半島沖・モレスビー島南東約15kmの海上


 第一艦隊旗艦「大和」後部指揮所








「ふう.....もうこんな時間か。」

そう言って見張り番の兵は大きく欠伸をした。


「しっかし....こんなに海は綺麗なのに何で俺らは戦争なんかしてんだろうなあ...。」

上の空で独り言を呟きながら、見張り番は海の方をじっと見つめていた。すると.....


「それには全く同意だな。」

後ろから男の声がした。


「ん....あっ!!う、宇垣閣下っ!!」

見張り番は慌てて敬礼をした。


「まあ落ち着け....私もここから眺める景色が好きでね.......眠れないときはよくここに来るんだ.....。」


「そ、そうなんですか....。」


「...さっきの質問。」


「はいっ!!」


「...あれに答えるとするならば...答えはただ一つだ。」


「何でしょうか?」


「我々が戦争をする理由...それは、『護りたいもの』があるからだ。家族、国、友人、誇り....何でもいい。それを護りたいから我々はこのような戦をしている...そう思うね。」


「確かに....。」


「..君は何故海軍に?」


「はい....私は敦賀の出身でして....父は漁師でいつも漁に行くその背中を見て育ってきました。俺も何時か親父のようにな立派な漁師になりたいと...。」


「..なら何故漁師にならなかったのかね?」


「あの日....親父は漁船でいつものように出港していきました。それが親父を見た最後です。それで....生活が苦しくなったお袋が妹を売りに出すと言いました。だから言ったんです。『俺が海兵になって妹が普通に暮らせるようにする』と。」


「...気の毒だったな。」


「いえ。むしろ本望でしょう。いつも『俺は海で死にたい』って言ってましたから。」

不意に熱いものがこみ上げてきたが見張り番はそれを何とか封じ込めた。


「そうか....済まなかったなこんな話をさせて...。」


「いえこちらこそ...なんだか心が軽くなりました。」


「安心してくれ。必ず君を敦賀に帰す。もう少しの辛抱だ。」


「はっ!!有難うございますっ!!」

見張り番はもう一度、今できる精一杯の敬礼をした。


「しっかり敵の動向を監視せよ。」

そう言って宇垣は艦橋から消えていった。


この出来事がやがて下士官たちの間で広まり、艦隊の結束が一層深まったのは言うまでもないだろう。








 それから6時間後


 ポートモレスビーから東に約110kmの海上


 第一機動艦隊旗艦「天城」艦橋








「閣下。間もなく偵察機の準備が完了するとのことです。」

参謀長の古村啓蔵少将はそう告げた。


「うむ。西に飛ばせ。ポートモレスビーの状況をもっと知りたい。」


「はっ。」


「あと南西にもだ。恐らくハルゼー艦隊が手ぐすね引いて待っているだろう。」


「了解しました。」


「ふう....今回こそ何もなければいいが...。」

小沢治三郎中将は溜息をついてそう言った。


前回の海戦で「蒼龍」喪失、「赤城」大破、「加賀」中波という損害を喰らった小沢は戦略を練り直した。

艦隊司令部に言って軽巡や駆逐艦の数を増やしてもらい、更に空母全ての対空防備を強化。質、量ともにかなりの面で強化がなされた。

しかしそれで小沢は決して満足しなかった。ライン諸島攻撃の際には訓練量を従来の二倍にして恐ろしい程の練度を求めた。

そして今回は改装が終了した「天城」、「赤城」、「加賀」、「土佐」、「飛龍」、更に「蒼龍」の埋め合わせとして先日竣工したばかりの、

雲龍型空母一番艦「雲龍」を配備。その航空隊は元「蒼龍」の隊員が殆どを占めていた。

それに加え、第一艦隊から「愛宕」、「麻耶」、「陸奥」、「上総」の四隻を護衛に借り、真に鉄壁の要塞といった陣容を成していた。


「電探室っ!!何か気になることは無いか?」


『此方電探室。現在敵影らしきもの確認されず。』


「了解。このまま探査を続けよ。」


『了解。』


「今のところ敵は見当たりませんな....。」


「油断してはならん。潜水艦の危険性も十分にあるのだ。」


「はい。そちらの方も偵察機を飛ばして常時監視させています。」


「取り敢えず我々の任務は一応ポートモレスビー支援だ。敵艦隊を追い払わなくちゃいかん。早速....第一次攻撃隊の準備をしてくれ。」


『「はっ!!!」』

艦橋は慌しくなり始めた。








 ほぼ同時刻


 ポートモレスビー郊外


 司令部から北4kmの洞窟








「閣下......敵軍...絶対防衛線を突破.....。此方に向かっているそうです...。」


「そうか.....全員、撤退準備だ。」


『「はっ。」』


その時、敵の砲撃が洞窟の前に着弾した。


「うわっ!!」

洞窟は突如として激しい揺れに襲われた。


「状況報告急げっ!!」

慌てて参謀長が指示を出す。


「報告っ....敵砲弾二発が味方陣地に直撃っ....戦死者三十名以上...負傷者を現在治療中....以上です。」


「分かった.....。閣下、どうされますか。」


「兎に角だ...敵がここに到達する前に撤退できるよう最善を尽くしてくれ....。重傷者には白旗と医薬品を渡し、置いていくよう伝えろ。」


「はっ。おい伝令っ!!」


「はっ!!」

そういうと伝令は全力疾走で洞窟から出ていった。


「閣下もお急ぎください....。」

参謀長が言った。


「ああ待て....糞っ。」

安達は椅子から立ち上がろうとしたが、撃たれた脚を押さえた。


「閣下っ.....!!血が滲んでいます....。」


「大丈夫だ。これ位我慢できなくては前線の兵達に申し訳が立たぬ...。」


「しかし...『つべこべ言わないで早く行けっ!!』」


「は、はいっ!!」

そういうと参謀長は走って洞窟から出ていった。


「ふう....後少しだ....頼みましたよ宇垣さん....。」


安達は静かにそう呟くと足を引きづりながら歩き始めた。








 午前10時06分


 「天城」艦橋








「閣下...ここから南西120海里の地点で敵艦隊を発見しました。」

古村参謀長は静かに小沢にそう告げた。


「そうか....。数は?」


「はっ。噂のエセックス級空母2隻、インディペンデンス型軽空母1隻、重巡3隻を確認。中規模ですね。」


「ああ。恐らくはハルゼー艦隊の分隊だろう。どうする?」


「後々放っておいて奇襲なんてされたらたまりませんからね。早めに叩きましょう。」


「よし。では早速攻撃隊を編成、準備出来次第発進せよ。」


『「はっ。」』


「勿論わかってはいるだろうが...もしものこともある。最低限にしとけよ。」


「分かっています。」

そういうと幕僚達は早速編成作業を開始した。


その時、


「失礼しますっ!!」

一人の伝令が艦橋に入ってきた。


「どうした。」


「はっ。申し上げます。陸奥二号機から入電。『東60カイリ地点ニ敵艦隊ヲ視認。空母4、重巡6、戦艦2ヲ確認。甲板上ニ敵航空機ハ見受ケラレズ。

注意サレタシ。』とのことです。」


「何っ!?東にか!?」

思わず古村は聞き返した。


「はい。既に攻撃隊は発進していると思われます。」


「閣下これは..『挟まれたな....。』」

小沢は食い気味で答えた。


「奴らは我々がこの海域に入ってくることを予想していた。そして恐らくは潜水艦か何かで我が艦隊を捕捉。恐らく今頃は...『失礼しますっ!!』」

小沢が言い終わる前に別の伝令が入ってきた。


「どうした?」


「申し上げます。南西の艦隊を監視している愛宕三号機より入電。現在敵攻撃隊が発進準備中とのことです...。」

そう言う伝令の額には微かに汗が滲んでいた。


「閣下...。」


「攻撃隊編成は中止。至急迎撃の準備をせよ。」


『「「はっ!!」」』

艦橋は再び騒がしくなった。


「さてと....窮地だな。」

小沢はそう呟くと仕事に取り掛かった。








 45分後








 結局フレッチャー艦隊への攻撃隊の出撃は延期。小沢艦隊は急いで迎撃隊を編成せざるを得なくなった。

これを聞いた宇垣はすぐさま艦隊を合流させ、対空防御に優れた飛騨と長門、残った重巡をすべて防空配置につかせた。

しかし大和と武蔵にはある役割が小沢より通達され、一路南西へと向かうことになった....。


「しかしまあ...閣下もお人が悪い。」


「何がだ参謀長。」


「あんな無謀な役割を任せるなんて...お陰で宇垣閣下もすっかり乗り気になっちゃって。」


「はっはっはっ。それを見込んで頼んだんだよ。」


「だからお人が悪いと言ったんですよ私は。」


「まあな....とりあえず今はこっちに集中しよう。参謀長敵は?」


「はっ。敵の第一次攻撃隊は現在一路我々の方に向かってきています。既に電探が捉えており、第一次迎撃隊が南西と東に向かっています。」


「うむ。敵が戦艦の射程範囲に入り次第迎撃隊を退避させ、奴らに弾幕射撃と零式弾を浴びせる。それが終わりげん敵機が逃げる時に迎撃隊には再び出番を与えよう。」


「はっ。弾幕射撃なら第一戦隊の松田少将の得意技ですから。恐らく彼から指示が下るでしょう。」


「そうか....よし彼に対空射撃の全指揮権を与える。そう伝えてくれ。」


「はっ。」

そういうと通信参謀が急いで伝えに行く。


その時、伝令が入ってきた。


「申し上げます。迎撃隊が南西の敵攻撃隊と会敵。100機近くいたそうですが迎撃に成功。10機程度を逃がしたので対応をとのことです。」


「分かった。弾と燃料に余裕のある機は東へ、被弾や余裕のない機は急ぎ帰還し補給せよと言え。」


「はっ。」

伝令は急いで艦橋から出ていった。


「流石は元蒼龍の航空隊です。気迫がこもってますね。」


「ああ。彼らとしても、もう自分たちのような艦は出したくないのだろう。」


そのとき電探室から連絡が入った。


『此方電探室。敵の機影十数個を確認。艦隊西南西から接近中。』


「了解。対空防御用意っ!!」

古村はそう叫び、連絡員たちが発光信号で各艦に伝える。


「閣下、長門より通達。全艦陣形『甲』への移動を指令。」


「分かった。艦長。」


「はっ。」


艦が大きく左へと曲がる。


「全艦配置についたようです。」


「よし。あとは命令を待つのみだ。一応迎撃隊には『既に待機命令を出しています。』」

古村も食い気味に答えた。


「分かった。」

そういうと小沢は椅子に深く座り込み目を閉じてじっと待ち始めた。


『「「.............。」」』

艦橋が沈黙に包まれる。


と、その時、雲の切れ間から敵機が見えた。


「敵機確認っ!!」

見張り員が叫んだ。


「長門より通達っ!!戦艦は砲撃開始っ!!」


「まずはお手並み拝見だ..。」

小沢がそう呟いたのと同時に前方にいた飛騨の51センチ三連装砲四基が一斉に火を吹いた。


次の瞬間、敵攻撃隊は全滅していた。


「報告。只今の射撃で敵攻撃隊全滅。現在敵機影なしと電探室から報告が挙がっています。」


『「「おおっ....。」」』

艦橋はどよめいた。


まさかたったの一回で敵攻撃隊をやれるとは思っていなかったのである。


「まだまだ戦艦も捨てたもんじゃないな。」

小沢はニヤリと笑い、言った。


「直ちに迎撃隊の補給を開始せよ。」





 15分後


「イントレピッド」艦橋






「何っ...それは本当か...。」

フレッチャーはあんぐり口を開けた。


「はい...第一次攻撃隊は未だ偵察機からは視認できず....全滅したかと...。」


「糞ッ.....奴らはどんな魔法を使っているんだ!?」

フレッチャーは机を思いっきり叩いた。


「潜水艦からの情報によりますと....赤い円ができて消えるともうそこには攻撃隊はいなかったと...。」


「第二次攻撃隊は?」


「あと10分で敵艦隊が視認できるそうです....。」


「第二次攻撃隊は総勢150機近くいるんだ...そうやすやすとはやられんよ。」


「そう願うばかりです。」


「それがやられたら我が艦隊は3つの棺桶を背負っていることになる。もうあんなのはごめんだ...。」


だがそのフレッチャーの悪い予感は当たることになる....。





 2分後


 「天城」艦橋





「敵第二次攻撃隊が接近中。150機程度はいるそうです。」


「迎撃は。」


「既に会敵。苦戦しているようです。」

古村は言った。


「指定の距離に入り次第退避させろ。」


「はっ。」


「電探室より通達。東から接近中の敵攻撃隊を捕捉...数は...200機程度と。」


艦橋がざわついた。


「...分かった。到着は?」


「あと30分程度だそうです。」


「急ぎ残りの迎撃隊を。手前で迎撃させろ。」


『「「はっ!!」」』

そういうと上空から次々と迎撃隊が東へと消えていく。


「頼んだぞ...。」

小沢は力強くそう言った。





 同時刻


 「エセックス」艦橋






「攻撃隊がそろそろ会敵する頃ですね....。」

カーニー参謀長は時計を見ながらそう言った。


「ああ...奴らが苦しみながら死んでいくさまが目に浮かぶぜ.....。」

ハルゼーはニヤッとしつつそう言った。


「奴らを航空攻撃だけで倒せるとは到底思えませんけどね...。」


「だからあれを用意してたんだよ....。ふふふっ...。」


「では.....そろそろ命令でも出しときますか...。」

そうカーニーが言うとハルゼーは立ち上がってこう言った。


「ああ。潜水艦に指令。魚雷攻撃の準備を開始せよ。」






 第一機動艦隊はこの危機を乗り切りポートモレスビーへ行けるのか...。







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