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脱出ゲーム <運命の選択>

作者: サムシング

「…………はっ!!」



見知らぬ狭い個室で、ひとりの少年が目を覚ました。


眠っていたと言うよりは、気絶していた感覚がする。



「こ、ここは一体?」



少年は周りを見渡すも、一辺が5メートルほどの正方形の壁が周りにある 立方体 の空間の中に閉じ込められている事以外は何もわからない。


また部屋の中は何も置いておらず、砂粒ひとつ落ちていない。


そもそも出入り口すら見あたらない。



「ど、どこなんだよぉ~、ここは?」



少年は怯え声をあげながらも、周りの壁をペタペタと触りながら出口を探し始めた。



「くそぅ、出口は一体どこにあるんだ?」



部屋中の壁をひたすら探すが、隠し扉のようなものは見あたらない。



「ま、まさか俺は誘拐されたのか…… ん? これは?」



少年は、何かに気付いた。





うっすらとだが、少年の目の前の壁に文章が浮き上がって来たのだ。



「うわっ!!」



何の前触れもなく出現した文字に、少年は驚きの声をあげた。



壁にはこう表示されている。













 <いまからお前にはゲームをやって貰う>



~ルール~



1、この部屋の中にある 3個の宝箱 の内 2個 だけを選択し、中に入っているアイテムを入手する。


※ 30秒以内 に選択しなかった場合は、ゲーム放棄とみなし死亡。




2、[ゲーム会場] へ行き、選択したアイテムを用いて脱出する。




~脱出のしかた~



1、 [ゲーム会場入口] と表示された扉を開き [ゲーム会場] へ進む。



2、進んだ先の [ゲーム会場] に [出口] と表示された扉が存在するので、ロックを解除し扉を開いて先へ進む。



3、ゲームクリア、あなたを元の日常へと帰してあげます。







……………………以上です。














「な、なんだこれ………ゲーム会場ってなんだよ、おい!! ここから早く出せよ!!」



訳もわからない状況が続くあまり苛立ちが込み上げて来た少年は、突然現れたゲームの説明文が表示されている壁を叩きながら必死に叫んだ。





…………………………………………………。




しかし、壁は何の変化も無い。





「くそ、ふざけやがって!! 大体この部屋には宝箱どころか何も無いじゃねぇ……………………か?」




少年が後ろを振り返った瞬間、目を疑った。







何もなかったはずの部屋の真ん中に、鉄製の箱が3個置いてあったのだ。


そればかりか、向こう側の壁には [ゲーム会場入口] と表示された頑丈そうな扉まで出現していた。










「ハ、ハハ……さっきまで何もなかったのに…………どうなってんだ?」



あまりの出来事に少年は、ただ唖然としていた。


すると






ピ───────────────ッ。






突然、ホイッスルを長く吹いたような音が鳴ったと同時に、全面の壁に巨大な [30] の数字が浮かび上がった。



その数字は


29 28 27 


と徐々にカウントダウンされている。



「チィ!!」



驚く暇すら与えられ無い少年は、舌打ちをするとすぐに鉄製の宝箱のもとに駆け寄った。


よく見ると、宝箱にはそれぞれ文字が表示されているようだ。









右の宝箱には [秘密のメモ] 



真ん中の宝箱には [万能鍵]



左の宝箱には [魔法の靴] 








と、それぞれ表示されている。




「ど、どれを選べばいいんだ?」



少年は焦りながらも必死で考える。



(お、落ち着け!! まず [万能鍵] は確定だろう)



少年は、迷わず真ん中の宝箱を開けると少し大きめの鍵を手に入れた。



(問題は残りひとつだ!! メモか? 靴か?)



少年は、迷うがなかなか決められない。





9、 8、 7、 6、





その間にも、カウントダウンは徐々に0に近づいてゆく。



「ち、ちくしょう!! これだ!!」



焦った少年は [秘密のメモ] と表示された宝箱をとっさに開けた。




4、 3、 2…………。




カウントダウンは 2 のところで止まった。



「ハァハァ、危なかった」



少年は安堵すると、改めて [ゲーム会場入口] と表示された扉を確認した。






その扉は鉄製で見るからに頑丈な作りになっており、ドアノブの下には前方後円墳(ぜんぽうこうえんふん)の形をした鍵穴が付いていた。



「とにかく先に進まないとな」



少年はそう言うと手に持っていた [万能鍵] を入口の扉の鍵穴に入れた。






ガチャリ!!





鍵をひねった瞬間に、乾いた音が響く。



「…………フーッ」



少年は緊張をほぐすために肺にためた息を一気に吐くと、ドアノブを握りしめ力いっぱいにひねった。





ガッッッ!!!!






「……………………え?」




おかしい。



ドアノブがピクリとも動かないのだ。



「あ、あれ? おかしいな」




ガッ! ガッ! ガッ! ガッ!




扉を押したり引いたりするが、微動だにしない。



「く、くそっどうなってんだよ!! 万能なんじゃなかったのかよ!!」



扉が開かずに焦った少年は再び [万能鍵] を差し込むと、今度は逆の方向にひねった。




ガチャリ!!  ギィィ!!




「うおっ!?」



再び乾いた音が響いたと同時に、さっきまでビクともしなかったドアノブが今度は軽く回った。



「あ、焦らせんじゃねぇよ!! ったく」



少年は動揺しながらも [ゲーム会場入口] と表示された扉を開けた。










少年の目の前に現れたのは、5メートル程の短い廊下だった。


しかも極端に短い廊下しか無いにも関わらず、すぐ先には [出口] と表示された扉が存在していた。





「…………へ?」



もっとゲーム会場らしい個室を想像していた少年は、思わず拍子抜けしたかのような声をだした。




少年は天井や床など様々な場所を見渡したが、特に怪しいと言った所はない。




「…………いや、おかしい」



さっきの部屋の壁に表示された文字には『ゲームをやってもらう』と表示されていたはずだ。



しかし、少年はまだゲームらしい事は何一つやっていない。



「そうだ、こいつを見れば何かわかるかも知れない」



 [秘密のメモ] を持っている事を思い出した少年は、さっそくメモを開くと内容を確認した。











  <ゲームクリア おめでとう>












「…………は?」



意味がわからず混乱する少年は何度も [秘密のメモ] の内容を確認するも、やはり <ゲームクリア おめでとう> とだけしか書かれていない。



「ど、どうゆうことだ? ゲームクリアって事は帰れるのか俺は?」



少年は懸命に考えるが、謎は深まるばかりだ。



「とりあえず先に進むしかなさそうだな、ひょっとしたら何かわかるかも知れねえ」



そうつぶやいた少年は [ゲーム会場] である廊下に一歩足を踏み入れた。


























コポォン





























………………………………………………………………













「うっ…………ここは?」



見知らぬ狭い個室で、ピンク色の帽子をかぶった女の子が目を覚ました。


眠っていたと言うよりは、気絶していたような感覚がする。



「たしかお婆ちゃんの家に遊びに行く途中で意識が…………」



不安げな表情を浮かべながらも、少女は周りをキョロキョロと見渡した。



個室は、一辺が5メートル程の正方形の壁に囲まれた 立方体 の形をしている。


また周りに物は何一つ置いておらず、出入り口すら見当たらない。



「う、嘘……まさか誘拐? い、いや……」



状況を把握した少女はすぐに壁に駆け寄ると、叫ぶように助けを求めた。



「誰か助けてぇぇぇ(ドンドンドン!!)誰かぁぁぁ!!」



少女は壁を叩きながら懸命に助けを求めるが、いくら叫び続けても誰も来る気配すらない。



「助けて……ハァ……ハァハァ…………誰か…………」



やがて叫び疲れた少女は、その場でペタリと座りこんだ。



恐怖のあまり、少女の体はカタカタと震える。




「うっ………ぐすっ……」




少女はうつむくと大粒の涙をボロボロと流して泣いた。



「うぅ、お家に帰りたい…………お婆ちゃんに会いたい……グスン 誰かぁ……助けてよ………うえぇぇぇぇん」




少女の弱々しい泣き声が狭い空間に虚しく広がった。





















「………………グスン」



しばらくの間泣き続けた少女は、少し落ち着きを取り戻した。


しかし未だに助けどころか、少女を誘拐した犯人すら現れる気配はない。



「グスッ……とにかく……ヒック……ここから逃げないと」



これから助けをいくら待っても絶対に来ないであろう事を(さと)った少女は、この個室から脱出する事を決意した。



「グスン……まずは涙を拭かないと」



少女はかぶっていたピンク色の帽子をハンカチのかわりに目にあてて涙をぬぐうと、逃げ道を探すために顔を上げた。





「キャッ!!!」






少女は(うつむ)いていた顔を上げた瞬間、驚きのあまり悲鳴をあげた。


さっきまで真っ白だった目の前の壁に [謎の文章] が浮かび上がったからだ。



「え? え?」



少女は再度周りを見渡したしてみるが、壁に文字をうつすような装置などは見当たらない。


そもそも少女が泣いている間も、他に人がいた気配は微塵も感じなかった。



「な、なんなの?」



少女は恐る恐る、その壁に浮かび上がった文字を読んだ。



壁には、こう表示されている。










  <今からお前にはゲームをやって貰う>


~ルール~


1、 この部屋の中にある 3個の宝箱 の内 2個 だけを選択し、中に入っているアイテムを入手する。


※ 30秒以内 に選択しなかった場合は、ゲーム放棄とみなし死亡。



2、 [ゲーム会場] へ行き、選択したアイテムを用いて脱出する。




~脱出のしかた~



1、 [ゲーム会場入口] と表示された扉を開き [ゲーム会場] へ進む。



2、進んだ先の [ゲーム会場] に [出口] と表示された扉が存在するので、ロックを開き先へ進む。



3、ゲームクリア、あなたを元の日常へと返してあげます。







……………………以上です。









「げ、ゲーム? でも宝箱なんか…………えっ!?」



文字を読み終えた少女が振り返ると、反対側の壁に頑丈そうな扉と3個の鉄製の宝箱が当たり前のように存在していた。


また、扉には [ゲーム会場入口] と表示されている。




「……さっきまで何もなかったのに」



少女は、ただ呆然と有り得ない光景を眺めていた。




すると









ピ───────────────ッ!!








突然、ホイッスルを長く吹いたような音が鳴ったと同時に、全面の壁に巨大な [30] の数字が浮かび上がった。



その数字は


29 28 27


と徐々にカウントダウンされている。





『※30秒以内に選択しなかった場合は死亡』





「………………はっ!!」



壁に表示されていた文字を思いだし、我に返った少女は宝箱へ駆け寄った。





右の宝箱には [秘密のメモ]



真ん中の宝箱には [万能鍵]



左の宝箱には [魔法の靴]





と、それぞれ表示されている。




「ど、どれを選べばいいの?」



少女は悩むが、そう長く考える時間は無い。



20、19、18、17、



残り時間が徐々にせまる



「ハァ……ハァ」



焦りと緊張で少女の心拍数が上がる。



(お、落ち着いて………まずは扉のロックを解除するために [万能鍵] )



少女はすぐに真ん中にある [万能鍵] を選択して宝箱を開けた。



(あと一個…… [秘密のメモ] [魔法の靴] どっちを選べばいいの?)




11、10、9、



ついに残り時間が10秒をきった。



(時間がない…………ど、どうしょう)



「え、えーい」




バッッ!!




少女はついに [魔法の靴] と表示された宝箱を選んで駆け寄った。



5、4、 (ガチャン!!) 3………………



 [魔法の靴] の宝箱を開けた瞬間、カウントダウンは3秒の所でストップした。



「ハァ……ハァ……よかった、間に合った」



少女はその場でペタリと座り込んだ。



「ハァハァ、勢いで選んじゃったけど [魔法の靴] って何だろう」



少女はそばにあった [魔法の靴] が入っている宝箱の中に手を入れた。



「…………?」



宝箱から [魔法の靴] を取り出した少女は、首を傾げた。


何故なら、取り出したのは何の変哲もない ゴム製の長靴(ながぐつ) だったからだ。



サイズは少女の足にちょうど入るくらいで、色は薄いピンク色をしている。


少女はとりあえず今履いている靴を脱ぐと、宝箱に入っていた [魔法の靴] らしいピンク色のゴム長靴に履き替えた。




「…………よいしょっと」



少女は [魔法の靴] に履き替えてはみたが、履き心地も普通のゴム製の長靴と変わらない。



「……ゲーム会場に行けば何かわかるのかな?」



少女は不安げにそう呟くと、涙を吸いクシャクシャになったピンクの帽子をかぶり直し、さっきまで履いていた少女の靴を手に持つと [ゲーム会場入口] と表示されている扉へと向かった。







少女は改めて [ゲーム会場入口] の扉を見る。



とても頑丈な鉄製の造りになっており、たとえプロレスラーや力士であってもその扉をぶち破る事は出来ないだろう。


また、ドアノブの下には 前方後円墳(ぜんぽうこうえんふん) の形をした鍵穴も存在していた。




「とにかく行かないと」



少女はそう言うと、ドアノブに手をかけた。



「あ、そういえばまだ [万能鍵] を差してな…………」




ガチャリ!!




「…………え?」



 [ゲーム会場入口] の扉には、まだ [万能鍵] を使っていない。


にも関わらず、少女が軽くドアノブをひねっただけで [ゲーム会場入口] の扉は簡単に開いた。


 


「あ、あれ? まだ [万能鍵] は使って無いのに…………この扉は最初から鍵は掛かってないって事?」




疑問に思った少女は試しに [万能鍵] を差し込みひねった。



ガチャン!! ガッ!! ガッ!!



………扉は動く気配はない。


どうやらロックが掛かったみたいだ。




「やっぱり鍵は掛かってなかったんだ」



そして、扉をロック出来たと言うことは [万能鍵] はきちんと機能しているようだ。




ガチャン!!



 [万能鍵] がちゃんと使える鍵である事がわかったところで、再びロックを解除した少女は [ゲーム会場入口] の扉を開けた。
















ガチャリ!! ギィィィ!!
















 


「…………あれ?」




 [ゲーム会場入口] の扉を開けた瞬間、少女は首を(かし)げた。



 (…………予想していたゲーム会場となにか違う)









少女の目の前に広がっていたのは、長さが5メートル程の 極端に短い廊下 だった。






「え………………えっ?」



少女は何度も [ゲーム会場] らしい短い廊下を見渡すも、とてもゲームをやる場所には見えない。


それに、この短い廊下の先には [出口] と表示された扉も存在していた。



「あの扉に行けば帰れるのかな?」






(ポロッ)







「あっ!!」




目の前の廊下に足を踏み入れようとしたとき、少女は手に持っていた自分の靴をうっかり廊下の床に落としてしまった。



















コポォン


















「…………………………え?」



少女は目を疑った。



床に落とした靴は、本来ならば不規則なバウンドをしながら転がるはずだ。




しかし








まるで 底なし沼 に落としてしまったかのように、少女の靴は



 廊下の床に引きずり込まれた。







「…………ひ、ひぃ!!」





この廊下に足を踏み入れるのは危険だ。


それはわかっている。


靴が廊下に飲み込まれた瞬間、少女はすぐにそれを理解していた。





だが、その廊下に踏み出そうとしていた足を引っ込めるには 気付くのが遅すぎた。






少女の足裏は廊下に向かって徐々に近づいてゆく。



(も、もうだめ……)



とうとう足を引っ込める事が出来なかった少女は、ついに 底なし沼になっている廊下 に足を踏み入れてしまった。




「きゃっ!!」



少女は、思わず目をつぶった。















タンッ!!




(…………………あ、あれ?)



引きずり込まれると思っていたが、普通に地面を踏みしめる感覚を少女は感じた。


少女は、固く閉じていた目をゆっくりと開けた。



「た、助かったの? でもなんで?」



少女は何度も足下を確認するが、確かに地面に引きずり込まれるはずの廊下の床に足を乗せている。




「なにが起こって………ひゃ!!」





目線を足下から [出口] と表示された扉に移した瞬間



少女は驚愕した。



両端の壁に 文字 と 巨大な数字 が表示されているのに気付いたからだ。







<魔法の靴の魔法が消えるまで あと 58 >


両端の壁にはこう表示されている。






また、数字も一秒事に 57、56、55 とカウントダウンしている。








少女は、この意味をすぐに理解した。




普通のゴム長靴と思っていたこの [魔法の靴] は、あの [なんでも引きずり込む廊下] を渡ることが出来る唯一のアイテムだということ。


そして両端の壁に表示されている数字が 0 になると [魔法の靴] の効果が無くなり [なんでも引きずり込む廊下] を渡ることが出来なくなるというわけだ。






「…………よし!!」



少女は覚悟を決めると、前へと進み始めた。



「ううっ………重い………」



引きずり込もうとする力を [魔法の靴] が無理矢理に押さえ込んでいるからなのか、一歩一歩が異常に重い。


まるで強力な粘着シートの上を歩いているみたいだ。



「ハァ……ハァ」



たった一歩前に出るだけでもかなりの体力を使う。


それ(ゆえ)にたった5メートルの廊下が、ものすごく遠くに感じてしまう。





<魔法の靴の魔法が消えるまで あと 43 >



(大丈夫…………まだ時間はある)



少女は心の中で自分を(はげ)ましながら、さらに一歩前へ出るために足に力を入れた。








 グラッ








「ひ、ひゃあ!?」



あまりの歩きづらさに少女はバランスを崩してよろめいた。



「くっ…………うぅぅぅ……………………ッツ!!」





タンッ!!





危うく手を地面に付きそうになったが、少女は上体をなんとか起こしてバランスを持ち直した。



「ハァ、ハァ…………ハァ」 (あ…………危なかった)



少女は緊張で冷や汗が止まらなかった。



この廊下に少女が立っていられるのは [魔法の靴] の魔法の効果のおかげである。


しかし、その魔法の効果は恐らく 魔法の靴を履いている少女自身 には適用されていない。




つまり、少女がこの廊下に指を一本でも触れてしまったら [魔法の靴] の魔法効果が残っていたとしても廊下に引きずり込まれてしまうのだ。





<魔法の靴の魔法が消えるまで あと 29 >



制限時間まで、残り30秒を切った。



だが、あと一歩進めば [出口] と表示された扉にたどり着く距離まで来ている。




「あと…………もう少し~~~」








ぐっ……ぐぐぐぐ…………








しかし、最後の一歩がなかなか上がらない。


心なしか残り時間が近づくにつれ [魔法の靴] の魔法の効果が弱まり、廊下の 引きずり込む力 が増しているようだ。




…………しかし、少女は諦めない。






「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」







少女は足裏に目一杯(めいっぱい)力を注ぎ込んだ。





グッ……ググっ





廊下にピタリと張り付いた足裏が、少しづつ引き剥がされてゆく。




そして








ベリッ!!        ピタンッ!!












ついに、少女は [出口] と表示された扉の前に到達した。



「ハァ……ハァ…………や、やった……ハァ……ハァ」




よほど疲れたのか、少女は [出口] の扉にもたれかかるように額を乗せた。






 [出口] の扉自体は、前の個室にあった [ゲーム会場入口] の扉と見た目はあまりかわらない。


ドアノブの下に前方後円墳(ぜんぽうこうえんふん)の形をした鍵穴がある頑丈そうな鉄製の扉だ。






<魔法の靴の魔法が消えるまで あと 15 >






残り時間も徐々に迫っている。 



少女はすぐに [万能鍵] を取り出した。



「これで…………帰れる」



少女は安心した声でそう呟くと [出口] の扉の鍵穴に差し込ん───────────













ガッ!!













 [万能鍵] は鍵穴に差さらなかった。






「……ぇ?…………え? え?」




ガッ!! ガッ!! ガッ!! ガッ!! ガッ!! 




少女は何度も [万能鍵] を鍵穴に差そうとするが、まるで鍵穴そのものに拒絶されているかのように跳ね返される。



「えっ……な、なんで?」



訳が解らずに戸惑う表情を浮かべた少女は [出口] の扉の鍵穴に(じか)に手で触れた。



「え………………」






少女は唖然とした。



少女が触れた場所に 鍵穴 は存在しなかった。



あるのは鍵穴の形に黒く塗りつぶされた 











鍵穴の絵



だった。










「……………………」



あまりの出来事に少女は言葉も出ない。



そんな少女の目の前の扉に [文章] が浮かび上がって来た。







「……………ひぃ、ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」







その [文章] を見た瞬間、少女は [万能鍵] を投げ捨て、まるで 野生の猿 のように奇声をあげながら扉を叩きまくった。






ダンダン!! ダンバン!! ガッ!! バンバン!!






「いやぁぁぁぁぁぁ!! 開けてよ!! 早く開けてよ!! おねがい!! きゃあぁぁぁぁぁぁ!!」







<魔法の靴の魔法の効果が消える まで あと 9 >










「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! おねがい!! 開けてよ!! 早く! ねぇ!!」









<魔法の靴の魔法の効果が消える まで あと 6 >









「嫌だ!! 死にたくない!! 死にたく…………うぅ…………」









<魔法の靴の魔法の効果が消える まで あと 4 >











「うぅ……お婆ちゃんに会いたい…………うえぇぇぇぇん」











<魔法の靴の魔法の効果が消える まで あと 2 >











「ぐすっ…………助けて…………お婆ちゃん、お婆ち─────────




























コポォン




















…………………………………………………………………















一人の少女は 廊下に飲み込まれた。




一瞬だった




飲み込まれたのが早過ぎた為か、少女のかぶっていた ピンク色の帽子 は頭からすっぽ抜け、まるで落ち葉のようにヒラヒラと舞う。




 [出口] の扉は、その様子を見守るようにたたずんでいる。




ピンク色の帽子は、その扉に表示された [文章] をなぞるようにゆっくり降下していく。
















<この扉は 合い言葉 を唱えるとロックが外れます>


※ 合い言葉 を忘れた場合は 秘密のメモ を見ながら唱えても構いません。

















 [文章] をなぞり終えた ピンク色の帽子 は、ゆっくりと 底なし沼 へと向かっていく。






泣きながら沈んでいった少女の後を追うように。

























 コポォン







 読んでくれて、ありがとうございます。




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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど・・・ もともと扉に鍵は掛かっていなかったので本当に選ぶべきアイテムは『メモ』と『長靴』だったということですね・・・ 扉にカギがかかっていると早とちりしてはいけないゲームなんです…
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