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火竜の紅鱗  作者: 白藍
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竜についての通説

 ナツメは宿の女将に声をかけると、町の中央通りにあるギルドへと向かった。ゼノと森にこもっていた彼女は、町のことがまったくわからなかったので、宿の女将に、店の場所や近づいてはいけない場所など、いろいろと教えてもらったのだ。ギルドの存在も女将からの情報である。


「おはよう、アウラさん。今日は薬草採取の依頼ある?」

「あら、ナツメ、おはよう。今日は早いのね。近場なら、これなんかどうかしら」

 ギルドのカウンターに座るアウラは、笑顔の素敵な女性だ。この間、小耳にはさんだ勤続年数30年という情報は本当なのか、と首をかしげるほどの美貌と若さを誇っている。彼女に絡む荒くれ者たちをさらりと躱す手腕を見れば、納得なのだが、女性の年齢というのは、神秘に包まれている。依頼書を受け取りながら、ナツメがそんなことを思っていると、後ろから、声がかかった。


「よお、今日も山に入るのか? ご苦労なこって」

 振り返ると、熊のように大きな男が、その体に見合った大剣を背負って立っている。

「それはどうも。竜の里を探すにも、元手がいるんでね」

面白がるような素振りを隠しもしない男に、ナツメが冷たく返すと、男はその巨体を揺らして、野太い声をあげた。

「おいおい、お前まだそんなこと言ってんのか。竜の里があるなんて、いまどき誰も信じちゃいねえよ」

笑いながらこちらを見下ろしてくる男にナツメの眉根が寄る。

「あんたには関係ないだろ。竜の里は絶対どこかにあるんだよ!」

だって、ゼノがそう言ったんだから。簡単に見つかるとは思っていなかったが、こうもはっきりと、竜の里などないと言われると、頭に血がのぼる。

「まあまあ、ナツメ、落ち着きなさい。アルサス、あなたもあんまり若い子をからかわないの」

カウンターでやりとりを傍観していたアウラが、おっとりとした口調でたしなめる。

「俺は、世間知らずの嬢ちゃんに忠告してやって」

「アルサス?」

口許に笑みを浮かべながら、いいかげんにしなさいという視線でもって、いい募ろうとしたアルサスの言葉をきっぱりと遮り、アウラは言葉を続ける。

「みんなは信じてないけれど、もしかしたら、竜の里どころか、竜だって近くにいるかもしれないわよ? ねえ、ナツメ?」

いたずらっ子のように好奇心に満ちた笑みを向けられたナツメは、つられるように笑顔を見せた。

「そうですよね! なんか、元気出ました。アウラさん、ありがとう」

「ふふふ、いい笑顔ね。ほら、もう行きなさい。気をつけてね」

にっこり笑って、手を振るアウラに、行ってきますと返し、ナツメはギルドを後にした。


 宿の女将にギルドがあると聞いたときに、情報収集するならそこだと思い、竜の里のことについて、ここ2か月の間、尋ねてまわったのだが、いまだ芳しい結果は得られていない。要するに、みなアルサスと似たり寄ったりの反応だったのだ。ゼノに拾われてから、ずっと森の中で生活していた彼女は、この世界の通説というものに疎かったので、竜の里について、聞いてまわれば、少しくらいは情報を得られるだろうと思っていたのだが甘かったようだ。

 ナツメの泊まっている宿は、夜には酒場としても営業しているので、彼女はそこでも訪れる客に話を聞いた。酒の肴にと、誰でも知っている話だが、という前置きをして、常連客が語ってくれた。竜という存在がいることは信じられているが、その逆鱗が万能の妙薬とやらで、人間たちが、こぞって竜狩りを始めたのを境に、人里へ姿を現さなくなり、いまでは竜の姿を見ることもむずかしいらしい。竜の里を探そうなんて論外だそうだ。内心、それはそうだろう、私が竜でもそうする、とナツメは思った。いつの時代の人間かは知らないが、余計なことをしてくれたな、とその場で毒づかなかった自分を褒めてやりたい。


「あー、どっかに情報落ちてないかな」

 薬草採取の依頼をこなし、宿の部屋へと帰ってきたナツメは、木枠のベッドに座り、伸びをしながら仰向けに寝転がった。明日は、宿代をおまけしてもらう代わりに給仕の手伝いをする約束を女将としている。昼と夜の繁盛時におりてきてほしいと言われた。朝が早くないのが救いだ。常連客が多いが、明日は、誰か新顔の客でも来ないだろうか。給仕の合間にでも情報収集できたらいいな。そんなことを思いながら、ナツメの意識は眠りへと誘われていった。

読了ありがとうございます。

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