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第十四話 『ツィタデレ』作戦 (後編)

 今回はちょっと長めです。

 



 1939年12月2日


 英領インド帝国 デリー


 ザ・ブリティッシュロイヤルホテル1056号室







「おい、徳村君?」


「はい、何ですか?」


「ちゃんと資料は用意してあるかい?」


「大丈夫です。それより問題は英国ですよね。」


「まあな。正直英国は対米強硬派のチャーチル海軍大臣くらいが戦争に対して積極的だしな.......

そのチェンバレン内閣もあと持って二ヵ月ってところかな。まあ分からんよ。」


彼らは『デリー会談』の大日本帝国代表の白洲次郎前駐米大使であり現外務副大臣と徳村である。

彼らは今20分後の会談を前に最後の確認を行っていた。


「さてさて、問題は彼らが対ソ開戦を迫ってくることだな。」


「はい、その情報は既に帝国統合対外諜報局(いくつかあった諜報活動をする部署をまとめたもの。

後に1972年に内閣情報庁として再編される)が掴んでいます。対策案も大丈夫です。」


「ふむふむ。しかしこの戦争は早く終わってほしいものだ。」

そう言いながら白洲は紅茶を口に運ぶ。


「確かに。戦争に勝つことも重要ですが平和への努力も必要です。その為に我が統作本は存在しているのですから。」

徳村も紅茶を淹れて飲む。


「因みに君はアールグレイかね?」


「いえ、どうも癖があって好きじゃないんです。好きなのはダージリンです。」

そういうと二人揃ってまた紅茶を飲み始めた。







 同時刻 567号室







 「何故私なのか......」

ルートヴィヒ・ベック独代表は一人気を吐いて嘆いた。


その時部屋の扉をコンコンと叩いた音がした。


「入れ。」

そういうと独代表団副代表のリヒトホーヘンが入ってきた。


「閣下。そろそろ。」


「ああ、分かってる。そういえば....」

ベックは代表名簿を見た。


「日本代表団の副代表が確か....トクムラとか言ったよな。」


「はい。」


「彼がひょっとして『東洋のシャルンホルスト』か?」


「はい、そのとおりです。」


「会ってみたいものだ....」


「ふふっ。私もです。」

リヒトホーヘンの笑みの意味はまだベックには分からなかった。







 同時刻 478号室







 「チェンバレン首相はどうされるつもりでしょうか?」

オーキンレック副代表はチェンバレンの意図をイーデンに聞いた。


「分からんよ。ただ確かなのは、チェンバレンが腰抜けで仮初の平和を求める男だということだけだよ。」

イーデンは鋭い口調でここにいない男を強烈に皮肉った。


「我が大英帝国は全くドイツの援助をできていません。おまけに現在進行中のコラ半島の作戦でもドイツ軍はソ連軍に善戦していますが我が軍は全く歯が立ちません。最優先事項は機甲部隊の再編、及び航空戦力の立て直しですね。」

流石イギリス随一の戦略家であるオーキンレックは的確に問題点を捉えていた。


「私もそう思う。次の首相も9割チャーチルで決定だな。」

イーデンは自らの立場の弱さを皮肉るように言った。


「それよりもシリアのフランス軍が先日ついにモスルを落としたらしいです。駐インド軍としては3個師団を増援に回しましたが、中東も危ないですね。」


「ああ。おまけにカフカスのソ連軍の動きが活発化しているという情報も来ている。まあそのためのペルシャ侵攻だがな。」

史実よりも早めにイギリスは今度はソ連警戒のためペルシャ、つまりイランを占領しようとしていた。


「我々のかつての栄光はもうないですね...」


「仕方あるまい...ユニオンジャックもグレートブリテンも何もかも......落日の時だよ....」

イーデンの口調はまるで老人のようだった。







 同時刻 104号室







この部屋には連合国の一員であり欧州・南方戦線の主戦国であるオーストリア=ハンガリー帝国代表団である。

代表は『ハプスブルクの番人』と呼ばれている右派保守系政党『オーストリア民主社会党』の№3であるアルトゥル・ザイス=インクヴァルト外務大臣とウィーン攻防戦においてイタリア軍を包囲し敗走させた、

第67機械化歩兵師団長のアウグスチン・マラー陸軍大佐が調整を行っていた。


「我々としてはとっととイタリアを追い出したいものだな。」


「そういってもサラエボの戦いもまだ続いていますし、ブカレストに籠ったソ連南部方面軍の残党もいますしね。どうしようもないですよ。」


「はぁ...頭痛の種は消えずじまいか。本国は?」


「はい。先ほど入ってきた情報だと、ティラナが陥落したそうです。イタリア・アルバニア軍団も中々手厳しい。」

そういってマラーは頭を掻く。


「新型戦車は...どうなったのかね?」


「はい。名前は『Aht-98 フランツ・フェルナンド』です。武装は70口径76.2mm砲と12.7mm機銃2基です。」


「皇太子殿下....いや皇帝陛下か。」

この世界のフランツ・フェルナンド皇太子は民族融和政策によってサラエボで殺されなかった。

更に1916年に父親が逝去したため現在の皇帝として君臨している。


「では行きますか。」


「ああ、そうしよう。」

.....役者は揃った。







 1939年12月2日


 コラ半島 ムルマンスク


 連合軍合同陸戦司令部







 昨日から始まったソ連軍の総攻撃によって連合軍はコラ半島とカレリアへと撤退を迫られた。結果、フィンランド第4軍はカレリア、英独連合軍はコラ半島と分断され、戦力は半減した。だがソ連軍はカレリア・コラ半島、そして先日遂に最後の部隊が降伏し、制圧したレニングラードへと充分な兵力を送ることができた。(最もそれを指揮する指揮官が無能では意味はないが......)

そしてこうした数々の条件によって、連合軍は各地で不利な戦闘を強いられていた。


「司令。ベルゲンの艦隊が2時間前出航し、現在急行中とのことです。」

通信参謀がハイドリツィに報告した。


「分かった。第14突撃擲弾兵師団に繋げ。」


「はっ。」

通信参謀がマイクを渡す。


「此方司令部。応答せよ。」


『......此方師団司令部。敵の勢いがかなりあります.......早く増援を!!」

途切れ途切れに師団が危機的状況に陥ってることが分かる。


「だが、イギリス軍1個歩兵師団を送った筈だ。どうした?」


『奴ら人の言うことも聞かずに突撃していきましたよ。お陰でこっちは1万もの軍勢を失った。』


「くそ!!」

ハイドリツィは思わずマイクに叫んだ。


『とにかく増援を!!』

そういうと通話は終わった。


「.......参謀長。第4機甲師団は?」


「はっ。現在、第4機甲師団は恐らくカンダラクシャ西部で敵戦車師団と戦闘をしていると思われます。敵も戦闘爆撃機を出してきてⅢ号対空戦車もどんどん失われていると先ほど報告が挙がっています。」

参謀長も段々読むのが辛くなっているように見えた。


「これでは不味いな....第14師団に指令!!第2防衛線へと撤退せよ!!」


『「はっ!!」』

通信士が急いでキーを叩き、各部隊へと伝えている。


「皆あと1時間耐えてくれ。そうすれば艦隊の艦砲射撃の支援が来る。またヘルシンキのドイツ空軍も現在こっちに向かってるそうだ。」


「ですが、そこからでは航続距離が.....」

史実より幾分かは伸びたものの、世界に比べればまだ独空軍の航空機の航続距離は劣っていた。


「ふっ、馬鹿者が。フィンランドの数えきれない湖が飛行場になってくれるわ。」


「そ、そうか!!」

史実においてフィンランド軍が使った手だった。その時、突如通信参謀が紙を持ちながら作戦室へと入ってきた。


「や、やりました!!司令!!第4軍が!!」


「何?どうした?」

そう言いながら、ハイドリツィは紙を見る。


「こ、これは!?」

その内容はフィンランド第4軍が、ソ連第68親衛軍の半数を壊滅させたことを伝えることだった。

第4軍はカレリアへと押し込まれたものの、これを予想していたマンネルヘイム元帥の知略により、カレリアには数多くの陣地・落とし穴・罠が仕掛けられていた。結果、次々と罠に戦車が引っ掛かり、戦車は3分の1がやられ、ソ連軍はスピードを遅くせざる得なくなった。そしてこの行動によりフィンランド軍には4日の猶予が与えられ、その後カレリア中央部で行われた戦いにおいてフィンランド軍は徹底的な防御戦法をとり第68親衛軍の半数が壊滅状態に陥ったのである。


「よしよし。これでカレリアは勝ったな。」

ハイドリツィはフッと笑みを漏らすとマイクを持って通信士に通信先を伝え、スイッチを押した。


「此方連合国上陸部隊指揮官のゴットハルト・ハイドリツィです。ドイツ帝国軍参謀本部副参謀長ゲルト・フォン・ルントシュテット大将を。..............

....はい。.......分かりました、待ちます。」

そういうとハインリツィはマイクを置いた。


「司令。何故ルントシュテット閣下を?」

ドイツ軍出身の参謀長が尋ねた。


「ああ、実はな...彼は、東部戦線の戦略責任者なんだ。さっき偵察に行った偵察機があるものを見つけたらしくてな...おっと繋がったようだ。」


「お久しぶりです、ルントシュテット閣下。」


『ああ確かにな。どうした急に?』


「はい。先日の偵察で気になるものを見つけまして....」


『それは何だ?』


「実は、何と第68親衛軍の隊列の中にドイツ国旗に鎌と槌が書かれた旗を掲げた部隊があったと.....」


『何!?』


「はい。それでなのですが、早速アブウェーアへの調査依頼をお願いしたいのです。」


『分かった。後、デリーのリヒトホーヘンにも言っとかないとな......」


「其方にお任せします。」


『そうしてくれ。じゃあな。』

通信が終わった。


「本当ですか司令!!」


「ああ、写真もある。」

ハイドリツィは胸ポケットから写真を出す。


「どれどれ.....確かにその通りですね。この戦車は.......T34ですか?」


「そうだ。」


「一体.....」

参謀長は顎に手を当てて考える。


「まあそれはいいとして、奴らへの対処を考えよう。」


「はい。」

参謀長は幕僚を集め地図を広げる。


「作戦参謀。現在の戦線の状況は?」


「はっ、現在我が軍はカンダラクシャから南に約23kmの地点が最突出部となっています。敵ソ連軍は主に3つの戦線を形成し対峙しています。

1つはコブドルを中心に、ドイツ第41突撃擲弾兵師団と第4機甲師団第3戦車連隊がソ連第23重戦車師団と第111機械化歩兵師団が戦闘しており、

この戦線をDラインとします。もう1つではポリャルニエゾリ西40kmの森で第4機甲師団第1・第2戦車連隊と英独立混成第32旅団とソ連第28戦車師団と第55機械化歩兵師団が戦い、この戦線はSラインとします。最後は先ほど言った最突出部です。ここはPラインとします。この地点は第18突撃擲弾兵師団と第35突撃擲弾兵師団・第4機甲師団第4戦車連隊・第8機甲師団第2連隊がジューコフ直轄の13万の第92親衛戦車軍と戦っております。今後の作戦展開としましては、優勢のD・Sラインにおいて砲兵・航空支援をフルに使い勝ちます。そして航空支援を使って第68親衛軍を司令部があると思われる

アルハンゲリスクへ叩き落とします。そこに艦砲射撃を加え、一挙に撃滅します。これでどうでしょう?」

作戦参謀がハイドリツィに同意を求める。


「それでいいだろう。もし最後が合わなかったらパワープレイに出るまでだ。」


「了解しました。」

参謀長が言う。


「やるぞ諸君!!一気に押し返せ!!」


『「はっ!!」』

幕僚達が動き出す。


「では行こう。」

ハイドリツィは呟いて作戦室を出ていった。







 ~20分後~


 Dライン 第4機甲師団第3戦車連隊司令部陣地







「全員突撃っ!!」


『おおっーーーー!!!』

多くの猛者達が乗った戦車が敵陣地へと突進していく。更に上空ではカレリアからやってきたドイツ空軍の荒鷲達がソ連の戦闘機を一蹴していた。


「しかしまあ.....司令部も無茶を言う。」

副連隊長が連隊長に言う。


「ああ。だがここで勝たないと俺達は明日には大挙してムルマンスクへとむかうことになる。」


「確かにですね。」


「とにかく状況が状況ということだよ。」

その時前方の陣地にいる兵が入ってきた。


「どうした?」


「はぁ.....はぁ.....やりました連隊長。」

かなり急いできたのか兵は息切れしながら言った。


「敵軍が撤退していきます。現在第3戦車連隊と第8突撃擲弾兵連隊が追撃しています。」


「本当か!?」


「はい。」


「よし。通信士直ちに司令部と第41突撃擲弾兵師団に連絡。追撃許可を。」


「はっ。」


「司令、ヘルシンキの空軍から第44戦略爆撃航空団の1個中隊が回されるそうですが何処をしてもらいしょう?」

通信参謀が言う。


「じゃあ....後方の物資集積所とキャンプをしてもらおう。」


「分かりました。」


「まあ我々は状況観察を続けよう。」







 3時間後


 アルハンゲリスク ソ連第68親衛軍司令部壕







 その後、D・Sラインで連合軍は軒並み勝利。残存軍は司令部のあるアルハンゲリスクへと撤退。ジューコフも前線視察中に飛んできた破片によって、

腕に傷を負っており、真に敗軍の兵と化していた。そしてジューコフはべリスクへの撤退をスターリンに具申。スターリンは勿論激怒し認めようとしなかったが、ジューコフの説得により認め、これから第68親衛軍は急いで撤退しようとしていた。


「大丈夫ですか司令。」

参謀長が尋ねる。


「ああ....まあ何とかな....」

腕の包帯は赤色に滲んでそろそろ替え時だった。


「しかしドイツめ...完全に制空権が掌握されています。現在も爆撃が各地で行われており我が軍は危機的状況かと。」


「確かにな。今は各地からトラックを掻き集め、彼らをモスクワに帰らせることが先決だがな。」

その時突如、港の物資集積所が爆発した。


「何だ!?敵襲か!?」

参謀長が周辺の兵士に聞こうとしている。


「一体.....何だ?」

ジューコフの眼は水平線に佇むものを見つめていた。


「大変です!!敵艦隊が戻ってきました!!司令急いで退避してくださ...」

参謀長のいた辺りが炎に包まれ地獄と化した。


「お、俺の軍隊が......」

そこでジューコフの体は宙に舞い意識は途絶えた。




 1939年12月2日、ソ連第68親衛軍は壊滅。更に指揮官ヴァシリー・ジューコフ大将の脊髄損傷による重傷という最悪の事態に陥った。

この機を連合軍は逃さず、すかさずアルハンゲリスクを奪還すると、インフラ整備のため守勢に入る。結果年明けにはコラ半島・アルハンゲリスクまでしっかりとした補給網がドイツ・フィンランドから伸びていた。そして南米戦線では4日後にブラジルが参戦。圧倒的戦力でパラグアイ・エクアドル・ボリビアを制圧。アメリカはこの危機に対しメキシコに侵攻・併合し、パナマ運河を放棄。中央アメリカ中部での決戦に備えた。そして史実と違い、親日の中華民国が連合国で参戦。モンゴル・アルタイ山脈を中心に攻め込んだ。これにより、アメリカ・ソ連は四面楚歌の状況となった。そしてイタリア軍も大損害でサラエボ・ウィーンから撤退。オーストリア軍は元の国境線までイタリア軍を押し戻すことに成功した。そして場所は遥か南方の地、デリーに移る......







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