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第十五話 灼熱のデリー。

 

 



 1939年12月2日1000時


 英領インド帝国 デリー 


 ザ・ブリティッシュロイヤルホテル3階 テラス








 時計の針が10時を指し示すと同時に4つある出入口から4か国の代表が入ってきた。

現在判明している主な4か国の狙いをいうとイギリスは4か国間の自由貿易・技術協定締結。ドイツは日本の対ソ参戦に加え、海軍艦艇の共同建造。オーストリアは東西からのソ連攻撃、つまりは対ソ参戦を求めると共に大陸ごとに連合国東アジア軍・中央アジア軍・西アジア軍・欧州軍・南北アメリカ軍・アフリカ軍・太平洋軍を設置。連合国軍総司令部をベルリンに創設する案を出そうとしていた。

そして太平洋戦線を支える日本は、ソ連の反スターリン派・アメリカの共和党・更に共和党系民間団体の支援。太平洋方面の戦力増強を提示しようとしていた。


「さてでは始めましょうか。」

オーキンレック英代表団副代表の掛け声で会議は始まった。


「では各国代表団は要件を提示、説明して順次可決していきましょう。」

リヒトホーヘンが言った。


「では我が国から。我が英国と致しましては、4か国間の自由貿易・技術協定、連合国間の武器の格安貸与協定、迅速な命令伝達機能のある合同司令部を立てるべきと考えます。」

イーデン代表が要件を提示する。


「成程。どれも理に適ったものと考えます。日本政府は同意します。」


「オーストリア政府もです。」


「......ドイツ政府もです。」

ベック独代表が少し遅れて言う。


「どうかされましたかな?ベック代表。」

イーデンが言う。


「え?いや、その.....」

軍人のベックはこういうとこには弱かった。


「何もなければこの件は承認されたと..『お待ちください。』」

リヒトホーヘンが遮る。


「何ですか、リヒトホーヘン副代表。」


「その協定には戦争に関係ない日用品も対象に入るのですかな。」


「..はい。」


「では我がドイツは同意しかねます。」

会場の空気が震えた。


「何故ですか!まさかドイツ政府は各国が自ら身を削ってまで戦争に専念しているというのに自国の製品だけは利益を確保しようとするのですか!!」

イーデンはまるで罪人を問い詰める検事のように怒涛の勢いで問い詰める。


(よしいける。)

イーデンが勝利を確信したその時、「では我がドイツの言い分を述べさせて頂きます。」とリヒトホーヘンが言った。


「今や我がドイツはイギリスを抜き世界一の植民地を持っております。しかしこの協定にサインすると我がドイツは主に本国に生産拠点を多く置く会社が7割を占めますが、イギリスはインド・シンガポール・香港・ケープタウンに拠点を置く企業が8割近くです。そしてこの協定では輸送費を製品価格を入れないと記載しております。よってイギリスは各植民地から輸送すれば輸送費が安く、損失も少ないでしょう。しかし!その他の国からすれば赤字が膨れ上がるばかり。つまりイギリスが儲かる仕組みになっている協定なのです。よってドイツ政府はこの協定にサインしません。」

リヒトホーヘンは一語一語噛み締めるように言った。


「くっ.....」

イーデンは痛いとこを突かれたらしく言い返せない。


両者の間を沈黙が走る。


「では。」

突如徳村が声を出した。


「協定に各国の主要輸出品の保護、及び戦争に関係ない日用品は含めないとすればいいのではないでしょうか。」


「そうだな。それがいい着地点だ。」

インクヴァルト墺代表も意見に合意する。


「ではそうしますかイーデン閣下。」

最後に白洲代表が止めを刺す。


「うっ.....そうですな。そうしましょう。」


「では詳細は後ほど合わせましょう。」


『「はい。」』

全員が合意する。


後にこの決定は『連合国間自由貿易・技術協定(U.R.T.A)』として全連合国間で結ばれ、FTA(自由貿易協定)の先駆けとして知られることになる。

更に連合国間の武器の迅速な移動や貸与、売買を目的とした『連合国間武器貸与・売買協定(レンドリース協定)』も結ばれることになる。


「次は....オーストリア政府ですか。」

進行役の自由フランス政府の高官が言う。


「はい。我がオーストリア政府は、英国政府と同様に連合国軍総司令部を設立、そしてその所在地をドイツ帝国首都のベルリンに置くべきかと.....

更に下部組織の太平洋方面軍、アメリカ大陸方面軍、北アフリカ方面軍、南アフリカ方面軍、中央・西アジア方面軍を設立。所在地は東京、ブエノスアイレス、カイロ、ケープタウン、バクダッドに置く案です。」

インクヴァルトが一通り説明する。


「それには賛成です。」


「日本政府もです。」


「ドイツ政府もです。」

この案はすんなり通った。


「では次に我がオーストリア政府は東西からのソ連挟撃、つまり日本の対ソ参戦を求めます。」

インクヴァルトが言う。


「それについては我がドイツも同意見です。」

ベックも言う。


「では我が大日本帝国政府の言い分を述べさせて頂きます。我が国は欧州方面の対ソ戦線における

はさせて頂きます。」

白洲代表が言った言葉は会場の空気を変えた。


「ん?聞こえなかったですかなミスターシラス?我がオーストリア政府とドイツ政府は貴国政府にソ連に宣戦布告をしてくれと言ってるのです。」

あくまで冷静な口調で白洲を問い詰めた。


「ですから我々のそれに対する答えは端的に言えば『Nein.』つまり『No.』ですよ。我が国には超大国ソ連とアメリカと東西で戦う余力は残っておりません。

それはあなた方だって同じはずだ。だが幸いそっちは集まっているからいいがこっちは一国で戦う羽目になる。」


「それは...」

ベックとインクヴァルトは黙っている。


「大変残念だがそういうことになった場合は.....徳村君。」

そういうと徳村はある文書を取り出した。


「これは、我が国の連合国脱退と中立国になるための文書です。」

会場が凍り付く。


「あなた方がそのような無理な事を我が国に強いるのならば我が国は連合国を脱退。対米戦争に切り替えます。」

勿論これははったりである。


「そ、そんな!?」

リヒトホーヘンが思わず声を上げる。その時徳村はリヒトホーヘンをちらと見てニヤッと笑った。


(く、くそっ!!先手を取られた。)

実はドイツもアブウェーアを使って日本が何らかの手を打ってくることは分かっていた。

しかし日本の防諜技術には勝てず、表面的にしか掴めなかったため初動対応に遅れていたのである。


「そ、そんな無茶な!?」

今まで空気だったイーデンも声をあげ否定した。


「勿論貴国達がその要求を取り下げれば、これは焼却します。しかし要求を通すならば......それはそれですね。」

白洲は恐ろしい事をいとも簡単に言い述べ連合国を恐怖に陥れようとしていた。


「少々お待ちを...」

インクヴァルトは、ベックを連れて部屋の角へ行き、五分くらい経つと戻ってきた。


「分かりました。貴国の要求に従いましょう。但し、物資援助は常に最前線の部隊に届くように迅速にお願いします。」


「勿論です。」

こうして最大の戦いは日本の勝利で終わった。


その後は、ドイツ・日本の要求はほぼその通り受諾され、後に『デリー会談』と呼ばれる会議は終わった。

結局日本の対ソ参戦は白洲、徳村両名の活躍で阻止され、イギリスは自国主導の協定に導けず、責任を取ってイーデンは帰国後外務副大臣を辞職したが、40年に組閣されたチャーチル内閣で外務大臣に抜擢され再び活躍することになる。

インクヴァルトはその後のイタリア軍の大攻勢に対し挙国一致内閣を組閣。首相として率いることになる。

そして1939年は今このまま何の動きもないまま終わり、時代は激動の1940年に突入しようとしていた。







 1939年12月31日(現地時間)2200時


 アメリカ合衆国カリフォルニア州 サンディエゴ市


 アメリカ海軍太平洋艦隊司令部







この太平洋艦隊司令部ではアメリカ海軍の重鎮チェスター・ニミッツ大将と『闘牛ブル』ウィリアム・ハルゼー中将が今後の展開について話していた。


「おい、司令!!俺達は何時になったらジャップを殺せるんだ?」

ニミッツは開口一番不満を口にした。


「済まないなハルゼー。今は総力を挙げて建造中だが、カナダが中立国入りしてしまったため五大湖は使えない。分かってくれ。」


「くそっ!!」

ハルゼーは椅子を蹴り飛ばし癇癪を起こした。


「まあバッドニュースだけじゃなくいいニュースもあるがな。」


「何!?教えてくれ司令、俺は一分一秒でも早くジャップをぶっ殺したいんだ。さあ言ってくれよ!!」


「ああ。遂に空母8隻と高速戦艦3隻と重巡15隻、軽空母10隻の大機動部隊が完成した。それをお前に任せようと思う。」


「おう分かった!!で?何処を攻撃するんだぁ?」


「.....ここだよ。」


「はははっ。中々面白そうじゃねえか!やってやるぜ!!」


「出撃は2月上旬、搭乗員は既に11月から慣熟訓練を開始している。至急合流してくれ。」


「よっしゃ!!じゃあな!!」

ハルゼーは嵐のように去って行った。


「ふう......では私も戻るとしよう。」

そして部屋の灯が消えた。




 ついにアメリカの反撃が始まる。







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