表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/34

第八話 ハワイ・ウナラスカ攻撃 (後編)

次週から欧州です。

 


 1939年9月13日


 ハワイ諸島北約800km


 第一機動艦隊旗艦「天城」







 『敵大編隊確認!西約20km!直掩機は迎撃せよ。繰り返す。迎撃せよ。』

見張り員の声が艦隊全体に聞こえた。すぐさま上空にいた零戦60機、九八式艦爆40機余りが敵攻撃隊に向かっていった。


「長官。100機もの攻撃隊ということは、第6艦隊ですかね。」


「ああきっとそうだろ。第6艦隊の全力攻撃だ。」


小沢が何故そのようなことを言うかというと第6艦隊はフランク・フレッチャー少将率いる戦艦「メリーランド」、空母「サラトガ」、

重巡「ニューオーリンズ」、「シカゴ」を主体とした強力な艦隊であるが航空戦力はサラトガの105機余りしかいないからである。

裏を返せばこの攻撃さえ退ければ第6艦隊を撃滅するのは簡単だが、下手をすれば空母全滅という最悪の事態もあるから用心は必要だった。


「うむ。どうだ敵攻撃隊は?」


「はい。どうやら戦闘に入ったらしいです。初撃で30機近く落としたらしいですが......」

古村が突如口籠った。


「何だ。言え。」


「はい、敵攻撃隊はデヴァステーターのみらしいです。」


「どういう意味だ。」


「つまり雷撃機だけということです.....」


「急降下爆撃機がいないと?」


「はい。ドーントレスがいないんです......」


「上空には厚い雲か。不吉な予感しかしないな......」


「ええ、本当にそうですな。」


小沢はふと時刻をみた。時計の針は12時5分を指していた。


「長官。あと少しで第二艦隊の掩護隊が来ます。」


「そうか....」


実は古村は第二艦隊の副本に連絡し、救援要請によって、航続距離ギリギリのところで零戦20機が発艦。一路第一機動艦隊を目指していた。


「よし、あと少しだ。全員頑張ってくれ。」


「『はい。』」

幕僚が頷く。


「長官。直掩隊から連絡。敵攻撃隊を全機撃墜したそうです。」


「よし、上空警戒に移ってくれ。」


「分かりました。」

伝令が出ていったその時だった。上空からドーントレス20機近くが出てきたのは。


『蒼龍上空に急降下!!』


『ああ!!飛龍、赤城、加賀上空にもいます!!』

次々と防空指揮所から悲痛な声が聞こえてくる。


『ああダメです!!敵機投下!!』

四空母に向けて450キロ爆弾が投下される。


次の瞬間、たちまち強い閃光と爆音が小沢に容赦なく降り注いだ。

空母から黒煙が上がる。


「くそ!!」

思わず小沢は帽子を床に叩きつけた。


「急げ!!被害報告と消火を急げ!!」

古村の怒号が聞こえる。


「参謀長。空母は?」


「はい、少し待って下さい........確認しました。3隻が燃えています。」


「どれ貸してみろ。」

小沢は古村から双眼鏡を借りて覗いた。


「うむ......赤城は黒煙のみで火は出てないな。加賀は火も出ている。蒼龍は........あれは駄目そうだ。火の勢いが強すぎる。飛龍は全弾回避したようだな。やってしまったか......ふぅ......」

小沢は失意の溜息を吐いた。


「長官。敵機は全機撃墜しました。」


「そうか。第十六駆逐隊に連絡、救助と消火を要請しろ。」


「分かりました。」

古村が通信士に言っている。


「私の責任だ。私がすべての責任をとる。」


「駄目です、長官。それを言われるのならば我々幕僚にも責任があります。辞めるときは一緒ですよ。長官。」

古村と幕僚たちが微笑む。


「そうか....有難う皆。直ちに七航戦に連絡!攻撃隊を編成させろ!更に無傷の天城と飛龍で臨時の第一航空戦隊を発足し、合同で攻撃隊を編成させろ!!」


『「はっ!!」』

幕僚達や艦橋が騒がしくなり始めた。


その時、伝令が入ってきた。


「損害報告。赤城は三発が命中、発着艦不能、大破と思われます。次に加賀は四発が命中。現在火災が延焼中です。そして.......蒼龍は三発が命中。その内一発が艦橋に命中。艦長以下艦橋にいたもの全員戦死。更に現在弾薬庫に引火し大火災発生。総員退艦が発令されました。飛龍は加来止男艦長の操舵によって全弾回避したそうです。他には駆逐艦2隻が外れた450キロ爆弾によって大破しました。以上です。」


「分かった。」

伝令は艦橋を出ていった。


「長官。飛龍の山口から攻撃隊発進準備完了だそうです。更に翔龍の原も攻撃隊発進準備完了だそうです。」


「天城は?」


「いけます。」


「よし。攻撃隊発進せよ!!」


「了解。攻撃隊発進せよ!!」

次々と四空母から攻撃隊が発進していく。


「敵艦隊は?」


「はい。西700kmの地点で確認しました。」


「ふぅ......後は戦果待ちだな。」


「そうですね。」

二人の眼前には今にも沈みそうな蒼龍がいた。







 第二艦隊司令部







 「え!蒼龍が!?」

副本は思わず大きな声を出してしまった。


「ああ。雲から出てきた急降下爆撃隊があっという間に四空母を炎上させ、蒼龍は沈没だそうだ。」


「そう.....ですか......」

副本は項垂れた。


「まあ落ち込むな。お前のせいじゃない。」

近藤は副本を叩いて慰める。


「徳村は?」


「蒼龍が沈んでしまったから作戦変更を急いでるらしい。おまけに他の空母も大破。暫くは第一機動艦隊は半身不随ってところかな。」

近藤は運命だといわんばかりに言った。


「では我々はハワイの支援に回りましょう。」

副本は切り替えて言った。


「そうしよう。だが問題は......」


「燃料ですか。」


「ああそうだ。」


「その為にあいつがいるじゃないですか。」

副本は補給艦の方を指さした。


「おっと。忘れてた。」


「しっかりしてくださいよ、長官。」


「気を付けよう。」

艦隊は補給に入った。







 アメリカ海軍第6艦隊

 旗艦「メリーランド」







 「やりましたな長官。」

参謀長はまるで楽勝といわんばかりに誇らしげに言った。


「駄目だぞ参謀長。油断は禁物だ。」

第6艦隊司令長官のフランク・フレッチャー少将は幕僚達の心にくさびを打ち込んだ。


「ですが、ジャップは空母8隻のうち4隻を失ったのだから大打撃ではありませんか。」


「此方は攻撃隊全機を失ったがね......」


「うっ、そ、それは.......」


「ふう、全く困るぞ。」


「済みません。」


「さあ西海岸に行こう。」


「長官!!」


「ではどうする?戦艦1隻、重巡2隻、そして大きなマッチ箱1個で戦艦10隻余り、空母4隻に挑むかね?」


「......分かりました。退却しましょう。」


「よし、行くぞ。」

その時、見張り員の声が聞こえた。


「敵機です!100機余り確認出来ます!!」


「恐れるな!ジャップの紙飛行機などとっとと撃ち落とせ!!」

参謀長が吠える。


(後でニミッツ閣下に変えてもらおうか。)

フレッチャーは心の中で思った。


「まあこの攻撃を凌げたらだがな......」


「蒼龍の敵だ!!全機突撃ー!!」

第一次攻撃隊総隊長高橋赫一少佐は無線に向かって吠えた。


「隊長!!あそこ!!」

偵察員が空母を指差す。


「お!絶好の的だな!!二個分隊は俺についてこい!」

高橋の艦爆はサラトガの直上から急降下を開始した。


「高度三百!!」


「投下!!」

五百キロ爆弾はサラトガに向かって投下された。


「敵機が.....サラトガに向かっていきます!」

見張り員の声が聞こえる。


「ふっ。ジャップの紙吹雪で我が合衆国海軍の艦が沈む訳ない.....」

参謀長が偉そうに呟いたと同時にサラトガは大爆発を起こした。


「うわっ!!さ、サラトガ轟沈.....」

見張り員は信じられないような声で言った。


更に、後方の重巡2隻も大爆発した。


「ニューオーリンズ、シカゴ轟沈!!」

見張り員が叫んだ。


「そ、そんな、嘘だ....」

参謀長はオロオロしながら自問自答していた。


「これが慢心の結果か.......」

フレッチャーは自業自得のように感じていた。


更にメリーランドも揺れた。


「被害報告!!」


「はい、敵魚雷が3本左舷に被弾!!更に、敵500キロ爆弾が2発後部に命中。現在排水作業をしていますが.....

恐らくメリーランドは持ちません......」


「分かった。艦長、総員退艦。」


「分かりました。」


1939年9月13日午後1時17分。アメリカ海軍の誇る戦艦の一つ「メリーランド」は乗員の脱出後、駆逐艦の魚雷によって沈没した。

そして高橋率いる攻撃隊は一機も欠けるなく帰還。損傷した三隻の空母も駆逐艦の護衛の下占領したミッドウェー島に曳航されていった。

更に第一艦隊も艦砲射撃によってオアフの防衛施設を完膚なきまでに破壊。二日後に到着した上陸船団は速やかに真珠湾を確保。

ハワイ方面軍司令官のショート中将も次の日に降伏。ハワイには日章旗が上がった。それに加えてキンメル大将も大和の46センチ砲弾が退避壕に直撃。戦死した。(太平洋艦隊司令部は標的から外れていた。)後にこの戦いは「ハワイ沖海戦」、「真珠湾攻撃」、「ハワイの戦い」、「北太平洋海戦」、「ダッチハーバー海戦」の五つに分けられて戦史に刻まれた。他方面の戦線でも日本軍は勝利を重ねていた。志摩艦隊は第7艦隊をミンダナオ島東約300kmの地点で捕捉。東インドに逃げ帰った駆逐艦2隻以外の艦を撃沈。「レキシントン」は拿捕された。

マレー戦線も第十八軍の一斉攻撃によってフランス軍は泰馬国境地帯に逃れた。これにより主導権を握った連合軍は進撃を再開。

ポートモレスビーのドイツアジア太平洋軍団は空挺部隊により西ニューギニアの防衛拠点を制圧。アジア太平洋戦線は一応のまやかし戦争に入ろうとしていた。

そんな中、内地の国防省では特戦研と近藤中将がかつて率いた海軍戦略情報局が合併。

「大日本帝国国防省統合戦術情報部」が誕生。

部長には徳村が選ばれ、情報課長には元戦略情報局長の富岡定俊海軍少将が就任した。




 1939年9月15日


 帝都 大日本帝国最高戦争指導会議







 「では部長。宜しく。」


 「はっ、首相。」

大日本帝国第57代内閣総理大臣近衛文麿の声に応じて徳村は勢い良く起立した。


「各地の戦線がひとまず落ち着いたので、第二段作戦計画として敵軍を抑えつつ海上護衛総隊の護衛の下で輸送を急いですべきです。

資源がなければ戦争が出来ず、戦争が出来なければ負けます。なのでこの作戦、「送号作戦」は絶対にすべきを本官は考えます。」


「分かりました。賛成の方は挙手を。」

近衛首相の呼びかけに対し全員が手を挙げた。


「有難うございます。」

徳村は深く礼をした。


「そういえば徳村中尉。」


「はい、何でしょうか。」

内大臣の木戸幸一は質問をする。


「欧州はどうなのかね。陛下は其方の戦況も気にしておられる。」


「はい、ある情報筋によると17日に反攻作戦が開始されるそうです。」


「分かった。お伝えしておこう。」

木戸は横の部下に何やらこそこそと言っている。


「さてみなさん。欧州を見守りましょう。きっと我が連合国は勝利するでしょう。」


「確信はあるのだね。部長。」

陸軍次長の富永恭次少将が疑問を呈する。


「ドイツ軍の作戦参謀は僕の友達です。間違いありません。」

彼の言うことは間違っていなかった。







ご意見、ご感想等お待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ