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近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》と《塔》/麻美編
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060_0110 その島、異境Ⅱ ~理由~


「忘れ物はないかなー?」


 顧問たるつばめから、具体的な説明があったのは、当日の朝だった。相も変わらずこの責任者は、直前まで情報を明かさないと、部員たちはブーイングしたのだが、行く方針は異論がない。


「説明っつー重大な忘れ物を、理事長自身がなさってますわよ。なぜ正式な部活動として、国連安保理決議で立ち入り禁止地域になってる、淡路島に入ることになるか」


 指定された集合場所が、検問所の前なのだから。大量の車と大勢の人間が出発準備を行っていたので、文句を言っても無駄なのは察した。部長であるコゼットだけでなく、部員全員の共通認識として。


 《塔》は三〇年前、突如として世界二一ヶ所に出現した。地球の表面を考えれば当たり前のように、ほとんどは海の中に出現したのだが、いくつかは陸地にも出現している。

 そのひとつが、なんの因果か、淡路島を選んだ。


 あらゆる機関が《塔》を研究しようとしたが、結局なんなのか不明のまま。三〇年間の研究で判明しているのは、それがいかなる方法でも傷つかない未知の物質で作られ、現代の《魔法》を行使するのに必須のナノテクノロジー・Multirole Attreibute Nano-technology Artifacts、略称《MANA(マナ)》を大気中に散布していることだけ。

 《塔》の正体はわからない。しかし地上部だけでも一万メートルもあり、地殻に深く突き刺さっていると予測されるそれが、どうにもならない物であることは理解でき、同時にどうこうするべきでない物だと判断された。

 よって国際連合による全世界的な合意が()り行われ、人が入らない空白地帯を一〇〇キロメートルと定めて、保全と隔離を行われることになった。

 淡路島に現れた《塔》は、居住圏に余りにも近すぎたため、一〇〇キロの空白地帯は不可能だったが、島はそのものは三〇年間の間に無人化され、おいそれと入れない土地になっている。


 超人類《魔法使い(ソーサラー)》というだけでなく、表沙汰にできない特殊な仕事を就いていた者もいる支援部員だが、誰も《塔》に近づいたことはない。彼らの能力ならば近づくこと自体は容易だろうが、行ってどうするのだという大問題があるので。


「理由がいくつもあって複雑だけど、大きく分けてふたつ。ひとつは淡路島を拠点にして、調査をする」


 そんな場所に行くと言い出した責任者(つばめ)は、ピースサインを突き出した。いやピースではないとわかるのだが、童顔タヌキ顔の彼女がやると、真面目な話中にポーズしているように思えてしまう。


「漁獲量減ったって、漁協からクレーム来たから」

「「は?」」


 しかも部員たちは『なんで漁協が出てくる?』と一斉に表情を変える。しかめっ面・キョトン顔・眠そうな無表情と。いや一番最後は変わってないが。

 とにかく、どうにも場が締まらない。威厳のない顧問がまとめる、個性が強すぎる部員が集まるこの部においては、いつものことだが。


「これまで色々と海の上でやったじゃない? 戦艦とか潜水艦とか無人戦闘機を沈没させたり。荷電粒子砲とか金属励起爆弾ぶっ込んだり。電磁波バースト起こしたり。あと盛大に凍らせたこともあったっけ。だから今年は漁獲量激減だって」

「「あぁ……」」


 部員たちに理解が宿る。一部は目を泳がせた。

 思い起こせば確かに、地球に優しくないことを、何度もやらかしている。


「俺たちも好きで環境破壊してるわけじゃないですけど……」

「わたしはわかってるけどね? ついでにわたしたちは、その時の相手が誰だったか知ってるけど。表向きは謎の組織が暗躍したから、支援部が正当防衛で抗戦したことになってるじゃない? 漁協からしてみれば、文句のつけ所が支援部(ウチ)しかないんだよ」


 仕方がないのだ。交戦が避けられない時、人外被害を出さないために一番手っ取り早いのは、海の上での迎撃だから。

 とはいえ海に生きる生物にとっては、地球温暖化や海流変化で暑い・寒いが変わるどころか、不定期に煮えたぎる・凍りつく・爆発するという超常現象が起こる海など、オサラバしたいだろう。

 そして被害を受けた側の行動も、理解できなくはない。文句を言われても困るのだが。


「賠償しますの?」

「その前に、因果関係があるか調べるの。対応はその結果を見て考える」


 しかし部長(コゼット)の確認で、その話は終わってしまった。


「だったら海を調査するのに、わざわざ淡路島に上陸する必要がないでしょう?」


 だから十路が口を挟んだ。海を調査するなら、普通に神戸港から船を出せばいいだけだ。立ち入り禁止区域に近づく必要はない。


「それがもうひとつの理由。査察を受けなければならなくったんだよ」


 対しつばめは、更に顔を改めた。


「査察って、防衛省か警察庁ですか?」

「国連だよ。監視検証査察委員会」

「それ確か、湾岸戦争の後に設立された、(N)生物(B)化学(C)兵器の監査を担当する部局ですよね? お門違いじゃ?」

「支援部がやったことは、それだけ世界中の国にインパクトを与えたってこと。《魔法》の軍事利用を取り締まる組織は今のところないけど、新たに設立するのを待たずになんとか都合をつけて、急いでわたしたちを知ろうとしているんだよ」


 《魔法》の軍事利用を、民間人の目の前で披露した。それどころか、結果論ではあるし、実際にやろうと思えば色々と困難なのだが、宇宙開発における有用性までも示してしまった。

 政治や軍事に(たずさ)わる人物は危機感を覚えて当然だ。中枢だけで数えても十数人、全体で見れば万単位の人間で行う計画行動を、《魔法使い(ソーサラー)》は個人で行えてしまうのだから。


「査察を受け入れないって選択肢はないし……」

「突っぱねたら、厄介なことになりそうですしね……」


 ともあれ、つばめの主張は十路も納得できた。


 総合生活支援部は公式に認められているとはいえ、超法規的というか現行法律の隙間を縫う、かなりグレーな組織だ。

 クリーンさを訴えるには、情報を開示するしかない。でなければ、テロ組織に指定されることも考えられる。


「でも、やっぱり淡路島に行く必要なくないです?」


 しかしまだ納得はしきれない。

 聞き取り調査ならば、国連職員が神戸に来るか。出向くとしても法務局のある東京か、あるいはアメリカ・ニューヨークの国連本部だろう。

 なぜ誰もが直接関係ない土地に(おもむ)く必要があるのか。


「半分強奪してるアメリカ軍の秘密兵器、この前の戦闘(ぶかつ)で盛大に使ったじゃない? その修理と補給を淡路島でやるからだよ」


 つばめのそのセリフで、ようやく全てが納得できた。


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