にんげんと犬の大まかな話
これから先冷静に想像すると結構キモイといわれる部類の造形の生き物が出てきたりします。
そういうのが苦手な方はご注意ください。
あるところに大きな湖を囲む深い森と、更に森を三日月状に囲む山がある場所がありました。
そこには湖の深い深い底から湖の近くにある巨木より高いところまで届くお母さんが居ました。
お母さんは腕が六本、おっぱいは六つ、下半身は蛇で、綺麗な人間の顔を持った怪物です。
そのお母さんは日々一匹怪物を産みます、そんな事が千日続いた後、ピタリと子供を産むのは止まりました。
お母さんはもう子供は増えないのかと少しがっかりしましたが、もうお母さんには山のように大きい体に優しい気持ちの自慢の子供(その体はサイのよう)や、湖のそこでのんびりと揺れる大きなイカのような息子など、沢山の子供が出来ていたので「まぁいいでしょう」と言いました。
そしてそんな一般的に怪物と呼ばれるお母さんと子供達が暮らしている森に、ある日小さなかごが置かれました。
ソレを見つけたのは末の息子の大きな犬。彼は子供達の中でも特に鼻が良く、かごの中からただよう美味しそうな匂いを嗅ぎつけたのです。
彼ら怪物は月に一回お母さんからお乳を貰うだけで生きてゆけましたが、森の様々な恵みは美味しいと知っていたので、今回もその類だと思ってまっさきに駆けつけたのです。
そして匂いに釣られるままかごの中身を舐めると、おぎゃあおぎゃあと泣き声が響きました。
その声を聞くとなんだか哀しくなるので、中身はなんだろうと見てみると、お母さんを小さくして、蛇の部分を棒にしたような生き物が入っていました。
これはなんだろう?と思った大きな犬は、お母さんのところにかごを運びます。
すると物知りなお母さんは「それは人間です」と言いました。
犬に人間は解りません。でも、この生き物が泣くと哀しくなるということは解りました。
だから犬はお母さんにこの小さな生き物を兄弟に加えてくれるようにお願いしました。
お母さんは犬に微笑みかけるとあっさりとコレを許しました。
自分の乳を人間に分けることも、当然許しました。
そうして犬がお母さんから貰う乳をにんげんにも分けてあげていると、にんげんはすくすく育ちました。
短くぷよぷよしていた手足はすらりと細く伸びました。
まあるくしわくちゃだった顔は卵を逆さにして細くしたように整っていき、頭の毛も黒く艶のある髪が腰下までのびていました。
にんげんは赤ちゃんから少女へと成長したのです。
犬は日々変化していく不思議なにんげんの面倒を良く見ました。
伸びたとはいえ大きな犬の脚よりずっと短い足のにんげんを背中に乗せてあげたり、森の果物の美味しいものを教えてあげたり。
それは一番下の兄弟として教えてもらうばかりの犬には新鮮な日々でした。
そんなある日、森に一人の人間がやってきました。
その人間は鉄の鎧を着込み、立派に輝く金の飾りが施された剣を腰に下げていました。
その人間は村々を荒らすドラゴンを倒す方法を、伝説にある知らぬ物なしの湖の女神を求めて旅していました。
そして森を犬に乗って遊んでいたにんげんと出会ったのです。
人間は犬にのる裸のにんげんに驚き、声を掛けました。
ですがにんげんには人間の言っている言葉が解りません。だってにんげんは怪物達が使う言葉しかしらないのですから。
人間の言葉は解りません。
そんなにんげんの様子を見て、人間は何かいいながら剣を抜くと犬に襲い掛かりました。
これには犬と人間は驚きました。何せにんげんと似た生き物がきらきらした棒で犬を叩くからと、それが犬には痛くもかゆくもないからです。
遊んでいる、そう思ったにんげんは犬の上から降りると人間の前に飛び出しました。
これに今度は驚いたのは人間です。
振り回した剣を止めようとしましたが、その剣は止まりません。
そしてにんげんをばっさり切り捨ててしまうかと思われましたが、なんと剣はにんげんの肌を少しへこませただけで止まってしまいました。
そう、にんげんは人ではないお母さんの乳で育つうちに人ではありえない、とても強い体に育っていたのです。
その事を良く解っていないにんげんは犬に「今のなにが面白い?」と聞きます。
犬は「わからない。」と答えます。
人間だけが驚愕の表情で固まっています。
そんな人間をしばらく次は何をするんだろうと犬とにんげんは見ていましたが、何もしないのをみると飽きてしまったのかにんげんは犬に乗り森の中へと消えていきました。
犬はにんげんに「あれはにんげんの仲間じゃないか?」と聞きました。
にんげんは犬に「よくわからないからどうでもいいよ。」と答えました。
その後は特に何事もなく、毎日森の中を歩き回って遊んだりして人間と犬は過ごしました。
そして人間が老いて土に還るまで楽しく過ごしたのです。
一方、人間はその後気を取り直して湖を目指し、そこに聳え立つお母さんにドラゴンの倒し方を教えてもらいましたが…
それを実行する勇気が人間にあったかは、また別の話。