第十二話 『ツィタデレ』作戦(前編)
最近いろいろ忙しかったので、遅くなりました。
またいつものペースで書けそうです。
1939年11月25日
ソ連 ムルマンスク沖15km
イギリス海軍本国艦隊旗艦「レナウン」
冬将軍の足跡が近づいてきている中、ジョン・ハーヴィー本国艦隊司令長官は双眼鏡でドイツ軍が静かに上陸している所をじっと見ていた。現在本国艦隊は現在それなりの被害を被っていた。アメリカ軍の潜水艦の雷撃によりレパルスが大火災で沈没。更にカレイジャスが3本の魚雷で沈没していた。更にこの『ツィタデレ』作戦のためにドイツ南方軍集団がウクライナ東端の町ロストフへと進軍。ソ連第8親衛戦車軍と死闘を繰り広げていた。(第3次ロストフ攻防戦)60万の南方軍集団と28万の第8親衛戦車軍。既に勝敗は決していたが何故かスターリンは単独での進撃を命令。結果、希望の星だった第8親衛戦車軍は1万4000の死傷者をだし降伏。ソ連の技術を結集させたT-34もあっけなく大多数が鹵獲され殆どが無傷だったため一部がドイツに運ばれ解体。後のⅤ号戦車パンターの礎となる。(余談だがこの時ドイツ軍が鹵獲した戦車は南方軍集団の所有戦車の約3分の1だったらしい......)
「さてさて。そろそろ始めるか。」
ハーヴィーは言った。
「分かりました。全艦に通達!!目標!!敵軍事施設!!榴弾装填せよ!!」
参謀長が意図を掴み艦砲射撃の準備を始めた。
「長官。全艦準備完了です。」
「撃てぇっっ!!」
ドンドンと鈍い響きがレナウンを揺らす。
「長官。シャルンホルストのパイ中将から入電。『これより射撃を開始する。』」
「了解したと伝えろ。各員に通達!!砲撃を中止せよ。」
「はっ。」
発光信号が艦隊を通る。
「ここまでは順調だがどうかな?スターリンもそこまで甘くないぞ、若造。」
ハーヴィーが呟いたことは現実となりそうだった。
同時刻 ムルマンスク港
連合国軍合同陸戦司令部
「陸揚げは順調だな。このままコラ半島を制圧するぞ。」
連合国軍上陸部隊司令官ラインハルト・ハイドリツィ陸軍大将は取り敢えず最初の作業が無事終わったことに安堵の息を吐いていた。
「はい。フィンランド第4軍から連絡があり、後3日で着きそうとのことです。」
「そうか。では早速だが攻勢作戦を練るとしよう.....」
地図を見てハイドリツィは言った。
「はっ。まずコラ半島の奥地に敵ソ連軍1個連隊を確認。艦砲射撃の後、第41突撃擲弾兵師団第1連隊で右翼から進撃します。また、航空戦力は英海軍機動部隊に任せていますがアルハンゲリスクの制空権を取らせてから先陣は第4機甲師団で北方の地を荒らします。これでソ連も1個軍を回してくることは確実です。」
「ああ。それよりも要塞の構築は?」
「はい。マンシュタイン式要塞の構築も進んでいます。」
マンシュタイン要塞。1937年にジークフリート式要塞をさらに洗練した『攻勢防御』を得意とする新型要塞として開発された要塞である。構築も簡単。要塞自体に傾斜を付けることによって敵弾を跳ね返す能力が格段に上がり、武装はFLAK88mm高射砲『アハト・アハト』2基、12.7mm機銃3基、対空防御として、40mmボフォース対空単装砲1基の中型要塞でありコラ半島の広さなら十分配置が可能であった。
「アルハンゲリスクには現在恐らくソ連軍1個師団が駐屯しているものと考えられます。よって現在艦隊にアルハンゲリスクの艦砲射撃を要請しています。」
参謀が言った。
「よしよし......レニングラードは?」
ハイドリツィは通信参謀に尋ねた。
「はい。現在ドイツ艦隊が艦砲射撃を実施。さらに北方軍集団はラトビアを通過。3日で到着すると思われます。それに加え空軍第4戦略航空軍がフィンランドから絶え間なく攻撃隊を送っています。マンネルヘイム元帥が直接指揮しているフィンランド第1軍もカレリア地峡でソ連軍と戦闘を続けており有利な戦況だそうです。」
「さてと........モスクワはどんな感じかな?」
ハイドリツィは哀愁漂う口調で言った。
モスクワ クレムリン
「くそ、くそくそくそくそくそっ!!」
スターリンはテーブルにひびが入るくらい大きな力で報告書を叩いた。
「ど、どうされます?同志スターリン?」
参謀総長が尋ねた。
「決まっているだろう?勿論援軍を送るまでだ。」
「はいっ!!規模は?」
「ふっ。モスクワ防衛についている精鋭第68親衛軍を送れ。更にレニングラードの第75重戦車師団をカレリア地峡に送れ。」
「し、しかし!?第68親衛軍が抜けるとモスクワの左翼が空きますが..『そんなのは農民で埋めろ!!ヴァカ者がぁ!!』」
「も、申し訳ありません....直ちに!!」
参謀総長は顔を真っ青にして出ていった。
「ふう..この国は私の物だ....誰にも渡さぬぞ.....」
スターリンの言葉は悪魔の戯言のように聞こえた。
アルハンゲリスク西約40km
第14突撃擲弾兵師団第1連隊B中隊
「全員~~。銃を点検しろ~~。」
中隊長の呼び声で全員が手持ちのマウザーKar-98kライフルや、MP-40などの武器をチェックする。
「おい。そういえばもう第4機甲師団が戦闘に入ったらしい。」
トラックの中で新人の通信兵が言う。
「マジか....俺なんかまだ人を殺したことがねえんだよ....」
此方も新人の一等兵が言う。
「おい!!貴様等!!何言ってるんだ!!」
古参の伍長が言う。
『「す、済みません!!」』
「全く...これから目の前で味方や敵が血飛沫をあげて死んでいくんだぞ!!もっとしっかりせい!!!」
『「はい!!」』
1939年11月25日
帝都 最高戦争指導会議
「この度第58代内閣総理大臣を拝命した石原莞爾です。まあみなさんとは前々からの知り合いですので挨拶はこれくらいに。」
近衛文麿首相に代わって第58代内閣総理大臣になったのは石原莞爾元陸軍大将だった。
彼が就任したのは勿論戦時中の政治の円滑化もあるが彼はこの4年の任期で数々の革新的な政策を施行することになる。例えば、戦後の少子高齢化を見据えて『子を産め囃せよ国の為』をスローガンに補助金を出し国民の人口増加を促進させた。更に地方を廃れさせないために地方創生基金を設立。これにより地方にもしっかりとした経済拠点が出き、そして過疎化が防げた要因でもある。そして敵国アメリカの制度を取り入れ帝国政治諮問院を設立。政策を各国務大臣が一人で説明し、質疑応答に答えるという画期的な制度だった。
「首相。先ずは遂にZ計画の目処がついたことを報告させて頂きます。」
中島飛行機社長の中島知久平は開口一番そういった。
会議室が騒めきはじめた。
Z計画。それは月産120機生産に加えペイロード16t、航続距離は西海岸を本土から直接爆撃するという超重爆撃機十四試重爆撃機『神武』を開発する計画である。
「それは本当ですか?」
山本が問う。
「はい。安定的な発動機が遂に完成し、現在名古屋工場で試作1号機を生産中です。それに加え、零戦の後継機である十四試艦上戦闘機の図面も完成しました。」
史実と違い、零戦の後継機は三菱ではなく、中島が行っている。
「名前は?」
徳村次長が問う。
「はい、現在三種類あります。『鉄風』、『烈風』、『迅風』です。」
「分かりました。早速大西中将に連絡します。」
「では皆さん。先ず各地の戦況を。」
石原が言う。
「では、陸軍から。」
「はっ。」
畑大将が立つ。
「東インド戦線ですがマッカーサー将軍が投降したため終結しました。また現在我が南方総軍は東インドよりも堅固な要塞がある『インド洋のジブラルタル』フランス領マダガスカルの攻略計画を立てています。」
「次、海軍。」
「はっ。」
古賀大将が立つ。
「我が海軍と致しましては先日やっとハワイの港湾機能が完全に復旧しましたことをお知らせします。また、西海岸では潜水艦と仮装巡洋艦が暴れまわっています。そして我が海軍は第二段作戦計画『能』計画を纏めました。今後海軍の作戦目標としましてはパナマ運河、アリューシャン列島、西海岸、そしてインド洋と地中海をしていきたいと思います。また、艦政本部は『改マル3計画』で改蒼龍型空母の雲龍型空母六隻に加え、大和級戦艦の艦体を流用。未曾有の超巨大空母『信濃』の建造を横須賀でしております。更に造船所増設計画としてスラバヤ、バリ、セレベス、ダバオ、トラック、真珠湾に建設します。どれも巡洋戦艦クラスの収容を見込んだ形で行きます。」
「うむ。陛下は地域住民にも雇用を作れと仰っている。また環境への配慮も懸念されております。」
木戸内大臣が言う。
「中々のもんですなあ....そういえば第二機動艦隊は?」
東條が言った。
「はい。現在慣熟訓練を終え、12月中旬のライン諸島攻撃のために真珠湾へと向かっています。」
「良い良い。全て順調d..『いえ、そうでも。』」
東條の言葉を新作戦課長となった永田鉄山中将が言った。
「どういうことだ?」
「は。どうやら北アフリカ戦線がきな臭くなっているんです。」
「成程。」
「先日の第四十四軍の壊滅。またチュニジアの失陥。そろそろ増援が....」
「よし。早速作戦課は計画を考案せよ。後統戦本(統合戦術情報部)への提出もな。」
「はい。」
「では海軍も援軍を。」
「お願いします。」
「豊田長官に連絡しよう。」
山本は副官に内容を伝えた。
「しかし大西洋方面艦隊は何をしているんだ?」
東條が問う。
「現在大西洋方面艦隊の構成は利根型重巡洋艦『和賀』『白岩』『荒雄』と阿賀野型軽巡洋艦『鳴瀬』『名取』『米代』『雄物』を中核とした艦隊です。
現在はポーツマスに停泊しておりジブラルタルから地中海には入れますが、イタリア地中海・大西洋艦隊とフランス地中海艦隊が妨害してくると思われます。
よって増援として改装が終わった武蔵と愛宕と妙高を派遣します。」
『「おおっ!!」』
流石に海軍の象徴である戦艦と重巡2隻を派遣するというと陸軍側出席者は沸いた。
「武蔵は改装で53cm三連装砲が更に射程と威力が増した50口径51cm三連装砲4基を搭載。対空兵装も強化され60口径12.7cm高角砲を増設。
真に世界最強の戦艦ですね。」
徳村次長は笑った。やはり大艦巨砲主義者のためだろう。
「では今日は解散!!」
石原の号令で散らばっていく。
「そういえば徳村君は?」
山本が会議に同席していた副本に聞いた。
「ああ。今奴はインドですよ。」
「インド?なんでそこに?」
「なんでも同盟国軍に東西から圧迫できる計画を練るのと今後の世界についての会談だそうです。確か....デリーのザ・ブリティッシュ・ロイヤルホテルで日独英墺の代表が会うらしいです。」
「その代表とは?」
「英国はアンソニー・イーデン副外務大臣とクルード・オーキンレック駐インド英軍総司令官が、墺国からはアルトゥル・ザイス=インクヴァルト外務大臣とアウグスチン・マラー墺陸軍大佐。
独国からルートヴィヒ・ベック陸軍上級大将、マンフリート・フォン・リヒトホーヘン・ジュニア参謀本部付特務参謀。我が国からは白洲次郎元駐米大使と徳村が行っています。」
さすが農務官僚の息子だけあって全員の名前を憶えていた。
「ふむふむ。中々な面子だな。」
国際情勢に詳しい山本だからこそ納得できるものだった。
「しかし人に面倒事を押し付けてインドへ行くとは....全く軍人の片隅にも置けませんね...」
「ははは。まあそうかもな。」
山本は副官に呼ばれ何処かに行った。
1939年12月4日
イギリス海軍戦艦「ネルソン」所属4番偵察機
「しかしまあ.......随分と寒い所まで来ちまったなあ.....そうは思わないか?ジョン。」
「確かにな、チャールズ。大体アカがこんな所にいんのかよ。」
「さあな...とっとと艦に帰ろうぜって....おい!あれ見ろ!!」
「ん?ああっ!!早く打て!!」
「あ、ああ!!」
彼らの目にはレニングラードとモスクワから来た御客だった。
「ふふふっ。我ら同志スターリンに栄光を.....」
第68親衛軍司令官のヴァシリー・ジューコフ大将はふと呟いた。
ご意見、ご感想等お待ちしています。




