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第二五話 米軍反攻開始(前編)

 いやはや.....もう半年近く更新できていませんでした....。


 今回から三部構成(前・中・後編)で南太平洋・ニューギニアに舞台を移します。


 遂に猛牛ブルが動き出します.....。

 



 1940年5月26日午前10時43分


 南太平洋


 ビスマルク海峡

 

 ニューアイルランド島沖南約11km


 大日本帝国海軍太平洋方面艦隊

 所属第一艦隊旗艦


 大和級戦艦一番艦「大和」主艦橋







 空は雲一つなく満天の青空。何処までも続く青い海。

しかし第一艦隊司令長官宇垣纒中将の心の中はこの天気とは裏腹にどんよりと、そして曇っていた。


「.........。」

主艦橋は静まり返り、箝口令が敷かれているかのようだ。


と、その時、一人の通信士が艦橋に入ってきた。


「失礼します。長官。ポートモレスビーからです。」

その言葉に宇垣の右眉がピクッと動いた。


「....読め。」

宇垣は一歩も動かず、首も動かさずにそう言った。


「はっ。『現在、我が軍はポートモレスビーにおいて奮闘しているが、そう長くは持たず、よってここに全軍最後の総突撃を行い、戦場の華となって散ることを望む。貴官には申し訳ないが、突撃の許可をお願いしたい。 大日本帝国陸軍南方総軍所属第四十八軍司令官 安達 二十三陸軍大将』だそうです。」


その言葉に艦橋は活気を取り戻した。正確にはざわめきだが.....。


「......こう返せ。『却下する。何があっても将兵の命が最優先なり。貴軍の幸運を祈る。 宇垣 纒』」

その言葉に艦橋のざわめきが再び大きくなった。


「あの人のことだ....。そんな気はさらさらないが一応我々がどう考えているか返事で測ろうとしているのだろう...。らしいな。」


「それはそうと...第一機動艦隊は?」

宇垣は隣にいる高須四郎参謀長はその質問に慌てて答えた。


「あ...。はっ。現在、第一機動艦隊は我が艦隊の後方15海里を追随して航行中とのことです。」


「そうか...。小沢長官にいつでも迎撃隊を発艦できるようにしとくように行ってくれ。」


「はっ。」

それを聞いた通信参謀がすぐさま通信室へと命令を出す。


「しかし.....遂にハルゼーも本気を出したようですね。」


「ああ。これが米国の実力だな。」

宇垣はそう言うと溜息をついた。


彼が溜息をつくのも無理はなかった。


アメリカ合衆国海軍太平洋艦隊所属戦略空母打撃群。


通称「大艦隊ジャイアント・フリート」は、

ウィリアム・ハルゼー・ジュニア海軍中将率いる最新式のエセックス型空母(搭載機108機)20隻、インディペンデンス型軽空母(搭載機72機)8隻、

護衛艦として、此方も最新式のサウスダコタ級戦艦4隻、ボルティモア型重巡洋艦8隻、クリーブランド型軽巡洋艦17隻、その他駆逐艦が30隻近く....。

真にチート国家ここに極まれりである。

更に...何と西海岸の造船所では10隻以上の空母が鋭意制作中....。

ここに世界最大の空母主体の機動艦隊が誕生したのである。


だが、世界最強とは言っていない。


何しろこれほどの大艦隊...おまけに空母主体の戦術など未だ発展途上であるため、誰もが暗中模索の状態だった。





つまりは勝ち目はあるということだ。





「しかし司令部も何を考えているのか....。我々に先陣を切らせるとは....。」

宇垣はもう一回溜息をついた。


「噂によると今回の出撃命令は徳村少将の命令とかなんとか...。」


「あの大艦巨砲主義者か....。全く息子はあんなに理論的なのに...。」

実際、徳村の父、徳村賢太郎海軍部次長は冷静な戦況分析ができるともっぱら評判ではあったが一つ問題があった....。

それは空母や航空戦力を信頼せず、未だに戦艦が最も強いと思っていることである。


『戦艦こそが海で最も強力な戦力であるっ!!』と常日頃から言っており、

それを航空主義者である山本大臣の前で行ったときは会議室が凍り付いたという話はあまりにも有名な話である...。

(※ちなみにこのことを後で人づてに聞いた徳村は一ヶ月近く口を利かなかったそう....。)


「長官。小沢閣下がそろそろ偵察機を飛ばしても良いかと。」


「ああ好きにしろ。あとこの部隊の指揮権をお前に移したいと伝えてくれ。」


「え!?何故ですか長官!?」

高須をはじめとした幕僚全員がその発言に驚いた。


「馬鹿め。あっちの方が索敵能力が高いのは確か。

それに一歩引いたところから物事を見ることは何よりも重要な事だ。

我々の仕事はポートモレスビーに突入し奴らをこれで蹴散らすことだ。そうだろ?」

そういうと宇垣は主砲の方に首を振った。


「成程。確かにそうですね。」


「ではあとは一路向かうのみだ。行くぞ。」


『「はっ!!」』

そういうと宇垣は制帽を深く被り直した。







 1940年5月26日午前11時03分


 オーストラリア 


 木曜島沖北東約60km

 

 アメリカ合衆国海軍戦略空母打撃群第33任務部隊旗艦


 エセックス型空母4番艦「イントレピッド」

 







「さあ我が軍もそろそろ反攻に出るときだ。そうは思わないかね?参謀長。」


「はっ。真にその通りかと思われます。」


「この前はこっぴどくやられたが.....今回はモノが違う。奴らに一泡吹かせてやろう。」

そう言って男....デイビッド・フレッチャー少将はコーヒーを軽く口に含んだ。


何故彼がここにいるのか....。

それにはハルゼーの意志が関係していた。

ハワイ沖での惨敗及び「サラトガ」の喪失という二つの失敗を犯したフレッチャーはその後、サンディエゴの海軍基地で半ば監禁状態でいた。

この結果を知ったルーズベルトが戦果の隠蔽と関係者の隔離を命じたからである。

しかし、彼の能力を前から高く評価していたハルゼーはこの処分を解除させ、彼を自らの艦隊の一員として迎え入れたのである。


「見たまえ、この艦隊を。空母3隻に重巡4隻。素晴らしいとは思わないか。」


彼の言うことはあながち間違っていなかった。

主力の空母は108機搭載のエセックス級空母「イントレピッド」、「バンカーヒル」。

重巡洋艦は最新式のボルティモア型重巡洋艦「ボストン」、「クインシー」、

クリーブランド型軽巡洋艦「コロンビア」、「サンタフェ」、「デンバー」。

それに駆逐艦を加えた、真に『アメリカ』という国家を表すような強大な部隊だった。


「ハワイ沖では此方が圧倒的に不利だった。だが今回は恐らく数では圧倒的、総合的に見ても五分五分の所まで来ているだろう。

それに我々だってジャップの空母4隻を沈めたのだからな。」

フレッチャーは付け合わせのビスケットを口に入れつつ自らに言い聞かせるように言った。


「はい。確か.....ソウリュウ、ヒリュウ、カガ、アカギ.....でしたかな。」


「そうそれだ。」


だがそれは勿論偽情報に他ならない。

先の海戦の後、統戦本は秘密裏に情報攪乱を指令。

アメリカ本土などの世界中に散らばった諜報員達や既に解読されている暗号を使い、

各地で『加賀、赤城、蒼龍、飛龍は沈没。現在戦略の再構築中』とのメッセージを流した。

これに今まで全く日本側の動きを掴めていなかったアメリカは喰い付き、今やその情報を基に戦略が練られているほどだった。


「しかし奴らもそれに気づいたようで最近はめっきりなくなったそうです。」


「今更気づいてももう遅いがな。」

その時、航空参謀が艦橋に入ってきた。


「閣下。そろそろニューギニア方面への偵察機を飛ばしたいのですが...。」


「ああそうしろ。アベンジャーがいいだろう。必ず.....2機編成で飛ばせるんだ。」


「はっ。」

そういうと参謀は艦橋から出ていった。


「さあ....。パーティーの時間だ。」

フレッチャーはコーヒーを飲み干してそう言った。








 ほぼ同時刻


 南太平洋 ニューギニア島


 ポートモレスビー ゲレフ地区


 大日本帝国陸軍南方総軍所属第四十八軍司令部








「報告っ!!カウゲレ地区の守備隊およびコキ地区の守備隊壊滅的打撃を受け現在撤退中っ!!現在ゴードン地区で戦線再構築中とのことですっ!!」


「分かった...。下がって良いぞ...。」


「はっ!!」


「ふう....。これで市街地の八割は陥落したか...。」

そう言って安達二十三陸軍大将は深く考え込んだ。


今回の戦いは真に奇襲そのものだった。

同盟国軍は諜報員や特殊部隊を使い、都市のあちこちに小型爆弾を設置し、小規模な爆発を起こした。

それは都市の破壊が目的ではなく、住民の混乱を招くものだった。

この目論見は見事に当たり、ポートモレスビーは大混乱に陥った。

当初はそれだけと思っていた安達大将は現地の警察や治安部隊を使って混乱の終息を指令。最終的には軍を使って治安の回復に努めようとした。

しかしこれが敵の真の目的だった。

これによって各地の戦力が分散され、また身動きが取れない状況が作られたのである。

すぐさま対岸のケインズからB-17とヘルキャットの大編隊が押し寄せ、

港と都市部の大半、そして飛行場を破壊したのである。

電探で探知した空軍もすぐさま迎撃に向かったものの、圧倒的な大群を前に敢え無く潰滅。

さらに時を置かずして空挺部隊がポートモレスビー各地に降下。

この司令部も襲撃され、弾痕が壁に幾つも刻まれた。

そうして制空権・制海権を掌握したうえで満を持してマッカーサー指揮の第3海兵師団、陸軍第7歩兵師団が上陸。第四十八軍を圧倒しつつあった。

両師団は最新のM6A1ワシントン中戦車、M8A1スコット自走榴弾砲を大量に装備。

九七式中戦車や一式砲戦車を次々と撃破し、進軍を進める要因となっていた。 

また歩兵自体もトンプソンやガーランド、BARといった強力な火器を惜しげもなく浴びせ、

精度や性能では勝るであろう一〇〇式機関軽銃、三八式歩兵銃を持った日本兵達の陣地を蜂の巣にした。

また日本側が攻勢に出ようとしても上空を漂う戦爆の波状攻撃、沖合の巡洋艦群の砲撃支援に遭い大きく戦力を損耗するだけだった。

よって、これらのことから日本軍はかつてないほどに追い込まれていた。


「奴らにこれほどまでの先行を許すとは.....私の責任だな。」


「いえ、閣下だけの責任ではありません。我々にも大きな責任があります。」

そう言って幕僚達は頷き合った。


「ああ。だが責任を論じる前に戦略を立て直す必要がありそうだな。」


「はい。では現在の戦場の状況について詳しく私の方から説明します。」

そういうと参謀長は地図の前に歩み出た。


「うむ。」


「現在我々は戦線を二つに分断されています。一つはゴードン地区の戦線です。現在ここを第五十六歩兵連隊と第八戦車師団第二連隊が守っていますが....いささか戦況は不利だと思われます。もう一つはポロコ地区の戦線です。此方は.....現在敵に半包囲状態です。」


「ああ、後が山だからな。」


「ええ。第八戦車師団第三連隊が孤立。現在降伏するように呼び掛けていますが....果たして届いているかどうか....。」


「将兵たちの命が大事だ。前線の部隊にも玉砕するくらいなら投降せよと今一度通達してくれ。」


「はっ。」

通信参謀が部下にそう伝えた。


「......手詰まりだな。」


「はい。残された道はオートスタンレー山脈を越えるしかありません。」


「宇垣長官にも突撃は拒否されてしまったからな。まあ私もするつもりはなかったが。」


「艦隊が到着するのにはあと何日くらいかかるんだ?」


「はっ。現在艦隊はニューアイルランド島を過ぎたあたりらしいです。あと一,二日は覚悟した方がいいかもしれません。」


「前途は多難だな。とにかく.....ここまで来たら何とか持久戦に持ち込めるようにしよう。」


『「「はっ!!!!!」」』

幕僚達は一斉に敬礼した。


「よし....取り掛かろう。」








 1940年5月26日午後2時36分


 南太平洋


 木曜島沖東南東約40km


 アメリカ海軍太平洋艦隊所属戦略空母打撃群ジャイアント・フリート第55任務部隊旗艦及び打撃群旗艦


 エセックス級空母1番艦「エセックス」








「くそったれっ!!!まだポートモレスビーは陥落してないのかっ!!」

ハルゼーはそう言って葉巻を灰皿に乱暴に叩きつけた。


「仕方ないですよ。何しろ相手はあの日本陸軍の精鋭らしいですからね。」

これにうんざりといった顔をしながらカーニーが答えた。


「精鋭だろうが何だろうがジャップはジャップだっ!!あの小汚い黄色い猿どもめっ!!くそっ!!」


「はあ.....そうですか。それより我々が注視すべきなのは南下してくる日本艦隊です。」


「そんなッ.....ことくらい...分かっとるわい....。」

ハルゼーは息切れしながらそう言った。


「何でも相手にはあのヤマトがいるそうですよ。」


「おおっ!!そうか!!やっとやりがいのある相手が来たか.....。分かっているな、カーニー。」


「ええあれですね...。全く...貴方も懲りない方だ...。」


「待ってろよジャップ....貴様等纏めて海の藻屑としてくれる...。」

ハルゼーはそう言うとニヤリと笑い、その後大きく口をあけて笑った。








 果たして第一艦隊を待ち受けるものとは.....








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