表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》の世界事情/コゼット編
40/640

020_0910 貴腐人王女と丁寧ヤンキー王女Ⅳ~Fortnight~


 王女という肩書きを持つとはいえ、コゼットの暮らしぶりは豪奢(ごうしゃ)ではない。天蓋(てんがい)付きのベッドがあるわけでもない。アンティークな家具を置いているわけでもない。

 《魔法使い(ソーサラー)》たちが暮らすマンションの三〇二号は、色彩や配置は機能的で品の良さを感じるが、大型家具店で買ってきた物ばかり。部屋の広さだけは破格だが、暮らしぶりはごく普通の学生の一人暮らしと言っていいだろう。


 ただ、彼女の印象から少々意外なのが、ヌイグルミが多いこと。大小関わらず多数、部屋の一角を侵食する量が置かれている。


「……ったく」


 帰宅したコゼットは荒い動作で、トートバッグと空間制御コンテナ(アイテムボックス)をベッドに投げ出した。

 そして玄関ドアに引っかけられたビニール袋のディスクを確認する。


 ハードケースにはマジックで『前に話した仕事の件 byつばめ』と書かれている。機密性が高い情報だから、メールで送付せずに直接手渡そうとしたのだろう。

 『仕事』がなんのことか理解できなかったが、しばし考えて思い当たる。


(あー、部員になるか不確定のがいるから、新しい《魔法使いの杖(アビスツール)》作るとかなんとか、前に理事長言ってましたわね? 本気で作れっつーことですの?)


 ノートパソコンを立ち上げ、早速そのデータを読もうとして。


「……ふぅ」


 やめた。


 《付与術師(エンチャンター)》としての仕事は、文句を言いつつも、楽しんでやっている。

 《魔法使いの杖(アビスツール)》は軍事兵器並みに高価で希少な電子機器だ。普通ならば手にすることもできないそれを、まだ大学生の身分で好き勝手にいじれるのだから、興味がないわけない。

 そういう意味ではコゼットは、根っからの技術者なのだろう。


 だけど今は、気分が乗らない。

 金髪頭をガリガリかいて、深々とため息をつくと、ベッドに体を投げ出した。シャワーくらいは浴びたいし、化粧を落とさなければならないと思うが、酔いも手伝って動くのが面倒くさい。


(堤さんに勘づかれましたわね……具体的にはなにひとつわかりゃしねーでしょうけど、あの人ですからね……)


 抱き枕にできるほど大きい、イルカのヌイグルミを抱きしめて、怒涛(どとう)のように過ぎ去った時間を反芻(はんすう)する。


 結果論に過ぎないが、十路を巻き込んだのは失敗だったか。

 他人の心情に頓着せず、空気を読めていない言葉を吐くのは彼のいつもだが、本当に空気が読めない人間ではない。むしろ今日の一件で(さと)いとすら感じた。


(わたくしがワケあり《魔法使い(ソーサラー)》である理由なんて単純ですし、すぐ想像できますものね……)


 魔女の呪い。

 そんな非科学的な言葉が脳裏に浮かぶ。


 クロエ相手に去勢を張るのが精一杯だったから、彼女の目的がどうにも知れない。

 恐れていたことが現実になるのではないか。そんな懸念を消すことができない。


 どうするべきか。いや。


(どうこうしたところで、どうしようもないことなんですわよね……)


 それが高貴なる血筋(ブルーブラッド)の定め。良くも悪くも歴史や誇りを生まれ持ってしまう。たったひとりの肩に、何百人もの先祖たちがしがみついてくる。


 魔女の塔を離れたことで初めて明らかになる、決して逃れることができない、ラプンツェルにかけられた呪い。


(ま、すぐにどうこうなるっつーこともねーでしょうし……)


 日和見というよりは諦め。言い訳だと彼女自身も理解している。


 だが、曲げるつもりはない。

 目が覚めれば現実が待っているとわかっている、泡沫(うたかた)の夢に浸ってるようなもの。いつか来る時が来てしまったかと思う程度。


 好まざることだと理解していても、彼女はそれを無理に変えたいとは望んでいない。

 『魔法使い』ではなく《魔法使い》――なんでも可能な神通力に等しい力の使い手ではなく、常人よりもできることがほんの少し多いだけの人間だから。


 コゼットは寝転がったまま、ベッド脇のサイドボードに手を伸ばし、日頃開けない引き出しを開ける。

 そして日頃出さない、伏せたまま入れていた写真立てを引っ張り出す。


 小さな額に入っているのは、家族写真だった。

 子供たちの顔には緊張が浮かんでいるが、大人たちはリラックスして微笑を浮かべている。

 背景にも着ている服にも、写真館でプロに撮影されたような堅苦しさがフィルターされているが、彼らの普段を思えば簡素とすら言えるだろう。


 まだなにも知らずに済んだ、幸せだった時間が封じられている。


(息の根止めるつもりなら、サックリやられたほうが、こっちも楽なんですけどね……)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ