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第二十話 混沌、北アフリカ戦線。

 今月は一話だけになりそうです...

 



 1940年1月21日


 日本領チュニジア 同盟国軍占領下のチュニス市中心部


 同盟国軍北アフリカ方面チュニジア管区司令部







 チュニスは今や厳戒態勢にあった。昨年フランス軍が隣の仏領アルジェリアから大群を率いてチュニジアに侵攻してきた時、この町の住民は現地指揮官の指導の下既に持たないことが分かっていたチュニジアから脱出すべく軍のトラックや自家用車(このころのチュニジアは既に本国と同じ生活水準に近づいていた。)等の移動手段を使って南の北西リビアに向かっていた。そして何日か経った後にフランス軍がこの街に来た時には一人も住民はいなかった。

これに同盟国軍北アフリカ方面軍最高司令官のジョージ・S・パットン将軍は全軍に対し一気にチュニジア=独領北西リビア国境までの進撃を命令。しかしこれは失敗した。チュニジアから撤退した帝国陸軍第四十八軍は主要な道路に爆弾を、線路は爆破し徹底的に邪魔をしたのである。これによって同盟軍は甚大な損害を被りパットンは進撃を撤回、結果として国境上での睨み合いが続くことになる。またパットンにとってさらに打撃となったのがフランス軍の多数離脱だった。

此方は昨年行われたある作戦が関係しており、それはフランス軍の第2次西欧侵攻だった。なにしろドゴール将軍率いるフランス第1総軍は言葉通り惨敗だったのでその後詰めに廻されたのが北アフリカの軍だった。総勢40万近い兵力でドイツに侵攻したフランス軍は呆気ないほど簡単にドイツ軍に打ち倒され、

ドゴール自身も負傷して離脱した。(その後エクス・アン・プロヴァンス市のヴォードの下に送られ降格されたが、処刑はされなかったらしい)そんなこんなで今チュニスはいつ来るか分からない敵軍の襲来に備えていた。


「.......」

見渡す限りの青空、砂漠、そして彼方の砂嵐を一人の男が睨みつけていた。


「将軍?」

部下のブラッドレー中将が呼びかける。


「ん?ああ。すまん、すまん。すっかり見惚れてたわい。」

男は椅子を回転させブラッドレーのほうを向く。


「パリの同盟国軍最高司令部から新たな指令が届きました。」

そういうとブラッドレーは書類を机に置く。


「どれ...ふむ...奴らめ..こんな撤退時のことも想定してないような作戦を俺がやると思うか?」

男は書類を置き葉巻に火を点けた。


「こんな作戦はこの北アフリカ方面軍最高司令官のジョージ・スミス・パットン・ジュニアが許さんっ!!」


「そういうと言いましたよ将軍。」


「ふんっ、なら何故こんな無駄足を踏ませたんだっ?」


「それは一種の事務処理みたいなもんですよ。」


「ではお前はどうしたい?」


「んー、リビアのイタリア軍支援のためにミスラタにでも陽動作戦を仕掛けますか?」


「成程。ミスラタを攻撃してロンメルを釘付けにした上でトリポリに集中攻撃を仕掛けるという手もあるか...」


「ええ、それに今回の作戦はフランス大西洋艦隊が支援してくれるそうですし。」


「未だにジブラルタルも突破出来ない艦隊がかね?笑わせてくれるわっ。」

パットンは葉巻を灰皿に押し付け椅子から立ち上がる。


「ですがあと半年すればジャップの艦隊が来ますよ?」


「ああ、ヤマト型戦艦がな。そいつが来れば我々はお終いだ。」


「ええ確かに。だからこそメイドインジャパンの砲弾が我々の頭上に来る前に何とか対処しないといけないのです。」


「北モロッコは?」


「フランス軍がカサブランカ陥落を目指していますが強固な陣地と機甲部隊の力の差などで戦線が膠着しているそうです。」


「うーむ...どこも手詰まり状態か..おまけに攻撃を渋っていればジャップの艦隊が来てしまう...まあ善は急げだ。取り敢えずミスラタ攻撃の作戦を立てるか。」


「はっ。やはり援護をフランス艦隊に頼みますか?」


「ああ、一応38センチ砲搭載戦艦が5隻もいるんだから少しは戦力の足しになるだろう。」


「中核戦力は第1機甲師団ですね...恐らく。」


「きっとな。おまけにやっと新型戦車のお披露目が出来る。兵士達もさぞかし喜ぶだろう。」


「M5ワシントン中戦車ですか....」

ブラッドレーは新型戦車の性能について話し始めた。


「M5A1ワシントン中戦車...主武装は80口径75センチ砲で理論上はジャップのタイプ97の正面装甲を軽々と破れ、Ⅳ号戦車E型も楽々と倒せるそうですが...装甲はシャーマン戦車とほぼ同じ。先制攻撃に懸けるしかないですな...」


「どっちにしようが我々は勝つっ!!この戦争に!!」


「勿論です。将軍。」

ブラッドレーは頷いた。


「ふふふっ。待っていろ....糞ドイツめ....お前ら纏めてじゃがいもと一緒にマッシュポテトにしてやるからな...」

パットンの瞳は赤く燃えていた。







 1940年1月19日


 伊領リビア トブルク市


 イタリア王国軍北アフリカ軍団トブルク基地


 イタリア王国軍北アフリカ軍団司令部







 トブルクは北アフリカ有数の要塞都市である。四方を砂漠と海に囲まれその景観はもちろんのこと、北アフリカ随一の港湾を持つ。この地を利用しないわけにはいかないと戦前からこの地は様々な国の手に渡っていた。第一次大戦直後に利用価値を見出したイタリアはこの港を1920年まで使用。その後22年まではイギリスが借用。それから33年までドイツ・イギリス・オーストリアの三か国管理、そしてムッソリーニの強硬政策としてその後再びイタリア領となった運命に翻弄されてきた都市であった。その都市は現在はトリポリを落とされて絶体絶命のイタリア・北アフリカ軍団の臨時司令部の置かれている重要な地点となっていた。そしてトブルクには欧州最強との呼び声高いイタリア海軍地中海艦隊の旗艦「ローマ」、ザラ級重巡洋艦「ゴリツィア」、「ザラ」、アキラ型空母「アキラ」、「トール」の5隻が配備されていた。そしてイタリア・北アフリカ軍団の中核戦力である陸軍第18機甲軍『スパタ(長剣)』の2個戦車連隊と1個自動車歩兵師団が配備されていた。この大戦においては史実のような醜態ぶりをさらしていないイタリア軍は今や南欧戦線・北アフリカ戦線において非常に恐れられている軍の一つとなっていた。(むしろフランス軍が酷くなっている)スパタには新型戦車で70口径75mm砲を搭載したカルロM13/40中戦車が全軍に配備されており、突撃砲部隊にもM13中戦車のシャーシを流用したセモヴェンテM13/90突撃砲が配備された。更にベンガジにはイタリア空軍北アフリカ方面航空団の司令部が設置され、新型戦闘機のマッキM.C.200、通称フォルゴーレ(稲妻)が配備されていた。この新型戦闘機は敵国である日本の零戦から強い影響を受けており、武装も史実より強化された20mm機関砲2丁と12.7mm機銃4丁、最高速度はフォッケウルフにも負けない530km/hを記録し、一撃離脱型の戦闘機だった。そしてこれの海軍航空隊型がM.C.200sペッシェ・ヴォランテトビウオとして海軍航空隊で既に配備が始まっていた。そんな準備万端のイタリア王国軍北アフリカ軍団司令部では次なる作戦を練っていた。


「ここは右翼から第58歩兵連隊を攻めさせた方がいい!!」


「いや、それよりも戦闘機の護衛の下で後に空挺部隊を下ろすべきだっ!!」

作戦室では参謀達が意見でしのぎを削っていた。


その時、一人の男が作戦室に入ってきた。


「気を付けっ!!」

総参謀長が幕僚達に言う。


「楽にしてていいぞ。」

そういうと幕僚達は敬礼を止めた。


「...諸君たちの知っての通り、先日トリポリが陥落した。」

この言葉に通信参謀がピクッと体を揺らす。


「だが、本当の戦いはこれからだ。このトブルク、はたまた西のベンガジは我々の支配下にある。よって我々はまだやれる。」

その言葉に総参謀長が進言する。


「しかし閣下。現在我々の支配地域は狭まってきています。」


「ああ、確かに。だが遂さっき、私の下に一通の電報が届いた。内容はパットン将軍が共同作戦を希望しているということだ。」

男がその電報を取り出す。


「私は.......この要請を受けようと思う。」

その言葉に幕僚達は騒めく。


「しかし閣下っ!!ヤンキー如きが我々も破れなかったドイツ軍の防衛線を破れるのですかっ!!」

作戦参謀が言う。


「彼は前任者とは違い、非常に有能な将軍だ。信頼できると思うがね..。」

男は電報を破り、宣言した。


「我々は1月24日にアメリカ軍の陽動作戦の下、キレナイカから反攻作戦である『砂漠の大蛇』作戦を開始するっ!!君達は作戦を至急纏めてくれ。」


『「はっ!!」』


「では取り掛かろう。」

その男は、後に「イタリア軍最高の頭脳」と云われる名指揮官、ジョヴァンニ・メッセ陸軍大将だった。







 1940年1月30日


 独領北西リビア ミスラタ


 ドイツ帝国軍北アフリカ方面軍司令部方面軍司令官室







 ドイツ帝国軍北アフリカ方面軍は苦悩していた。ミスラタは治安が安定していたが、トリポリはイタリア軍の残存軍がゲリラ化して市内のあちこちで破壊活動が行われ、おまけにOSS(戦術情報局)のデマで『連合国はイスラム教徒を迫害している』と現地住民が聞き、一部はイスラム過激派となって頻りに補給網を掻き乱していた。また海上補給網の危機的状況も頭痛の種になっていた。イタリア艦隊の水雷艇部隊は地中海を縦横無尽に駆け巡り、次々と連合軍の護衛艦隊・商船を血祭りに挙げていった。また潜水艦・軽巡洋艦部隊の見事な連携は補給網寸断に一役買っており、ロンメル自身、ミスラタ以北の防衛は巨大な地雷原、通称「悪魔の園」を使って防衛していた。しかしそんな暗雲漂う北アフリカ戦線にもロンメルは兵士たちを鼓舞して士気の安定に努めていた。


「ロンメル閣下。」

副官の大尉がロンメルを呼ぶ。


「ん?何だね。」

ロンメルは報告書を置き、尋ねる。


「トリポリのリヒトホーヘン大佐から報告がありました。」


「おう、そうか。で?何だって?」


「トリポリに第14突撃擲弾兵師団が到着したそうです。」


「ジブラルタルからイギリス艦隊でも護衛してくれたのかね?」


「ええ。H艦隊が護衛してくれたそうです。」


「そうか...士気はどうだった。」


「充分だったそうです。何でも、『イワンを殺せないのは辛いが代わりにイタ公とヤンキーを殺してやるぞ!!』と意気込んでいたそうです。」

副官がフッと笑う。


「それは心配ないな。」


「はい....」

その時、ロンメルの電話が鳴った。


「何だ。.....分かった。すぐそっちに行く。」

そういうとロンメルは電話を置いた。


「どうされました?」


「如何やらミスラタの北西140kmでヤンキーを探知したらしい。我々も防衛体制を築かなければ....行くぞっ!!」


「はっ!!」

二人は急いで部屋を出ていった。







 同時刻 

 

 ミスラタ北西約140km


 第38突撃擲弾兵師団陣地







「師団長...ここの防衛はもう持ちません...早く撤退した方が良いかと...」

参謀の大佐が進言する。


「駄目だ大佐。司令部から撤退命令は今だ出ていない。」


「ですが..『ですがも、しかしも、ないんだ参謀。やるしかないんだ。』」


「....はい。」


だが、彼が言うのも仕方なかった。


今第38突撃擲弾兵師団はミスラタからチュニスへと向かう幹線道路の近くに陣地を作り防衛していた。

ここ1ヶ月近くはここまで同盟軍が来ることは無かったが、今日夜が明けると同時にに突如として陣地が空を埋め尽くすほどのB-17が陣地に襲い掛かった。本来ならそこで司令部に通達する筈だったが、この絨毯爆撃によって司令部の通信機が破壊され、やっと30分程前に別の部隊の通信機を拝借して繋がったのである。だがその時点で既にアメリカ軍は地平線を埋め尽くすほどの戦車を陣地に向けて展開していた。アメリカ軍の戦闘を率いるのは勿論パットン将軍である。これに対し第38突撃擲弾兵師団は3重の防衛線を造り応戦。各地に設置した罠や対戦車砲を使いながら必死に防戦していたが、既に2つが破られ防衛線は崩壊寸前だった。


「師団長閣下っ!!」

その時、前線に送った伝令が戻ってきた。


「どうだった?前線は?」


「...もう駄目です。私が戻るときには防衛線にヤンキーが侵入していました...恐らくもう突破されたかと...」


「糞っ!!...止むを得んか...」

師団長は無線を掴んだ。


「聞こえている全部隊に告ぐ...撤退せよ。繰り返す、基地まで撤退せよ。無理なら捕虜となって生き残れ...皇帝陛下万歳っ!!」

そういうと師団長は無線を置いた。


「済まない...」

師団長は確かにそう言った。






 1940年1月30日


 アメリカ合衆国首都 ワシントンD.C.


 大統領府ホワイトハウス


 大統領執務室







「この無様な戦況は何だっ!!」

ルーズベルトは怒っていた。


「も、申し訳ありませんっ大統領!!」

スチムソン陸軍長官が頭を下げて謝る。


「開戦僅か4か月でハワイは陥落、空母は沈没、おまけにジャップに制海権が完全に渡ってしまったではないかっ!!そのせいで月に1回この神聖な大陸がジャップの爆弾によって汚されているのだぞっ!!」


「申し訳ありません大統領...ですが...」

ノックス海軍長官が謝った後に言葉を続ける。


「何だ?」


「既にカリフォルニア・オレゴン・ワシントンの機密造船所では空母、戦艦、軽・重巡洋艦、駆逐艦、潜水艦が凄い勢いで生産されています。

今日もエセックス級空母が4隻、ニューオーリンズ型重巡洋艦2隻が竣工したとの連絡が西海岸から届きました。」


「ほう....確かかね?」


「はい。」


「それならば直ぐにジャップを皆殺しにするのも可能かもしれんなっ!!はははっ!!」

ルーズベルトは大声で笑った。


その時、執務室のドアがコンコンと鳴った。


「入れ。」

そういうと秘書が入ってきた。


「大統領。例の方が...『通せ。』はっ。」

秘書は出ていった。


「すまんが二人とも一旦帰ってくれ。」


『「はっ。」』

二人はドアから出ていった。


そして20分が過ぎた。


「申し訳ありません大統領。資料の収集に戸惑いまして..」


「まあいいよ。その代わり、いい結果なんだろうね?」


「はい、ミュンヘンの諜報員から連絡が入り『スカーレット』を確保。これよりイタリア軍の協力のもと帰還するそうです。」


「よし...で?帰る道のりは?」


「チュニスのパットン将軍に許可を貰い、カサブランカまで輸送機で輸送、そして潜水艦でアゾレス諸島へ向かいバミューダトライアングルを迂回しノーフォークに到着する予定です。」


「頼むよ。この計画..『マンハッタン計画』が成功すれば我々は汚らしい猿人と溢れるドイツ人を皆殺しにできるのだからな。その為にこうして君に諜報機関と計画の全指揮権を渡したのだからな...」


「ご期待に応えて見せますよ閣下。」


「頼んだよ、グローヴス君。」

そういうとグローヴスはニヤリと笑い執務室を後にした。







悪魔の計画が始まろうとしていた。







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