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近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》と《塔》/麻美編
372/640

060_0400 異変は既にⅤ ~幼女~


 慌しい一日を過ごした支援部員が勢ぞろいしたのは、陽が完全に落ちて、昨夜と同じように焚き火を囲む時間となった。囲むとはいっても、まだ夕食は調理中だが。


「各自、今日の仕事について報告してくださいな」


 料理よりも部長職を優先させるコゼットの音頭に、まず海洋調査を行った南十星(なとせ)が左手を挙げた。右手は熱湯で満ちた鍋に投入しようとする、塩揉みしたタコで塞がっている。


鳴門(なると)のウズシオに揉まれてきた。ちょっちオモロかった」

「どこまで行ってますのよ」

「そこまで行かないと魚いなかったんだもーん」


 鳴門海峡は淡路島の南部、島と四国とを隔てている側だ。大阪湾は東部なのに、なぜそこまで足を伸ばすのか。渦潮に巻き込まれた件は、当人があっけらかんとしている以上、『アホの子(なとせ)だし』で流して誰も心配などしない。


「大阪湾の水と海底土壌から、基準から外れた汚染は観測できませんでした」


 ちゃんとした報告は、釘打ちしたアナゴを見事におろすナージャから続けられた。口と手は同時に動いている。


「ただ、淡路島東部は、生き物が異常なほど少なかったです。魚はもちろん、海草や貝もいなくて。だから捜索範囲を広げたんです」

「派手に()りましたから、魚が逃げ出すのはまだしも……動かない生物もいない?」

「わたしたちで調べられる範囲では、原因は不明でした。詳しくは採取したサンプルと、記録したデータを参照してください」


 それ以上の回答を持っていないナージャは、『あとはそっちでなんとかしてくれ』と、コゼットの疑問を打ち切らせる。

 彼女もそれを理解したのか、マグカップの紅茶を揺らしながら、十路に視線を向けてきた。


「《塔》組は?」

「航空障害灯の設置は完了。全部ちゃんと点灯してるか、後でチェックしに行きます」


 十路も視線を移すと、昨日と(おもむ)きが異なる《塔》が見えた。各所で小さな光が(またた)いている。見たところ電力供給とタイマーはちゃんと機能し、北側から見えるものは問題なさそうだが、逆側は移動して確かめるしかない。


 料理をしている樹里に、なにか補足あるか、一応目を向けた。

 彼女もコゼットの言葉に顔を上げていたが、十路の報告で充分と考えたか。彼に視線に気づいた様子もなく、口を開くことなく視線を下ろし、吹きこぼれる飯盒(はんごう)を火の弱い場所に移動させる。


「ちなみに《ヘーゼルナッツ》に関しては、まだ完了してませんわ。やっぱり武装関連は査察団のチェックが厳しくて、(はかど)りませんでしたわ」


 (さば)くのに難儀しそうな中途半端な大きさの魚をぶつ切りにし、次々と鍋に放り込みながら、コゼットが自己申告する。王女様のお手製料理は、男くさい漁師風になりそうだった。


「艦専用に改修されてる武装もありますからね……さすがに過積載なタイムスケジュールの無理が出ましたわ。それと、堤さんには個別に相談がありますわ。ここだと誰が聞いてるか不明ですから、後で」

「はぁ……」


 十路の専用装備の件については、端折(はしょ)られた。知らない十路は何のことか、当然ながら理解はできず推測もつかないが、『後で』と言われたか深くつっこまない。(たきぎ)が多くて火が強くなったので、網焼きの魚を避難させる。


「明日の予定は?」

「あとで理事長がこっち来るそうですから、相談してからですわね」


 ともあれ、夕食を完成させて、食べてからだ。

 そんな空気を破壊して、突如サイレンが鳴り響いた。静寂なはずの無人島に響く大音量に、鳥が一斉に羽ばたいた。

 支援部員たちは、料理器具を装備に持ち換えて立ち上がった。

 《バーゲスト》が側にいない十路も反射的に周囲を警戒したものの、事態がわからない。他の部員たちは《魔法使いの杖(アビスツール)》と接続し、脳内センサーを働かせて見回したが、やはり事態が把握できないようで、警戒以上の行動を行わなかった。


 例外は、警告音の発生源と機能を接続し、直接データをやり取りした、野依崎だけだった。


「《ヘーゼルナッツ》に侵入者であります」



 △▼△▼△▼△▼



 異常は食料庫で起こっていた。


「罠を仕掛けた甲斐があったであります」


 もっと具体的に言うと、野依崎がアイスを詰め込んでいる冷凍ショーケースだった。押っ取り刀で全員で駆けつけて見た有様に、十路とナージャは呆れる。


「まだアイスのこと、根に持ってたのか……」

「というか、本当にアイス泥棒がいたんですね……」


 単純な罠だった。なにかしらの条件を満たさず、ショーケースを開けると、足元が強力なバネで跳ね上げられるだけ。だが実際に作ろうと思えば、ショーケースの開き加減や身長・体重といった条件が変わるので、実は効果の割に無駄に高度だ。


「二メートルのハムスターはいなかったけど、某国民的電気ネズミはいたね」


 南十星の言葉は間違いではあるが、正しくもある。


「なんで子供がいますのよ……?」


 コゼットが疑問を呈するとおり、動物を模した着ぐるみパジャマを着た子供が、ショーケースに上半身を突っ込んでもがいていた。


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