002 勇者から魔王の妻へ?まさかの転職活動
侯爵家の令嬢として生まれ変わったセリア・ヴァルムーンは、前世で勇者だった記憶を持ち、どうしても貴族のしきたりや政略結婚に縛られることに納得がいかない。心の中では「自由になりたい!」と願う彼女の元に、ある日、突然王太子・エドワードから婚約破棄を宣言される。
「君のような勝気な令嬢は、王妃には相応しくない!」
その言葉に、セリアは心の中でガッツポーズを決めた。
「最高!やっと自由になれるわ!」
もちろん、表面上はちょっとショックなフリをするけど、本音は大喜び。だって、今までずっと縛られていた婚約から解放されたんだから!
ところが、王太子は「嘆き悲しむだろう」と思いこんでいたらしく、予想外にも逆上してセリアに怒りをぶつけてきた。さらに、周囲の貴族たちも「気丈に振る舞っているだけ」と勘違いして、セリアを追放しようとする始末。
「はぁ? まぁいいわ。むしろ、冒険でもして、自由に生きようかしら。」
セリアは婚約破棄の知らせを受け、束縛から解放された喜びを感じていた。誰にも縛られず、自由に生きる――その思いが強く心を占めていた。
「さて、どうしようか…」
そんな風に思いながら、町の方へ歩き出すと、遠くに見える宮殿が目に入った。普通の建物とは一線を画す、その豪華さに思わず足を止めた。
中に入ってみようかと思い立ったその時、目の前に立っていたのは、驚くほど美しい男だった。魔王、カイゼル・ノアーラ。彼の存在は、まるで空気さえ変えるような圧倒的なものだった。
「お前、ただの令嬢ではないな」
その言葉に私は思わず顔を上げた。思ってもみなかった一言に、自然と笑顔がこぼれた。
「ええ、まぁ。前世で勇者やってましたし」
彼の目が鋭く輝く。どこか冷静さを保ちながらも、興味深げな視線を送っているのがわかる。
「ならば、お前を我が妃として迎えよう」
その言葉に、私は一瞬動けなくなった。求婚、まさかの求婚だなんて。信じられない思いが心を占めたが、カイゼルの顔に見える余裕を見て、次第にその言葉が真剣だということを感じ取った。
「…なんて、考えもしなかったけれど」
私の心臓が激しく打ち鳴る。自由を求めていたはずなのに、今度は魔王に求婚されるなんて…。頭の中が混乱し、言葉が出てこなかった。目の前のカイゼルは、その美しい顔に微笑みを浮かべているが、その眼差しはどこか真剣で、まるで私がどんな反応を見せるかを楽しんでいるようにも思えた。
私は自由を渇望していた。その自由がついに手に入ったことが嬉しくてたまらなかった。しかし、魔王という存在からの突然の求婚。これが、私が思い描いていた自由の形だったのか、それとも新たな束縛の始まりなのか…。それを受け入れるべきなのか、悩む気持ちが湧いてきた。
「まさか、こんな形でまた束縛を受けるなんて…」
私は口の中で呟きながら、ふっと笑みを浮かべた。その笑顔には驚きすら感じた。どこか、ふわりとした感情が湧き上がってきた。魔王城での生活を想像すると、妙に居心地がよく感じる自分がいた。
しかし、心のどこかで、その新たな束縛に対する恐れも感じていた。これは、自由を求めていた私にとって、どういう意味を持つのだろう。意外にも、私はその答えを見つけられずにいた。
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