005 元・魔王 vs 新・魔王!?なんで私を巡って争うの?
かつて世界を支配していた魔王アレス。そんな彼が今どうなっているかというと——ただの没落貴族の少年だ。戦争で領地を失い、名誉も財産もゼロ。魔力もどこかに消え失せ、見た目は普通の人間そのもの。
「なぜ俺は人間になったんだ?」
そう嘆いているらしいけど、私からすれば「知らないわよ」としか言いようがない。とはいえ、そんな彼が王都にやってきた理由は、ちょっと面白い話だった。
「新しい魔王の正体を探るために、お前に会いに来た」
——目の前で、元・魔王が真剣な顔でそう言い放った。
「え? あの魔王だった人!?」
思わず声に出してしまった。だって、かつて世界を震撼…じゃなくて、大混乱させた魔王が、今じゃ普通の貴族の少年になっているなんて、なんだか笑えるじゃない?
「まぁ、もう魔王でもないんだから、普通の貴族に戻ったら?」
私がそう言うと、彼は少ししょんぼりした顔をした。こんな表情を見せる魔王なんて聞いたことないわ。
「それでも俺は、魔王だった男だぞ?」
「だった、でしょ? 過去は過去よ」
「お前、もうちょっと労わるとかないのか?」
「元・魔王に同情してどうするのよ」
彼がふてくされた顔をしたので、私は軽く笑って肩をすくめた。
「それで、その新しい魔王って誰なの?」
「まだ分からない。だが、王都では妙な噂がある」
アレスは深刻そうに語る。
「婚約破棄された公爵令嬢が、魔王国で優雅に暮らしているらしい」
「あら、それはまた興味深い話ね」
そんな会話をしていたら、向こうからひとりの男性が歩いてきた。黒い礼服に銀の刺繍。高貴な雰囲気を漂わせた青年。
「彼女は渡さない」
突然、そんなことを言われた。
「……え?」
思わず聞き返す。だって、まるで私が賞品みたいじゃない?
アレスは彼を見て眉をひそめる。
「お前が新しい魔王なのか?」
青年——カイゼル・ノアーラは静かに頷いた。
「そうだ。そして、この女性は私の妃だ」
勝手に話が進んでる気がするんだけど?
アレスは腕を組み、考え込むような表情を見せた。
「……つまり、お前が俺の後釜ってわけか」
「その言い方は少し違うな。私は最初から魔王だった」
さらっと言い切るカイゼル。
「……ふーん、そういう設定なのね」
この状況、普通なら怖がるところかもしれない。でも、私の脳内では別の考えが浮かんでいた。
(これは、もしかして……元・魔王 vs. 現・魔王の対決?)
なんだかんだで巻き込まれ体質な私。ため息をつきながらも、心のどこかで思った。
「面倒なことになりそう。でも、ちょっとくらいなら楽しめるかも?」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。