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 にんげんは火を知りません。

なぜなら怪物の森に住む皆は誰もが火を使う生活などしていないのですから。

 にんげんが火をつけられそうなものも見当たりません。

不思議な怪物の森は一年中木が緑に茂り、落葉という言葉を知らないかのような風情です。

 お母さんは火をにんげんに教えません。

なぜなら火は危険だからです。

にんげんに火を与えれば危険な事が起こる。そう思ったお母さんはにんげんに火と言うものの存在そのものを教えません。

 火の無い生活、それはにんげんになにか不便あと思わせているでしょうか。

いいえ、そんなことはありません。

 火を知らないにんげんは寒い時は山にある暖かい滝を浴びに行きます。

浴びた後はそのまま犬に包まれてしまえば暖かく眠れます。

 肉は生肉を食べようとしてダメだったようですが、肉を食べなくてもお母さんの乳を飲んでいれば、それ以外の食べ物はいらないのです。

それに、肉を焼いても味を気に入るとは限りません。

 夜出歩けない。

にんげんは日の入りと共に寝て日の出と共に起きます。何も問題ありません。

 人からみればこれでは人間ではなく獣だと思うでしょうが、人間だって元は獣です。

にんげんはその原初の姿を生きているに過ぎません。

 そして何より重要なのは、にんげんはお母さんと犬、そして森の兄弟達が居れば幸せだという事。

多くの幸せを知らないが故の幸せだという人も居るでしょう。

でもこれ以上の幸せってにんげんに必要なんでしょうか?

ただ在るもので満ち足りて充足する。

そんな幸せもあっていいのではないでしょうか。

 さあ、今日もにんげんが目を覚まします。

恐らく今日もにんげんは犬と森をぶらつき、森の兄弟と出会ったり出会わなかったりして、深い木漏れ日の覗く中をのんびりと生きていくでしょう。

そして暇になれば犬となにか遊びを考えて遊ぶのです。

にんげんは怪物の森というゆりかごの中で、死ぬまで満ち足りた幸せな日々を送るのです。

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