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第二二話 デッド・オア・アライブ(後編)

 遅れて済みません。

 学校の行事がいろいろ立て込んでしまったので。

 



 1940年2月14日


 トリポリ脱出作戦開始から1時間後







「糞っ!!見つかったぞっ!!」

一番前を走る戦車に乗る伍長が大声で叫んだ。


『全車左に15度砲塔転換、急げっ!!』

一番先頭の戦車長が無線に吠えた。


全車走りながら敵に砲塔を向けた。


「撃てっ!!」

ドンドンと鈍い音が戦車の中に響く。


「どうだ?」


「そんなの確認してる暇はない、行くぞっ!!」

エンジンを全開にして急いで脱出部隊はその場を離れた。


脱出部隊は今最大の苦境に立たされていた。

遂さっき、敵の偵察部隊に見つかり脱出部隊は周辺の米軍すべてから追跡を受けていた。

自分の面子をつぶされた現地司令官が怒りに任せて休んでいた部隊も起こして行かせたのだ。

おまけに現在の時刻は丑三つ時。後何時間すれば地平線から日が昇り脱出部隊は壮絶な航空攻撃を受けることになるのは誰もが知っていることだった。


「此方ハインケル。現在南東に向けて前進中。命令を、大佐。」

戦車長は無線を使ってリヒトホーヘンに命令を求めた。


『此方大佐。そのまま回収地点へと一直線に向かえ。以上。』


「ハインケル了解。おいっ!!このまま回収地点へ前進だっ!!」


「はいっ!!」

操縦士がエンジンに喝を入れる。




 その頃...


 アメリカ軍現地司令部



「ええいっ!!まだ奴らが何処にいるのか分からんのかっ!!」

現地司令官は怒り狂っていた。


「現在敵部隊の所在は確認できていません。」

副官が事務的な口調で報告する。


「このままではパットン将軍に左遷される...お前らもっとしっかり探せっ!!」


(何だこいつ)

司令部の全員が思っていた。


と、その時


「司令官っ!!」

通信士が叫んだ。


「何だ。騒がしい。」


「B7で敵部隊を発見したそうです。現在第3小隊が追跡中。」


「よしっ!!直ちに周辺の部隊を向かわせろっ!!」


「これで我々の勝利は決まったぁっ!!諸君勝ったぞっ!!」

そう言いながら司令官は便所に向かった。




 脱出部隊 回収部隊到着まであと1時間30分




 その後何とか見つかった敵部隊の追跡から逃れた脱出部隊。だが、敵の他の部隊はそうはいかなかった。大よその位置がばれたことで即応部隊がすぐさま包囲網を作り始めたのである。これに対しリヒトホーヘンは正面突破は無理と判断、一旦一つの戦車に指揮官達を集めこれからを協議することになった。


「どうする?若造。敵は俺達を殺そうと躍起だぞ。」

一番年長格の中佐が言う。


「ああその通り、皆殺しだっ!!」

MP34を叩きつけながら軍曹が言った。


「んで?どうする?」


「うーん......」

リヒトホーヘンは目を閉じて顎に手を当てて考え始めた。


「しかし奴らも街の防衛を考えないんですかね?我々をほぼ全部隊で追いかけてるって....敵の司令官は何を考えてるんでしょう?」


「多分自分の進退でも気にしているんだろう...とんだ司令官もいたもんだ..」




「ぶえっくしゅっ!!」


「糞っ...何で今なんだ...飛び散ったじゃないかっ!!」




「取り敢えず回収地点を確認しましょう。」

リヒトホーヘンは胸ポケットから地図を出して広げた。


「現在私たちはここ..回収地点から北西に1500mの所です。そして敵部隊は恐らく推測ですが、既に我が部隊から1000m離れてるかどうか..

現在言えるのはこのままだと包囲されるということです。」


「んで?どうすんの?」

マウザーのボルトに弾を込めながら大尉は言った。


「今のところだと一気に回収地点まで突破するしかなさそうですね...幸いなことに戦車も兵士も何一つ欠けてないからそれも十分可能かと。」


「M6に周囲を固めさせ、グレイハウンドに兵士を載せて一気に突破するのはどうだろう?こう見えてもデュッセルドルフでは戦術専攻だったんだ。」

鼻の下を指で擦りながら少佐が言った。


「それで行きましょうっ!!それなら損害も最小限に抑えられる..『おい若造。』」

リヒトホーヘンの言葉を一番年長である大尉が遮る。


「俺達からしたら損害なんてものはどうでもいいんだ。今の俺たちの目標は何だ?一人でも多く味方を救うことだろう。それを忘れるな。」

大尉は時々神妙な顔つきをしながら言った。


「..はい。」


「..まあいい。一緒に生き延びようぜ。」

そう言いながら大尉は笑ってリヒトホーヘンの肩を叩いた。


「はいっ!!」


「よし、お前ら行くぞっ!!」


『「おうっ!!」』

最後の勝負が始まった。




 その頃..


 リヒトホーヘン搭乗の戦車から2両後の戦車




戦車の上では、これまでの長丁場で疲れた兵士達が砲塔にもたれかかりまどろんでいた。

「おい。軍曹たちが降りてきたぞ。」

すっかり疲れの色が顔に出ている一等兵が指差しながら言った。


「え、何だってっ?」

砲塔にもたれかかり眠りこけていた通信兵はその言葉に跳ね起きた。


「ほら見ろよ。」


「え?...本当だ。こっちに来るぞっ!!皆を起こせっ!!」

二人は未だ夢の中を彷徨っている戦友たちを起こしていく。


「お?お前らよく起きてたな。」


『「勿論であります!!」』


「その意気だ。」


『「はっ!!」』


「全員よく聞け。作戦が変更になった。」


その時二人は小声で会話を交わした。


「俺たち脱出できるかな...」


「確かになあ...死ぬかもしれんなあ...『馬鹿。今は考えるな。』」

何時もは怒鳴りつける伍長も今回は二人の背中を小さく叩いて注意するだけだった。







 20分後 現地司令部







「ええいっ!!まだ見つからんのかっ奴らは!!」

司令官は手に持ったコーヒーを机に叩きつけて大声で怒鳴った。


「は、はい。一時間ほど前にブラボー警備線の部隊が確認し追跡していたのですがその後見失って以降所在が確認されていません。」

副官がおどおどしながら答える。


「糞っ...いやな予感がしてきt..」

その時、何処かから大きな爆発音が聞こえてきた。


「何だっ!!?」

司令官はまた部下たちに情報を求めた。


「少々お待ちを!.....何!?....成程....」

副官が通信機で近くにいた部隊から急いで情報を聞いている。


「で?何だって?」


「そうか...分かった。」

そういうと副官は通信機を置いた。


「先程、南で住宅地にある集合住宅が突如爆発したそうです。味方の被害はないそうですが、付近の道が通行不能になったそうです。」


「何?」

現地司令官は理解ができないのかものすごい顔つきをしている。


「一応部隊を向かわせますか?」


「要らん。そんなのほっとけ。」

司令官はシッシと手で追い払う仕草をして腕を組んで眠り始めた。


「全く...何て人だ。」

副官は司令官を一瞬睨み、また業務に戻った。




 同時刻 司令部のすぐ近くの幹線道路




 結局、司令官の命令で集合住宅は消火もされず、様子を見に来ていた部隊もすべて自らの位置に戻って行った。

しかしこれこそがリヒトホーヘンの狙いだった。この時、幹線道路にいた部隊も一旦司令部から離れていたのである。

僅か数分の出来事ではあったもののその間に少佐の提案通り脱出部隊はワシントンで外縁を固めつつ、グレイハウンドに兵士を全員載せて猛スピードで幹線道路を駆け抜けていたのである。


「....」

先頭を走るワシントン戦車の操縦士は何も言わず、集中して前方を睨みつつものすごいスピードで大通りを疾走していた。


『...此方、3号車。1号車応答願う。』

戦車に備え付けの通信機から声が聞こえてきた。


「此方、1号車。どうぞ。」


『南東からお客さんだ。気を付けろ。スピードを上げるんだ。』


「了解。忠告感謝する。」

そういうと操縦手はスロットルを目一杯上げ、速度がぐっと速くなった。


「急いでこの場から離れるぞ。」


「ああ。ん?」

その時、砲塔から顔を出していた車長が向こうで何やら光ったのを見つけた。すると、次の瞬間、


「うわっ!!敵だ!!見つかったぞ!!」

何と戦車の砲弾が車長の頭を掠めていったのである。


その後も暗闇から幾つもの光筋が脱出部隊に襲い掛かる。


「ええいっ!!さっさとずらかるぞ!!もっと速度を上げろっ!!」

車長が砲塔を叩いて操縦手を急かす。


「うるさい!!こっちだって1週間前までは戦車なんて久しく操縦したこと無かったんだぞ!!」


「分かった分かった!!」

そういうと車長は頭を引っ込めた。


『此方3号車。回収地点まであと500m程度だ。突っ走れ。』


「此方1号車。了k..うわっ!!」


『どうした!?』


「ふう...此方1号車。被弾したようだ。今にも吐きそうだが、戦車の方は良好だ。」


『そうか..なら命令どうりにしろ。3号車通信終了。』


「1号車通信終了。」

そういうと操縦手が叫んだ。


「見ろ!!回収地点だ!!」




 同時刻


 回収地点から西に1km


 回収部隊司令車




「もうすぐ回収地点です!!閣下。」


「そうか!!ならきっと敵も要る筈だ。十分に警戒しろと全部隊に言ってくれ。」


「はっ!!」


「頼むから無事でいてくれよ...リヒトホーヘン。」


そう願うのは何とドイツ帝国軍北アフリカ方面軍総司令官エルヴィン・ロンメルだった。

昨日脱出部隊から連絡を受けてリヒトホーヘンの救出を決意したロンメル。

そしてその為にロンメルは各地から動かせる部隊を必要なだけ召集。全部隊をトリポリ手前の幹線道路で合流としたことでそれぞれの部隊が迅速に動くことが可能となりそれにより僅か1日で救出が可能になったのである。しかしロンメルの策はそれだけで終わらなかった。

何とリビア各地にある飛行場からトリポリに向けて戦闘爆撃機40機、戦闘機40機を出撃させ援護に回すという凄まじい航空攻撃を同時にさせようとしていたのだ。そして、その時は訪れようとしていた。


「よし...そろそろだな。」

ロンメルは愛用のハンハルトの懐中時計を見ながら呟いた。すると、遠い空の向こうから轟音が聞こえてきた。


「閣下!!空軍の増援です!!」


「ああ。分かってる。回収地点まであとどれくらいだ?」


「はっ。あと5分くらいかと。」


「Ⅲ号突撃砲に砲撃開始と伝えろ!!」


「はっ!!」

通信士が急いで全部隊に伝える。


「早くしろ...」

ぐっと拳を握りしめながらロンメルは強い口調で言った。




 その頃...


 回収地点付近


 回収部隊最後尾 6号車




 回収地点では脱出部隊が絶体絶命の危機に陥っていた。遂に、追手に追いつかれてしまったのだ。

戦力では到底適わない敵に対しリヒトホーヘンは回収部隊の方向へと全力で逃げることを命令。

だが敵の砲撃も最後に来てその威力をどんどん増しつつあった。


「糞っ!!あの野郎どもめ!!何処まで追うつもりなんだ!!」

車載銃の12.7mmブローニングを乱射しながら車長が叫んだ。


「もっと飛ばせ!!」


「うるせえ!!これが限界だ!!」

その時、今まで保ってきた陣形が崩れグレイハウンドが敵部隊に対して丸裸になった。


「おいやばいぞ!!」


「分かってる!!」

操縦手が急いで戦車の操縦桿を左に切る。


そして戦車に鈍い衝撃が加わった。




「回収部隊まで後少しだ!!全員踏ん張れ!!」


『「はっ!!」』


「よし。後少し...後少しだ。」

戦車の中でリヒトホーヘンは一人前のめりになってひたすらに呟いていた。


しかしそんな時だった。


『大佐!!大佐!!』

無線からは5号車の車長の声が聞こえてきた。


「此方1号車。どうした。」


『6号車が被弾!!履帯に当たったらしく走行不能です!!』


「糞っ!!ここまで来て....全員6号車を取り囲め..『待て、若造。』」

リヒトホーヘンが命令しようとした時グレイハウンドに乗っている大尉が突如通信に割り込んだ。


「何ですか!!」


『いいか。よく聞け。今6号車を助けに行くのは俺も賛成だ。だがな..「なら行きましょうよ!!」』


『..ふう..全く。俺の言っていることはな..その6号車を助けるためには一体どれだけの犠牲が必要なのかってことだよ。』


「......」

リヒトホーヘンは無線を口の前に構えたまま動かない。


『だから..若造。諦めろ。今行ったら俺達皆やられるぞ。考えてみろ、敵は俺らの6倍はいるんだぞ...俺ら皆蜂の巣だ。だから...頼む。撤回してくれ。』


「.....」


『頼んだぞ...通信終了。』

そういうと無線は切れた。


「.....」


「どうされるんですか?大佐。」

操縦手が前を見ながら言う。


「....全部隊に命令だ。これより我々は.....」








 30分後


 回収地点から西に15km








 まず結論から言うと、結局脱出部隊は炎上する6号車をおいて脱出に成功した。

追ってきた米軍部隊はその後航空部隊と砲撃部隊の連携した攻撃の前に敗走。これによりトリポリの防衛体制は弱体化されたのは間違いなかった。

結果的にリヒトホーヘンの作戦は成功したのだ。


「......」

リヒトホーヘンは救出部隊の連れてきたトラックの荷台でコーヒーを飲んでいた。


するとそこへ一人の男がやってきた。


「おい。大丈夫か?」

話しかけたのはロンメルだった。


「....はい。何とか。」

そう言うとリヒトホーヘンは顔を上げた。


「ロンメルおじさん。戦争とはなぜこんな惨いものなのでしょう?何故彼らは死ななければいけなかったのか....理解できません。」


「リヒトホーヘン。戦争ってのはな。こんなもんだ。だから俺たちが兵士たちのことを考えて作戦を考えなければいかん。時には他の生存の為に誰かを切り捨てることも必要なんだ。」


「だけど..」

その時リヒトホーヘンの頬を誰かが叩いた。


「痛っ..」

叩いたのは大尉だった。


「この馬鹿野郎!!お前が立てたこの作戦でな...一体どれだけの命が救われたと思ってるんだっ。確かにな...俺もハインツの奴らが死んだのは信じられん。

だがそれでもやっていかなきゃならないんだ。分かったな。」

そういうと大尉は別のトラックに乗り込んで何処かへと消えていった。


「まあ...そういうことだ。だから元気出せよ。ジュニア。」


「....はいっ!!」






 1940年2月18日


 チュニス

 

 同盟国軍北アフリカ方面軍チュニジア軍管区司令部







「で?それ以外に言い訳はあるか?」


『い、いえ....私は決して言い訳をしているわけではなく、弁明を..』


「それを言い訳と言っているんだっ!!もういい!!今すぐ荷物を纏めて出ていけ!!」

そういうとパットンは電話を叩き切った。


「全く...トリポリが丸裸ではないか!!」


その時、司令官室の扉がコンコンと叩かれた。


「入れ。」


「失礼します。」

入ってきたのは軍服を着た男とよれよれのジャケットを着た白髪の初老の男性だった。


「で?用件は?」


「はっ。私は『ポール・ジョン』と申します。此方は『スカーレット・オハラ』。」

そういうと初老の男性は顔を下に落とした。


「..偽名だな。」


「はい。本名と職業はワシントンから口止めされているので。」


「成程。何が望みだ。」

パットンはその男を鋭い眼光で睨んだ。


「そんな止めてください..味方ですよ。」


「お前みたいな怪しい男は腐るほど見てきたからな...」


「勘弁してください...で、用件ですが...飛行機を1機貸してもらいたい。」


「何ぃ....何処へ行くつもりだ。」


「それはパイロットにしか言えません。」


「成程、機密という訳か...何時までだ?」


「期限は今日の1500まで。いい返事をお待ちしていますよ。」

そういうと二人はそそくさと部屋を出ていった。


「....」

パットンは電話を取った。


「ああ。俺だ。あの2人を監視しといてくれ。何だか怪しい匂いがする..ああ。...ああ。そうだ。頼んだぞ、ブラッドレー。」







 混迷を深める戦局に出口はあるのか.....








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