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【完結】精霊の森と還る風  作者: あめとおと


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3/3

第三話 風が還る場所


王城の鐘は、低く長く鳴り続けていた。


リディアが王城へ辿り着いた頃には、中庭に王族と神殿関係者が集まっていた。

緊張はあるが、混乱ではない。

まだ“制御できる範囲”の異変なのだと分かる空気だった。


「リディア!」


エドガーが駆け寄る。


「城の北塔で、魔力の循環が乱れた。

暴走まではいかないが、結界が軋んでいる」


北塔――そこは王城と神殿の水晶柱を繋ぐ、魔力導線の中継点。


リディアの胸の違和感が、はっきりと形を持つ。


「……水晶柱と同じ揺れだわ」


二人は塔へ向かった。


石階段を上るほどに、空気が重くなる。

精霊の気配が薄い。


塔の最上階。


中央には、淡く光る魔導結晶が浮かんでいた。

だがその光は、脈打つように不規則に揺れている。


ラウレンティウスも到着し、静かに言った。


「外からの干渉は確認できません。

内部循環の乱れ――けれど原因がない」


原因がない。


それは、もっとも不自然だ。


リディアは目を閉じた。


セレスが、彼女の周囲を巡る。


風は、世界の流れを知っている。


森。神殿。王城。


すべては一本の循環で繋がっている。


「……止めようとしている」


リディアは呟いた。


「え?」


「誰かが壊しているんじゃない。

流れを“止めよう”としている」


魔力は、本来、巡るもの。


精霊から森へ。

森から王都へ。

王都から神殿へ。


けれど今、循環の一部が“留められている”。


堰き止められた水のように。


「滞り、か」


ラウレンティウスが息を呑む。


「誰かの悪意ではなく、

長い年月の中で積もった“歪み”……」


王都は安定していた。

だが安定とは、動かないことではない。


王家も神殿も、魔力を“管理”してきた。


けれど管理とは、ときに自然の流れを縛ることでもある。


リディアは結晶へ歩み寄った。


「壊さない。

整えるだけ」


セレスが強く輝く。


塔の窓が開き、風が吹き込む。


リディアは両手を結晶へ向けた。


強い魔法ではない。


ただ、流れを戻す。


森へ還るべきものを還し、

城へ巡るべきものを巡らせる。


風が、結晶を包む。


乱れていた光が、ゆっくりと呼吸を取り戻す。


脈打つ揺れが、穏やかな鼓動へと変わる。


塔の空気が、軽くなった。


遠くで、森がざわめく。


セレスが静かに舞い降り、リディアの肩に戻る。


結晶は、透明な光を取り戻していた。


沈黙。


やがてラウレンティウスが深く頭を下げた。


「王国は、長く守ることばかりを考えてきました。

流すことを、忘れていたのかもしれません」


エドガーは、どこか誇らしげに言う。


「やっぱり君は、戦うより整える方が似合う」


リディアは少しだけ笑った。


「戦わないで済むなら、その方がいいでしょう?」


塔の窓から、風が王都へと流れ出す。


市場の布が揺れ、

森の葉が鳴り、

神殿の鐘が澄んだ音を響かせる。


それは緊急の鐘ではない。


いつもの、祈りの鐘。


王都は変わらない。


けれどほんの少しだけ、呼吸が深くなった。


森では、あの青角鹿が静かに草を食んでいる。

神殿の中庭では、子狼の成獣が丸くなって眠っている。


世界は今日も、巡っている。


リディアは空を見上げた。


「ねえ、セレス。

風は、止まらないわね」


小さな精霊が、楽しげに旋回する。


風は還り、また生まれる。


それが、この王国の呼吸。


大きな英雄譚ではない。

けれど確かに、誰かが整えた一日。


王都アステリアの空は、今日も澄んでいた。


――完――


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