020_0901 貴腐人王女と丁寧ヤンキー王女Ⅲ~Force quit~
十路が出した姉妹の話を打ち切る言い訳は、完全な出まかせだ。
しかしホテルを出て、なんとなくの流れで、本当にコゼットと共に夕食を取ることになった。
「ったく、くだらねー時間使わせるんじゃねーですわよ……!」
コゼットは一気に空にしたグラスをテーブルに置くと、手を上げて次をオーダーする。
「つか、なんでこのお店? わたくしが金出すからっつって、思っきりタカる気ですの?」
そして頬杖をついて、下から軽く睨み上げてくる。
ふたりが入ったのは、小さなイタリアンレストランだ。薄暗く、カウンター周辺にワインボトルやグラスが並ぶ雰囲気、また高級店でもないことから、洋風居酒屋と呼んだほうがいいかもしれない。見た限りフードメニューもかなり充実しているので、レストランと呼んでも構うまい。
「そこは割り勘のつもりですけど……」
ならファミレスがよかったかという不満は、ジンジャエールで飲み下してから、十路は答える。
「女性相手に初めて一緒に外食するなら、イタリアンって選択が無難。それと部長がウサ晴らしに酒飲むのは、なんとなくわかったので。あとはまぁ、俺の都合?」
「この時間に学生服で入れて酒が飲める店……チェーン店とかだと断われるでしょうね」
アルコール飲料を提供しなければ二二時までは問題ないが、店の雰囲気や風紀の問題、もし未成年者飲酒があれば提供した側が罰せられることから、あからさまな学生の入店は断る店も多い。
この店はどうかと入店直後に確認したが、個人経営の大らかさなのか、年上彼女とのデートとでも思われたのか、問題なかった。
「でも女が全員イタリア料理好き、って決め付けるのはどうかと思いますわよ?」
「嫌われることも少ないから『無難』ですよ。部長だったらすぐ馴染みそうな気がしなくもないですけど、赤提灯の居酒屋でおでんと焼き鳥と焼酎とか、ハードル高すぎでしょう?」
「……なんか店入ったらシーンとさせて、一〇分後には作業着のオッサンと飲んでる自分が想像できて、ヤなんですけど……」
建築・土木関連で働いている人が仕事終わりに居酒屋で飲むというのが既にある種の偏見だが、部活の後始末で電機にも土木にも詳しい技術者の卵であるコゼットなら、さぞ話が合うに違いない。
「かといって高級フレンチとか、オシャレ居酒屋とか、ワンチャン狙ってる感出しまくりじゃないですか。突飛でもないのにそこそこ特別感があって、あと女子まっしぐらチーズ・パスタ・パン・スイーツが網羅できる。ランチなら別の選択肢もありますけど、初めて一緒にディナーって場合には、イタリアンは丁度いいんです」
「それ、日本人相手の想定でしょう?」
「部長は違うんですか?」
「いやまぁ、わたくしも結構日本に染まってますからね……」
言葉を濁した純ヨーロッパ人、お通しの南蛮漬けを箸でつまむ。賛同はせずとも否定もしないなら、無難な選択であるのは間違いないだろう。
「にしても貴方、高校生のクセして妙に女慣れしてますわね?」
「キッシュとマカロンが好きとかヌかすヤツは信用できない程度には」
「一度本場のを食え。日本で食ったのは正直わたくしもイマイチと思いましたけど」
どちらも男性が嫌い、女性が好む食べ物の代名詞のように言われるが、美味いものは男性が食べてハマることがあるし、不味いものは女性が食べても嫌がると付け加えておく。
ちなみに十路が女性慣れしていると言えるなら、姉貴分ともうひとり――南十星のせいだ。決してプレイボーイなどではない。
姉・妹といった友人以上に身近で歳の近い女性は、男性が夢想する理想の女性像をブチ壊して現実を教えてくれる。そのくせ女性が抱く理想の男性像を体現しろと要求してくる理不尽存在でもある。特に自分が年下の場合が厄介で、逆らうことは実質不可能だと思っていい。同性同士なら下は反発するのがほとんど。兄に逆らう妹など珍しくもない。けれども姉貴分に逆える弟分など地球上に存在しない。(※あくまで個人の見解です)
注文した料理がテーブルに並び始めたので、会話は一時中断される。
店員が去り、新たに運ばれたワイングラスを傾けてから、コゼットはテーブルに視線を落としたまま、意を決したように口を開いた。
「…………申し訳ありませんでしたわ」
「なにが?」
殊勝な謝罪が唐突で理解できなかったから、十路はシーザーサラダのトングを止めて問い返したわけだが、疑問にコゼットは『察しろ』と言わんばかりに目を険しくさせる。
しかし反射的に怒鳴るような真似はせず、カルパッチョに手をつけてもいないのにモゴモゴして言葉と感情を選んだ。
「いえ、その……今日巻き込んだことと……それと昨日、殴ったこと」
こんなに早く、彼女から折れるとは思っていなかった。あるいは普通にしゃべっていたから、なぁなぁになるかと思っていたので、十路は微かながら驚いた。
サラダ二口分を小皿に取り、姿勢を正し無言でその先を促すと、コゼットは肩に落ちる金髪を指に巻きつつ続ける。
「その、まず……結果論かもしれねーですけど、あの変態との話し合いに付き合わせたのは、失敗だった気がしてならねーですし……」
「……それについてはノーコメントで」
事実と思うから否定はできない。でも肯定もしにくい。あの変態は、そう評している当人の姉なので。
「しかも、姉相手に張り合うのと、堤さん相手に張り合うのとを、一緒くたにするのはどうかと思いましてね……」
「はぁ。だから俺との問題を解決しようと」
逆を言えば、姉妹間の確執は解決する気がない。十路はそちらが引っかかるが、今は関係ない。
「いえ、まぁ、そういう気持ちもなくはないですけど……今日でも世話になってるのに、堤さんとケンカしっぱなしってのも、不義理かなぁ、と……」
アドリブで連れ出したことを、恩義に感じるほどだろうか。
なんでもいいから謝る口実が必要だっただけか。
男前な性格をしているが、至極当然コゼットは女性だ。謝罪までの経緯が、男性的な理屈によるものではなく、女性らしい感情的な支離滅裂さが多分に含まれている。
とはいえ、どうでもいいこと。人類有史何千年かけても埋まらない男女の差だから、これ以上納得する必要もないし、不用意に突っ込めば問題を深めるだけ。
「わかりました。俺もまぁ……不可抗力でしたけど、見てしまったことは事実ですから、そこは謝ります」
さすがにこんな場所で『全裸を見て』などと言わずに十路も頭を下げて、これで手打ちとすると、彼女は安堵の息を漏らした。
「ただ、今日のことは少し気になるから、話せる範囲で聞かせてください」
でもまた息を止め、警戒で体を小さく振るわせる。
「部長とクロエ、本当に姉妹なんですか?」
「まだ片方でも親が違うっつーなら救われますけど、残念ながら同じ両親から生まれた姉ですわ……あんな変態と同じ血が流れてるなんて、自分でもイヤになりますわ……」
そこは十路も疑ってはいない。念のためで訊いたに過ぎない。
「あんな特殊な日本語、誰に教わったんですか?」
「ウチの国に長期滞在していた日本人……貴方もご存知ですわ」
「は?」
「今日、部室で会ってますわよ」
言われて思い出すが、出発前の部室にいたのは、いつものメンバーだ。初対面の野依崎もいたが、違いはそれだけ。
「あと、わたくしにも子供の頃に、いま話してる日本語を騙して教えやがったのも、同じ人物ですわ……」
コゼットの嫌そうな顔と言葉で、十路は確信した。年齢と性格から消去法で、該当人物はひとりしか残らない。
長久手つばめに違いない。
「あの人、遠くの国でなに愉快で迷惑なことやってんだ……」
「自分の日本語が一般的じゃねーって知ってから、学び直すのにメタクソ苦労しましたわ……」
学び直したそれが、プリンセス・モード時に使っている、どこに出しても恥ずかしくない優雅な丁寧語なのだろう。
ただし地方出身者が上京して標準語に染まっても、実家から電話がかかると方言が飛び出すように、地の時に丁寧ヤンキー語が出るのは不可避らしい。
まぁ、現状のコゼットを見ると、先見したベストマッチとも言える。言語に性格が引き寄せられた可能性も考えられるか。
「子供の頃って、部長と理事長、そんなに付き合い長かったんですか?」
「もう一〇年以上の付き合いですわよ。わたくしが去年の春から留学してるのも、その縁ですし」
「理事長もまだ学生の歳ですよね? どういう関係だったんですか?」
「家庭教師と思っていただければ結構ですわ。語学・数学・理学・工学いろいろ……特に材料工学と物性物理学、電気・電子・集積回路設計」
「え?」
つまり《付与術士》としての師はつばめで、コゼットは幼い頃から現状を想定した教育を受けていたことになる。
「それとチェスも教わりましたし……BLも吹き込みやがってクロエがどハマりしましたけど……」
「それも理事長が原因か……!」
昔から変わらないらしい奇行の結果、怪物と生み出してしまった罪人の話は、興味あるが想定外のものだ。また機会があれば聞けばいいと流して、十路は話の流れを修正する。
「なんでクロエ王女に突っかかるんですか?」
部員全員が国家の管理を離れたワケあり《魔法使い》であり、その経緯はどうせロクなものではないという共通認識があるため、支援部には互いの経歴の詳細を訊かない暗黙の了解がある。
それに触れる行為かもしれないが、知る必要があると判断し、聞けるギリギリまで攻める。
「王家にお決まりの王位継承権的な理由とか? 部長の国に女性も継承権あるか知りませんけど」
「あるからわたくしも持ってますけど、そんなの絶対王政だった近代以前の話ですわよ……いやまぁ、『君臨すれども統治せず』の立憲君主制になっても、制限加えられるだけで、権力ゼロじゃねーですけど」
「日本の天皇でも象徴とはいえ、総理大臣とか最高裁長官の任命権とかあるわけですし。本当になくても忖度して云々みたいなのはあるでしょうね」
「ンなのが嫌だから、継承権欲しいヤツには、熨斗つけてくれてやりたいですわ。そうなるこたぁねーでしょうけど、なんかの間違いで女王即位なんつー今以上にパンダ扱いされる未来なんぞ、死んでもお断りですわよ」
当事者にしかできない主張だろうが、王族というブランドは、かくも軽く扱われていいものだろうか。
「渡せるものじゃないから、お家騒動は起こるものだと思いますけど?」
「継承権そのものは渡せなくても、明け渡すことはできますわ……ともかくわたくしは興味ねーですし、しかも姉ですから順位はクロエが上。それがケンカの原因になりゃしねーですわよ」
「人格の問題で入れ替わる可能性は?」
「…………多分、ないかと」
不敬と言われかねない、すごく否定しづらい想定に言葉を詰まらせたが、気を取り直したコゼットは真面目な顔に改める。
「貴方には、生涯の敵はいませんの?」
「普通いないでしょう?」
「程度の差はあれ、絶対に分かり合えない相手なんて、誰でもどこかで出会うものですわよ」
「部長の場合、それが姉貴だと?」
「家族だからって関係ねーですわよ」
「ふたりとも地の性格全開でやり合ってるの、見苦しいですよ?」
「化けの皮かぶったまんま、あの女と張り合えるかっつーの……」
そういうものだろうかと、内心で首をひねる。
いや、変ではない。あのくらい仲が悪い姉妹など、世の中にいくらでもいるに違いない。兄弟姉妹すべて仲良しこよしであれば、遺産を巡る骨肉の争いなど起こりはしない。
でも。
矛盾しているのは十路自身も理解しているが、納得できない。
「……これでも、クロエには感謝してますわよ?」
散々こき下ろしたからか、眉根を寄せて気まり悪そうに、コゼットは付け加える。
「『国を追い出してくれてありがとう』って」
「日本に留学したくなかったんですか?」
「そうじゃねーですけど……周囲はわたくしの留学に反対でしたのに、クロエは支持したのですわ」
「またどうして?」
「さぁ……? あのいけ好かない女に、どういう思惑があったのか知らねーですけど……お陰で今こうして、のん気に酒飲んでいられる身分になってんですもの」
そう言って彼女はグラスをあおる。
庶民の自由に憧れる上流階級層のワガママにも取れるが、コゼットの場合は確実に違う。
《魔法使い》という特殊な人種なのだから。姉との確執もそれが理由だろう。
確証はないが確率的に、クロエは《魔法使い》ではない。
先天性遺伝子異常といえど、《魔法使い》が発症するオルガノン症候群は、血縁とは無関係とされている。ただでさえ稀有で出現から三〇年しか経ていないため、今後データが集まれば覆る可能性もあるが、今のところそれが通説となっている。十路が知る限り、血族六親等内で《魔法使い》が複数生まれたのは、一例しか存在しない。
普通の人間と《魔法使い》は、表面部分は同じでも根本が違う生物だから、差を認識すれば仲良くできるはずがない。
しかし周囲がコゼットの留学に反対したのに、クロエが賛成したという話は、単純に考えて矛盾する。
なにかある。
その延長線上に、クロエが神戸にやって来た理由も。
ホテルを去っても低レベルの警告を続ける、トラブル回避本能を刺激するなにかが。
「もういいでしょう……?」
だが、これ以上は暗黙の了解に触れるらしい。まだ十路が踏み込んでくる気配を察したか、コゼットが顔をしかめた。
「貴方、デート中に他の女の名前出して、嫌われるタイプでしょう?」
「あいにくと、そういう経験ないんで」
「ったく……メシマズな話題振ってくんじゃねーですわよ。少しは空気読みやがれ」
「俺になに期待してるんですか?」
「あーそうでしたわね。こう言っても開き直って直そうともしやがらない、ド失礼な方でしたわね」
店の中だから大声は出さないが、空気がまたも険悪になっていく。
「だから貴方は嫌いなんですわよ」
そしてお決まりのセリフを吐き捨てた。
だがその後が違い、彼女は後悔の形に顔を歪め直した。喧嘩の件を謝って手打ちにしたばかりなのに、つい口を滑らせたと、ちゃんと認識している。
十路はどうリアクションするべきか、咄嗟の言葉を抑えて迷った。
コゼットに好かれたいとは考えていない。人格面を否定しても他で評価し、部長・部員間で問題ないなら、それでいいと思っている。十路も彼女の人格、特に二面性を発揮したプリンセス・モードを気持ち悪いと思うから、お互い様だ。
とはいえ馬鹿正直に『好かれようと思っていない』などと口にしたら、またケンカになるのは目に見えている。というか実際そうなった。
首筋をなでながら迷っていると、不意に十路の脳裏に過去が再生された。
あれはいつだったろうか。姉貴分の理不尽さに文句を言った時なのは覚えている。
――女に振り回されることこそ男の美学!
――女の立場を守るためには男のプライドなんてゴミ!
――言いたいことがあってもグッと我慢!
――はい復唱!
そんな教えを拳や蹴りと共に叩き込まれた。
「ちょっと……急に目が死にましたけど、どうしたんですの……?」
「嫌な思い出がフラッシュバックしただけです……」
アレと比べればコゼットの『嫌い』など、まだ笑って流せる。
というか泣きそうな気分になってきたので、リアクションどころではない。
△▼△▼△▼△▼
十路は割り勘のつもりだったが、結局コゼットが奢ると主張したので、甘えることにした。
一足先に出て待っていたら、店内の会話をセンサーで捉えていたのだろう。店前に駐車しているオートバイが話しかけてくるので、発進準備のついででヘルメットを被り、無線で応じる。
【トージはなにを懸念しているのですか?】
「イクセス相手にこんなこと言うのもどうかと思うが、勘としか言えないんだよな……」
【どのような?】
「……お前、AIだよな? 理屈とか論理的説明とか求めない?」
【それを判断するための『どのような?』です。私はトージたちがホテルで話してる間、駐車場にいたんですから、店内の会話だけでは情報が足りません。それに《使い魔》のコミュニケーションシステムを、人間のファジーさを認識すらできない低級AIと一緒にしないでください】
「いや、話が通じるなら、それに越したことはないけど……」
人間的すぎる人工知能に釈然としないものを感じながらも、イクセスがある程度は情報を持っているものとして、十路は簡単に説明する。
「部長の姉貴っていう王女サマ、エキセントリックさで隠しちゃいるが、相当な策略家だと思う」
【その辺りもツバメの教えですかね?】
「大人の悪いところは見習うタイプっぽいよな……それより俺の印象としちゃ、一緒にいたメイドが王女サマ以上に怪しさ爆発」
街角で職務質問を受ける不審者とは違う。いや、あのメイド服で歩いていたら職質を受ける気がするが、そういう意味ではない。
ロジェの印象を言い表すなら、ライオンの側にいる鷹だ。寄生虫を食べることで大型哺乳類と共生関係にある鳥とは違う、なぜ一緒にいるのかわからない違和感を覚えた。
【トージの元お仲間とかですか?】
「護衛に軍関係者がいても不思議ないけど……それを差し引いても、行動がらしくない」
十路が王女たちに近づいた際、護衛ならば護衛対象に近づいて警戒するだろう。だがロジェは、背後を取って銃を頭に突きつけるような気配を放ってきた。
「あくまで守る側じゃなくて、攻める側って感じか?」
【MBTI型性格診断での、ISTP型、でしょうか? 冷静沈着。手先が器用。一匹狼気質。スリルを求める……狙撃手に多いタイプです】
「印象は似てる」
【私から見ると、トージも同タイプですけど。なにがなんでも対象を守る盾ではなくて、逸早く脅威を排除する矛って感じですし】
「確かに俺も護衛は苦手だったけど……『校外実習』で誰かを救出して脱出するような時、俺が先陣切って大規模破壊するか、殿になって大規模破壊するかのどっちかだったし」
【……《騎士》という通称が、悪名高いわけです】
「うるせぇ……」
呆れたような感想は十路も自覚ある事実なので、反論に力を乗せられない。『だってそれが一番早かったし。護衛対象巻き込まなくて済むし』という言葉もなきにしもあらずだが、口にはしない。
【もし何事かあれば、トージはコゼットを守るのですか?】
「さぁ?」
【突いておいて『さぁ?』って……】
「何事か起こる想定で訊いただけで、実際起こってその時になってみなければ、なんとも言えない。情報不足でどうすればいいのかわからないし、俺は完全に部外者だ。部長が手伝い欲しがるなら、その時にまた考える」
【欲しがりますかね? 気位が高いというか、お高くとまってるというか、あのクソ生意気なコゼットが】
「…………」
率直すぎる評価に十路は引く。
そして今更のように思い出す。イクセスはキツい物言いだが、十路相手に使う言葉は、コゼット相手と比べるとマイルドだ。『クソAI』呼ばわりされるから相応の反応をしてるだけだろうが、根本的に短い付き合いなのにどうして仲が悪いかは知らない。
「イクセスって、なんで部長にケンカ腰なんだ?」
【王女サマ~な澄まし顔を見ると、歪ませたくなるからです】
「性格悪っ……!」
【お行儀よくしてるのが、あの女の本性なわけないでしょう? ギャーギャーわめくのがお似合いなんですよ】
「…………」
とりあえず、この人間味あふれるオートバイなりに、コゼットを理解していることは納得した。理解の方向性が正しいかはさて置いて。あと十路もプリンセス・モード気色悪いと思ってるのも棚上げにして。
【ま、それすらも仮面かぶってるんでしょうけど……】
意味深な言葉を問い返そうとした時、店の扉が開いてコゼットが出てきた。十路は反射的に振り向いて、カメラのモーター音が鳴ったので、イクセスも注目したのがわかった。
「なんですのよ……?」
「いえ、なんでもないです」
怪訝げなコゼットにヘルメットを渡して『これが引っぺがしたくなる顔か……』などと思ったのは誤魔化す。空気は読めずともトラブル回避本能が働いた。
アルコールと果実の匂いがする息を嗅ぎながら、また十路がヘルメットの顎紐を締めると、コゼットはリアシートに跨る。レディースジーンズなのでなんら問題ない、学院を出発した際にもホテルから出た際にも行われたことだ。
けれどもその時とは違い、オートバイがボソッとこぼす。
【……入店前と比べて体重二キロ増】
「それ以上言ったらスクラップにすっぞテメェ」
食事で一キロくらい増えるのは普通で、酒摂取がプラスされているから、飲み会の際にはよくある体重増加に過ぎないが。
平気でタブーに触れかねないオートバイに、コゼットはドスを利かせた。




