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第十九話 さらば、第二機動艦隊。(後編)

 皆様今年は「異世界第二次世界大戦~新たなる夜明け~」を読んでいただき、

本当に有難うございました。

 来年も一層頑張るつもりなのでどうぞよろしくお願いします。

 



 1940年1月5日


 翔龍沈没から20分後


 第二機動艦隊旗艦「翔鶴」艦橋







 今この艦橋はまるで葬式のように静まり返っていた。やはり二十分前に翔龍がたった二機の攻撃機の攻撃で沈没したのが一番の原因だった。

そしてそれから二十分がたった今、やっと被害の集計が終わろうとしていた。結果としてさっきの攻撃で翔龍の乗員の八割近くが死亡。(幸いなことに艦橋にいた第十航空戦隊の幕僚達は全員無事だった。)更に、周囲を護衛していた駆逐艦二隻に爆風と破片が飛び一隻は一番砲塔旋回不能、もう一隻は左舷の高角砲二門が使用不能になった。そしてこの状況を見た塚原二四三中将は、撤退命令を下した。しかしその僅か三分後には北東を飛んでいた九九式艦攻二四型(偵察機仕様で九九式一号電探搭載)の電探が150km先から来る米攻撃隊を探知。この情報によって塚原は撤退命令を撤退待機命令に変更。輪形陣が組まれ、戦艦部隊は先ほどの失敗を挽回するために主砲を敵攻撃隊がいる空に向け、迎撃機は零戦と機動性の高い九八式艦爆を含め140機近くが艦隊を死守するために手ぐすね引いて待っていた。


「.........」

塚原は口の前で手を組み何やら考え事をしていた。


「..長官。」


「ん?ああ、寺岡どうした。」


「改めてお詫び申し上げます。今回の迎撃作戦の失敗はすべて私の責任です。私が土壇場で作戦を変更してしまったためにこの様な結果になってしましました。この作戦が終われば私を解任してください。」

寺岡は頭が地面に着くぐらい深く土下座をした。


「....寺岡、頭を上げろ。」

そう言って塚原は寺岡の顔を上げさせると、パァンと大きな力で叩いた。


「これで俺と死んだ搭乗員の分は済んだ。寺岡。確かに今回は急な作戦変更がそうならせたのかもしれん。だがその作戦を承認したのは俺だ。紛れもないな。

そして今叩いたのはお前が死んだ搭乗員達のためにやったことが俺にはそうやって責任から逃れようとしているしか見えなかったからだ。」

寺岡はハッと目を見開いた。


「...お前と俺で一生十字架を背負っていこう。」

そう言って塚原はポンポンと寺岡の肩を叩いた。


「..はいっ!!」

寺岡の眼には涙が浮かんでいた。







 同時刻 第二機動艦隊北東約40km


 迎撃隊会合地点







 彼ら迎撃隊は今や翔龍の敵討ちを、と熱気に包まれていた。しかし実際には今回出撃した迎撃隊の一部は20mm弾が入っていない機もあったし、燃料もギリギリの機もいた。それにもかかわらずなぜ迎撃しに来ているかと言えば、それは単に敵を撃滅したいがためだろう。今回の迎撃隊隊長にはダッチハーバー攻撃隊制空隊隊長だった鈴木實海軍少佐が着き、艦爆の迎撃隊には関衛海軍少佐等の猛者が多くいた。彼ら自身1機でも多く敵機を墜とし、20mmが無くなれば、12.7mmだけで、それも無くなれば敵機に体当たりしてでも攻撃を食い止めようとしていたがそれは止めていた。何故なら一つは塚原長官直々の自爆禁止命令とアダック島に潜入していた海軍特殊部隊(彼らがアダック島・ダッチハーバー攻撃のための下準備をしてくれた)の海軍陸戦隊第三十八特殊工作連隊(通称「釧路連隊」。釧路に司令部があったため)がアダック島に続々来る敵機を艦隊に通報したからである。彼らがここで全力を出すと後方から来た新たな奴らにやられる、それを察知した寺岡の通告で迎撃隊内部にはまた、次の攻撃への警戒感を表す空気も流れていた。それに加え、北都の空軍が撤退支援を行うために200機余りの戦闘機隊を第二機動艦隊に向かわせていた。だが最低でも後1時間はかかるということなので結局の所、この攻撃を凌げないと艦隊は壊滅するということに変わりはなかった。


「全員聞こえるか?迎撃隊隊長鈴木實だ。」

その声は迎撃隊全機に聞こえていた。


「知っているとは思うが、先程我々の戦友を乗せた翔龍が沈没した。この戦いは死んだ彼らへの弔いと他の仲間達を守るための戦いだ。頼んだぞ。」

そういうと無線からはすすり泣く声や怒りを口にしている声が聞こえてきた。


「ふう...いやな立ち回りだな。司令部、敵の所在は?」


『敵攻撃隊は現在、貴官から北東に20km行ったところにいる。』


「分かった。」

そう言って鈴木はまた全員に聞こえるように無線のスイッチを入れる。


「全員よく聞け。北東に敵攻撃隊を確認した。全員高度を上げろ。一撃離脱で行く。」


『「はっ!!!」』


「行くぞっ!!」

鈴木は操縦桿を引き敵の位置を確認した。








「ん?何だあれ?敵機か?」

攻撃隊先頭を飛んでいたアベンジャーの操縦士はそう呟いた。が、次の瞬間...


「あ!?ジャ、ジャップd..」

そういうとアベンジャーは操縦席を撃ち抜かれ錐もみしながら墜ちていった。


「よし、1機撃墜。」

撃ち落とした操縦士は密かに喜ぶとまた次の目標に向かっていった。


「糞っ!!ジャップだ!!全機密集隊形になれっ!!」

攻撃隊長の命令で攻撃隊は密集隊形に、護衛機は零戦に向かっていく。


『うわっ!!駄目だ、振り切れないt..』


『ジャップめ、ざまあみろ!!』


『ヤバいぞ!!1機そっちに行ったぞ!!』

無線からは護衛隊が相当厳しい戦いをしていることが分かる。


『全機スロットル全開っ!!敵艦隊まで一直線に飛べ!!』

攻撃隊長は愛機のヘルダイバーの速度を上げて先頭に立って進んで行く。


『隊長に負けてられんぞ!!お前ら!!』


『おうっ!!行くぞ!!』

攻撃隊の速度が上がる。


しかし、零戦と九八式艦爆の性能はそれを上回っていた。


『おいっ!!奴ら俺達を追いかけてくるぞっ!!』


『何!?』

そういう間にもまた1機墜ちていく。


『護衛隊、奴らをしっかり釘付けにしといてくれよ!!間もなく敵艦隊の射程距離に入るぞ。全機気を付けろy..』

最後の言葉は突如来た対空砲弾、そしてそれに墜とされたアベンジャーの耳をつんざく様な墜落音に掻き消された。







 同時刻 第二機動艦隊第二戦隊旗艦 長門級戦艦一番艦「長門」







「第一弾....命中しました。敵機が墜ちていきます。」

砲術長は自らの双眼鏡で今回初使用となった零式電探探知式対空火焔弾の威力を見ていた。


「中々のもんですよ、少将。」

砲術長は自分の双眼鏡を艦長に貸す。


「どれどれ....ほう...敵機が動揺して散開しておる。いい効果だな。」

そういうと第四戦隊戦隊司令官松田千秋少将は砲術長に命令する。


「砲術長!!次弾装填!!座標は君に任せる。」


「はっ!!各砲塔次弾装填!!零式対空弾!!各個射撃に移るっ!!撃ぇっーー!!」

そういうと各砲塔から赤い閃光が飛び出たかと思うと次の瞬間、空に八つの巨大な丸が出来た。そしてその後ろから、パラパラと先ほどまで鮮やかな青色だった敵機が炭化した黒色の塊として墜ちていく。


「素晴らしい威力ですね...少将。」

艦長の徳永栄大佐はその弾の威力を称賛すると同時に松田に進言した。


「何だ?」


「これからは迎撃隊を引かせて弾幕射撃の方が良いのでは?」

弾幕射撃は史実でも松田が確立した戦術である。


「うむ。確かにな。通信参謀!!翔鶴に隊形『乙』への変更許可を取れ。取れたら各戦隊に『乙』への隊形変更を指示するよう翔鶴に言ってくれ。」


「はっ!!」

その時、通信参謀が言った。


「少将、磐手の矢野艦長から連絡で、貴艦から見て北西から新たな敵機20機を探知したそうです。」


(流石最新式の電探だ。矢野君に御礼を言わなければな。)

松田は心の中でそう思った。


「陸奥と相模に通達して左舷の防備を固めろ。」


「はっ。」

通信士たちは一度に何個もの連絡を伝えなければいけないため大忙しだった。


「さてと...」

松田は一旦司令官席に腰を下ろして呟いた。


「後は塚原さんに懸かっているな。」







「松田からか.....ふむふむ....成程。よし各戦隊に『乙』への変更を通達しろ。」


「はっ。」


「これが功と出るか、吉と出るか.....神のみぞ知るということか。」

塚原は前方の空を睨みつけながら言った。


「長官。『乙』への隊形変更が終わりました。」


「うむ。分かった。迎撃隊を退避させたのち、全艦一斉弾幕射撃を始める。」


『「はっ!!!」』

遂に勝負が始まる。







『隊長っ!!ジャップが退いていきますっ!!』


『よしっ。何だかわからんがこのまま攻撃を続行するぞ!!』


『「はっ!!!」』


『各攻撃隊長は被撃墜機を報告せよ!!』


『此方護衛隊。被撃墜機は...』

その時、突如3機ほどのアベンジャーが一気に墜ちていった。


『何だっ!!?』

隊長は思わず無線に叫んだ。


『隊長!!恐ろしい数の砲弾が飛んできます!!』


『糞っ!!だが、やるしかない.....全機攻撃開始!!』

そして隊長を先頭に攻撃隊は艦隊に突っ込んで行った.....しかし、結果は見えていた。







 ~一時間後~


 「翔鶴」艦橋







 今翔鶴は北都港へ向けて猛スピードで航行していた。一時間前に艦隊を襲ってきた敵艦隊の第二次攻撃隊は弾幕射撃によって壊滅。敵機の殆どは攻撃態勢に入る前に撃墜され、その時生き残った機も爆弾や魚雷を投下できぬまま撃墜されたり、例え投下しても各艦長の卓越した操舵能力によって回避され撃墜される....結果として第二次攻撃隊はヘルキャット二機、ヘルダイバー一機、アベンジャー隊に至っては全滅という散々な結果に終わったのである。(この結果を聞いたミッチャーは思わずコーヒーカップを落とし深く項垂れたという。)そしてやっと北都の源田航空団・寺本航空団の戦闘機隊が到着。艦隊は安堵に包まれていた。


「長官、どうぞ。」

寺岡が紅茶を出す。


「ああ、すまんな.....ふう...いい味だ。」


「はっ。長官の好きなアールグレイですからね。」


「有難う。しかし、今回の戦いは....多くの犠牲者が出たな...」


「ええ。我々の責任でしょう。損害は『翔龍』沈没、『関雪』中破。また人的損害は400人近くが死傷しました。攻撃隊の損失は零戦19機、九九式艦攻23機、九八式艦爆13機です。またこの中にはダッチハーバー攻撃隊所属急降下爆撃隊長高橋赫一海軍中佐機も含まれますが先程釧路連隊が彼を保護したとのことです。なので彼と釧路連隊第二中隊を三日後にアダック島から救出する作戦を実行するそうです。」


「成程。そこのところはきっと北都が立ててくれるのだろうな。」


「はい。既に北都の北部方面艦隊司令部が作戦を立案中とのことですからね。」


「まあ大丈夫だろう。」

そういうと塚原はカップを机に置き窓の傍へと近づいていく。


「.....我々はこれからどうすればいいと思う?寺岡。」


「やはり艦隊の立て直しが先決でしょう。翔龍だけでまだよかったですが、次回のライン諸島の時は何隻失われることか..見当も付きませんね。」


「その前に防空体制の立て直しを急がないと死刑宣告が下る.....か。」


「その時こそ『さらば、第二機動艦隊。』ですかな。」

寺岡の発言に塚原が振り返って言った。







「そんなことはさせんよ。誰にもな。」







 一方その頃.....







「やっと....ここまで来たか....」


「ええ、あれが...あの街ですか。」


「ああそうだ。我々はあそこに行かなければならない。」


「遠い道のりですね....果たして何年かかることか。」


「だが行くしかない。イタリアをこの地から追い出すためにもな。」


「確かに。勿論秘策はお持ちなんですよね?ロンメル閣下。」


「ああリヒトホーヘン。とびきりのな。」

そういうと将軍....ロンメルは含み笑いをした。







 欧州戦線は何処へ向かうのか.....すべてはこの男に懸かっている。







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