030_0311 兄と彼女の絶対領域Ⅱ~生鶏肉/生牛肉/牛レバー(ライオン用)~
その時、十路のスラックスのポケットで、携帯電話が震えた。
昨日も同じように連絡があったのを思い出しながら電話に出ると、今度の電話はつばめではなかった。
『堤さん、いまお話しても大丈夫でしょうか?』
部室では聞かない、コゼットの他所行きの声がスピーカーから流れる。
「問題ないですけど……部長は今どこに?」
『警察署です。許可を申請していまして、その用事で足を運ぶ必要がありましたもので』
だからなのかと、十路は納得した。部員たち対しては、いつも地の性格を見せているのに、丁寧で優雅なプリンセス・モード時の口調で話しているのは、人が近くにいる場所から電話をかけているからだった。
『そちらにナトセさんはおられますか?』
「えぇ、いますけど?」
答えながら十路が目をやると、南十星が頭上に疑問符を乗せた顔つきを返した。
『でしたらご足労かけますが、今から指定する場所まで、お二人で来て頂きたいのですけど――』
△▼△▼△▼△▼
オートバイで南十星と二人乗りをしてやって来たのは、神戸市内からやや外れにある海岸だった。
須磨海浜公園。
《魔法》の発生源である『塔』が存在する立ち入り禁止区域である淡路島まで遠泳可能なので、この場所での遊泳は禁止されているが、水遊び程度なら問題はない。
夏休みに突入すれば子供たちの遊び場になり、夕暮れ移行はデートスポットとしても機能する。
その一角で、やはり出かけていたせいなのか、地味な色合いのブラウスと膝丈のスカート、薄手のロングジャケットという格好のコゼットと合流した。
「空き時間でナトセさんの《魔法使いの杖》を完成させましたし、行政の許可も取れましたから、ここで動作試験しますわ……」
電話で話した時とは一転し、覇気のないコゼットが説明するのには、さすがに十路もスルーはしなかった。
「部長、本気で大丈夫ですか?」
「ここんトコまともに寝てねーですからね……調整以外は一通り全部片付けて、今日はゆっくり寝させてくださいな……」
「はぁ。お疲れ様です」
「……もーちょっと気の利いた言葉かけてくださると、嬉しいのですけどね」
「俺に期待しないでください」
「はぁ……」
空気を読んで一応気を遣う様子は見せたものの、やはりいつも通りな十路に、コゼットは諦めのため息をつく。
「ぶちょー」
だから代わりに空気読める子・南十星が明るく言う。
「ぐっじょぶ!」
「……疲れてる時にテンション高いの見ると、なんかムカつきますわね」
「あたしにどうしろってのさ!?」
理不尽なコゼットは文句に取り合わず、南十星に向けてアタッシェケースを差し出した。
「これがナトセさんの《魔法使いの杖》ですわ……」
受け取った南十星が、空間圧縮保管コンテナを操作すると、二つに割れて機械の腕がそれを差し出した。
最新型新幹線を連想する流線型を描く八〇センチほどの棒で、その長さを一対二で分ける位置に、握りとして垂直の短い棒が立っている。
合成皮のベルトのホルスターに入れられ、さらに全く同じものがもう一本ある。
「トンファーですか? しかも二基も?」
「苦肉の策ですわよ……初心者用に設計したと言うか、欠陥をなんとかしようと足掻いたというか……」
その言葉に不穏さを感じる十路に、《付与術師》としてコゼットは説明する。
南十星の装備を設計する上でネックとなったのは、彼女の経験と身長だった。
現代の《魔法》は知識と経験から作られるもの。そして南十星は格闘経験者のために、脳内で生成されている《魔法》の術式は、その延長で効果が発揮されると予想する。
そして小柄な体格で大型の装備を扱うのは無理がある。以前の『動作試験』で、彼女が要望したことでもある。
ほか諸々の事情を鑑みて、ただでさえ小サイズで作らないとならないのに、格闘武器としての頑丈さを重視した外装を作り、残りの容量でオーバーテクノロジーと呼べる電子機器としての機能を詰め込み――
「結果、性能は低下……ただでさえ出力が低いのに、バッテリー容量は平均の半分以下という、欠陥品の出来上がりですわ……」
ゲンナリしたように、コゼットが話を締めくくった。
しかし南十星は口半開きのホケーッとした不得要領顔で、隣の十路に振り返る。
「どゆこと?」
「ゲームでいえば、最大MPと魔力が低くて、しかも遠距離攻撃が貧弱ってことだ」
「戦士系クラス? 武器の形がこれなら、あたしはさしずめ《武闘家》ってとこ?」
さっそく南十星はベルトを腰に装着し、ホルスターから二本のトンファーを抜いて構え、拳を突き出す。
すると軽い風切り音を発し、短い半径で回転する。格闘術の訓練でか、この手の武器を扱ったことがあるらしく、初体験の戸惑いは見られない。
慣れようと振るい続ける南十星の様子を見つつ、十路はコゼットに確認する。
「だから二基あるんですね。総量としてバッテリー容量を平均並にしようと」
「えぇ……おかげで一基を手放し、手元のもう一基で通信して使うっていう、変則的な使い方もできるようになりましたけど」
「それ、実際やれって言ってできます?」
「さぁ……? まぁ、そういう使い方もあるってことですわ」
「それにしても、《武闘家》……?」
「そんな分類、聞いたことありませんけどね」
そもそも《魔法使い》はそれだけで特殊であり、基本『なんでもできる』と見なされるのだから、特徴的な分類がされる方が珍しい。《騎士》《治癒術師》《付与術師》という特徴的な三人が集まる支援部の方が異常なのだ。
そして南十星もまた、普通の《魔法使い》とは言いがたい。しかも名前が意味するのは、『魔法使い』の対極と言っていい肉体派だった。
それに十路は、少々不安に思う。
「それで、ナトセさん。その装備、まだ名前ついてないですけど、なにかあります? なければわたくしがテキトーにつけますけど」
コゼットの言葉に動きを止めた南十星は、しばしトンファーを眺めてポツリとこぼした。
「……《比翼》と《連理》」
「ヒヨク? レンリ?」
留学生ながら流暢に日本語を操り、漢字も書けるコゼットだが、さすがに日常会話で使わない言葉までは知らなかった。
「比翼は片っぽしか羽根がないから、二羽で協力して飛ぶ鳥のこと。連理は木の枝が、別の木の枝とくっつくこと」
「二本一組らしい名前ですわね」
南十星の説明で納得し、ノートパソコンを起動させて、コゼットはその名前を打ち込む。
小難しそうな言葉の意味を、まともな計算もできない南十星が説明したのに十路は少々驚いたが。
(比翼連理って、男女の絆とか、そんな意味じゃなかったか……?)
そんなことを思い出し、奇妙な気分を味わった。
「さ、やってみましょう。起動はできますわよね?」
「ん。前に教えてもらった」
コゼットに言われ、南十星は意識する。大脳に生まれながらに持つ生体コンピュータ、そのモデムコンポーネント野と入出力コンポーネント野が起動し、ごく短距離の無線通信を発生する。
すると手にしたトンファーが起動し、検出用の《魔法》が自動発動。指紋・掌紋・静脈・骨格・DNA・脳波、六重の生体認証システムが本人確認し、脳との有線接続を示す《魔法回路》が両腕に形成。《魔法》を使うためのソフトウェア『ABIS-OS Ver.8.312』が起動した。
その途端、南十星は頭を抱える。
「うぉ……! あたまン中がうずくぅ……!」
「そりゃ二基も接続したら、混乱するでしょう。どちらか片方をメインに据えて、意識を集中させなさいな」
二台のパソコンを同時に扱える人間はいなくても、一台を集中して使えばいいだけの話だ。しかし《魔法使いの杖》の場合は、《魔法使い》の脳と無線接続されるため、直接流入してくる二基分の情報処理に、頭が混乱するのも当然だろう。
パソコンの一台のキーボードに手を添えて、もう一台は予備として視界の隅に入れておくようなイメージで、常人には体験できない奇妙な感覚に折り合いをつけたらしい。南十星は指を額に当てて違和感を示しつつ、次の指示を促がした。
「そんで、どうすんの?」
「モニタープログラムを起動。それでこちらへのデータ通信機能を開いて、駆動状態を寄越してくださいな」
「んと……こんな感じ?」
二一世紀の普通の科学技術では、マウスもキーボードも使わず『考えるだけで操作可能』というブレイン・マシン・インターフェースは研究段階だ。《魔法使い》でも最初は未経験の作業に戸惑うものだが、一度とはいえ以前《魔法使いの杖》を扱ったためか、南十星は思考操作を問題なく行う。
するとソフトを実行させたコゼットのノートパソコンに、樹形構造体が表示される。パソコンのエクスプローラーのように、生体コンピュータである脳機能野の状況が、外部からでもモニターできるようになった。
「次。脳内フォルダ展開、場所は第五六補助記憶コンポーネント野ドライブ、フォルダ名《EC-Program》」
「んと、これ?」
ディスプレイでもカーソルが動き、《魔法》の術式が格納されるフォルダが開かれ、中身が表示された。
それを見て、十路は眉根を寄らせて半眼になり、コゼットは口元を軽く引きつらせる。
「……なとせが使える《魔法》がゼロではないとは思ってましたけど」
「えぇ、まぁ……確かにゼロではないですわね」
「でも、ここまで見事に妹の頭が空っぽだと、すごく複雑な気分です」
「まぁ、ロクに《魔法》が使えないのは、昨日の話で予想できたと言いますか……」
「ちなみに参考までに、部長はどれくらい術式を持ってます?」
「三〇〇オーバーですけど……」
RPGのキャラクターが、同数の呪文やスキルを持っているのと同じことだ。
多分野で活躍する人間と、ある分野で一流の人間、どちらが優秀か無意味に論じるのと同じなので、単純に術式所有数が《魔法使い》の優秀さを示すわけではない。しかし物差しとしてはわかりやすいため、それだけ多くの《魔法》を扱えるコゼットは、最高クラスと評してもいいだろう。
そして表示されている南十星の脳内のように、たったひとつの術式しか持っていないとなると『それはちょっと……』と首をひねられても仕方ない。
「えぇと……とにかく、たったひとつ使えるこの術式、海に向かって実行してくださいな」
やることはやらなければならないと、気を取り直したコゼットに言われ、パソコンのディスプレイ上でカーソルが動き、『Kuhoh.scop』とある術式に合わせられ、実行される。
すると、ダボついたジャンパースカートは効果範囲外のようだが、南十星の体を覆うように《魔法回路》が発生した。
「あら、珍しい。身体能力に依存する常動型の《魔法》ですのね」
「やっぱり格闘術の延長で使うみたいですね」
光の電子回路で構成されたボディスーツ、とでも表現すればいい状態だ。コゼットと十路が話すように、それ単体では効果がなく、体を動かすことで機能を発揮するように思える。
《魔法》は基本的に考えるだけで使える。だから体も使わないとならない、このような形で実行される術式は珍しい。
「……で?」
「どうすりゃいいんですわよ、この《魔法》は?」
しかしなにが発揮されたのか、二人にはわからない。
そんなコゼットたちに、南十星は言う。
「やっぱアレじゃない?」
『アレ』がなにか不明で見守る二人の前から、波打ち際まで離れた南十星は、大きく息を吸いつつなにかを両手で持つような形にし、それを右腰の横に当てて集中する。
きっと三〇代~四〇代の男性ならば、幼少期に一度はそのポーズをやってみただろう。その時に叫んだ名前は、当時流行した格闘ゲームと、当時流行していたマンガで二通り考えられるが、気弾を放つところは共通している。
「ハァッ!!」
だから南十星も一歩踏み込み、気合を込めて両腕を前方に突き出す。
しかし東洋思想の気功と《魔法》は違うので、そんな事をしてもなにも出ない。
その代わり、大爆発が起こった。
「うおっ!?」
「きゃっ!?」
衝撃波を周囲にまき散らし、砂浜にすり鉢状の穴を開け、離れた十路とコゼットが猛烈な砂塵を頭から被る、激しい爆発だった。
そして爆心地にいた――というより、爆心地だった南十星はというと。
「んぎゃああああぁぁぁぁ~~~~…………」
悲鳴の尾を引いて、高々と夕暮れ近い空を舞い。
放物線を描いて落下し、遠く瀬戸内海に水柱を立てた。
「…………」
「…………」
新種のマリンスポーツのような射出高飛び込みを唖然として見送り、十路とコゼットはゆっくりと顔を見合わせる。
「……部長? なとせが吹っ飛びましたけど、なにが起こったんですか……?」
「わたくしにもサッパリ……」
「すごい事が起こった割に、アイツ、ピンピンしてますけど……」
「泳いでこっちに戻ってきてますわね……」
△▼△▼△▼△▼
夕暮れの砂浜を、トンファーを構えた南十星が好き勝手に動くたびに、側頭部でくくられたお下げが揺れる。
《魔法》によって筋繊維を強化しているためか、足場の悪い砂浜にも関わらず彼女は身軽な挙動で動き、多種の突き技と蹴り技を放つ。多分に自己流が入っているとはいえその動きはスムーズで、中国武術の演舞を見ているような力強さと流麗さがある。そして改造しただけあって、ジャンパースカートは動きの阻害にならず、上段の蹴りもスムーズに放てる。
「そこで実行!」
「ハァッ!」
コゼットの指示の直後、またも気弾のポーズと共に大爆発が発生した。
「気弾が出ないぃぃぃぃ~~~~……」
そしてまたも南十星は悲鳴の尾を曳いて、夕焼け空に撃ち出される。
「いや、普通は出ない。気と《魔法》は違うから」
繰り返されれば彼女が吹っ飛ぶのを、最初のように慌てはしない。十路は海に落下し、横泳ぎする南十星にツッコみ。
「あ゛ー、こりゃマトモに動作試験できそーにねーですわね……」
レジャーシートに座ったコゼットは、ノートパソコンを見て考え込む。
「『Kuhoh』って《魔法》を実行したら暴発……? どういうことですのよ……? まさか動作状況が正常にモニターされてない……? 部品が不良品だった……? 普通に機械作った時だと、動作プログラムのミスしか考えられないですけど……」
理工学科の大学生らしくコゼットは悩むが、それには十路が異議を唱える。
「《魔法》で暴発するようなエラー発生はないでしょう?」
「ですわよね……意図しない自己破壊は、自動回避されますし」
超常現象を科学的に引き起こす《魔法》の術式は、システムエンジニアも驚きの完成度を持つというのが通説だった。これは《魔法使い》が生体コンピュータであると同時に、生物でもあるからだと考えられている。
自傷行為に及ぶ動物は人間くらい――それもわずかな割合しかいないことから見ても、生物は自己破壊をしない本能を持っている。
だから知識と経験から術式が作成される際、暴発のように、想定外で自分を破壊するエラーが作られるとは考えにくい。少なくとも十路も、このような直接的な《魔法》の暴発事故は聞いたことがない。
「そもそも、今なにが起こってるんですか?」
コゼットは自分の《魔法使いの杖》である装飾杖――《ヘルメス・トリスメギストス》を手にしているから、十路は問う。周囲の全てを解析してしまう《魔法》のセンサー能力で、どんな現象が起こっているかは説明できるはず。
「ナトセさんが吹っ飛ぶ直接の原因は、熱力学制御による固体窒素の爆発ですわ」
大量の窒素を圧縮冷却して、急速過熱することで体積を膨張させれば、人が吹き飛ぶ程度の力は発生する。
窒素は空気の七割を占める気体のため、ほぼどこでもどんな状況でも使える。その上それを行う原理は、少し勉強すれば理解できる。だから《魔法使い》がよく使う基本的な《魔法》だった。
だが、実際なにが起こってるかを考えると。
「……自爆用?」
「いや、ありえねーでしょう……」
「だったら移動用?」
「障害物があったら、無様に激突して死ねますわよ?」
南十星が吹っ飛ぶだけという効果に、十路もコゼットも曇らせた顔を見合わせて、首をひねらざるをえない。
「そもそも『Kuhoh』ってなんですの? 名前から想像できないですけど?」
「ローマ字読みすれば『くほー』……? そんな言葉あるのか……?」
とある大作SF映画に出てくる、全身真っ黒な暗黒卿の呼吸音が、十路の脳裏に蘇る。
南十星の趣味は映画鑑賞で、そして《魔法》の名前も術式生成時に自動決定されるため、人生経験に影響される。
しかし、さすがにその映画とは無関係だろうと、すぐに考えを打ち消した。
「術式のソースを直接読み込めたら、話は早いですけど……」
「できませんしね」
《魔法使い》が持つ術式は、脳内に圧縮されて保存している。それは誰でも共通しているのだが、術式の拡張子――ピリオドで区切られたファイルの種類を示す部分が、《魔法使い》個人で異なる。
つまり、箱を開くための鍵は持ち主専用のため、仮に箱の持ち運びや複製はできたとしても、他人が中身を見ることも使うこともできない。術式の内容は《魔法使い》にとって最大の秘密なのだから、おいそれと知れるようになっていない。
「あ゛ーもう! わかんないですわっ!」
コゼットがノートパソコンを閉じて、装飾杖を投げ出した。
「原因不明ってことは、設計図から組んだ《魔法使いの杖》の回路まで全部チェックしないと……泣きそうですわ」
そして脱力して倒れかかり、隣に座る十路の肩にコテンと頭を乗せた。
彼女の心中は察するので、彼も跳ねつけることができない。だからコゼットの背中に手を廻し、励ますように軽く叩く。
「俺も手伝えればいいんですけどね……」
「《付与術師》じゃない堤さんには、無理ですわよ……」
「えぇ。そういう技術を持ってません」
「原因がわかってるなら、修正が難しくてもなんとかしますけど……これは本気で弱りましたわ……」
「うわぁ……」
「ま、これはわたくしの仕事ですし、最後まで責任持ってやりますわよ……」
不精不精ながらも、コゼットは自分を鼓舞するように責任感を見せる。
しかし十路から離れない。甘えるように頭を肩に乗せたままなので、彼も動けない。
以前の出来事で、そんな姿を普段は見せないが、コゼットが意外と気弱な面を持つ女性だと彼は知った。そして最近の彼女は、子供のように十路と言葉を荒げてぶつかる事がない。
『部長と部員』という関係が変化したわけではない。ただし以前のままとは言えない、小さく些細な変化がある。
例えるとすれば姉と弟のような。どこにいても姉は姉として、弟は弟として振舞うが、ふとした時になにか理由をつけて姉が弟に甘える、そんな関係。
(ナージャよりはマシだけど、くっつかれるとどうにもなぁ……)
しかしそんなことを考える堤十路一八歳、空気は読まない性格だった。
本人たちの心中はさておいて、夕暮れ時の砂浜で二人が寄り添う様はムードたっぷり。なにも知らない者が見れば、そういう男女だと思わない方が不自然な光景だった。
「…………」
「…………」
特になにを話すでもなく、沈む夕日を二人で眺めていると、規則的な波の音とは違う水音がザバーッと立った。
「あのー……」
それはビシャリと湿りきった足音を立てて、靴から水をあふれさせて、二人に歩み寄る。
「あたし忘れてイチャつかれたら、めっさムカつくんですけどー……」
「ごめんなさい! でもイチャついてたわけじゃないですわよ!」
「悪い……でも忘れてたわけじゃないからな?」
海草を頭に乗せて、海水をしたらせた南十星が低い声を出すと、妖怪じみていてかなり怖かったので、二人は慌てて謝った。




