第十八話 さらば、第二機動艦隊。(前編)
今回は色々な予定が立て込んで遅れてしまいました。
1940年1月5日
アメリカ海軍第34任務部隊
旗艦「フランクリン」
攻撃隊発進から30分が経とうとしていた。今や司令部はもはや勝った気でいた。何故なら幕僚の殆どが自分達のみが敵艦隊を捕捉していると思っているからである。しかしミッチャーだけはそう思ってなかった。彼は開戦初期のダバオ攻撃の時の「レキシントン」司令官として空母部隊を指揮しており、結果は自分たちの位置が捕捉されていないと思っていたために簡単に敗北。レキシントンは拿捕されるという最悪の結果となったのである。ミッチャーは護衛の駆逐艦で脱出したもののこの時と全く同じ状況にミッチャーは油断できなかった。現在ミッチャー艦隊はダッチハーバーを無事脱出。生き残ったアラスカ半島の基地航空隊に応援を要請していた。またアダック島の航空基地では急ピッチで滑走路が修復されつつありあと2時間で修復は終わる予定だった。(基地設備は徹底的にやられたため滑走路のみだった。)更にアンカレッジのアメリカ北部軍司令部でも増援を至急送るべきだという声を受けて既にアダック島の滑走路へと向けてアラスカ各地の航空隊が飛び立っていた。そんな統作本の予想をはるかに上回るアメリカ軍の反撃の先兵として放たれた第一次攻撃隊が果たして攻撃を成功させるかミッチャーは不安だった。
「長官我々の勝ちですね。」
参謀長が言ってくる。
「まだ油断しない方がいいぞ、参謀長。私の経験上ではこれで終わるわけがないのだからな...」
「ですが、敵艦隊の偵察機は我々を見つけていません。」
「その情報も怪しいな。何しろ上は一面曇り空。レーダーを持たない我々にとっては丸腰同然でどこからでも見られている可能性があるんだからな。」
「ですが...『それより私達は敵に捕捉された時の対処法を考えるべきではないかね?参謀長。』」
ミッチャーはまだ反論する参謀長を黙らせた。
「...そうですね。急いで考えましょう。」
参謀長は幕僚達に伝えに行った。
「...これで大丈夫なのか。」
ミッチャーは艦橋の椅子にもたれながらふと呟いた。
同時刻 第二機動艦隊旗艦「翔鶴」
この翔鶴は次世代の空母として開発された空母である。搭載機108機という元々の機数の多さと相まって更に特筆している点は今回から新たに搭載された新型の航空機運搬エレベーターだった。このエレベーターにより航空機、またはその燃料・弾薬を素早く運ぶことができた。そんなこんなで今この第二機動艦隊は迎撃隊が発艦準備を終えて甲板に並んでいた。一部は直掩機として発艦しているが、まだ敵攻撃隊は艦隊から450kmという離れた地点だったため節約のためだった。そして艦橋ではある作戦が考えられていた。
「敵を罠に?」
塚原は参謀長に聞いた。
「はい、我々はここから南にできる限り移動します。敵は偵察機で我々を監視していないので恐らく偵察機が撃墜された地点に来るでしょう。そこをできる限りの戦闘機で迎撃するのです。」
参謀長は作戦の概要を説明した。
「では迎撃地点は破棄だな。」
「はい。」
「それでいこう。通信参謀、『全艦南ニ移動ヲ開始セヨ』」
「了解しました。」
通信参謀が通信室に命令を送る。
しかし運は第二機動艦隊に味方しなかった。
~1時間半後~
米軍第一次攻撃隊はやっと攻撃地点に着こうとしていた。この攻撃隊の陣容はヘルキャット30機、ドーントレス10機、アベンジャー20機で編成された比較的小規模な攻撃隊だった。しかしこれには裏があった。このうちの1機には艦隊への通信機が備え付けらられていたのである。つまり、攻撃隊が攻撃を受けた時の座標、あわよくば第二機動艦隊の座標を艦隊に知らせるためだった。既に艦隊からの通信を受けれるように第二次攻撃隊には偵察機がついている。実際ミッチャーからしてみれば第一次攻撃隊は囮のようなものであり、第二次攻撃隊が本命だった。その結果第二次攻撃隊は艦隊からヘルキャット15機、アベンジャー15機、そして生き残っていた基地航空隊のヘルキャット40機、ドーントレス30機、アベンジャー25機、そして新型急降下爆撃機ヘルダイバー18機、合計158機の大攻撃隊になっていた。
「おいマック。敵艦隊がいた地点まであと少しだな。」
「ああ、奴ら恐らく我々を血眼になって探しているだろうな。」
「はははっ、違いない!」
そんな緩慢な空気が攻撃隊内部に広がっていた。
「さてと....此方マック。隊長まだ着かないのか?」
そういうと通信機からノイズ混じりの声が聞こえてきた。
『...ああ、まだ15分はかかるだろう。...それまで我慢し...ん?..糞っ!!全機散開っ!!』
そう言った途端に隊長のアベンジャーは爆散した。
「うわっ!?ジャップだ!!ジャップの戦闘機だっ!!」
そう言いながらマックはアベンジャーを左に旋回させる。
『此方直掩隊!!攻撃隊は編隊を崩さずに飛行しろ!!繰り返す!!..』
通信機からは直掩隊長からの命令が聞こえていた。
「おい、それよりジャックを守らねえとやべーぞ!!」
ジャック機は艦隊への通信手段を持った機だった。
「ああ分かってるさ。」
そう言ってると1機零戦がマックに向かってきていた。
「この紙飛行機め!!墜ちろーーーっ!!」
機銃手のクリスがブローニングを零戦に向けて乱射する。すると、零戦は火を吹いて回転しながら墜ちていった。
「よし1機撃墜っ!!」
「よくやったぞチャーリー!!」
そういうと直掩隊長から連絡が入った。
『各員よく聞け!!この雲を抜ければ恐らく敵艦隊だ、非常に激しい対空砲火が予想されるから全員心してかかれよ!!もし敵艦隊がいなかったらジャック、
お前は直ぐに座標を送れ。いいな。』
『ああ。』
ジャックからは決意を固めた声が聞こえてきた。
「よしそろそろ抜けるぞ!!」
そして下の海面を見たとき.....第二機動艦隊はいなかった。その代わりいたのは...50機近くの迎撃隊だった。
「駄目か...糞っ!!」
マックは操縦桿を思いっきり叩いた。だがその間にも次々と味方機は墜ちていく。
「隊長!!」
艦爆・艦攻隊隊長機が墜ちたため攻撃隊長になっている直掩隊長はこの呼びかけに対し何とか答えた。
『...くそ、全機最後の賭けだ。残存機は南に行けっ!!そして奴らのケツに一発ぶちかませっ!...』
そういうと隊長機は火達磨になって海面に墜ちていく。
「糞っ!!...よし後続の奴らのためにやるか。ジャック!!聞こえるか?」
『ああ。』
「通信機は?」
『まだいけるぞ。』
「では今の座標を送って急いで南に向かえ。最後の賭けだ...行け!!」
『ああ...幸運を。』
ジャック機はゆっくりと南に機首を向ける。
「じゃあ他の奴らも行くぞ!!」
『おうっ!!』
そしてこの賭けは成功することになる。
「何!?迎撃は失敗だと..」
その情報は塚原の顔を一瞬で青くさせた。
「はい、一部の残存機が南に向かっているそうです。」
参謀長の寺岡謹平少将が言った。
「糞っ、速度から考えると..逃げることはできないな。急いで迎撃機を挙げろ。」
「はっ。」
「果たしてどうなるか...」
塚原は溜息をつきながら言った。実は第二機動艦隊は予想していた地点まで南に移動することはできなかったのである。
何故なら、第十航空戦隊の翔龍が突如機関の調子を悪くし、それに合わせて速度も遅くせざるを得なかったからだった。
「長官。全艦に命令を伝達させました。」
「そうか...御苦労。」
その言葉の通り最前列を進んでいた長門等の戦艦部隊が輪形に広がり、その内側に重巡部隊、そして空母の周りを軽巡・駆逐艦部隊が囲み始めていた。
「これで艦隊の防御は完成したな。」
「確かに...それより敵の残存機はどうなったのでしょう?」
「それは気になるな..電探室、敵機は?」
『はっ。識別電波を発信しましたところ、北30kmに敵機を確認。現在迎撃隊が向かっています。』
「分かった。」
「敵機は大人しくしてくれますかね?」
「分からん。だが、一歩間違えれば我々たりとも一たまりもないよ。」
塚原はそういうと遥か彼方の空を見つめた。
同時刻
アメリカ合衆国海軍合衆国機動艦隊
第34任務部隊空母「イントレピッド」航空隊所属
ロバート・『マック』・マクドナルド海軍一等准尉機
マックは今や凄まじい緊張感に襲われていた。
何しろさっきから日本軍の迎撃隊が攻撃隊に襲いかかっているからだった。ジャック機は敵艦隊がうっすら見えた段階で司令部に座標を送り、敵機に撃墜された。直掩隊は数で押され、片手で数えられる程しかいなかった。そんな中であってもマック機と僚機のチャーリー機のみは1機も襲って来なかった。
「糞っ、糞っ、糞っ!!」
マックの操縦桿を握る手は汗でびっちょり濡れていた。
『..此方チャーリー。マック、....覚悟は「ああ。出来てるさ。」』
チャーリーが言い終わる前にマックは言った。
『ふっ。そうか。じゃああののろのろとした空母をやろう。』
「ああそうしよう。」
そういうと二人の機は一直線にのろのろとした空母、翔龍へと向かっていった。
「よし来たぞ。全艦対空砲火始めっ!!」
寺岡の号令で残ったたった2機の敵機に対して無数の銃弾が放たれる。
(あの敵機はツキがあるようだな..何しろ2倍以上の迎撃機の3度もの襲撃を乗り切ったのだからな。)
塚原は内心不安でしょうがなかった。
「おいおいっ、一発も当たってないぞ!!全艦気を引き締めろ!!」
寺岡が無線に向かって吠える。
「糞ジャップめっ!!必ず仕留めてやるっ!!」
マックは爆弾倉を開き、中からは巨大な800キロ魚雷が出てきた。
「よしチャーリー、やるz...」
その時、横を並行していたチャーリー機に対空砲弾が直撃。点火し火が上がる。
「!?チャーリー、脱出しろ!!」
しかし、その答えを聞く前にチャーリー機は翔龍の飛行甲板目掛けて墜ちていく。
「..それが答えか、チャーリー。」
そういうとマックは雷撃コースから外れ、甲板へと機首を向けた。
そして、後の二人も察したようだった。
「すまねえな。ビリー、クリス。」
「いいや、いいんだ。」
「まあこういう終わり方もあるさ..」
二人からは諦めと覚悟が入り混じった声が聞こえてきた。
「よしいくぞっ!!」
マックは強く操縦桿を下に押した。
「!?やばい!!あの2機を今すぐ墜とせ!!」
一直線に墜ちていく敵機を見て塚原はその狙いが分かったのか寺岡に叫んだ。
「はいっ!!」
そういうものの、一向に弾が当たる気配は見られなかった。
「ああ不味いぞっ!!」
「喰らえーーっ!!ジャップめぇーーっ!!」
そして.....先にぶつかったチャーリー機は甲板に突き刺さるように当たり、中の魚雷の火薬が引火、大爆発で格納庫まで穴が空いた。
続いたマック機はその穴に突入、同じく大爆発を起こした。更に格納庫にいた艦爆・艦攻、そして兵器類に引火して翔龍の飛行甲板に空いた穴からは、火柱が上がり僅か数秒後には翔龍の艦体は真っ二つに折れ、冷たい海の底に沈んで行っていた。
「........」
寺岡と塚原はあんぐり口を開け、今目の前で起こった現象を信じることが出来なかった。
何故ならその出来事は世界最強の日本海軍の空母がたった2機の攻撃機によって沈んだことを証明することだったからである。
そして、その東約120km先には怒りと復讐の火を燃やした第二次攻撃隊が塚原のもとへと向かってきていた。
塚原機動艦隊の破滅への道は徐々に近づいていた。
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