第十一話 転換点
済みません。少し遅れてしまいました。
1939年10月24日
シンガポール 第十八軍司令部
「今度は暑い!!」
徳村は大西中将と別れた後、千歳飛行場で鳳山の輸送機型である九九式輸送機「飛空」に陸軍第十一師団第二大隊と共に乗り込み帝都で軽い会議を行い、帝都国際空港(羽田)から一般人と一緒に中島YF-101「天羽」双発旅客機でクラーク飛行場を経由してこのシンガポールに来ていた。
二日で十度近くの北都から赤道近くの二十五度近くの炎天下にきたのだから体はボロボロだった。実際付添の少尉もこの温度差で体を壊した。
「さてと......ここか。」
市内のホテルを徴用している第十八軍司令部に着いたのは北都を出発して二日近く経った時だった。
「国防省統合戦術情報部から来た徳村剛太郎中佐(昇進した)だ。第十八軍司令官の本間中将に面会しに来た。」
「ああ、そうですか。どうぞ此方へ。」
案内の兵士に連れられて徳村はホテルのスイートルームらしき部屋の扉を開けた。
「はははっ。正にそうだn...おお来たか。」
本間中将は佐藤と談笑していた。
「おお、おお。徳村中尉...じゃなかった、中佐。ようこそ愛と魅惑の都。シンガポールへ。」
佐藤は傲慢なイギリス軍士官のように言った。
「全く....大丈夫ですか?本間閣下。第十八軍は?」
「おい!?どういう意味だよ!?」
佐藤は大声で自らの無実を訴えた。
「まあ落ち着け。佐藤。」
本間は手で佐藤を制した。
「はははっ。で?本当はどうなんですか?」
徳村は真剣な顔で尋ねる。
「ああ、まあ戦況は上々だな。」
「と?言いますと?」
「取り敢えず我が第十八軍はスマトラ島に上陸したが、メダンとバレンバンで米仏連合軍と一進一退の攻防を続けているよ。
今村中将の第十四軍はジャワ島に上陸、バタビアを占領したらしい。山下中将の第十七軍はカリマンタン島に上陸。独混第七八旅団はセレベス島へと。第五十八師団はティモール島とバリ島へと向かっている。現在順調に侵攻している筈だ。」
本間は紅茶を飲みながら言った。
「チハはどうですか?」
「うーむ.....どうやらS35には楽勝らしいが100mm砲搭載の怪物戦車にはだめらしい。」
そういって本間はある表を出した。
「どれどれ。ルノーB1Bis重戦車。主砲45口径100mm砲、副武装はブローニング12.7mm機銃を砲塔に一門、車体に一門。
装甲は推定で砲塔装甲130mm、前面装甲は垂直で120mm、側面装甲100mm、後部装甲70mm......怪物ですね、これは.....」
「だろ?幸い数が少ないからな。集団で当たらせたりしている。新型戦車はまだか?」
「あぁそうだった....えっとぉ...今回はそれで来たんだった。」
徳村は鞄から書類を出した。
「これです。」
そこには「百式中戦車 チヘ」と書いてあった。
百式中戦車 チヘ甲型
速度 整地60km/時 不整地55km/時
武装 (主砲) 百式75口径80mm砲 (副武装) 九九式12.7mm機銃二基
装甲 前面 85mm 側面 60mm 砲塔 95mm 後部 45mm
「いやいや...すげーなぁ.....」
佐藤が絶句している。
「既にフィリピンの第十四戦車師団が全車変更が終わっています。故障も少なく前線の兵たちの評判も上々です。」
「それで我が軍にはいつ?」
「はい。今フィリピンやタイの兵器工場が全力で製作中ですが、後半月ですね。」
「分かった。ところでだが.....」
「はい?何でしょうか?」
「米仏艦隊はどうなっている?」
「ああ。それなら大丈夫です。米第七艦隊の残党とフランス海軍アジア太平洋艦隊は今頃海の藻屑ですよ。」
その話通り米仏連合艦隊は志摩艦隊、更に東洋方面艦隊の第十八艦隊の潜水艦の魚雷攻撃によりフランス海軍期待の40.3cm連装砲4基搭載の新型戦艦「ラ・ファイエット」と共に冷たいアラフラ海に沈んでいた。(アラフラ海海戦)
「おっと。もうこんな時間か。ではそろそろお暇させて頂きます。」
「そうか。帰路は気を付けろよ。」
「はい。」
「また来いよ。」
「ああそうするよ。」
徳村は笑みを浮かべ、司令部を後にした。
その後徳村は飛行場で輸送機に乗り、帝都に戻って行った。
マリアナ諸島 サイパン島沖約600km
空母「翔鶴」艦橋
「そよ風が気持ちいいのお......そうは思わんかね?参謀長。」
マリアナで現在慣熟訓練中の第二機動艦隊司令官塚原二四三中将は参謀長の寺岡謹平少将に言った。
「ええ確かに。それより長官。鳳鷹から連絡が入りました。訓練中だった九九式艦攻一機が行方が分からないそうです。」
「そうか。直ちに周辺海域に偵察機を飛ばせ。」
「分かりました。」
「しかしこの第二機動艦隊も大きくなったな.....」
塚原が言うのも無理はなかった。
第二機動艦隊艦艇一覧
第九航空戦隊
空母「翔鶴」(搭載機は補用含めて105機)「瑞鶴」
第十航空戦隊
空母「翔龍」、「瑞龍」
第十一航空戦隊
空母「龍鳳」、「幻鳳」
第十二航空戦隊
空母「鳳鷹」、「翔鷹」(飛鷹型とは別の69機搭載の鳳鷹型航空母艦)
第十六戦隊
利根型重巡洋艦「飯豊」、「蓮華」
第三十八駆逐隊
改秋月型駆逐艦「保月」、「蘭月」、「豪月」、「冬月」、「仁月」、「倶月」
第七水雷戦隊
阿賀野型軽巡洋艦「阿賀野」、「常願寺」
吹雪型駆逐艦「鳳雪」、「能雪」、「白雪」、「山雪」、「慈雪」、「埜雪」、「妓雪」
第七戦隊
磐手級巡洋戦艦(38センチ連装砲搭載速度38ノットの高速戦艦)「磐手」、「安芸」
(金剛級は退役して海上護衛総隊のこんごう型大型護衛艦として再就役している。)
「長官。行方不明だった九九式艦攻が見つかりました。乗員も全員無事です。」
「そうか。良かった、良かった。」
塚原はふぅと安堵の息を吐いた。
「そろそろ実戦でもしますか?」
「そうだな。なんでも真珠湾の太平洋方面艦隊司令部が今度ライン諸島攻撃作戦を実施するらしい。それに参加させてもらおう。」
塚原はふふっと小さく笑った。
「そういえば九八式艦爆の後継機が決まったとか言ってましたね。」
「そういえばそうだな。確か航空機の命名基準が変更されて、艦爆は星の名前が付いているんだったな。」
「はい。」
寺岡は『極秘』と書かれた冊子を塚原に渡した。
一式艦上爆撃機「彗星」一一型
速度 約482km/時
搭乗員 2人
固定武装 (前方機銃) 九九式12.7mm航空機銃1基
(後方機銃) 上部 12.7mm機銃1基
下部 九七式7.7mm機銃改二型1基
取付武装 五百キロ爆弾2個 二百五十キロ爆弾2個
「.......成程。何故下部機銃はションベン弾なのかな?」
塚原は搭乗員の気持ちを代弁した。
「ええ。どうやら重量問題があるそうです。しかし射程は改良してほぼ同じ。威力も現在開発中の新型弾を使えばよいのです。」
「互換性は?」
「有りませんが、広範囲を上部でカバーできるらしいので問題ないと思います。」
「そうか....」
塚原は少し不安になったが直ぐに立ち直った。
「ではそろそろ戻りますか。」
「ああそうしよう。航海参謀!!全艦一斉回頭!!目標はアスンシオン島のマリアナ第六海軍基地だ!!」
「了解。」
翔鶴は右に鋭く曲がるとマリアナ諸島へ向けて進んで行くのであった。
1939年10月31日
東インド ジャワ島 バンドン アメリカ軍東インド派遣軍司令部
「バタビア周辺に二個連隊、ジョクジャカルタに二個師団、それにバリ島対岸には第33特科大隊をまわせ!」
東インド派遣軍司令ダグラス・マッカーサー大将は参謀達に今後の作戦展開を話していた。
何しろ三日前にスマトラ島との連絡が途絶え、その15時間後にはセレベス島とも音信不通になってしまったのである。
フランス軍も各地で奮戦していたもののメダンは陥落寸前、バレンバンも押され気味ということでマッカーサーはこの後一人近海で待機している
潜水艦にてフランス領マダガスカルへと脱出しようとしていた。
「しかしですね......虎の子の第1戦車師団もバタビアで壊滅。特殊部隊の第33特科大隊も損耗率30%です。もはや降伏するしか....」
「駄目だぞ、参謀長。何としても持ちこたえるんだ。」
そういった本人が脱出するとは誰が予想しただろう。
「司令。バタビアの第44師団との連絡が途絶えました。」
「司令!!スラバヤの第56師団と第20師団第1連隊が後退の許可を求めています。」
各地から入ってくる情報はジャワ島が陥落しつつあるという一つの事実を導き出そうとしていた。
「駄目だ。死守だ!!死守!!予備の兵団を回せ!!」
マッカーサーは鬱憤晴らしのように叫んでいた。
「た、大変です!!」
突如通信士が司令部に飛び込んできた。
「何事かね。」
参謀長が問う。
「はい。今スマトラ島と連絡が繋がったので連絡するとこのような電文が.....」
通信士はマッカーサーに紙を渡した。
「な、何!?第4軍と第8軍、更に精鋭第75特科大隊が降伏しただと.......」
マッカーサーは驚きを隠せなかった。スマトラ島では2日前に何と司令部が急襲され、そして日英連合空軍による徹底した爆撃により全軍が降伏していたのである。更に、既に東インドはジャワ島を除いて全島が日本軍とドイツ軍の手に落ちていたのである。
「司令!!やはり投降しましょう。」
「もうこれ以上はむりです!!司令!!」
「くそ!!............分かった。投降しよう。」
こうして東インドの戦いは終わりを告げた。
1939年10月28日
ドイツ帝国委任統治領北西リビア ミスラタ ドイツ帝国軍アフリカ方面軍司令部
「さてと........着いた着いた。」
リヒトホーヘンは参謀本部直属の命令でキールから出航した客船に乗って、この地に来ていた。
その特命とは『現地方面軍の要望を聞き、北アフリカ戦線を有利に導け』だった。
この北アフリカ戦線においては連合軍と同盟軍は五分五分の戦況だった。北モロッコは日本軍が確保し、アルジェリアのフランス軍はチュニジアに侵攻。チュニスを落とし駐チュニジア日本軍を北西リビアに叩き落とした。一方西エジプトとエジプトの日英連合軍はイタリア領リビアに侵攻していた。しかしトブルクの戦いで右翼のイギリス第24軍団が壊滅的打撃で撤退。結果、正面の帝国陸軍第四十四軍と左翼のイギリス第55軍団が包囲され殲滅。トブルクの戦いはイタリア第13軍が死傷者4万3000人の損害を受けながらも勝利。以降、エジプト方面は防戦一方となることになる。そんな中でドイツ北アフリカ方面軍は帝国陸軍第四十八軍の残存兵と共にトリポリ占領を目指す作戦、『サンドストーム』作戦が始動していた。順調に現在はトリポリを包囲。海軍の援護でイタリア軍は根強く抵抗しているものの、後少しだった。
「マンフリート・フォン・リヒトホーヘン大佐。ドイツ帝国軍参謀本部から来た。北アメリカ方面軍司令官のエルヴィン・ロンメル陸軍中将に会いたい。」
「はい、少々お待ちを。」
受付の兵士が電話をかけると、5分も経たないうちにロンメルは来た。
「リヒトホーヘン大佐。ドイツアフリカ方面軍司令官のエルヴィン・ロンメル陸軍中将だ。」
ロンメルは階段から砂漠専用の軍装で降りてきた。
「久しぶりです。ロンメルおじさん。」
リヒトホーヘンは自らの父親同然の人に敬礼した。
「まあそうだな.....彼是もう4年か....長いな。早速だがこれから前線偵察に行くのだが来るか?」
「はい。お供します。」
二人が輸送機内で話したことが後に北アフリカ戦線、そして欧州戦線のターニングポイントとなるのはまた別の話である.....
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