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変わらずの森

 にんげんと犬はまた歌う蛙に遭遇しました。

今度は森の中の小川の中から場所を変え、山と森の間の様々な大きさの岩が並ぶ場所です。

皆思い思いの場所に陣取って蛙の後に続いて歌っています。

 にんげんはそんな歌う怪物たちを見て犬に、「なんで蛙はあんなに歌うの?」と聞きました。

だってにんげんも音を口ずさむ事はありますが、それが歌になる事は滅多にありません。

今までに音が歌になった事があるのは犬にお願いして犬に仰向けになってもらい、その柔らかい腹毛に全身で踊りこみ、思う存分もふもふと遊んだ時くらいだからです。

その時は思わず「もっふもふ!もっふもふ!犬のお腹はもっふもふ!犬のお腹は気持ちいー!もふもふもふもふももっふもふ!」と繰り返し歌ってしまいました。

そんな楽しい事がいつもあるの?とにんげんは聞きたいのです。

 それに対して犬は、「蛙の兄はな、生まれた時から歌っていたんだ。」と言いました。

にんげんが「生まれた時から?」と聞くと、「犬はそうだ。」と頷きます。

そして続けて、「だが始めの歌はただのゲコゲコ調子を変えて、音の高さを変えて歌うだけの歌だった。」といいました。

にんげんはゲコゲコゲーコゲコゲーコ、と胸の中で呟いてみましたが、これではちょっと楽しい歌と言えるかな?という感じでした。

 更に犬は続けます。

「その歌が変わったのは一度蛙が外に行ってからのことらしい。どうにも蛙は外で詩人という歌を歌う生き物と出会って、ゲコ以外の歌を知ったらしいんだ。」

そういうと犬は歌う蛙を眺めながらにんげんに言いました。

「外に出ると猫といい蛙といい、何かしら変わってしまうらしい。猫も昔は身体を果物や木の実で飾るなんてしなかった。お前も外に行ったら変わってしまうのかもしれないな。」と。

 にんげんは「変わらないよ。」と言いました。

「自分は森で犬とずっと一緒だから変わらない、一緒なのも変わらない。ここはそういう森なんでしょう?」とも。

それに対して犬は、「そうか、変わらないか。ずっと一緒だな。」と言うと、尻尾をニ、三度振りました。

犬はにんげんが一緒にいたいというたびに何故か嬉しくなるのです。

それは森から出た事のない犬の、にんげんと出会ってからの不思議な変化の一つでした。

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