エピソード1 日常
「いらっしゃいませー」「ありがとうございましたー」
バイト中の俺にとっては、今この言葉に何の感情もない。
俺の名前は「安藤 陸」、特徴のない大学生だ。一人暮らしをしている。家賃&学費を支払うため、現在小売店でバイトをしている。「あーあまじで早く終わんねーかなー」と小声で言いそうになった時、目力の強いおじさんに、「あんちゃん、これ」とモノを出された瞬間に、ふと我に返り「あっはい、お預かりいたします。」とレジに戻る。これが俺のバイトの日常である。正直、楽しいことなんかほとんど無い。強いて言えば会計が終わった後に子供が手を振ってくれることくらいである。
そしてバイトが終わり、「ようやく帰れるー」と少し悦に浸っているとき、一つの通知が来た。飲み会の誘いだった。めんどくさいという気持ちが9割だったが、数少ない友からの誘いだったので、しゃーなしで行くことにした。行きたくないけど。
飲み会の会場は友達の家、何の変哲もないアパートだ。でも俺の住んでるとこより新しくて広い。妬ましい。「えーと、須藤須藤ーっと、あったここだ」、部屋は見つけたが、あまりにも静かだった。これから飲み会が始まるとはとても思えない静かさだ。ドアを開けたら、「よー陸ー久々ー」開口一番言ってきた。そう、こいつが須藤である。
「須藤 明」、フリーで人形劇をやっている。最近だとあっちこっちで営業を回っているらしく、結構儲けているらしい。同年代なのになんだこの差は。
「こっちこっちー」と須藤に案内された部屋に向かうと、「あっ陸じゃん!久しぶりー!」と明るい元気な声が聞こえた。そこには女友達の「茜」がいた。
「高宮 茜」、大学生で幼馴染。誰に対しても気配り上手であり、シンプルに憧れる。
「久しぶり、てか茜もきてたんだ。」と答えると、「うん!」と茜は笑顔で答えた。「てか見て見て!飾り付けすごくない?」と言われたので部屋を見回すと、豪華な飾り付けがしてあった。風船で周りが囲まれており、リボンで華やかさを演出していた。テーブルにはフランス人形が置いてあり、細部まで丁寧に作られている。「これ全部あきちゃんが作ったんだって!マジすごいよね!」と茜が目を丸くして言った。俺は須藤のすごさにただ驚くことしかできなかった。
「よーし、陸も来たことだし、飲み会はじめよっかー」と須藤は気楽そうに言った。「え⁉3人だけ⁉」と俺は言った。「まーいいじゃん俺ら『聖蹟宿』」からの仲だろ~」と明は微笑みながら言った。茜も「そうそう!3人で飲もうよ~」と同意していた。
「聖蹟宿」、親がいない子供を施設の人が代わりに育ててくれる、言わば児童養護施設だ。俺、須藤、茜は小さい頃から聖蹟宿からの仲だ。18歳になるまでは聖蹟宿で和気あいあいしていたが、18歳になったら聖蹟宿を出て別の道に進まなくてはならないという決まりがあったため、俺らは別々の道へ進み、そして今日、久々に再開したという訳だ。ちなみに俺は9歳のときに聖蹟宿に初めて来たが、その時のことはほとんど覚えていない。初めて来たときに施設の女性に、体を洗われたことは微かに覚えている。多分そうとう汚れていたんだと思う。今思うと恥ずかしい。
「まあそこまで言うなら」と俺は二人の意見を聞き入れた。「でも静かすぎるからテレビつけていい?」と言い、俺はテレビをつけた。お笑い番組がやっており、気づいたら3人で笑っていた。そのまま飲み会がスタート。バイトの愚痴話、須藤の人形劇の話、恋バナ、楽しい時間だった。お酒も回っていて気分は上場。
そんな時、番組はニュースに切り替わり、過去の未解決事件について放送していた。「現在も追っている一家殺人事件ですが‥」茜はテレビを切った。「ね…ねえ、もうテレビは良いんじゃない…?せっかく3人で集まったのに、暗いニュースが流れてきちゃったらさ…嫌でしょ…?」ともじもじしながら言った。俺は正直気にしてはいなかったが、茜が拒んでいたため、その要求を受け入れた。
少し淀んだ空気が流れた中、須賀はすかさず「ほらほらー次はトランプの時間だよー、ハイ両手を出してー」とフランス人形にアフレコしながらにぎやかしていた。俺は須賀が営業を回れている理由が分かった。
須賀と茜が用意してくれたお酒を飲んでいるうちに、完全に泥酔状態になってしまった。にしても須賀と茜が酒が強すぎる。同じペースで飲んでいるはずなのに。
そして俺は須賀の家で寝込みを決めた。楽しい楽しい飲み会は幕を閉じた…。
目が覚めた瞬間、俺ら三人は知らない場所にいた…
~続く~
安藤陸 主人公 気だるげなやつ 他人の才能をうらやましがる
須藤明 フリーで人形劇の営業を回っている 稼ぎが良い 友達思いではあるが、過度が過ぎるところもある
高宮茜 とにかく優しい 周りにめちゃくちゃ気を遣う 趣味は料理
聖蹟宿 児童養護施設。親がいない子供や、なにか事情がある子供を引き取っている
一家殺人事件 11年前に起きた殺人事件 父親と母親は殺害され、子供は行方不明 犯人は現在も逃走中




