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Silent train

作者: 昼月キオリ


音を立ててしまうと目的地に辿り着けない列車に乗り込んでしまった五人と一匹の猫がいた。


アナウンス「この列車は音を立てると目的地に辿り着きません」

アナウンスが最初に流れた時は何かの間違いだろうと皆んなは気にしていなかった。


アズサは足をぷらぷらさせながら席に座っていて

水野は本を読んでいる。

ケイは隣に座っている坂木にちょっかいをかけていて、坂木がそれをあやしている。


しかし、いつもなら15分で目的地まで辿り着くはずなのに15分経っても列車は止まらなかった。


同じ景色が流れ続ける車窓を見て須藤は異変を感じた為、車掌のところまで乗り込んだが車掌の姿がどこにも見当たらなかった。


次第に先程のアナウンスが言っていたことが事実だと知る。




<須藤>

35歳男性。不眠症。サラリーマン。

 

<水野>

29歳女性。フリーター。

 

<坂木>

33歳女性。専業主婦。

<ケイ>

坂木の息子。3歳。


<アズサ>

8歳。男の子。小学生。


<猫>

列車に迷い込んだ猫。





ケイ「うわぁん!!」

坂木「よしよし、大丈夫よ」

ケイ「ママ!僕帰りたい!!うわぁん!!」


須藤は立ち上がると坂木に近付いた。

日頃の疲れやストレスで子どもの泣き声に限界を達し怒鳴る。

須藤「うるさい!俺は不眠とストレスでイライラしてるんだ、さっさと泣き止ませてくれ!

これじゃいつまで経っても列車を降りられないじゃないか!」


坂木「す、すみません!」

ケイを抱き締めながら慌てて謝罪する坂木。

そこに少し離れた席に座っていた水野が歩いてきて坂木を庇うように前に立った。

坂木「!」

須藤「むっ、何だよ」

水野「まぁまぁ、まだ小さい子どもなんですから許してあげましょうよ」

須藤「あんたは関係ないだろ」

水野「まぁそうですけど、子どもは泣けるうちに泣かせてあげましょうよ、大人になったら甘えられる機会は減りますし、泣いても誰も助けてくれない状況なんていくらでもあります、

そうなったら嫌でも泣けなくなるんですから」

須藤「・・・」

須藤はその言葉を聞くと言葉に詰まったようで静かに席にドスっと座り直した。


坂木が水野に小声でそっとお礼を言った。

坂木「あの、ありがとうございました」

水野「いえいえ」


アズサ「そうだ、お姉ちゃんたち」

その時、男の子が話しかけてきた。

 

水野&坂木"お姉ちゃん‼︎いい子‼︎"


水野「僕、どうかしたの?」

アズサ「思い切り遊んで疲れたら眠れるんじゃない?そしたらその子静かになるかも、あ、僕アズサって言うんだ、よろしくね」

水野「アズサ君ね、私は水野よ、よろしくね、

そのアイデアいいかも!」

坂木「私は坂木よ、アズサ君、それいいかもしれないわありがとう」

アズサ「えへへ!」



チラッと須藤を見る水野と坂木。

須藤「勝手にしろ」 

その時、席の窓枠の部分に立って外を眺めていた猫が須藤の膝の上にぴょんっと乗った。


"あ、あの猫怒られる‼︎"

と皆んなは瞬時に思い、焦った。


しかし、須藤は何も言わないし何もしなかった。

猫はそのまま須藤の膝の上で大人しく眠りについた。

それを見て須藤は腕を組むと黙って目を閉じた。


"意外"

皆んながそう思った。



それから20分くらいだろうか。

長期戦を覚悟していたが

ケイは坂木と水野、アズサと鬼ごっこをして遊んでいるとすぐに疲れて眠ってしまった。

坂木「ホッ・・・良かった、眠ってくれたみたい」



坂木と水野は元々座っていた席に静かに座った。

そんな中、抱っこされているケイを見ていたアズサが水野のところに歩いてきた。

水野「アズサ君どうしたの?」

と水野が小声で聞く。

アズサ「隣に座っていい?」

とアズサも小声で聞く。

水野「もちろん」

水野は心細いのかな?と少年を心配しながらもそれ以上は何も聞かなかった。

アズサ「ありがとう」



すると突如列車がガタガタと揺れ出した。


ガタガタ!!


水野「わっ!?」

アズサ「うわっ!」


坂木「きゃあ!」

ケイはこんな状況なのにも関わらず坂木の腕の中でスヤスヤと眠っている。


パニックになる三人に須藤が叫んだ。

須藤「椅子の横の角に体丸めるんだ!そうすりゃ固定される!」

須藤の言葉に三人が頷く。


須藤は猫を抱き締め、坂木はケイを抱き締め、水野はアズサを抱き締めて揺れが落ち着くのを待った。

しばらくして揺れが収まり、それと同時に列車の扉が開いた。

アナウンスは何事もなかったかのように駅名を言っただけだった。


坂木「皆さん、色々とありがとうございました!」


アズサ「どう致しまして!」

とアズサが元気よく返す。

水野「いえいえ〜!ケイ君またね」

水野は眠っているケイに手を小さく振る。



須藤が何も言わずに帰ろうとしたので坂木が止める。

須藤「何だ」

坂木「あの、さっきはありがとうございました、あなたの声掛けのおかげで息子も私も無事でいられました」

水野「ありがとうございました」

アズサ「ありがとう!」

須藤「別に、大したことはしてない」


坂木はカバンの中からめぐリズムを出すと須藤に差し出した。

須藤「何だこれ」

坂木「目を温めるアイマスクですよ、ホカホカしてリラックスできるんです、不眠、治るといいですね」



須藤は無言でめぐリズムを受け取るとカバンから財布を取り出し、一万円札を坂木に渡した。

坂木「え!?お金なんて受け取れません!しかも一万円も・・・これは先程のお礼ですし・・・」

須藤「ガキにおもちゃの一つでも買ってやれ」

坂木「え・・・」

その時、ケイが起きた。

ケイ「う、ん・・・」

坂木「あらケイ、起きたのね」

須藤「・・・さっきは悪かった」

坂木「え・・・」

須藤は坂木とケイの顔を交互に見てそう言うと身体をふらつかせながら帰っていった。

かなり不眠がキツいみたいだ。



猫は列車を降りると須藤の後ろ姿を数秒見つめた後、どこかへ消えてしまった。



アズサ「あの、お姉ちゃん」

水野「アズサ君、なーに?」

水野はアズサと同じ背丈までしゃがむ。

アズサ「さっきの、大人になったら泣きたくても泣けなくなるって本当?」

水野「うん、そうだよ、だから今はいっぱい周りの人に甘えたり頼ったりすればいいよ」

アズサ「僕、いい子でなくていいの?」

水野「大丈夫だよ、いい子じゃないって思ってても君はちゃんといい子だから」


アズサ「あのね、その・・・」

アズサが照れ臭そうにもじもじする。

水野「うん?」

アズサ「頭いい子いい子してくれる・・・?」

水野「分かったわ」

水野は微笑むとアズサの頭を優しく撫でた。

水野「いい子いい子」

アズサ「えへへ!また会えるといいね!」

水野「うん」

水野"何この子可愛い過ぎるんだが?"



水野「外暗いし気を付けて帰るのよ」

アズサ「お姉ちゃんの方こそ気を付けてね、女の子なんだからさ」

 

水野"恐ろしい子‼︎飛んだプレイボーイだよ"


水野「ありがとう、気を付けるよ」


水野はアズサの後ろ姿が見えなくなるまで見守ろうと見ていた。

アズサが歩き出し、途中で足を止めて振り返った。

アズサ「じゃあお姉ちゃんまたね〜!」

アズサが手をブンブンと振った。

水野「うん、またねー!」

水野も手をブンブンと振り返す。




辺りはとっぷりと暗くなっていた。


水野はうーんと背伸びをした。明日は休みだ。

"明日はいい日になりそう、

さーて、明日は何しよっかな〜!"

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