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悪役令嬢の娘の“母親”という最悪モブに転生したけれど、家族を見返し元夫も社交界も叩き潰して、推し公爵様と幸せになります

作者: 結城斎太郎


「……やっぱり最低ね、この結婚生活」


目の前で、娘ルチアーナが泣いていた。夫――というにはもはや憎しみしか湧かない男・ギルバートは、今も愛人との手紙を隠すように火にくべている。見えているのに。私はもう何も言わなかった。言う価値すらないと、心の底で決めていた。


転生前の私は、ごく普通の会社員。ブラックな労働環境に嫌気が差していたけれど、それでも命を落とすほどの不幸には見舞われていなかった。なのに、気がつけばここ。しかも悪役令嬢の“母親”。しかも離縁寸前の冷遇ポジション。


「ルチアーナ。大丈夫よ。ママが、全部守るから」


この子だけは、絶対に幸せにすると誓った。私の幸せも、私自身の手で掴んでやると決めた。



まず始めたのは、家計の見直しだった。ギルバートが家に金を落とさないせいで、屋敷の使用人は半減。食費も削られ、私とルチアーナは毎日パンとスープだけ。けれど、私は知っている。前世の知識を使えば、まだ打つ手はある。


農家の直販を使った食材仕入れ。ハーブ栽培による薬草販売。貴族の間で流行るビスキュイを家庭製法で再現し、女官たちに卸す。結果、三ヶ月後には家計は黒字に転じ、ルチアーナのドレスも新調できた。


「ママ、ドレス……かわいい?」


「ええ、世界一似合ってるわよ」


私たちの目の前にはまだ暗雲が立ちこめているけれど、それでも、光は見え始めている。



そして、運命の舞踏会の日。


「ルチアーナ様、素晴らしいお召し物で」


「まあ、お母様に似て、とてもお綺麗ですね」


伯爵家の誰もが忘れていたこの“妻”が、再び社交界に現れた瞬間、周囲の空気が変わった。私は完璧な礼儀と知性、そして“優雅な悪意”をもって、すべての陰口を返り討ちにした。


「まあ、ギルバート様がこちらにいらっしゃらないのは、さぞかしお忙しいのでしょうね。社交ではなく、夜の方で」


「あ、あの……」


「私のような“正式な”夫人に相応しい対応とは思えませんけれど?」


伯爵家の信用はみるみる下がっていく。そして、その場に現れたのが――


「これは……初めてお目にかかりますな、リヴィア夫人」


公爵レオニード・ヴァレンティス。冷徹と噂される男だが、その瞳はなぜか私を射抜くように真っ直ぐだった。


「あなたの噂、拝見しておりました。どうやら、想像以上の方のようだ」


「光栄ですわ、公爵閣下。私など、ただの“モブ”ですのに」


「……そうは思いませんがね」



数ヶ月後、ギルバートから正式な離縁状が届いた。愛人との間に庶子ができたと、堂々と書かれていた。慰謝料請求のための準備は、すでに終えている。


そして、私はルチアーナを連れて、新たな道を選ぶ。


「改めて、私と“契約”していただけますか、公爵閣下」


「契約か……。そうだな、それも悪くない。だが、いずれ私は“契約”ではなく、“結婚”を申し込みたいと考えている」


「そのときは、娘が許してくれれば――ですね」


「もう“娘”とも仲良くなっているさ。ほら、あの笑顔を見てみろ」


ルチアーナは、レオニードの手を握って笑っていた。前世では決して手に入れられなかった、真の家族のように。


「――さあ、ここからが本番よ。ルチアーナの未来も、私自身の幸せも、全部この手で勝ち取るのよ」


私はモブなんかじゃない。人生の主役は、今この瞬間から、私なのだから。




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