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Over The Quartz「オーバーディクォーツ」  作者: 松長慎敦
1巻目:「luminance」
2/2

第一章 「帰るべき場所」

 …今自分はどこにいるのか分からない。それどころか居る場所が現実なのか分からない。辺りを見渡しても白く、境目も無い。しかもここには俺だけらしい…

「誰か!誰もここにいないのか!返事をしてくれ!」

いくら叫んでも返事もなく、声も響かない。

分からない。何で自分はここにいるのか。何も無い空間に自分一人で…本当は寝ていたはずであった。久々に長く眠れるのでゆっくりしていたはずだった。

もしかしたらここは夢の中なのだろうか?「明晰夢であるなら最もやりやすいが、どうだろうか…」明晰夢なら自分で何事も夢の範囲でならできるが、どうやら違うらしい。

何もすることが無くなったので大の字で横になってみる。この覚めない夢には正直長居したくない。がこのような状態である以上、どうすることもできない。

ため息をつき、一面真っ白な上を見る。

何回か瞬きを行い数秒間程目を瞑った。眠気は襲ってこない。もう手詰まりだ…

落胆していると上からぺたぺたと素足で歩くような足音が聞こえ・・・上から顔を出した!

いきなりのことだったので驚き、急激に体を起こした。

「だ、誰だ!」と言ったが、あちら側は笑顔で笑っている。少女のような体系で、薄い黄色のロングに健康的な肌色、目は水色でさくらんぼのような色の唇。その容姿は人間ではあまり見ない美しさである。

「(もしかしてメイヅェグか?まあ夢の中だから害は無いとしても…)」美しい。しかしこんな美しいものがあんな悪魔を誕生させると考えると、忍びないな…

しかし思ったことがある。何故ここにいるのか?それを知りたい。

「なあ、何で俺はここにいるんだ?教えてくれないか?」この言葉を言った途端、少女は黙り、口を動かした。

しかし何も聞こえない。耳を澄ましてもさえ聞こえない…しかし少女は必死に訴えている。四文字の言葉を…

「・・け・た・・て・・・・た・け・・・・」「まさか…」「たすけ……たすけて」「うあああああああああああああ!!…――っ!?」

悪夢にうなされて目が覚めるときと同じぐらいのリアクションで目が覚めた。

今自分がいる場所はベッドの上、西墨基地にある自分専用の部屋で寝ていたが、今の紀路にはそこが今本当に自分が存在している場所か分からなくなってしまうほどに恐怖に屈していた。

自分が倒したメイヅェグの夢はたまに見る。それも見る度に恐ろしさが増しているのも分かっている。しかし今回のは違う。自分に訴えかける夢。倒すべき敵から助けを求められている夢。自分がまた大切な何かを失うようにも捉えられる。

「自分や身内に嘘をついて、いつも慣れているように銃と剣を持って戦い、勝利を得ても何も感じない…心が磨り減ったのも分かっているはずなんだ…」

この夢を見るといつも気付かされる。自分が本当にするべき定めとは何か?このままの状況を維持し時が過ぎても変わらずの人間でいるのか?そして、この戦いが本当に終わると思っているのか?もう何度も考え、結論を出したのにまた問われる。

「もう疲れも限界に達しているんだ。明日になれば家に帰って隆良の相手もできる。短い間ながらもまた会えるさ。だから今は…」寝なおすことにした。

ふと左に置いてある時計に顔を向ける。午前2時47分。寝始めてから10分程しか経過していない。それぐらい疲れていて早く眠れたのに、うなされてしまった。

「昼になって報告さえすればもう休暇になる。今回のミスは痛かったがそれも終わる…」



「大尉。起きてください。」ベットで寝ている潮崎紀路を揺らして起こそうとするが、起きる気配がしない。

西墨基地の健康管理士の一人である楡原紗耶香は、上から直々に潮崎大尉の健康管理を一時的に行うように命令された。正直やりたくはないのだが…断るのも面倒である。

「潮崎紀路中隊長。いい加減に起きないと上に報告しますよ?」

彼の部隊が休暇中なのにここにいるのは、彼自身が犯した過ちによってだと聞いているが…どの程度のものなのかは知らない。

「紗耶香、現在時刻を言ってくれ。」

いつもこの人だけは私を名前で言う。別に嫌ではないが周りと違う言われ方をされると不満になる。

「7時47分です。それに潮崎大尉、いい加減に名前呼びされるのを止めてもらえませんか?」

そう催促すると、しばし黙って「それじゃ――」と体を起こしながら

「普通に楡原と言うべきか?」と自分にとって当たり前のような質問をされた。

「もちろんです。それじゃ、早く部屋から出て朝食を食べてください。」

「また味の薄い野菜に鮭か。せめて最後の日ぐらい豪華な物でも――」

また口答えしそうだから頭を強めに叩いた。

「―――んっ!…っ……った、いってぇなぁ~、分かった。分かったよ。健康に良いんだろ?」

それだけを食べても健康にはならないけど。

「早くしてください。設定時間から既に30分は遅延しているんです。」

正直、時間は割とどうでも良いが一日のスケジュールはちゃんとこなすのが優先だ。しかし中隊長である人物がこうであるとさぞかし部隊の統制はとれているか心配になる。

起床するのがまるでおかしいような行動を取る中隊長を引っ張り、食堂に向かった。

広い食堂の中には数十人ほど隊員がおり、中には私と同じ健康管理士のメンバーがいる。食事を作る者、メニューに不備がないか確認し報告する者、そして私と同じように隊員の健康管理を行っている者もこの場にいる。

「はいそれじゃあ。遅延した分早く食べてください。次のスケジュールもありますから。」

配膳されたメニューを差し出す。すると潮崎大尉は慣れたように食べ始めた。いや、「慣れた」より「同じ物を食べ過ぎて1つの作業のように」と表現したほうが良いかもしれない。

潮崎大尉が味噌汁をすすった後、「それで…」と何か足りないような目線でこちらを見ながら聞いてきた。

大体考えていることは分かる。「おかわりはしないようにと言ったはずですし、次にすることまであと10分しかないですから――」と次を言おうとした時に「違う。」と否定された。

「そうゆうことを聞くつもりはない。俺は、この生活が自分を失いそうで怯えそうになってるんだ。」

潮崎大尉が発した声は確かに怯えたような感じに捉えられた。正直そうかもしれない。

1週間同じ時間に特定の場所に行き同じ事を行う。一般人でもこの行動は絶対にしたくないはずだ。しかしこれは指導と言ってもオーバーではない。艦橋でほぼ1日を過ごして生活のリズムが崩壊してしまった人に基本的なスケジュールを組んで生活してもらう。それなりのリスクはあるだろうが。

「それでは自分を見つめなおす時間にしますか。」

精神崩壊してもらったら再起にかなりの時間がかかる。それでも完全に戻ったりする確信もないので重要視されている。

「ありがとう。正午まで君といられるのも光栄…ちゃんと、この一週間を大事にするさ。」

「それでは―――」目線を下に降ろす。どうやら全て食べ終わっていたらしい。早くするように頼んだがちょっと狂う。やや動揺している所を大尉は察したようで、自ら色々物事を進めてくれた。

その後食堂を出て自然室にて休憩した後、軽い運動及び読書等したら正午近くになった。

「そろそろ完了ってわけか…自分を失くしかけたが、なんとか乗り越えられたぜ。」

「これで終わりではないですよ。ちゃんと維持するのも必要なんですから。」

まるで分かっているような顔をしているけど、絶対どっかで怠る気が全面的に漂っている。 この一週間を無駄にされたら大尉の努力も、私の努力も全部無くなって消える…実に許しがたい行為だ。

「それでは、今回は1週間の健康管理でしたが…次があったらこれ以上に長く重い管理をしますからね。」

「もはや管理ではなく監理になるのか…」

「何かご不満な件でもありますか?」

少し強気に言うと大尉は慌てて「無い!断じて無いぞ!」と言い返した。何かあるのは見えているが。

まあ別れの時とゆうものは大体悲しくなったりするものだけど、この人に限っては別。小さな達成感とそこから込みあがる相性の無さが出てくる。簡単に言えば「この人に付き合うのはもう無いと願いたい」ってなるはず。

「もういいか?」

「何を?」

「ここから離れてだが?」

出るタイミングを失ったのか、それとも念のため確認を取ったのか、どちらにせよ(人見知りな事しか出てないが)私もここから早く出たい。

「じゃあお互いに出るようにすればいいんじゃないですか?」

「おっ、そうだな。それにするか。」

「それでは。次が来ないことを祈りますよ~」

「俺も精進する。君に迷惑もかけないように頑張るさ。」

どう迷惑をかけないようにするかって、1つしかないと思うけど…って、こうゆう状況って何か呼び止めたりしないの?別れなんだからもっと涙を誘うような話とかないわけ?

「そうだ、1つ言い忘れていたことがあった。」

来た。お望み通りの展開かな?とりあえず背中を向けたまま止まる。

「何です?」

「君との1週間は大切なものだ、おかげで昔の自分に戻れた気がする。この礼を忘れることはないだろう…」

「それで、何を言いたいのかまだ分からないのですが?」

「そうか…そうだよな。」と少し間を開けて、「率直に言うぞ。君は仕事に熱心すぎて女性としての魅力が無くなってきている。少し休んで女性としての――」何だ、そうゆうことだったのか。期待した自分が間違いだったようだ。

「そうでしょうね。だって1週間真面目にしていたんだから分かるはずもないですよねっ!」

思わず近くにあった物を投げて帰った。途中大尉が何か言っていたような気もするがあえて無視した。


「ったくよう、正直に言っただけで…」

実際こうなるだろうと少しは予測していた。結果も予想していたはずだが、素直に言ってしまう性格を真っ直ぐ出してしまった結果は考えていなかった。完全に抜けていた自分が情けない。

「潮崎紀路中隊長。ここに居られましたか。」

部屋を出たら、いかにも待っていたかのような雰囲気で話しかけられた。振り返って一言「どこの所属の者だ?上層か?他の部隊か?ここに勤務してい…」言いかけて止めた。どこの所属か一目見ただけで分かってしまったからだ。

「その黒い星と紅い月、総司令の関係者か。」

アルブィン・アモーズ…俺が所属しているSTARDUSTRANIYSスターダストレイニーズの総司令。過去の戦役で六英雄と言われた内の一人で、当時付けていた黒い星と紅い月を重ねた部隊章を今は関係している人に付けさせているとか。とゆうことは俺に話しかけている人は秘書とかそこらへんの立ち場だって事になる。

「総司令から伝言を伝えに参りました。」

「伝言?わざわざ君を送ってまで古めかしいことをしなくてもなぁ。」

今の時代は映像で直接言うとか、ギリギリでも文面にして送るぐらいな時世なのに、伝言という方法を使う人なんてもはや保護対象の動物と同じぐらい少ない。総司令が古い人であることは入隊前から知っているが、あまりに古すぎて自分でもよく昔の事で例えてしまうようになってしまった。

「楡原管理士の報告は受けた。早く家に帰って休暇をとるように。それと…もっと女性に対して言葉を選ぶように、馴れ馴れしいその態度も改めるようにとのことです。」

「まるで俺が女性に対してはしたないと言っている内容だな。」

「そんなことを私に言われても困ります。それに私自身も貴方の事に対しては総司令と同意です。」

俺に味方はいないってか。まあ2人しかいない状況で思う事じゃないけどさ。

「そうかいそうかい。改心するよ、今日からきちんとする。ちゃんと中隊長としての姿勢と態度をとらせてもらうさ。」

いつかは上官としてちゃんと胸を張る定めだと思ったが、まさか3年目でなるとはなぁ…早すぎやしないか?まあ少尉からここに配属された身としては短い昇格旅だったが。

「それではまず、自宅にお帰りになることから初めてください。総司令も貴方が帰らないとまた執事として使いまわすと仰っていました。」

「おーお、休暇は強制的ってか。他の部隊より優しいとは言うものの、規則は規則。決定された休暇ってのは好きになないねぇ。」

範囲の中の自由ってどの時代も変わらないものなのかもな。もっと楽に人生過ごしたいって思いも一緒かもな。

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