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近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》の恋愛事情/南十星編Ⅰ
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030_0401 やる気ない彼とキスがしたいⅠ~空飛ぶヤコブ~

 空。


 過去に生まれた人々は大空に夢を()せ、幾度となく挑み、そしてその都度、夢破れた。

 しかし人々は(あきら)めなかった。それほどまでに空への情熱は熱かった。

 幾多の飛行機械を設計したレオナルド・ダ・ヴィンチ。

 熱気球で史上初の有人飛行を行ったモンゴルフィエ兄弟。

 そして、あのライト兄弟。

 彼らの情熱と偉業により、いつしか重力と常識に打ち勝ち、人は誰でも空を飛べる(すべ)を手に入れた。


 飛行機が飛び交い、飛ぶのが当然になった時代でも、空に想いを()せる者はいる。

 たとえば、風船で宙を浮く夢を見る子供たち。

 たとえば、将来パイロットを(こころざ)す学生たち。

 たとえば、空の向こう側を目指す宇宙飛行士たち。


 そして今、一人の少女もまた。


「あーい・きゃーん・ふらーーーーい!」


 修交館学院中等部校舎の屋上から、夏の青空に挑んだ。



 △▼△▼△▼△▼


 時間は少しだけさかのぼる。


「ふぇ? なっちゃん、今日から《魔法使いの杖(アビスツール)》持ち歩いてるんですか?」

「あぁ」


 放課後の校舎内で偶然会い、共に部室に向かいながら、堤十路(つつみとおじ)の話を聞いて、木次樹里(きすきじゅり)は驚いた顔を向けた。堤南十星(つつみなとせ)が転入した翌日には《魔法使いの杖(アビスツール)》の動作試験を行い、失敗したという話は、彼女も聞いていたからだ。


「部長も頑張ったみたいだけどな……」


 肩に学生鞄を乗せて、やる気なさそうに首筋をなでつつ、十路は詳しい説明をする。


「なとせの《杖》の不具合は、わからなかったらしい」

「や、なのに持たせて大丈夫なんですか? なっちゃん、自爆したんですよね?」

「だから使うなって厳重注意して、仕方なく」

「仕方なく、ですか」


 学生鞄と一緒に持った、赤い追加収納(パニア)ケース型のアイテムボックスを揺らしつつ、樹里は一応納得を示した。

 ワケありの《魔法使い(ソーサラー)》である総合生活支援部員は、いつどのような事態になるかわからない。夜中寝ている時に《魔法使い(ソーサラー)》としての活動を求められ緊急招集されたり、身柄や命を狙われることも考えられる。そんな時、あのような自爆《魔法》でも、なにかの役に立つかもしれない。

 それに現代の《魔法》は、知識と経験から作られるもの。いずれは有用な《魔法》も使えるようになるだろうという考えもある。

 だから原因不明の不具合があったとしても、注意して《魔法使いの杖(アビスツール)》を南十星に渡すのは、ある意味では正しい選択だった。部の責任者であるコゼットからすれば、究極の選択に近いだろうが。


「それにしても、なとせは《魔法使い》としてド素人だから、どうしたもんだか……」


 同時に、十路の悩みでもある。

 それに樹里は愛想笑いを浮かべて応じる。


「や~。半人前の私が言うのもなんですけど、気長に育てるしかないんじゃないですか?」

「まぁ、そうだな……木次(きすき)。部長と相談して、その辺を頼んでいいか?」

「ふぇ? 私ですか? 堤先輩の方がいいんじゃ?」


 実践的な《魔法》は、入部前に使ったことのない樹里よりも、十路の方が遥かに優れている。


「先輩。《騎士(ナイト)》って呼ばれるくらいなんですから、《魔法》に関しては部の中で一番詳しいでしょう?」


 史上最強の生体万能戦略兵器《魔法使い(ソーサラー)》の中でも、最強と目される存在とされている。

 その通称を持つ十路の方が、指導者として優れていると、樹里だけではなく誰もが考えるだろう。


「理論面では部長の方が上だ。あと、その名前で俺を呼ぶな……」

「あ」


 しかし十路はその通り名を嫌い、そのように扱われることも好ましく思っていないため、顔を盛大にしかめている。

 はっきりした定義はないが、《騎士(ナイト)》とは、《魔法使い(ソーサラー)》を倒した《魔法使い(ソーサラー)殺し(キラー)のことだと言われている。そこに嫌な思い出があって当然だろう。

 樹里にとっても、その単語を出したのは『ついうっかり』だったのだろう。とっさに謝ろうとした様子があったが。


「それに、アイツを《魔法使い》にするの、俺はどうも気が進まないからな……」

「あー……《魔法使い》って結局は人間兵器ですし、妹さんをそういう風にするのは……」

「だから押し付けるようで悪いけど、部長と木次に頼みたい」


 しかし、なんでもないように会話が続けられたため、樹里は謝る機会を逃した。

 頭の痛い新入部員の教育計画を話しつつ、十路と樹里は山の斜面に造成された階段を上っていくと、学校関係者でも詳しくは知らないだろう、敷地隅に建つガレージハウスが見えた。

 そこで二人は音を聞いた。やや離れた場所から響いたと思われる、砲声のような爆発だった。


「今の音は?」

「……小規模の《魔法》が実行されたみたいです」


 《魔法》を使う際には、《マナ》との通信とエネルギー譲渡で、強い電磁波のノイズが発生する。そして樹里は、《魔法使いの杖(アビスツール)》なしで《魔法》を使える異能を持つ。

 その異能で、《魔法》実行時の電磁波発生を感知したのだろう。十路の疑問に彼女は緊張した声を出す。


「なにかがこっちに近づいてます……」

「《魔法》の爆弾……? 誰かが俺たちに攻撃してきやがった……?」


 樹里と十路は即座に背中合わせになり、放課後の高校生のだらしなさをかき消し、緊張感を(あらわ)に周囲を警戒する。


「どこから来る?」

「上……って? 私たちが目標じゃない?」


 接近する物体のベクトルから、大きく外れて通過することを察し、樹里が小首を傾げると。

 部室前の空き地に、砲弾が着弾した。


「ぐぇるべぼっ!?」


 その砲弾は爆発もせず、めり込みもせず、中身がハミ出たようなイヤな悲鳴を上げて地面を跳ね返って宙を跳び、猛スピードの車にはねられたように縦に三回転ほどして落下。今度は斜めに立った状態で地面を音を立てて弾頭で(すべ)り、そして部室のシャッターにぶつかって停止、《魔法回路(EC-Circuit)》に包まれた弾体がポテンとうつ伏せに倒れた。

 飛んできた砲弾――腰にトンファーをぶら下げた女子中学生の壮絶な有様に、十路と樹里は絶句と硬直したが。


「を、をぉぉお……! 痛いっす……! 激痛いっす……!」


 その物体がゾンビめいた(うめ)き声を上げたの機に、二人の呪縛が解けた。


「うわあぁぁぁぁっ!? なっちゃぁぁぁぁん!?」

「なとせぇぇぇぇっ!? なにが起こったぁぁぁぁっ!?」



 △▼△▼△▼△▼



 部室を開けて、その中で事情を聞いた。


「なっちゃん……あれでケガがほとんどないって、どれだけ頑丈なの……」

「にはは」


 呆れ顔の樹里が《魔法》で治療するほどでもなく、バンソウコウを貼るだけで手当ては終わった。


「お・ま・え・は・ア・ホ・か」

「たいたいたいたいたいたいたい!」


 だから十路は目つきを悪くし、チョップ七連発。軽く頭に落としただけだが、鍛えられた彼の腕力では、受ける南十星にはそれなりの威力だった。


「禁止されてる自爆《魔法》で中等部から部室まで飛んできたぁ? なに考えてる愚妹?」

「だってさぁ、あんだけ吹っ飛べるんだよ? ショートカットに便利って思わない? 着地で思いっきし失敗しちゃったけどさぁ」

「…………」


 ヘラヘラした笑いを浮かべて反省の見られない南十星に、十路は無表情のこめかみに青筋を浮かべて、本気の鉄拳制裁で(しつ)けてやろうと指の骨をバキボキと鳴らす。

 陸上自衛隊の非公式特殊隊員だった十路がそんな準備を始めたら、殺ってしまう気にしか見えないだろう。樹里が慌てて彼の腕を掴んで押さえた。


「堤先輩! ここは! ここは押さえて!」

「大丈夫だ……せいぜい頭骨(ずこつ)カチ割る程度で済ます」

「ややややや! 先輩が言うと冗談に聞こえないです!」

「大丈夫だ……《治癒術師(ヒーラー)》がいるからなにも問題ない」

「私に治療させるの前提にしないでくださいぃ!?」


 家庭内暴力や体罰を超える行為の是非を、どこまで本気か不明ながら高校生二人が激論を交わす。

 そんな図を他人事のように、バスケットシューズを脱いでソファで胡座(あぐら)をかきながら、南十星は言う。


「兄貴。マジメな話、この《魔法》は逆に使わなきゃいけないと思う」


 おちゃらけた態度は一変し、真剣な顔で。ふとした時には別人のように態度が急変する、こういう部分がわからないから、十路は彼女を理解できずに苦手としている節がある。


「実際あたしはこんな《魔法》を持ってんだから、禁止するより使い道を探した方がいいんじゃない? あたしたちの立場からすっと、そうした方がいい気がすっけど?」


 南十星が言うことは、少なくとも完全な間違いではない。

 いつどんな面倒ごとに巻き込まれるかわからない、ワケありの《魔法使い(ソーサラー)》の立場を考えれば、実用性のある《魔法》を使えるに越したことはない。

 しかし十路は同意も否定もせずに、半信半疑の質問をした。


「なとせ……なんで自爆するのか、わかってるんじゃないか?」


 《魔法使いの杖(アビスツール)》と術式(プログラム)にはなんの落ち度もない。

 問題なのは使い慣れていないこと。

 南十星がそう言っているように十路には聞こえたが、彼女は小さく笑って否定する。


「《魔法》って無意識で自動的に作られるモンなんしょ? あたしがこーゆーの使いたいって思ってできたもんじゃないし、わかんないって」


 《魔法》は、不親切なゲームのスキルや魔法と似ている。

 キャラクターがそれを覚えて、その名前から大よその効果は推測できても、詳しい効果は使ってみるまでわからない。しかも防御系や補助系のものは、使ってみても効果がわからないこともある。


「あたしの能力なのに、わかんない。だから試す必要があるんだよ」


 強調する。

 《魔法》は無意識に、知識と経験から作られる。元となるものは自分の記憶の中にあり、そして当人ならば術式(プログラム)の内容を閲覧できるが、そこからの推測でも不可能なことが(まれ)ではあるが確かにある。


「それに――」


 南十星は親指をピッと立て、付け加えた。


「ロケットパンチ・気弾・自爆装置はロマンっしょ!」

「やっぱこの愚妹(ぐまい)は殴って矯正する」

「先輩ぃぃぃぃっ!」


 やはり反省が微塵(みじん)も感じられない南十星に、十路は拳を固めて踏み出そうとする。樹里はそれを止めようと、彼の腰にしがみついて必死の声を上げた。その内容はきっと彼女本人もよく理解していない。


「ロマン大事です! 人はロマンがないと生きていけません! 三度のご飯より大切なんです! その手のロマンは気弾じゃなくてパイルバンカーかドリルで私は理解できないですけどとにかくロマン大事なんです!」

「二一世紀の《魔法使い》にロマンなんて存在しない!」

「だから余計にロマン大事なんです! 先輩もロマンを抱いて生きていきましょう!」

「じゃあ木次はどんなロマン持ってんだ!?」

「胸がせめてあと一センチ大きくなると信じてます!」

「………………………………………………………………」


 かなり具体的で切実なロマンに十路は動きを止め、今の体勢では、そのロマンの(かたまり)が背中に押しつけられていることに気付く。

 服越しに柔らかい感触は確かにあるが、日頃ナージャが密着する感触と比較すると感じてしまう物足りなさと、『え? これでCカップ? いや、木次の見た目の細さから考えれば……思ったよりはある方か? でも……まぁ、うん、頑張れ』という感心と応援と、バスト七九コンプレックスを口に出させてしまった後悔と申し訳なさにより、樹里の腕を外させ、体を離し、振り返り。

 十路はそっと、壊れ物を触るよりもそっと、後輩のミディアムボブに優しく手を置いた。


「うわぁん……先輩の優しさが心に痛いですぅ……」

「悪かった、木次……俺が間違ってた……本気ですまん……」

「真面目に謝られるともっと傷つきますよぉ……!」

「だったらどうしろと……」


 空気を読んで謝ったつもりだが、涙を浮かべ始めた乙女心が理解できず、樹里の頭をポフポフなでつつ十路は困惑する。


「じゅりちゃん」


 こんな時こそ南十星の出番。いつの間に近づいたのか樹里の肩に手を置いて、『ほれ見ろ』と言わんばかりに自身の平たい胸元を叩き、優しい笑顔で言葉をかける。


「胸なんて飾りだよ」

「なっちゃんはこれから大きくなるでしょぉぉぉぉっ!」


 悪化した。そして南十星の発育不良については、ずいぶん好意的に見ている様子だった。


【あの……兄妹でジュリをいじめないでもらえません?】


 そんなやりとりに、ずっと黙っていたオートバイが止める。二人にそんなつもりはないと理解しつつも、一応を言った気配で。


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