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シンデレラの姉に転生しました〜性悪あざとヒロイン婚約阻止RTA〜

作者: 貴音
掲載日:2026/07/05

 カボチャの馬車にガラスの靴。

 不遇な立場から王子様に見初められる高揚感。

 女の子だったら一度は憧れる、シンデレラストーリー。


 私だって、密かに憧れていた。

 彼女の、あの言葉を聞いてしまうまでは。


 ◇


「はぁーん、王子、マジでちょっっろ!」


 下品な笑い声と共にその言葉を耳にしたのは、舞踏会の数日後のことだった。


 私の名前はベアトリス。シンデレラの姉で、前世は日本人のOLだ。

 数ヶ月前に記憶を取り戻したばかりなのだが、今はのんびり自己紹介をしている暇はない。

 なぜなら、このままだと私は処刑されてしまうから。


 ことのはじめは、屋根裏部屋のそばを通りかかった時だった。

 そこで私は、シンデレラの本性を知ってしまったのだ。

 ──この家では「ジェシカ」と呼ばれている、いわゆる『灰かぶりの妹』の本性を。


 彼女は、椅子でのんびりくつろぎながら、ネズミと魔法使いを顎で使っていた。


「ほら、ネズミ!ちゃんと掃除しないとネズミ鍋にすんぞ!」

「おい、ババァ!肩はもっと強く揉めよ。うーん、そうそう、そこそこ……」


 どうやら、シンデレラの健気な労働だと思われていた家事全般は、全て哀れな下僕たちに押し付けていたらしい。


「くくっ、エサもまいたし、あとはアホ王子が来るのを待つだけね。人生ってヌルゲーすぎるわぁ。ちょっと可哀想なフリするだけでみんなホイホイ騙されちゃって、頭弱すぎww」


 シンデレラはそういうと、おもむろに枝毛チェックを始めた。


「このまま王子と結婚したら、まずおっさんの弱みを掴もうかな。ジジイだから色仕掛けしたら一発じゃん。やば、この国、実質あたしの天下!いえーい」


 え? なになに?おっさんってもしかして国王のこと?

 でもって寝取って脅すってこと?このシンデレラ、やばすぎんか?


「あとはー、うちのうざーい女どもはー、もちろん処刑⭐︎」


 うざい女ども……私と、もう一人の姉ヘンリエッタと母のことで間違いない。つまり、このままだと私は破滅エンドだということだ。


 子供の頃からの憧れであるシンデレラの世界観を壊さないように、これまで意地悪な姉として最低限の嫌味を言いつつも平凡に過ごしてきたのに。

 このままでは人生台無しである。これは一大事だ。


「……やるしかない」


 よし、決めた。

 シンデレラがクズだとわかった以上、世界観もへったくれもあったもんじゃない。

 王子との婚約ルートは、全力で阻止させていただくわ!


 城からの先触れによると、王子がガラスの靴を持って広場に現れるのは明日の正午。そしてシンデレラが靴を履くのはその約一時間後、だいたい13時頃である。

 つまり残された制限時間は、24時間。


 私は脳内で『スタート』のボタンを押した。

 性悪あざとヒロイン婚約阻止RTA、今からスタートだ。


 ◇


 早速作戦を考え始めたのだが……


 情報が少ない!少なすぎる!!

 絵本だと、ガラスの靴を落とした次は、王子が探しにくるエピソードだった。

 普通の破滅フラグ回避ものって、もっと「このあと◯章で××が起こる」とか、イベント表が頭に入ってるんじゃなかったっけ!?


 しかし嘆いていても仕方がない。

 私よ、よく考えるんだ。原作改変したくないなんて言ってる場合じゃないわよ。


 シンデレラが選ばれるのは、王子が持ってきたガラスの靴を履くタイミング。

 さっきの口ぶりだと、おそらく「まいたエサ」とはガラスの靴のことだろう。

 これを阻止するには……


 もう一足、別のガラスの靴があればいいのでは!?

 なんなら私の足にサイズを合わせて入れ替えれば、私が妃候補に大抜擢!

 私、天才かもしれない。

 もちろん、これは国を守るため。決して王妃の座に目がくらんだわけではない。たぶん。おそらく。きっと。


 そうと決まれば善は急げだ。

 私は居間を飛び出した──まではよかったけど。


 あれ?魔法使いってどこにいるの?

 呼び出せるんだっけ?

 必死で過去の記憶を手繰り寄せる……


 確か、シンデレラが舞踏会に行きたいのに行けなくて、絶望してた時に現れてたはず。

 もしかして、キーワードは絶望?

 だとしたら、今の私、負けてない。


(魔法使いさん、現れて!私、めちゃくちゃ絶望してます!このままじゃ国がやばいんです……!!)


 裏庭で天を仰ぐように祈ると、突然子供が現れた。

 こ、子供……!?


「私、魔法使いのエマ!お姉ちゃん、困ってるの?」

「そうなんだけど……もう少し、大人の方を呼んでいただけないかしら?」

「えー、わがままだなぁ」

「ほら、もっと年配の方とか、いらっしゃるでしょう」

「あー、おばあちゃんね。変な女にこき使われてるんだよね。呼べるかなぁ」


 エマから聞いたところによると、彼女の祖母はシンデレラに唆されてうっかり禁忌に触れ、24時間対応のブラック労働を強いられているらしい。


「実はガラスの靴が必要なんだけど、あなた作れたりする?」

「あー無理無理。それはおばあちゃんじゃないとできない」


 うう、さっそく断られた。


「なんとかおばあさまを呼べないかしら」

「呼んだかね」


 突然、老婆が後ろから現れた。

 先ほどシンデレラの肩を揉まされていた、あの老婆だ。

 疲れが滲み、目の下のクマが目立つ。


「おばあちゃん!」

「話は聞かせてもらった。お前さん、ガラスの靴がほしいんじゃな?」

「ええ」

「……お前さんも、あの娘に負けず劣らず強欲じゃのう」


 最後に小声でボソリと呟いた言葉は聞かなかったことにした。


「ワシはあの娘に逆らう魔法は使えん」

「それじゃあ……」

「話は最後まで聞きなされ。あの娘には逆らえんが、お前さんのための靴を作るだけなら、逆らったことにはならん」


 老婆はニヤリと笑ってみせた。


「ただし、協力する代わりに、あの娘を必ず地下牢にぶち込んでおくれ。王城の地下牢は魔法を弾く造りになっていると聞く。あそこに入れば、あの娘がワシにかけた契約も切れるじゃろう」

「私が妃候補になれば投獄なんて簡単よ!任せて!」

「……うう、不安じゃ」


 老婆は、ぶつぶつ言いながらも私の足を両手で包み込んだ。


「お前さん、随分と足が……その……」

「大きいって言いたいんでしょ?わかってるわよ」


 そう、私はこの街で一番の大足の女。多分26.5センチくらいある。この世界の令嬢基準では、もはや小舟である。

 一方ジェシカはおそらく22センチくらい。

 もしかして元のベアトリスが妹をいじめてたのは、この大足コンプレックスのせいもあるのかもしれない。


 老婆は哀れみの混じった目で私の足を眺めながら、ガラスの靴を魔法で仕上げてくれた。

 完成した靴は陽の光を受けて七色に輝いた。


「ちなみに、靴の入れ替えまで魔法でやってもらうっていうのは……」


 探るように見ると、老婆は肩をすくめた。


「どこまでも図々しい……残念じゃがそれはできん。靴の入れ替えはあの娘のマイナスになる」

「じゃあ、エマちゃんは?」

「私の魔法力じゃ、目の前とかにないと入れ替えできませーん」


 うう、残念。

 でも全部魔法に頼るのも虫が良すぎるわよね。

 準備は整ったし、ここから先は自力で頑張ろう!

 そうこうしていると3時のお茶に呼ぶ声が聞こえた。

 残り時間はあと22時間。


 ◇


 夜になり、私は王宮に忍び込むことにした。

 ガラスの靴の片足を自室に隠し、もう片足は持ち運びしやすいようにスカーフで包むと、家を出た。

 一時間ほどで城に到着する。塀を乗り越え、植え込みの影を縫うように歩くと、ようやく建物に侵入できそうだった。

 思ったより警備が緩いのは、この国の治安の良さゆえかもしれない。

 そもそも国中の娘を集めて妃候補探しの舞踏会を開くなんて、よく考えたら正気の沙汰じゃない。婚活イベントの規模としておかしいし、リスク管理が甘すぎる。

 まぁ、でも、平民でも王族になれるかもしれないという夢があるのがシンデレラストーリーの良いところなんだけど。


 私はガラスの靴を入れた包みを茂みの陰に隠すと、開いた窓から中に入り、そして侍女たちの更衣室に潜り込んだ。

 見回すと、幾つものメイド服が並んでいる。私は、余っていたメイド服を一着、拝借した。一応の言い訳として、服のあった場所に金貨をそっと忍ばせる。

 これで盗んだんじゃなくて買い取ったってことにしてほしい。購入者の同意がないから普通に窃盗かもしれないけど……


 手早く着替えて、髪を編み込む。準備は整ったので、まずは本物のガラスの靴がどこにあるのかを確認しよう。入れ替えるのは、そのあとだ。

 これだけ広い城内で果たして見つけられるのか……


 だが、靴の場所は、拍子抜けするほどあっさり判明した。

 更衣室横の控え室で、メイドたちが雑談に花を咲かせていたのだ。


「ねえねえ、リオン様のご様子、聞いた?ヤバくない?」

「ガラスの靴を舐め回すように眺めてるんだよね?まじでキモい」

「え?足フェチなの?」

「私はベッドに持ち込んで一緒に寝てるって聞いたよー」

「……えっ?」


 メイドたちが凍りついたのが、壁越しにも伝わってきた。


「今は緊急会議中なんだっけ?」

「明日、靴の持ち主を探すためのプランを宰相と相談してるらしいよ」

「うわー、ひくわー」


 この国、大丈夫かな……?

 だが、靴が王子の部屋にあることはわかったので、後は忍び込むだけだ。

 かなりガラスの靴を気に入っていることはわかったが、流石に噂通り一緒に寝ていることはないだろう。

 私は隠してあったガラスの靴を茂みから取り出すと、王子の部屋へと向かった。


 ◇


 王子の部屋はすぐにわかった。

 ドアの外から中を窺うと、会議中の噂は本当らしく、人の気配はしない。私は物音を立てないように部屋に入り込んだ。

 もしも誰かに見つかったら、掃除中だとか言い訳しよう。いや、苦しいかな?

 細かいことは気にしない!実行あるのみ!


 さすが王子の部屋だけあって、内装が豪奢で、その上広い。

 まずはクローゼットを確認する。ほとんど同じ洋服が15着ほどズラリと並んでいる。

 おおう、リオン様のファッションはどうやらジョブズ方式のようだ。というか、物語の登場人物ってだいたいそうかも?

 靴も置いてあるのは王子本人の靴だけ。ピカピカに磨かれた革靴が美しく仕舞われていた。


「うーん、ここじゃないのかな?」


 次に机の周りを確認する。

 上段の薄い引出しには入らないだろう。下段の深い方を開けてみると、綺麗にファイリングされた資料が並んでいた。舞踏会参加者一覧、家別の身上書、王妃候補選定資料……そんなに確認してるの!?

 王子業というのもなかなか大変である。


 だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。靴はここにもなかった。


「ここでもないか……」


 だとすると、残りは寝室である。

 できればここは入りたくなかった。さすがに不敬な気がしたのだ。だが、やむを得ない。


「失礼しまーす」


 小声で挨拶しながら、静かにドアを開ける。

 広い天蓋付きのキングサイズのベッド。横には、サイドテーブル。そしてその上に、ピンクの靴箱。


「あった……」


 私はサイドテーブルに駆け寄った。

 そしてピンクの箱に手をかけた、その時だった。

 居室のドアがガチャリと開き、王子が戻ってきたのだ。


「リオン様、お休みなさいませ」

「うん、明日はよろしく頼むね」


 バタン。ドアが閉まる。

 入り口から寝室のドアまでは30歩もない。

 どうする、どうする、どうする……!?


 私はとっさに窓からベランダに出て、身を隠した。

 こんな日に限って月明かりが煌々としている。

 やがて、寝巻きに着替えた王子が寝室に入ってきた。くつろいだ雰囲気だが、滲み出る色気が凄い。圧倒的イケメンである。

 彼は真っ直ぐに靴箱に向かうと、まるで宝物が入っているかのように、箱を開けた。


「ああ、愛しのマイ・ファーストラブ!明日は、僕をどう導いてくれるのかな」


 王子は靴をそっと取り出すと、うっとりした眼差しで語りかけた。

 ……ん?語りかけた?

 今、靴に語りかけた!?


「いよいよ、君の持ち主に会えるはずだよ。楽しみだなぁ」


 そっと指先で靴の縁をなぞる。

 そしてそのまま頬擦りする勢いで、顔に近づけた。


「さあ、今夜も一緒に休もうか」


 王子はそういうと、枕元にガラスの靴を置き、ベッドに身を滑らせる。

 噂は、本当だった。

 私は本当にこの王子の妃になりたいのだろうか。

 いやしかし。靴をこれだけ愛してくれるということは、妃になれば更なる溺愛間違いなしだ。

 少なくとも殺されるよりずっといい。

 それより問題なのは、一緒に眠られると入れ替えができないということだった。


 私が思案していると、王子はふと、窓の方を見た。

 私は息を止める。


「……今夜は、ずいぶんと月が明るいね」


 そう呟いて、王子は枕元の靴に視線を戻した。

 ヒールを指で撫でると、そのまま目を閉じる。

 寝付きはいい方なのか、少しすると眠りに落ちたようだ。

 月明かりに照らされた王子の横顔は、この世のものとは思えないほどの美しさだ。


「綺麗……」


 違う違う、そうじゃなくて。

 問題は靴の入れ替えだ。

 寝ているとはいえ、再び寝室に入り込むのは危険すぎる。

 ふと、昼間に会ったエマの言葉を思い出す。


『私の魔法力じゃ、目の前とかにないと入れ替えできませーん』


 今のこの状態、目の前にあると言えるんじゃないだろうか。


(エマちゃん!私、今困ってる!助けに来て……)


 そう祈るとすぐにエマが現れた。


「なんだ、また昼間のお姉ちゃんか。今度はなんの用?」

「しーっ!王子起きちゃう」

「大丈夫、お姉ちゃんにしか聞こえてないよ。で?」

「実は靴を入れ替えて欲しいんだけど……ベッドの枕元に置いてあるの、見える?」


 私は窓から王子が眠るベッドを示してみせた。


「うーん、この距離ならなんとか」


 エマは枕元を確認すると、そっと窓に近づいた。

 が。


「ごめん、やっぱり無理」

「え?」

「お城の中は、魔法が届かないみたい。地下牢だけじゃなく、全体的に魔法が使えないのかも」

「そんなぁ……」


 私は思わず情けない声を上げた。

 せっかくここまで来たのに……


「それより、ここ何階だと思ってるの?どうやって降りる気?」

「え、あ、それは……」


 バルコニーから下を見下ろす。

 ゆうに15メートルはありそうだ。


「とりあえず、魔法で下に降ろしてあげるよ。作戦はまた考えたら?」

「うん……」


 こんな少女に諭されてしまった。

 ちょうど、12時の鐘が鳴る。

 第一作戦、失敗。

 だけどまだ、このRTAは終わっていない。

 残り時間はあと13時間だ。


 ◇


 翌朝。

 何事もなかったかのように朝食の席に向かう。

 商人である父は留守がちで、今朝も不在である。私がダイニングに入るとヘンリエッタと母はすでに着席していた。テーブルにはシンデレラの作った……いや、おそらくシンデレラがネズミに作らせた食事が並んでいる。

 ネズミにはなんの罪もないが、食欲がわかなかった。食事が始まりしばらく経ったが、私はほんの数口を食べただけで手が止まっていた。


「お姉さま、お口に合わなかったでしょうか……?」


 オドオドと私を上目遣いにみるシンデレラは不遇ヒロインそのもので、昨日見かけた光景は気のせいなのではと思えてくるほどだ。

 このまま演技力を磨けばアカデミー賞も夢ではなさそうである。


「今日は少し食欲がないだけよ。残して悪いわね」

「そんな……!お姉さまは悪くありません」


 改めて観察してみると、シンデレラはあえて人の加虐性を煽る振る舞いが上手い。

 すぐに潤む瞳、口元に添えられる手。元々王子と出会うために、自ら「虐げられた可哀想な娘」の立場を作っていたのではないかと疑ってしまう。


「食欲がないなんて、大丈夫なの?」


 母が心配そうに私を見る。

 私たち娘のことが大好きなのだ。


「残すなら私にちょうだいよ」


 ヘンリエッタは言うが早いか、私の皿を自分の方に引き寄せた。

 ちなみに彼女は軽度肥満である。


「部屋で休めば大丈夫です。横になるから入ってこないでね」


 私はそう言い残して席を立った。


 部屋に戻ると髪をまとめ、できるだけ目立たず動きやすい服に着替える。町娘風の仕上がりだ。

 ガラスの靴の包みを持つと、窓からそっと外に出た。

 目指すは王城。馬車に積み込む時を狙って靴を入れ替える作戦だ。そこなら屋外だし、エマの魔法も使えるだろう。

 昨日の靴への異常な愛情を見ると、王子が手元から離すとは思えないが、側まで近寄ればこちらのものだ。 

 私は急ぎ足で城へと向かった。


 時刻は午前8時。

 残り時間はあと5時間だ。


 ◇


 城の外には、王子が乗る馬車と、宰相が乗る馬車が並んでいた。

 私は側の茂みに隠れて王子たちが乗り込むのを待った。


(エマちゃん……!来て!!)


 心で呼びかけると、少女はすぐにやってきた。


「お姉ちゃん、魔法使いづかい荒くない?さすがあの女のお姉ちゃんだね」

「う……これは国を救うためなの!仕方ないでしょ」

「まぁいいけど……で、何?」

「そこに馬車が見えるでしょ?おそらく王子か従者が靴箱を持って乗り込む筈だから、そのタイミングで靴を入れ替えて欲しいの。この距離ならいける?」


 茂みから馬車はおよそ10メートルほどだ。


「うーーん。ギリギリかなぁ」

「ギリギリか……」


 不安は残るが、実行あるのみ!

 やってみなはれの精神よ!!


 程なく、護衛に付き添われて靴箱を抱えた王子が門から現れた。太陽光の下で見てもやはり美しい。

 王子は大切そうに靴箱を抱えたまま、馬車に乗り込んだ。


「今よ、エマ!あの靴箱よ!」

「わかってるよ!でもちょっと遠くて魔法が届かないの」

「ええっ!?」

「お姉ちゃん、もうちょっとだけ靴の包みを馬車に近づけられない?」


 私は音を立てないように、茂みの外へそっと包みを押し出した。


「どう?」

「もうちょっと」


 ズズ……

 ズズ……


 バレないように少しずつ包みを押し出していく。

 半分くらい馬車側にはみ出しているので、見る人が見たら気づかれそうである。


「これでどう?」

「あともうちょっとだけ」

「まだだめなの?」


 こうなったら完全に押し出すしかない。

 一瞬だけ出して引っ込めればバレないはずだ。

 私はグッと力を込めて手を伸ばした!


 が!!!


 ドサッ!!!


 勢い余って私まで飛び出てしまった。

 顔を思いっきり地面に打ちつけてしまい、目がチカチカする……

 うわーん、痛い。


 って。違う、これって相当マズい展開なんじゃ……?


 そう思って顔を上げると、まばゆいばかりの笑顔とぶつかった。


「やぁ、お嬢さん。そんなところで何をしているのかな?」


 靴の包みはすぐそばに転がっている。

 茂みを振り向くと、エマはすでに姿を消していた。

 これ、完全に不審者の流れである。


「僕、今から行くところがあるんだよね。馬車で話を聞かせてくれる?」


 王子はそういうと、私に手を差し出した。

 その手を振り払って逃げる勇気は、私にはなかった。


 お城の鐘が10時を告げた。

 残り時間は、3時間。


 ◇


(うう、なんでこんなことに……)


 私はキラキラと眩しい王子の笑顔から顔を背けるように、馬車の隅に縮こまる。


 王子に見つかったあと、私は護衛に拘束され、包みは没収された。

 もうおしまいだ……

 そう思っていたのだが、意外にも取り調べはあっさりと終わった。名前すら聞かれる前に、王子がそろそろ出発したいと言い出したのだ。

 没収されていた靴の包みは、いつの間にか王子の手に渡っていた。


「広場で待つお嬢さんたちをお待たせする訳にはいかないからね」


 王子はそう言うと、何事もなかったように包みを私へ返してくれた。

 もしも包みの中身を見られていたらなんて言い訳しようかと悩んでいたが、特に何かを聞かれることもなかった。きっと、ただの布包みだと思われたのだろう。


 そして、なぜかこれから行われる靴の持ち主探しに同行する流れとなったのだ。


 宰相は地下牢に投獄したかったらしく、私を連れて行くことに難色を示していたが、


「大事な日に、騒ぎを起こしたくないんだ。一旦僕らだけで預かろう?」


 と王子に言われて、渋々従った形だ。


 私は王子と共に、二頭立ての立派な馬車へ乗せられ、今こうして気まずい状況にいる。

 これから噴水のある街の広場に向かうのだ。そこに舞踏会に参加した娘たちが集められる手筈となっていた。

 ちなみに驚くべきことだが、馬車というものは速度が徒歩とたいして変わらない。馬が引くのにも限界があるのだろう。この時代の移動とは大変なものだ。


 靴の包みは、今、私の膝の上にある。

 一方、王子の膝の上にはピンクの靴箱が置かれている。

 つまり、今この瞬間、靴は魔法で交換できる距離にある。しかし残念なことに王子が目の前にいるため、エマを呼び出すことができなかった。


「なかなかうまくいかない……」


 思わず小声で本音が漏れる。

 王子が気付いて、私を見た。


「何が上手くいかないの?」

「あ、いえ、その……リオン様とお近づきになりたくて馬車に近づき過ぎてしまい……その、失礼なことをしてしまったと」


 我ながら苦しい言い訳だった。


「それなら、上手くいったんじゃない?こうして同じ馬車に乗れたんだし。外から見てるよりずっと『お近づきになれた』と思うけど……」


 全てを見透かされるようなサファイアブルーの瞳が私を射抜いた。

 心臓に悪い。


「そ、そうですね……」


 これ以上会話を続けるとボロを出しそうだ。

 しかし、私の懸念を知ってか知らずか、王子は私に何かを質問するでもなく、窓から街並みを眺めていた。

 まつ毛が信じられないくらい長く、優雅な影を落とす。その姿は、箱の中身が靴でさえなければ、一枚の絵画のようだった。


「お嬢さん、外を見てご覧よ」


 王子に促されて、街に目をやる。

 街の人たちが馬車を歓迎しているのがわかった。

 路上で国旗を振って出迎えているおじいさん、窓から身を乗り出して手を振るおばあさん。


「王族はね、みんなの憧れとなる必要があるんだ」


 王子は窓の外に手を振りながら、そう呟いた。


「国の象徴。みんなが安心して夢を見られるように、完璧な姿を演じ続ける必要がある。それって、なかなかしんどいことも多いんだ」


 一瞬、目が細められる。

 豪華な暮らしにしか目が行っていなかったが、思わぬ告白に彼の意外な一面を知る。


「あの、なぜそのような話を私に……」

「さぁ。なんでかな。急に誰かに聞いて欲しくなったのかもしれない」

「リオン様……」


 窓の外を見ていた王子が、何かに目を留めた。


「御者、すまないがここで少し止めてくれるかな」


 馬車がゆっくりと速度を落とす。


 王子は靴箱を持って馬車を降りると、そばに控えていた従者に預けた。

 そして、一人の少女の前に歩いていった。年の頃は五歳くらいだろうか。野の花を集めたような可憐な花束を持っている。

 王子はしゃがみ込んで、少女に話しかけた。


「こんにちは、お嬢さん。今日はどうしたの?」

「これ!おうじさまにあげる」


 少女が花束を差し出した。王子にあげるために、自分で摘んで集めたのだろう。

 王子は笑顔でその花束を受け取った。


 ……はっ!!

 つい感動劇に目を取られたが、今は馬車に王子がいない。そして、靴箱は目と鼻の先にある。

 この距離なら間違いなく入れ替えが可能である。王子はまだ戻らなそうだし、一瞬エマを呼んでもバレないだろう。


 私がエマを呼ぶべく念じようとした時だった。


「ねえねえ、おうじさま。あたしも、おひめさまになれるかな?」


 あどけない笑顔で、王子を見つめる。

 その笑顔に、前世の記憶が甦った。

 母親の膝の上で、大好きなシンデレラを読んでもらった、あの優しい時間。

 私もただ無垢な気持ちでお姫様に憧れていた時が、確かに存在した。

 だけど今はどうだろう。姑息にも別のガラスの靴などを作り出し、シンデレラに成り代わろうとしている。

 本当に醜悪なのはどちらだろうか。


「残念ながら、僕はあなたをお姫様にはしてあげられない。でも、忘れないで。みんな誰かのお姫様なんだ。そのお姫様になりたいという気持ち、大事にして欲しいな」


 王子は優しく少女に語りかけた。そしてその手をとると、甲に口付けた。


「おうじさま、ありがとう!」


 私は、エマを呼ばなかった。

 私がやりたいことは、この世界を、少女の夢を守ること。そのために、シンデレラの悪事は暴くべきだが、それ以上を望むのは間違っている。

 綺麗事でもなんでもなく、心からそう思った。


 シンデレラが広場に現れたら、王子と彼女の前で全てを話そう。目の前でシンデレラを見れば、あの王子なら本性に気づき、夢から醒めてくれる気がした。

 私はこれまでのことを咎められるだろう。だが、それがなんだというのだ。


 ちょうど正午の鐘が鳴る。

 残り一時間。覚悟は決まった。


 ◇


 噴水のある広場には、着飾った娘たちが待機していた。

 そういえばお母様はどうしただろうか。

 そろそろ私の部屋に入り、ベッドが空なことに気づいているはずだった。

 母は自分の娘である私かヘンリエッタを王子の婚約者にしたがっていた。

 今頃は私が見つからないことを気にしつつも、彼女を着飾らせているに違いない。


(心配掛けて、ごめんなさい……)


 心の中で小さく謝る。

 でも、何もしなければみんな殺されてたのだ。やむを得ないだろう。


 広場には絨毯が引かれ、王子が座るための椅子が用意されていた。

 王子が従者に何か指示を出すと、噴水の横に小さな天幕が張られた。ここで試着をさせるらしい。

 確かに、年頃の娘が人前で無闇に素足を晒すわけにはいかない。さすがの気遣いである。


「お嬢さんは、どうする?一緒にくるかい?」


 馬車に戻ってくると、王子は私に聞いた。

 私が首を横に振ると、王子は頷いた。


「じゃあ、あとでね」


 そういうと、靴箱を持って天幕の方に向かっていった。


 ややあって、靴の試着会が始まった。

 しかしそこからは、集まった娘たちが気の毒に感じるほどだった。

 天幕の中に入っては、次々に落ち込んだ顔で出てくる。

 確かに22センチじゃ靴が合うわけもない。

 母親が付き添いに来ているパターンもあり、帰る道すがら、もっと頑張れたのではないかなどと娘を詰める親もいた。


「私はサイズ、合ってると思ったんだけど……」


 そう言って落ち込んでいる。

 わかる、分かるよ。確かに私も足を縮こめれば履けると思ったことが、ある。

 でも、残念ながらそれはサイズが合わないということなのだ。そして靴なんて、合わないものは合わない。それ以上でもそれ以下でもない。


 そうこうしていると、我が母と、ヘンリエッタが列の最後尾に並ぶのが見えた。

 おそらく私を探していて遅くなったのだろう。横に荷物持ちとしてシンデレラも控えている。このままヘンリエッタの次にしれっと自分も試着する計画のはずだ。

 シンデレラが天幕に入ったら、私も告発のために馬車を降りよう。そう心に決めた。


 ようやく、ヘンリエッタの番が回ってくる。

 彼女は緊張した面持ちで天幕の中に入っていく。

 そして、ややあって、落ち込んだ表情で出てきた。

 ここまでは、原作通りである。

 私は固唾を飲んで次の展開を見守った。

 遠くて聞こえないが、何やら宰相と母、そしてシンデレラが揉めているようである。きっとシンデレラが履く履かないで揉めているのだろう。

 私は馬車を降りる準備をした。

 天幕まではそう遠くない。おそらく護衛に止められる前に辿り着けるはずだ。


 そんな算段をしていると、話がまとまったのか、彼女が天幕に入っていく。

 私は今だ!と馬車の扉を開けて飛び降り、天幕に走り寄った。

 護衛が慌てて止めに入るが、今は立ち止まるわけにはいかない。

 しかし。


「はぁぁ!?この靴、私のじゃないんですけど!!???」


 信じられないような怒声が天幕の中から響き渡った。

 私だけではなく、護衛の足も止まる。


「誰だよ!入れ替えたやつ!!マジで!!!死ね!!!!」


 耳を塞ぐほどの下品な言葉が広場に響き渡る。

 王子は私に気付き、片眉を上げた。


「ジェシカ・アッシュフォード嬢。今の発言は、王家への不敬と看做されますぞ」


 衛兵に両脇を固められたシンデレラが、天幕から出てきた。

 すぐに宰相から注意を受けている。


「だーかーらー!!舞踏会で靴を落としたのはあたしだって言ってんじゃん!!!靴が合わないとかあり得ないんだけど」


 靴が、合わない……?

 どういうことだろう。

 なぜ、シンデレラの靴が合わないのか。もしかして飲み過ぎで浮腫んだ?いや、そんなわけないか。


「アタシで最後だろ!?婚約者見つかんなくていいのかよ」


 絶叫するシンデレラを見て、王子の目が怪しく輝いた。


「いえ、まだ靴を試していない方がいらっしゃいますよ」

「はぁ?そんなんどこに……」


 そこまで言いかけて、シンデレラと私と目が合った。


「お前……」


 私を睨む眼光が凄まじい。


「あ、あの、私は別に……」


 どうせ履いたって大足を披露するだけ。

 私にサイズは合わないのだから、できれば辞退したかった。

 しかし。


「いいえ。舞踏会に招待した家のお嬢さんには、全員試していただく。そうお触れを出させていただきました。どうぞ天幕にお入りください、『ベアトリス・アッシュフォード』さん」

「!!!」


 捕まって以降、名前は一度も漏らしていない。

 一体どういうことなのか……


「さぁ。どうぞ」


 王子の張り付いた笑顔と、ジェシカのガン付けがすごい。

 私はいたたまれなくなり、天幕に逃げ込んだ。

 中には侍女が二名控えていた。年頃の娘を男性に対応させるわけにはいかないという配慮なのだろう。

 ガラスのハイヒールはふかふかのクッションに国宝よろしく鎮座していた。


「最後の方ですね。どうぞ」


 外の会話が聞こえていたらしい。

 侍女は私を椅子に座るように促した。

 歩きやすさ優先で選んだローヒールの靴には、泥がこびりついている。私は申し訳ない気持ちになりながら、靴を脱がせてもらう。


「では、どうぞ」


 どうせ、大足であることが強調されるだけだ。

 私はギュッと目を瞑り、右足を差し出した。

 しかし。


 予想に反して、足はすんなりと靴に収まった。

 まるであつらえたようにピッタリだ。

 驚いて自分の足を見る。

 あれ?この靴……


 そう思う間もなく、侍女が高らかに鐘を鳴らした。

 突如、天幕がばさりと剥がされる。


「おめでとう、ベアトリス」


 王子が笑顔で近づいてくる。


「え……あれ?いや、違うんです」


 自分でも何が違うのかわからないが、今はそういうしかなかった。


「何も、違わないよ」


 怖い。整った顔なだけに、本心が読めず、ひたすらに怖かった。


「安心して。彼女なら、不敬罪で捕まえたよ」


 王子が示す方を見ると、シンデレラが衛兵に縛り上げられ、歩いていく姿が見えた。


「ジェシカ……?」

「流石に言葉が過ぎたからね。それに他にも余罪がありそうだし」

「え?でも……」


 おそらくシンデレラは地下牢行き。

 これで魔法使いの老婆との約束は守られた。

 しかし……


「なに?僕の判断に異論があるの?」

「……ありません」

「さぁ、僕の手を取って」


 私は彼に促されるまま、立ち上がった。

 即座に、高さを合わせた別のハイヒールがあてがわれる。

 腰に手を添えられ、民衆の前に連れ出された。


「ようやく、探し人が見つかりました。皆様、ご協力ありがとうございました」


 その言葉を受けて、広場は拍手に包まれた。

 純粋に祝福してくれる人、恨みがましい目で見つめる人。様々であった。

 ヘンリエッタは悔しがり、母は涙を流して喜んでいる。


 しかし問題はそこではない。

 なんで靴が『入れ替わって』いたの!?!?


 私はエマを呼んでない。

 魔法使いは勝手に動かない。

 今日の朝までは、確かに私のガラスの靴は手元にあった。

 馬車に乗ってから、一度も包みは開いてない。

 すると、入れ替えるタイミングは、没収されたあの時しかないが……

 いや、まさかそんなはずはない。


 私は恐る恐る、王子を見上げた。

 まばゆいばかりの笑顔が、私を見つめていた。

 誰もが憧れるその微笑みが、今の私には恐怖だった。


 街の鐘が13時を告げる。

 ゲームオーバーだ。

 確かにシンデレラは捕まった。

 だが、私のRTAは果たして……


 ◇


 私は再び馬車に乗せられ、王子と城に戻ることになった。

 行きとは違い、王子と私は横並びだ。

 すぐ左に座る彼に緊張しつつも、私は何から切り出そうかと悩んでいた。


「何か言いたいことがありそうだね?」


 王子は私の手を握ると、そう囁いた。


「あのガラスの靴、何かの手違いなんです?」

「ん?」


 ニコニコと笑って答えない。

 私は仕方なく続けた。


「だから、その……舞踏会の夜に拾った靴から、入れ替わっていた、といいますか」

「なんでキミがそれを知ってるの?」


 あくまで笑顔は崩さず、目の奥が光る。

 嘘はつけない。そう思った。


「処分を覚悟で申し上げます。私はジェシカの姉です。そして、彼女がリオン様に取り入る策略を偶然耳にしました」

「リオンでいいよ、いずれ夫婦になるのだからね」


 王子は私の手に優しくキスをした。

 背筋が粟立つのは、恐怖からか、喜びなのか、私にもわからない。


「彼女の計画は、ガラスの靴を舞踏会でわざと落とし、リオン様に自分を見つけてもらうというものでした。私は始め、その計画を止めようとだけ思ったのです。しかし、つい欲に目が眩み……自分が妃になろうなどと大それたことを夢見てしまいました。そして、代わりのガラスの靴を用意してしまったのです」

「それで?」

「途中で思いとどまったものの……なぜかガラスの靴が入れ替わってしまったのです! しかし、これは何かの手違いであり、私は王子がお探しの女性ではございません。本当に申し訳ありません」


 私はそこまで一気にいうと、頭を下げた。

 許されなくても仕方ない。


「ふぅん……」


 王子は右手で目元を抑えると、俯いてしまった。

 マズい、これは処刑コースかもしれない。

 でも、だとしたらそう受け入れよう。

 私はそう覚悟を決めた。

 だが、予想に反して王子は肩を振るわせた。


「ク……クク……、キミのそれ、どこまで演技なの?」


 王子は笑い過ぎて涙が滲む目元を右手で拭うと、私を見つめた。


「え、演技?」

「キミの妹、なんだっけ?ジェシカ?彼女がわざと靴を落としていたのは初めから気づいていたよ。非常に計算高く、興味深い女性だよね」

「それは、まぁ……」


 シンデレラの本性を始めから気付いていた?

 話が読めない。どういうことだろう。


「僕は結婚するなら、腹黒い女性と決めていたんだ。ともに国民を欺くには、そういう人材が必要だ。だから、ジェシカはとても魅力的に映った。でもね、そのあとで、もっと心を揺さぶる存在が現れたんだ」

「心を揺さぶる、存在……?」


 私は戸惑いを隠せずに王子を見つめた。

 甘やかな視線が絡みつく。


「キミのことだよ、ベアトリス」

「!?」


 わ、わたし……!!!???


「昨日の夜、僕の部屋に来てくれたよね。バルコニーの窓がわずかに開いていたので気付いたよ。月明かりに照らされたキミはとってもキュートだった」


 えええ?見られてたの?

 予想外の展開に相槌すら打つのを忘れる。


「そうしたら今朝、もう一度会いに来てくれて。しかも何やら妙な形の包みを持っている。もしかしたら昨夜も持ってきてたのかな。没収した時に中身を見たら胸が高鳴ったよ。サイズ違いのガラスの靴が入っていた。きっと入れ替えるつもりだったんだよね?妹を踏み台にする、とても素晴らしい計画だ」

「じゃあ、靴を入れ替えたのは……」

「もちろん僕だよ。サプライズプレゼント、喜んでもらえたかな?」

「……」


 言葉が、出なかった。

 全て、見抜かれていたのだ。

 私の計画も、そして浅はかさも。


「それでは、気づかれた上で、なぜあのような茶番を?」

「だって、キミみたいな女性、最高じゃないか。自分の目的のためには家族も顧みない。目的遂行の結果、妹が投獄されようと気にしない。僕の共犯者として、この上ない人材だ」


 あれ?なんだか、風向きが……


「僕は、腹黒いジェシカを是非とも妃に迎えようと思っていた。しかし、さらにその上をいく人材を見つけることができたんだ。こんなに嬉しいことはないよ」

「いえ、私はそこまで腹黒ってわけじゃ」

「謙遜するのも計算かな? そういうところも素敵だよ」


 王子はウットリと私を見つめた。


「ちちちち、違います! 正真正銘、掛け値なしの本音です! 家族は大事だし、そこまで腹黒じゃありません」

「うんうん、腹黒い人はそういうんだよね。僕もそうだからわかるよ」

「いや。そうではなくて、本当に」

「わかったから、少し静かにしようか」


 そういうと、突然、私の唇にキスをした。


「!!!!????!??」

「ふふ、そういう反応もかわいいな。これから一緒に腹黒く国を支えていこうね」


 王子は愛おしげに私を見ると、髪を撫でた。

 え??これはつまり???

 私はこの腹黒二重人格王子と結婚させられるってこと?


 い、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!


 こうして私のRTAは終幕を迎えた。

 世界は救えた気がするが、私の人生は真っ暗である。


 おしまい。

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