第二四話 パットンの奇策(後編)
いや半年も放置してたとは....。
実は私事ですが受験勉強で大変な毎日を送っておりまして..。
更新頻度が大変なことになりそうです。
すみません。m(__)m
1940年2月20日午後2時40分
旧日本領チュニジア
チュニス空軍基地第1飛行場
「...........」
パットンは遥か上の空を見上げて来客を待っていた。いや、待ち望んでいた。
「将軍。」
ブラッドレーが制帽を取ってパットンを呼ぶ。
「...ああ。あれはどうなった?」
「はっ。現在司令部の者に監視させています。」
「そうか。なら大丈夫だな。」
そう言うとパットンはニヤッと笑い前方の空を指差した。
「ほら。来たぞ!!」
5分後
やがてマルセイユのフォッケウルフは第1滑走路に着陸。
大勢のアメリカ兵達が近づく中、コックピットの窓が開いた。
「それ以上俺の機体に近づくな!」
マルセイユが大きな声で米兵達を怒鳴りつける。
そこにパットンとブラッドレーが近づいてくる。
「やあ、若きドイツ兵よ。私は同盟国軍北アフリカ方面軍総司令官、ジョージ・パットン大将だ。」
続いてブラッドレーも前に出る。
「私が北アフリカ方面軍総参謀長、オマール・ブラッドレー中将だ。宜しく。」
そういうとブラッドレーはマルセイユに握手を求めた。
「私はドイツ帝国軍北アフリカ方面軍第445統合戦闘航空団所属、ハンス・ヨアヒム・マルセイユ中尉です。よろしくお願いします。」
マルセイユは手袋を脱ぎ、ブラッドレーと握手した。
ハンス・ヨアヒム・マルセイユ。史実において『アフリカの星』と呼ばれ、僅か2年半で158機という記録を打ち立てたエースパイロットである。
史実ではそのアウトローな戦い方は代名詞となり、1日に3回出撃して17機撃墜したこともあった。だが出撃途中でエンジンが故障。脱出しようとしたが体が尾翼に当たり墜死。22年の生涯の幕を閉じた。この世界では史実よりも早く昇進しており、部下を持っているため責任感の強い軍人となっている。リヒトホーヘンとは同い年でありこの作戦を通して知り合い、良き友達になるのは後日改めて...。
「ところで配下の兵達に言ってくれませんか?『俺の機体に近づくな。』と。」
「分かった。おいっ!!お前らは近づくんじゃない!!」
そういうと兵士たちはずるずると下がって行った。
「流石です。で?用件というのは?」
「まあここじゃなんだ。中で話そう。」
そういうとマルセイユは兵に連れられて基地宿舎へと入って行った。
チュニス空軍基地 管制塔
「え?何て?..........つまり輸送機を撃墜してほしいと?」
マルセイユは思わず二度聞き返してしまった。
「そうだ。それも我が軍のな。」
ブラッドレーはその言葉に同意した。
「何故そんな?」
「ああ。その輸送機はカサブランカ行なんだが、それには我が国の諜報機関の者と、奴の連れているドイツ人が乗るんだ。」
ブラッドレーは1つ1つ言葉を噛み締めながら言った。
「それで?」
「ああ。実はそのドイツ人だが、我々の調べによると....何でも物理学の専門家らしい。しかもどうやら...かなり著名な学者らしい。」
これらは全てブラッドレーが盗聴していたものである。
「成程...ですがそのまま逃げればいいものを...何故我々に教えるんですか?」
マルセイユは最も疑問に思ってたことを口にした。
それにはパットンが答えた。
「馬鹿野郎!!戦争ってのはな...フェアでなきゃいけないんだ!!おまけにだ...これは機密情報だが...あの学者は恐らく『特殊爆弾』の研究に使われるだろう...。」
そういうとパットンは大きく溜息をついた。
「特殊爆弾!?それは何ですか!!」
マルセイユは大きく身を乗り出してパットンに詰め寄った。
「俺も詳細は知らん...。だが間違いなく破壊的な効果を持ち、完成すれば民間人の多く住むベルリンかトーキョーに落とされるだろうな。」
「ですがそれが完成すればアメリカは確実に戦争に勝てる。何故我々にそのことを?」
マルセイユは誰もが口にするであろう疑問を述べた。
「例えそれで祖国がこの戦争に勝ったとして、我々に残るのは何だ?名誉か?平和か?違う。我々は未来永劫『虐殺者』や『悪魔』として人々の記憶に残るだろう。そんなことはこの俺がさせない。永遠にな。」
パットンはそういうとブラッドレーに『あれを持って来い』と指示した。
数分後、ブラッドレーがチュニス近郊の地図を持ってきた。
「さてと...。無駄話はお終いだ。まあこれを見てくれ。」
パットンは地図の黒く×が書かれた部分を指差した。
「ここが輸送機とお前等が偶然交差するところだ。ここでお前の機が待機しているんだ。分かったな。」
「はっ。」
「うちの部下がパラシュートを使って隙を見てドイツ人を救出するからそれから機体を撃て。」
「え?諜報員は?」
そう言うとパットンはニヤッと笑った。
「奴には報いを受けさせる。」
5分後
滑走路
その後、マルセイユは詳しく作戦の書かれた紙を持って滑走路へと向かっていた。
「ではこれを持っていけばいいのですね?」
マルセイユは改めてパットンたちに言った。
「ああ。それに詳しいことが書いてある。悪いが、安全を保障できるのはこのチュニジアとトリポリ周辺までだ。それ以外はイタリア軍が作戦行動をしているから気を付けろ。」
「分かりました。では。」
そう言うとマルセイユはコクピットに乗り込んだ。
「おい!!お前ら!!ちゃんと給油くらいはしたんだろうな。」
パットンは整備士たちに言った。
「はっ!!勿論です!!それ以外は何もしておりません!!」
「よし。ならいい。」
「頼んだぞ!!若造。必ず奴を殺してくれ!!」
パットンはマルセイユに向けて手を振りながら言った。
それに応えるようにマルセイユはエンジンの出力を上げて一気に空へと飛び立っていった。
「....。」
パットンはそれを黙って見つめていた。
「将軍。」
「ん?」
「本当に....大丈夫でしょうか。」
「ああ。俺は分かるよ。」
「何がですか?」
「奴には俺と同じ血が流れてるってことさ。」
1時間後
スルト
ドイツ帝国軍北アフリカ方面軍司令部
方面軍司令官室
そして、マルセイユはスルトの司令部に駆け込み、急いでロンメルに作戦情報を教えていた。
「成程....。パットン将軍も中々の策士だな...。」
「ええ。ここまで緻密な計画を立てれるとは....正直私も驚いています。」
マルセイユは腰に手を当てて言った。
「トリポリでの仕返しもしたいが....今回は利害関係が一致したな。我々の仕事はドイツ国民を命に代えてでも守ることだ。」
「では....?」
マルセイユが念を押す。
「ああ。作戦を許可する。お前1機で向かえ。まるで迷子の子供のようにうろちょろしてやれ。勿論機体は撃ち抜くなよ。」
「分かってますよ。脱出してから撃ちます。」
「頼んだぞ。」
「はっ。」
そう言うとマルセイユは部屋から出ていった。
午後3時55分
チュニス
チュニス空軍基地第1滑走路
マルセイユが飛び立ってから暫く経った後、諜報員とドイツ人はパットンに呼ばれて滑走路へと来ていた。
「...突然どうしたんですか?」
諜報員はパットンを訝しそうに見ながら言った。
「今し方、カサブランカと折り合いが付いてな...今すぐに客を送ってくれとのことだからそうするんだよ。」
パットンは目線を見て見ぬ振りしつつ言った。
「...そうですか。ではそうさせていただきます。」
諜報員は頭を下げて礼を言う。
「礼は要らんよ。さあ乗りたまえ。」
そう言うとパットンは部下に輸送機まで二人を案内するよう言った。
輸送機内
二人が中に入ると、機長と副操縦士、そして先客がいた。
「何故同乗者が?」
諜報員は首を傾げた。
「すまんな。急用が出来た男がもう一人いてな.....。カサブランカまで頼む。」
見送りに来たパットンが言った。
「そう...ですか....。(じゃあ何でもっと早く俺達を行かせなかったんだ!!)」
諜報員は心の中でそう毒づいた。
「まあちょっとの時間だ....。辛抱してくれ。」
パットンはそう言って輸送機から離れた。
5分後
「それでは離陸します。」
「ああ。頼む。」
諜報員は腕組みしながら言った。
「....私をどこへ連れていくつもりだ....。」
今まで喋らなかったドイツ人が言った。
「だから言ってるでしょ。これからあなたを自由の国へと連れてってあげるんですよ。」
「君の言う自由はこれかね?」
そう言うとドイツ人は逃げられないようつけられた手錠を見せた。
「まあつべこべ言わずに黙っててください。」
そう言って諜報員が銃を突きつけるとドイツ人は再び沈黙した。
「全く....。とんだ旅行だった....。」
諜報員はそう悪態をついた。
が、まだ旅行は終わってなかった。
2分後
滑走路
「...無事に行ったか...。」
パットンは輸送機が離陸した後そう呟いた。
「無事に行ったとしても直ぐに墜とされますがね。」
ブラッドレーが皮肉を込めてそう言った。
「はははっ。まあそうだな。」
「ではどうしますか?ドイツ軍に連絡しますか?」
「いや...。大丈夫だろう。さあ、戻るぞ。」
そう言うとパットンたちはそそくさと司令部へと戻るジープへと乗った。
20分後
輸送機内
『「............」』
輸送機内は静寂に包まれ誰一人喋ることは無くなっていた。
「........あ!?」
その時、機長が突然大声を出した。
「どうした!?」
急いで諜報員が駆け寄る。
「11時方向に敵機を確認しました。これより回避行動に移ります。席に座っていてくださいっ!!」
機長は操縦桿を大きく右に廻した。
「あ、ああ.....。分かった。」
余りの剣幕に押されて諜報員は席に戻ろうとした....その時。
「おっとっと.....。大丈夫ですか?」
同乗していた男がよろめき諜報員にぶつかった。
「ええ別に....。気を付けてくださいね....。」
諜報員はそう言って注意すると再び席に戻って大人しくしていた。
一方その頃....。
「.....前方に敵輸送機を発見。これより攻撃に移る。」
『此方司令部、了解。無理すんなよ。』
「ああ。」
そういうと戦闘機.....フォッケウルフは大きく左に曲がり後ろに回り込む動作を取る。
「....全く。とんだ役回りだ...。」
そう一言言うと操縦士...マルセイユは操縦桿を強く握り直して12.7mmの発射ボタンに手をかけた。
「さてと....一丁やりますかね....。」
機内は一部を除いて(・・・・)混乱状態にあった。
何しろ完全に安全だと言われた空域で、鈍足の輸送機が護衛なしで、
敵軍の最先端戦闘機に追われているからである.....無理もない。
しかも大統領が最も重要と言っている品物を載せた状態で。
「糞っっ!!よりによってこんな時に...。」
諜報員は頭をフル回転してこの状況を打破する方法を考えていた。
「.....どうしたのかn『あんたは黙って座ってろ!!』」
諜報員はドイツ人を黙らせて操縦席へと向かおうとした....。だが、
「うっ......。何だ?体が.....重い.....。」
突然諜報員は動けなくなりその場にへたり込んだ。
すると、同乗客の男が突如立ち上がり、こう言った。
「さてと....。そろそろ脱出するか...。」
その言葉に諜報員の顔から血の気が更に引いていった。
「おい、準備は出来たか?」
機長が操縦席から大きな声で尋ねた。
「ああ。大丈夫だ。」
そう言って同乗客は紐の結び目を更に強くする。
「....君たちは、ドイツ人かね?」
解放されたドイツ人はそう尋ねた。
「いえ、違います。我々はアメリカ人です。」
「ではなぜ解放したのだ...。」
「それについては此方を読んでください。」
そう言って同乗客は手紙を渡した。
「これは..『それは降りた後にしてください。』」
同乗客に制止されたドイツ人は渋々手紙をポケットにしまった。
「よし。固定したからいいぞ。」
機長と副操縦士が操縦席から出てきて言った。
「分かった。準備してくれ。」
そういうと二人は後ろに行ってパラシュートを取ってきた。
「どうする気かね....。」
ドイツ人は一応聞いた。
「ああ...。すみません、説明がまだでしたね。」
「これからあなたにはあれを付けてもらってここから脱出してもらいます。地表に着地した後は我々の仲間が救出しに来ますから安心してください。
その後のことは追って説明します。」
同乗客は的確にこれからのことを説明するとドイツ人と自分をベルトでくっ付けて、搭乗口に案内した。
「私はもう老いぼれだ。こんなことが出来るとは思えん...。」
「大丈夫です、博士。我々が責任をもって地上までお届けします。」
「ふんっ。地獄の間違いじゃないのかね。」
博士は悪態をついたが、同乗客はお構いなく降下への準備を整えていった。
「行くぞ。」
「ああ。先に行ってくれ。」
そういうと機長と副操縦士は先に降下し、暫くするとパラシュートを開いた。
が、その時、
「うーん.....。何なんだ.....。」
予想より薬が早く切れた諜報員が目を覚ました。
「おはよう。糞野郎が。」
同乗客はそう唾を吐きながら諜報員に一発蹴りを入れて搭乗口から降下した。
「うっ!!.....。糞っ、なんで蹴られなきゃ....。あれ、誰もいなi..」
最後まで言い終わる前に諜報員はその場に倒れこんだ。
彼の胸には10cm近い穴が空いていた。
「此方マルセイユ。これより帰還します。」
そう無線に告げるとフォッケウルフは鋭く曲がりリビアの地へと帰還の途へ着いた。
そして後ろから爆発音が聞こえた。
3日後
チュニス
同盟国軍北アフリカ方面軍総司令部
軍司令官室
「今すぐ説明してください。パットン閣下。」
そう言って男....もとい、大統領府秘書官は机を叩きつけた。
「説明しろと言われても.....その報告書の通りだが?」
パットンはそう言うと葉巻を一本出し吸い始めた。
「嘘は止めてくださいっ!!貴方があの諜報員の戦死...いや暗殺に関わったことはわかっているんですよ。」
「なにぃ!?」
その言葉にカチンときたのか、パットンは報告書を秘書官に叩きつけた。
「いきなり訪れてきたと思ったら、労いの言葉をないまま偉そうに人を説教して反逆者呼ばわりってか!?まあ俺は共和党の熱烈的支持者だが....。とにかく、貴様のような青二才が首を突っ込むところじゃないわ!!」
そう言ってパットンは机を叩き返した。
「し、しかし...閣下。私が何故わざわざマドリードからここまで3日で来たのかくらいわかるでしょう...。あの戦闘に故意の部分が見受けられたからですよ。なぜか機長と副操縦士と積んでいた荷物もいないし....。分からないんですか!?」
「すまんな。生憎うちの部下がメモを取り忘れていたようだ。」
パットンはそう言って椅子に踏ん反り返った。
「全く....。話の無駄でした。では。」
そう言うと秘書官は案内役の将校を置き去りにして力任せにドアを閉め肩をいからせて出ていった。
「....くそルーズベルトめっ!!」
パットンはその後ろ姿に小さな声で毒づいた。
その時、コンコンとドアがノックされた。
「入れ。」
「ブラッドレーです。」
ブラッドレーは椅子に座って一息つくと話し始めた。
「やはりあのドイツ人は有名な物理学者でした。何でも、名前は.....アインシュタインとか...そんな名前でした。」
「そうか..。まあそんなことはどうでもいい。これでクロイツ共と気兼ねなく戦争できるな。」
パットンは歯を出してニヤっと笑った。
「全く....。ほんとに戦争屋ですね。将軍は。」
ブラッドレーはそう言うとドアの外にいる秘書にコーヒーを頼んだ。
「まあこれで民間人の大量殺戮は避けられましたね....。」
「ああ。それは非常にいいことだ。」
「ええ。」
「それで閣下....。現在の我が軍の戦力状況ですが...。」
「よし。聞こう。」
パットンは葉巻を灰皿に入れると書類を手に取って読み始めた。
1940年5月23日午後3時29分
神奈川県川崎市
大日本帝国国防省統合戦術作戦部庁舎
本部長室
「また陛下が?」
徳村はその単語のせいでコーヒーを落としそうになった。
「おうっ..。大丈夫か?」
「はい。」
「とにかくそうなんだよ。2月の時と同じだ...。陛下がこの戦争に勝つ見込みはあるのかと...ずっと憂慮なさってる。」
「そうですか....。閣下は何と?」
「俺か?俺はもう一度こう言ったよ。『最初の一、二年なら存分に暴れて見せましょう。しかしそれ以降となると確証は持てません。』とな。」
「それが山本五十六国防大臣の、分析ですか...。」
「ああそうだ。」
山本はそう言ってコーヒーを軽く口に含んだ。
「お前はどうだと思う?徳村?」
「私は....今の状況だったらまだ我々の優勢でしょう。しかし、相手はあの超大国アメリカ。今はやられっぱなしのソ連とフランスもいつ本気を出すかわからないですからねえ..。五分五分でしょう。後はどちらに運があるかくらいですね。」
「成程なあ.....。分かった。陛下にはそう伝えておこう。」
「はい。お願いします。」
と、その時部屋にノックもせず副本が入ってきた。
「おい徳村!!っと...。失礼しました。山本大臣。」
副本はきちっと敬礼した。
「大丈夫だ。何事だ。」
「はい。今入ってきた電報なのですが.....。ソロモン諸島ガダルカナル島に米海兵隊推定二個師団が敵航空機と艦隊の援護の下、上陸とのこと。また、ラバウル飛行場から『ポートモレスビー方向に進む敵大艦隊を視認。早急に用意されたし』との連絡が入りました。」
「何っ....。」
「遂にハルゼーが動いたか....。」
「じゃあ狙いは...ニューギニアか!!!」
「糞っ....東からでなく南からとは....すっかりそれはないと思っていた...。」
二人は一瞬深く自省した後、すぐさま動き出した。
1940年、世界は一体どこに向かうのか....。
ご意見、ご感想等お待ちしています。




