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羊毛

 ある日犬の進むに任せてにんげんがぼんやり森を進んでいると、その道先になにやらこんもりしたものがありました。

そのこんもりしたちょっと曇りの日の雲のような色の塊が動物の形に見えたので、にんげんは犬に近くに寄ってもらいました。

 犬はいつもならさっと近寄るのですが、この時はなぜかそろそろと近づきました。

にんげんはこんなゆっくりじゃ動物がにげるんじゃないかなぁ、と思いましたが、犬に全てを任せました。

 そしてこんもりした動物?に近寄りきった時、犬は言いました。

「にんげん、降りて触ってみろ。」と。

 その言葉に従って動物?が逃げ出さないようにできるだけそっと、犬の毛にぶら下がるように地面に降りたにんげんがそのこんもりした山に触ってみると、ふかふかとした感触を突き抜けてにんげんの手に地面が当たりました。

興奮して、「犬!犬!この動物凄い!通り抜けた!」と叫ぶにんげんに、犬は落ち着いた声で、「おちつけにんげん。これは蟻喰い羊の姉の毛を刈った痕だ。あの人は毛がよく伸びるから定期的に蟷螂の兄に毛を切ってもらうんだ。」と言いました。

 それを聞くと、「これ、動物じゃなくて毛だけ?」とにんげんは全身をもふもふの羊毛に沈めながら問いました。

犬は、「そうだ。この臭いの強さなら羊の姉はまだ近くに居ると思うから呼んでみるか?」と答えました。

にんげんは、「うん、呼んで」と地面に広がって転がるたびに浮かび上がるもふもふに包まれながら言いました。

 すると犬はウォンと一声上げました

それからしばらくすると森の奥からアリクイの顔にねじれた角を生やし、ごっそりとやせ細った様に見える胴体に馬の足を持つ大きな動物が現れました。

 にんげんは、「私にんげん!蟻喰い羊の姉?」と毛綿に埋もれながら声を上げました。

犬は、「ちゃんと立ち上がって挨拶しろ。来てくれてありがとう蟻喰い羊の姉。」と挨拶をしました。

羊の姉は「よ、よんだ犬?私なんかに用があるの?」とおどおどした様子で犬の様子を伺います。

 そこで立ち上がったにんげんが、「こんにちは蟻喰い羊の姉!私にんげん!よろしくね!」と声を掛けると。

「ひっ、毛のお化け!ごめんなさい!ごめんなさい!重いからって切って貰っただけなの!いらないなんて思ってないの!だから許して!」と叫んで蟻喰い羊の姉は後ろを向いて脚を畳むと胴体の下に口の先を隠してしまいました。

犬はため息をつくと、「にんげん、全部毛を取れ。蟻喰い羊の姉、お化けじゃない。にんげんだよ。」と優しく声を掛けました。

 それを聞くと後ろを振り返った蟻喰い羊の姉は、「本当…?お化けじゃなくてにんげん?あら、本当だわ。ご、ごめんねにんげん。お化けと間違えて。私蟻喰い羊、よろしく…」と控えめな声で言いました。

そしてすくっと立ち上がるとにんげんの方を向きました。

 するとにんげんは、「あれ?姉なのにおっぱいないの?」と言いました。

その言葉に蟻喰い羊の姉は顔を下げると、「これでも姉なのよ。おっぱいならあるのよ…お腹の下に。私はお母さんの形を受け継がなかったからわかりにくいけれど…」とすこし哀しそうな声で言いました。

なんで蟻喰い羊の姉が哀しがったのかはにんげんには解りませんでしたが、その沈んだ様子に傷つけたことは感覚的に解ったので。

「えっと、ごめんね。私なにか嫌な事いった?」と聞きました。

 その言葉に蟻喰い羊の姉は、「いいの、私が勝手に傷ついてるだけだから…。ごめんねにんげん、気を使わせて。」と儚げに答えました。

にんげんはそんな蟻喰い羊の姉に寄り添うと、「いいよ。気にしなくていいよ。だから元気出して。」と体を摩りました。

 しばらくそうしていると、元気が出たのか蟻喰い羊の姉は「ありがとうにんげん。貴女は優しいわね。」と言って長い舌をチロリと伸ばしてにんげんの顔を舐めました。

その舌は暖かく、弱気な蟻喰い羊の姉の優しい心を表しているかのようでした。

 それはさておき、落ち着いたところでにんげんが、「このふわふわの毛は蟻喰い羊の姉の毛なの?」と聞くと、蟻喰い羊の姉は、「ええ、そうよ。私の毛は重いから、伸びたら蟷螂の弟に切って貰うの。とてもさっぱりするのよ。」と答えました。

するとにんげんは笑顔になって「こんなふわふわの毛って凄いね!今度伸びたら切る前に見せてね!」と言いました。

蟻喰い羊の姉はにんげんの頬に自分の口先を寄せると、「ええ、約束するわ。だからちょっとだけまってね。」といいました。

 そうしてにんげんと犬は蟻喰い羊の姉と別れたのですが。

後日もこもこに膨れて会いに来た蟻喰い羊の姉に、にんげんが、「誰?」といってしまって大いに蟻喰い羊の姉を落ち込ませたりしてしまうのでした。

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