第1話
とある大陸中央部に位置する王国・麗蘭では、魔物が頻出していた。人々の平和を脅かすそれらを倒すため、国中の狩人が日夜休む間もなく討伐に繰り出していた。
「ラス……トっ!」
細身の青年が大剣で黒色の人型の魔物を切り裂いた。
斃された魔物は砂へと還り、空中で四散した。青年は大剣を背面にある鞘に仕舞うと、首を回した。
「ふぅ…、あいつらはまだやってんのか?」
青年は周囲を見回すと、数十メートル先で鳥型の魔物の返り討ちに遭っている少女の姿を認めた。
うっそうと茂る木々が邪魔でそこまで詳しく見ることはできない。
だが、なにか鬼気迫るように見えた。
青年は少女が見えるように素早く近くの大木に登り、凝視した。
―――――やられている。
見たところ、杖を掲げ、術の詠唱をしようとしているようだが、魔物らの数が少女の許容を超えるほど多く、発動の隙がない。
このままでは、少女はいずれやられてしまう。
「ちっ、あんのバカ!!なにやってんだよ!!」
見るに見かねた青年は、少女がいる方向に向かって枝を伝って移動した。
(間に合うか?!)
青年は焦っていた。
少女の状態を見る限り、相当やられた様子だった。
体のあちこちは突かれて傷だらけで、立っているのもやっとの状態。
その上防御術の詠唱すらできていない。
詠唱するだけでも莫大な集中力と精神力を消費するというのに。
早く助けてやらねば、少女は、……殺される。
「もう、だめかも…」
「風華っ!!」
少女が崩れ落ちるところを青年は抱きとめた。
肩で息をするその子は、瀕死の傷を負っていた。
もう戦える状態ではない。
「瑞紀…」
少女・風華は彼の目を見た。
曇りのない真っ直ぐな瞳を。
その直後気が緩んだのか、意識を手放してしまった。
風華の手から地面に滑り落ちる傷だらけの杖。
風華の体と杖を交互に見た青年・瑞紀は、少女を抱え目前の敵に向かい怒りをあらわにした。
「こいつをこんなにして、ただで済むと思うなよ…!」
そして背面の大剣を振り抜き、風華の小さな体をその腕に抱きながら敵に挑んだ。