第十三話 『ツィタデレ』作戦 (中編)
1939年11月31日
アルハンゲリスク西30km
この地域を防衛する第8機甲師団第2連隊とフィンランド第4軍第23師団は今極度の緊張状態にあった。何故なら3時間前から続いているソ連軍の爆撃と
砲兵による砲撃によって前方の森が更地に変わろうとしていたからだった。ちなみにこの第2連隊は最新式のⅣ号戦車E型を全車装備。新型の照準装置を載せたE型の命中率は驚異的に上がり、後にソ連戦車兵からは『ヴィルヘルムの馬車』と渾名されるほどの名車である。
『此方第2中隊。ソ連側陣地に動きあり......現在確認出来るのはT2630両、KV1が13両、KV2は6両確認。どうしますか連隊長?』
「.......全車待機。繰り返す、全車待機。」
『此方第3中隊。同様の動きあり。』
『第4中隊もです。』
次々と敵接近の知らせが連隊に届く。
「全車後30秒待機。」
『何故ですか連隊長?もうそんな待てません。』
「......よし。」
『え?』
その時航空機の爆音が響いた。
「あ、あれは!?」
近くにいた兵士が叫ぶ。
「そうだ。ドイツ空軍の援護だ。」
その機体は絨毯爆撃を敵砲兵にするHe111と直援をするfw180だった。
「よし全車エンジン始動!!奴らを叩きのめせ!!」
『「はっ!!」』
次々と戦車がエンジンをかけ森から平原に出ていく。
「我らも行くぞ!」
「はい!」
車長が言うと連隊長の戦車も大きな唸りをあげて突進していった。
同時刻 アルハンゲリスク 第14突撃擲弾兵師団陣地
戦闘が始まったことはこの地で防衛用の陣地作成に勤しんでいる兵士達にも情報は伝わっていた。
「おい。遂にアルハンゲリスク郊外で始まったらしいぞ...」
新人の通信兵は言った。
「え...マジかよ。ここも戦場になるかね....」
今度は新人の一等兵が言った。
「わかんねぇよな...そもそも俺たちだってここの防衛を任されているけどいい迷惑だよな。」
「まあな...『おい!!仕事せんかお前ら!!』」
古参の伍長が大きな声で喝を入れる。
『「す、済みません!!」』
「お前らも少しは成長せんか!!全く.........」
そういって3人はまた作業を始めた。
アルハンゲリスク南380km
ソ連赤軍第68親衛軍司令部テント
道中、いくつかの部隊を編入し巨大化した第68親衛軍は今や38万人というチートにも程がある兵士を抱えていた。
しかし補給は連合軍と違い陸路、または空路のため2割もの兵士が飢餓状態に陥っている状況であるにもかかわらず、『スターリンの紐付き犬』と云われているヴァシリー・ジューコフ大将は数の力という最強の手段を使ってアルハンゲリスクの東西から攻勢をかけていた。だが結果は英独芬の徹底した航空攻撃によって自慢の砲兵師団は封じられ、空軍の援護も英海軍航空隊によって妨害され、戦車師団は森からの奇襲と圧倒的な戦車の能力差で潰滅。先陣を切った2個歩兵師団と1個戦車連隊と1個砲兵連隊がものの見事に粉砕されジューコフは怒鳴り、威張り、机の物を投げ散らかしていた。
「何故....何故だ....何故力押しが出来んのだっ!!」
ジューコフはスターリンのように机を叩き、参謀達を震え上がらさせていた。
「ど、同志ジューコフ。わ、私は航空支援をもっと多くした方がいいと思います。」
参謀の1人は震える声でジューコフに進言した。
「ふう....ふう....そうだな、君の言う通りだ。モスクワに頼んでみよう。」
ジューコフは落ち着き、棚のグルジアワインの栓を開け、ボトルごと一気に飲み干した。
「では態勢を立て直そう。敵の防衛陣地は?」
ジューコフはコラ半島周辺の地域の地図を見た。
「はい。偵察の情報によると.....アルハンゲリスク西のこの地点ですね。ここが他と比べて脆弱だそうです。よってここに1個戦車師団を送りましょう。」
「ああ、そうしよう。あと周辺に1個砲兵師団と1個歩兵師団を配置させろ。更に空軍に支援要請。常に20機は上空にいさせるようにしろ。
断ってきたら私は同志スターリンの友達だと言え。」
流石名将だけあってそこの狡猾さも兼ね備えていた。
『「はい。」』
「では全員仕事を開始しろ。配置は今日1800時までに完了。作戦開始は明日明朝0400時。ではかかれ!!」
ソ連軍の反撃が始まった。
1939年10月28日
ドイツ帝国委任統治領 北西リビア上空1300m
時は1ヶ月近く遡り、リヒトホーヘンとロンメルが乗っていた輸送機へと移る。
何故今更なのかというと、この時彼らが交わした約束が今効力を発する時が来たからであった。
「しかしまあ......どこまでも砂漠ですね。」
リヒトホーヘンは窓から地平線の彼方まで続く砂漠を見ながら言った。
「こんな場所でも人は暮らしていけるもんなんだよ。」
ロンメルは報告書を読みながら言った。
「イタリアはここを一から開拓し、先の大戦で獲得した旧フランス領ジブチの代わりに我がドイツにその土地の4分の1を割譲した。彼らにとってはどれ程の苦痛だったのだろうか.....結果として、1919年にベニート・ムッソリーニが、22年にピエール・ヴォードが
イタリア・フランスをファシズムへと変えた。西部戦線は幸運なことに『ジークフリート線』とグループF軍が食い止めているが、南部戦線は、オーストリア軍は危機的状況と言っても過言ではない。ルーマニアには20万のソ連南部方面軍....の残党とサラエボとウィーンにはイタリア軍85万がいる。
我がドイツも東部戦線には1000万以上の兵力をかかえるソ連。海を渡った先には自由の国と云われた
アメリカ。国境を越えれば、ファシスト・フランスがある。
この戦争.....負けるかもな。」
その言葉に操縦士が反応し、輸送機が僅かに揺れた。
「そういえば、閣下に頼みたいことがあります。」
リヒトホーヘンが言う。
「何だね?」
「閣下には有能な参謀を一名選んでいただきたいのです。」
「ほう。では彼ならどうかね?」
ロンメルの指差したそこには砂漠を疾走する戦車隊と黒十字と髑髏のマークが入った戦車が見えた。
「....成程。では彼で。」
「なぜそんなことを?」
ロンメルは尋ねる。
「実は今度親独国のアルゼンチンに1個旅団程度の軍を送ることになりましてな。」
「成程。」
「その指揮を彼に執ってもらうのです.....ハインツ・グデーリアン陸軍中将に。」
「つまりは、南米を連合国のものにする......ひょっとして第五戦線を開くつもりかね?」
「はい。それに加え、南米の資源を獲得する狙いもあります。」
「では彼の指揮下の第13機甲師団も加えよう。」
「よ、よろしいのですか!?」
リヒトホーヘンは驚き、思わず書類を落とした。
「おっと、済みません。」
「で彼らが動くのは?」
「はい。第13機甲師団は2ヶ月後として、既に独立混成第145旅団は現地入りし、ウルグアイ・アルゼンチン両軍の軍事訓練をしています。」
「主に、敵はどの国かな?」
「連合国はアルゼンチン・ウルグアイ・チリです。同盟国はベネズエラ・コロンビア・エクアドルとオランダ領ギアナ・イタリア領ギアナですね。
今のところどっちつかずって言うのが南米一の軍事大国ブラジルですが.....日系コネクションが既に動いておりブラジルの連合国入りは着実に進んでおります。」
「では行動を起こすのは....11月下旬といったところかな?」
「はい、三国は11月31日に同盟国に宣戦布告。加えてブラジルは12月6日に宣戦布告を予定しています。」
「分かった。早速グデーリアンにも伝え、直ぐに現地に行かせよう。後任はちゃんと送ってくれよ。」
ロンメルはリヒトホーヘンの肩を叩いた。
「もう着きますね。」
「ああ。」
そして今、その決定がこの大戦の新たなる戦線『南米・第五戦線』を開くことになる。
1939年12月1日0800時
アルハンゲリスク郊外 元フィンランド軍防衛陣地
この地点は前日ソ連軍に脆弱だと見抜かれた陣地がある場所だった。
結果としては、フィンランド軍は早朝からソ連軍の猛攻撃に遭い、既に1個中隊が全滅し、
フィンランド軍は撤退していた。更に空軍の援護のもとに、ソ連戦車師団......T34全車装備の第67戦車師団が進撃。その他のソ連軍も各地で攻撃を開始。アルハンゲリスク防衛は不可能とみた司令部は防衛についていた第14突撃擲弾兵師団は撤退し、フィンランド第23師団も撤退。カレリア・コラ半島にて最終決戦を行おうとしていた。
「同志伍長。トラックの準備ができました。」
部下の2等兵が言う。
「では全員乗り込め!!」
『「はっ!!」』
次々と兵士達がトラックへと乗っていく。
「そういえばこの後は何処へと向かうのでしょうか?」
隣の1等兵が言う。
「決まっているだろう。我々はこれからコラ半島へと突入し、敵軍を叩きのめすのだ。」
自分のモシン・ナガンライフルを点検しながら、伍長は続けてこう言った。
「捕虜は好きにしろ。」と。
そしてデリーでは、連合国の戦争が始まろうとしていた。
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