005_0030 【短編】一学生から見た総合生活支援部Ⅳ 【相変わらずコゼットの二面性、キモいですね……】
取材NGの可能性もあったが、まり子は一応、質問や機材を用意していたので、インタビューはすぐに行われることになった。
――まずは総合生活支援部について、お教え願います。
「わたくしたち総合生活支援部の部員は、全員がオルガノン症候群発症者――いわゆる《魔法使い》です。そのあり方、詳細については、この場では省略させて頂きますが、この通称のせいで、誤解が広まってしまっています」
余所行きの王女顔で、原稿を作ることなくスラスラとコゼットが答える。写真を撮られることも考慮して、いま一度された化粧も完璧、浮かべたプリンセス・スマイルも完璧だった。
【相変わらずコゼットの二面性、キモいですね……】
どこかから女性の声が聞こえた。コゼットのこめかみに青筋が浮かんだような気がした。だがまり子が首を巡らせても、誰の発言かわからず、また声はそれっきりだったので、気のせいとして流すかなかった。
――誤解とは?
「《魔法使い》はなんでもできるわけではなく、少々特殊な機械のオペレーターでしかないのです。わたくしもその世代ではないので、例として出すには不適当かもしれませんが、パソコンが一般家庭にも普及し始めた頃、『なんでもできる機械』という誤解が広まったとも聞いております。《魔法使い》に対するものも、それと似ているのではないかと考えます」
――なぜそのように誤解されるのでしょう?
「神秘性、などという言葉を使えば聞こえはいいですが、要は正体不明でなにも知らないから、様々な憶測が飛び交ってしまうからでしょう。わたくしたち《魔法使い》は、本来国家機関の中で教育されますので、一般の方がどのような存在か、正確に周知されることはないのです」
――ではなぜ、総合生活支援部の皆さんは、普通の学生と同じように暮らしているのでしょう?
「それが総合生活支援部の役目だからです。その能力ゆえに秘匿性が高いわたくしたち《魔法使い》が、普通の学校の中で、一般の学生と共に生活し、どのようなことが起こるか。実地調査している社会実験チームなのです」
――具体的には、どのような活動を?
「大まかに二種類あります。ひとつは、有事の際に警察・消防・自衛隊の要請を受けて出動する、民間の即応部隊としての活動です」
――それは――
「はーい。ちょっとストップしましょうか」
まり子とコゼットの淀みないインタビューに、ナージャが水を差した。
「そっちの活動を強調しちゃうのは、部としてまずいですよね? 侵略戦争なんか仕掛けられたら、わたしたちにもお呼ばれするでしょうけど、軍隊じゃないんですから」
「え、でも……」
かなり早めに制止させられたが、そのとおりだったまり子は反論しかけた。
支援部が有名になった切っ掛けは、やはり神戸市民が巻き込まれた『戦争』だ。一般市民たちにとっては理不尽な人為的大災害に対し、超常のものとしか思えない方法で対抗し、人々を守った。
彼ら、彼女らは、三〇年前まではフィクションにしか存在しえなかった、超人なのだ。その詳細を誰もが知りたいに決まっている。
しかしそこに質問が辿りつく前に、ストップがかけられた。
支援部員たちを見回して、まり子もどうしたものか迷ってしまう。
そんな彼女に構わず、コゼットとナージャは、特段顔には出してないが真面目な話をする。
「軍隊の広報って、どういう内容をやってますの?」
「当たり前ですけど、クリーンさを追求しますね。どこかで戦争してきましたなんて血なまぐさい宣伝をするのは、軍事国家かテロ組織ですよ。それよりは哨戒任務とか普段の活動、有事でも災害支援とか、地味な方面をお知らせするのが普通です」
その内容を聞き、まり子が行おうとした取材方針が、彼女が知らない常識では『まずいもの』だと小さく驚いた。
冗談めかした南十星と、仏頂面の野依崎が交わす言葉にも、小さく驚くことになる。
「チップスのカードみたく、あたしたちのステータス情報でも知りたいん? フォーちんだったら、タイプ『ひこう』『でんき』。必殺技『チャージビーム』みたいに」
「ミス・ナトセのステータスは?」
「攻撃力一五〇〇、防御力〇。戦闘では破壊されない。このカードが墓地に送られる時、フィールド上のモンスター一体を破壊する」
「なぜゲームが変わるでありますか……」
まり子は批難だと受け取った。ゲームのキャラクターのように扱われるのは御免だという。
そして少なからず、そのような情報を得ようとした――彼女たちをそういう非現実な存在として扱おうとしていた自分に気づき、驚いた。
どこまでも他人ごとでしかない。同じ学校に、同じクラスに、《魔法使い》というモノを知りたかっただけ。彼女たちがなにを考えているかはどうでもよく、己の願望を一方的にぶつけようとしていた。
そんなまり子の心情は伝わるはずもなく、支援部員たちは視線を壁際に集める。口を開かない樹里までもが首を巡らす。
オートバイに体重を預けている、十路を見た。
それでなんとなしに、まり子は理解した。この部活動は、王女たる部長がまとまめているのではない。唯一の男である彼が中心なのだと。
しかし当人は不本意なのか。『なんで俺見る?』とでも言いたげに眉を寄せる十路は、首筋をなでながら無言の質問に応じる。
「まぁ、内容は学校内の活動に限定しといたほうが、無難でしょうね」
その言葉が結論だと言わんばかりに、支援部員たちの首が元に戻り、まり子に注目してくる。
「えぇと……それだけだと、量が足りないというか……」
取材対象との接し方を考えさせられたが、それはそれ。言ってみるだけ言っておきたい、実際にそうなのだからと、まり子はもうちょっとネタとして扱いやすい話を求めようとした。
それも想定内なのか、十路は変わりない怠惰な態度で続ける。
「この部活、普段なにやってるか、知ってるか?」
「え? いろいろお手伝いしてるんですよね?」
「まぁ、そうなんだが……具体的には?」
「えぇと……お手伝いじゃないんですか?」
まり子は記憶を探るが、あまり詳しい話を聞いた記憶がない。いや、支援部が他の部に依頼されて動いているという話は聞くのだが、手伝いレベルのことしか聞かないので、いつしかアンテナ立てて聞くことをやめていた。
「ネタには事欠かないと思うけど。記事にできるかはさておいて。たとえばサッカー部に依頼された時とか」
「あぁ……なぜか野球で対決することになった、アレですか……」
樹里が応じる言葉が変なのはわかる。なぜサッカー部の依頼で、野球することになるのか。
無言裡のうちに総意がなったのか、支援部員たちが補足しあうように話し始めた。




