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第十七話 血塗れの新年(後編)

 今回から番外編の投稿も始めましたのでよろしくお願いします。




 1940年1月5日


 ダッチハーバー沖南約240km


 大日本帝国海軍太平洋方面艦隊所属第二艦隊旗艦「伊吹」








 「寒い......」

第二艦隊司令長官近藤信竹中将はただそれだけを呟いた後、何も言わなくなった。


「長官。第二機動艦隊から第一次攻撃隊発進の連絡です。」

参謀長が近藤に報告する。


「そうか.....」


「長官?」


「ん?何だ。」


「いえ、何も言わないので....」


「ああすまん。つい寒いから黙ってしまうよ。」

近藤は白い息を吐きながら言った。


「これからどうされますか、長官。」


「ん~。取り敢えずこのまま第二機動艦隊の護衛に着こうか。」


「はっ。」

参謀長が幕僚達に伝える。


「いや~、さび~な~......」

そう言いながら近藤は肩を擦って暖めていた。








 1940年1月5日


 キスカ島上空約2200m







 この高度を飛ぶのは、アダック島を攻撃した源田航空団を除く寺本航空団・第二機動艦隊合同攻撃隊だった。しかしその500m上を国籍の違う航空機が一機飛んでいた。ドイツでもイギリスでもアメリカでもない航空機。それはソ連空軍の偵察機であった。大胆にもソ連軍は北都飛行場に偵察機を一機置かせてくれと頼み、次にダッチハーバーの戦いを観察させてほしいと言われたのである。これを断ると今まで避けてきた対ソ開戦になってしまうとみた統作本が特別に許すとソ連機は北都で燃料を補給し、ダッチハーバーへと向かっているのである。(ちなみに燃料を補給された北都飛行場の司令官は「中央からの指令がなければ、爆薬でもつけて爆破しようと思った。」と後に回想している。)


「あの飛行機を撃ち落としてもいいか?」

合同攻撃隊隊長村田重治中佐は後の偵察員に言った。


「駄目ですよ、中佐。何しろ統作本からの直々の指令ですからね....」


「くっ...どうだか。」


何故村田がこんなことを言っているかというと、一部の陸海軍のベテラン勢、主に前線で戦う兵達に統作本を蔑んでいるからである。彼らの声を代弁すると『前線も行ったことのないような兵学校などのエリート達に何が分かる』ということである。しかし開戦してからというもの次々と統作本の立案した作戦が当たり前線の兵たちの統作本に対する印象自体も変わり始めていた。だが村田は開戦からこれまでずっと気合いばかり先に行くような若手たちをしばくためにずっと教官として鹿屋海軍航空基地に在任していたため、今だに反感を持っている一人だった。


「そんなこと言ったって、統作本が立案した作戦は百発百中。特に開戦初頭の新高作戦は何でもたった一人で原案が練られたそうですよ。」

偵察員は双眼鏡でソ連機を見ながら言った。


「そんなこと言ったって所詮は若造だがな。」


「確かにそうですね.....ん?中佐!司令部から電報で『湾内ノ敵ヲスベテ殲滅スベシ』だそうです。」


「そんなこと言われなくともわかっとるわい。」


「確かにですね.....」


「後何分だ?」


「恐らくあと40分くらいかと....」


「鈴木に連絡して高度を高くさせろ。」


「はっ。」

その時後ろの機銃員が伝声管から言った。


『中佐。今回から使う弾ってどんな奴なんですか?』


「ああ、言ってなかったな。」


『ほかの機銃員には言ったんですか?』


「ああそれもだ。」

村田は攻撃隊全機に回線を開いた。


「あ~、全員聞こえるか?村田だ。今回の作戦では攻撃隊全機に新改良の弾が装填されている。名称は『零式特殊機銃弾』。何でも従来の弾よりも遥かに貫通力が上がったらしい。だからその点も入れてやってくれ。後言っとくが試射で上のアカに当てるなよ。俺が責任を問われるんだからな。」

無線から笑い声が聞こえる。


「とにかくそういうことだ。よろしく頼む。」


『「はっ。」』


「では全員安全第一で行こう。以上だ。」







 1940年1月5日


 ダッチハーバー近海


 合衆国機動艦隊第34任務部隊


 旗艦「フランクリン」







 新年初めにもかかわらず、荒れ気味の海をただ見つめている第37任務部隊司令官マーク・ミッチャー少将は参謀長の声を聞き意識を戻した。

彼自身今回の人事は自分には不適任だと思っていた。何故ならハルゼーやフレッチャーなどなら今まで空母部隊の指揮経験があったからいいが、自分は精々重巡部隊の指揮官ぐらいしかしたことがないからである。しかしハルゼーは「お前さんに任せたぞ。」といってミッチャーに最新型空母3隻を任せたのである。(最初の攻撃を乗り切った「ヨークタウン」と「ホーネット」、「エンタープライズ」はハルゼーの直接指揮下に置かれた。)

そんなこともありミッチャーは20分前に日本軍の航空機が接近してきていると言われた時、不思議とホッとしていたのである。


「長官、直掩機の発艦完了しました。また、ダッチハーバーの南西に向けて偵察機を飛ばしました。」


「..分かった。」


「長官いかがなされますか?」


「取り敢えず、空母から直ぐ発艦できるように攻撃隊を編成しろ。それから.....あれだ、西にも偵察機を飛ばせ。」


「はっ。」

まだ慣れていないのか命令がちぐはぐだ。


「長官、インディペンデンスから連絡が入りました。」

通信士が言った。


「ん?どれどれ....ふむ。全員よく聞け!!これよりダッチハーバーに20機ほど増援を送ることになった!至急直掩機と攻撃隊から抽出してくれ。」


『「はっ。」』

各員が動き始める。


「ジャップか.....強敵だな。」

ミッチャーは水平線の向こうにいるまだ見ぬ敵を睨んだ。







 ~48分後~







「全員よく聞け!!間もなくダッチハーバーに到着する!!気を引き締めろっ!!」


『「はっ!!」』

無線から威勢のいい声が聞こえる。


「中佐!!雲からそろそろ抜けますよ!!」


「分かった。」

村田は冷静に応対した。

そして、雲から攻撃隊が抜けると....そこは地獄だった。


『うわぁっ!!此方五番機!!敵に取りつかれた!!こいつら今までのドラ猫と違うz..」

そこで無線が切れ五番機が爆散する。


「各員冷静に対処しろ!!敵の新型戦闘機だ!!」

村田がマイクに吠える。


『糞っ!!隊長!!こいつら速いぞっ!!』

戦闘機隊長の鈴木實少佐が言う。


「湾内には....駆逐艦5、巡洋艦2か....まあいい!!艦攻隊は俺に付いてこい!!艦爆隊は飛行場と港湾施設をやれ!!」


『「了解。」』

そういう間にもまた一機艦攻が墜ちていく。


「糞ッ...なんて対空砲火だ....」

村田の言う通り、ダッチハーバーの対空砲火は凄まじく真に地獄への片道切符だった。


「だがやるしかないか。」

そういって村田は湾内に操縦桿を向ける。


「よし。第一・第二中隊は湾内の敵艦を攻撃。第三中隊と第四中隊は待機だ!!」

村田は駆逐艦に照準を合わせる。


「まだだ....まだだ...」

村田は海面すれすれを飛びながら魚雷発射のタイミングを伺っていた。


「三番機、被弾!!」

村田には急速に三番機が高度を落とし、断末魔を迎える音が聞こえた。


「よーし....撃ぇ(てぇ)っ!!」

そういうと後ろの偵察員が魚雷を発射する。


「よし、離脱するぞ。」

その時左翼に敵弾が当たる。


「燃料は?」


「大丈夫です!引火も漏れてもいません!!」

そして駆逐艦から水柱が上がり、真っ二つに割れる。


「よし攻撃を終えた機は上空に集合せよ。」


『「了解。」』


村田は上空からダッチハーバーを見つめていた。


「...戦果はまずまずだがかなりの数が墜ちてるな...」


「はい。敵の新型戦闘機が相当強力なのでしょう。」


「これは司令部に報告しないとな。」

そういって無線を開く。


「司令部。聞こえるか。」


『....此方司令部感度良好。続けろ。』


「湾内に突入するも、味方の被害続出。敵の新型戦闘機を確認した。」


『了解。分かったことを言え。』


「速度は1.5倍、武装はまるで銃弾の雨のようだった。」


『分かった。無事に帰還しろ。』


「了解。通信終わり。」

無線を切る。


「中佐。カクさんの艦爆が見当たりません。」

偵察員が言う。


「何!?糞っ、此方村田。高橋応答しろ。」

無線は返ってこない。


「..繰り返す。高橋応答しろ。」

無線は返ってこない。しかし別の機が応答した。


『此方艦爆隊第三中隊十四番機。高橋少佐の機から二人が脱出するのが見えました。』


「本当か!」


『はい。恐らく森に隠れていると思われます。』


「分かった。」


「ふう.....」

村田は安堵の息を漏らす。


「中佐、全機集合しました。」


「分かった。取り敢えず家(艦隊)に帰ろう。」

そういって村田は母艦の方向に向かった。







 同時刻 「翔鶴」







「成程。新型戦闘機か.....」

塚原は顎に手を当てる。


「はい。対外諜報局の言う通りですね。」


「まあ仕方あるまい。戦場には常に間違いはあるものだ。」


「そう思うしかありませんね。」


「そんなもんだろう。」

その時、電探室から連絡が入った。


『此方電探室。北東から謎の航空機が接近中。識別電波の発信許可を。』

識別電波というのは発信すると味方機のみ反射しない日本が開発した技術である。


「此方艦橋。許可する。」


『了解。識別電波を発信。......反射しました、敵機と識別。』


「了解。直ちに上空の直掩機に位置座標を連絡せよ。」


『此方電探室。了解。』


「さてと.....後は攻撃隊の帰還を待とう。」


「そうですね。」

そして数分後、通信室から連絡があった。


『此方通信室。敵機は米軍の偵察機だった模様。撃墜したものの、位置を知らされました。』


「了解。」


「参謀長。至急直掩機を出せ。」


「はっ。」


「後、攻撃隊の到着時刻は?」


「恐らく30分くらいかと....」


「では直掩機の発艦と同時に戦闘機隊の弾薬が補給できるように準備しろ。通信参謀!!攻撃隊に連絡!!『戦闘機隊は先行して着艦せよ』」


「分かりました。」


「燃料も忘れるな。後、敵艦隊の場所が分かればいいのだがな......」

その時、通信参謀が言った。


「長官、長門三号機から東約340海里に敵艦隊を確認したそうです。」


「よし、先に攻撃隊を発艦させよう。至急攻撃隊を編成せよ!!」


『「はっ!!」』


「ではとりかかろう。」

第二機動艦隊の時間との戦いが始まった。







 ~35分後~







『戦闘機隊は燃料・弾薬を補給後、直ちに発艦せよ!!繰り返す、直ちに発艦せよ!!』

甲板上のスピーカーからは、けたましく通信士の声が響いていた。


「急げ急げ!!こうしてる間にも敵は近づいているんだぞ!!」


「はい!!」

真に甲板上は戦場であり整備班にとっては地獄でもあり天国だった。


「準備完了、行って来いっ!!」


「了解。此方辰村機、発艦する。」

整備士達に励まされながら次々と戦闘機が発艦していく。


結論から言うと、その後二つを同時にやることは不可能だったため塚原は取り敢えず攻撃隊編成を後回しにし、戦闘機隊の補給・直掩機の発艦を急いだ。

また、帰還した艦攻・艦爆隊は上空で待機、燃料が切れかかった機に付いては特別に着艦を許す命令を下した。何しろ敵艦隊の位置が判明、更に常に偵察機が

敵艦隊上空を監視しているため余裕が大きいことがこの決断につながった。そして20分前、ついに敵艦隊から攻撃隊が発進したのを偵察機が確認したため、一層甲板上は忙しくなっていた。


「デヴァステーターの巡航速度は約300km、それに合わせて計算しても我が艦隊に到達するまで2時間もあるが....敵は恐らくあと1時間くらいで来るだろうな...」

塚原達は作戦室で幕僚達と敵攻撃隊の到達時刻を計算していた。


「では艦隊手前100kmで第一段迎撃、60kmで第二段迎撃を行いましょう。」

作戦参謀が提言する。


「うむ、そうしよう。」


「長官、よろしいですね?」


「ああ、それでいいだろう。」

全員が賛成する。


「20分前に一応源田の所にも応援要請をしておいた。艦隊直掩に回そう。」


「はっ。」


「では着艦が終わり次第、攻撃隊を発艦させろ。」

そういうと塚原は艦橋へと行った。






 そして決戦が始まる。







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