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冒険者稼業は楽じゃなかった(上)

 【一】


 イードを倒して、レーイライドを魔族の手から取り戻す。

 そう目標を掲げた俺達だったが、具体的にどれくらいの金が必要なのか。俺達は冒険者ギルドの窓口で相談してみることにした。


「あの、ちょっとご相談なんですけど……。魔族討伐の依頼って報酬はどれくらい必要になるんです……?」

「それは討伐対象の魔族の強さによって全然変わってきますねぇ」

 窓口の事務職員は、淡々とそう答える。


 ――そういえば、イードの強さって全然知らないな。元魔王軍幹部の息子って言ってたっけ?


「えーと、例えば魔王軍の幹部クラスとか……」

 俺のその発言に、事務職員の顔色が変わる。


「そ、それは……、Aランク向けの依頼になりますね……」

 ギルドに登録されている冒険者は、その強さや功績によって最高ランクのAから見習いのEまでランク分けされている。

 最高位であるAランクの冒険者は、アルネイア国内でも数えるほどしかいないらしい。


「魔族討伐で有名なのは、例えば英雄レオルスとかですね。過去の事例からすると、報酬はこれくらいになります」

 事務員さんは、Aランク冒険者のパーティが過去に受けた依頼書の写しを見せてくれた。


「はぁ……!? こ、こんなにするのか……!?」

 その金額を見て、俺は度肝を抜かれた。先日アイラスの賭け闘技でもうけた金などはした金に思える。


「そ、そりゃ命がかかってますし……。それに、こういった大きい討伐って町や国から報酬が出ますからね」

「な、なるほど……、分かりました……」

 俺はがっくりと肩を落とす。


「……一応お伺いしますけど、本当に魔王軍幹部クラスの魔族が出現したわけじゃないですよね?」

 事務職員は不安そうな表情で尋ねる。


「あっ、はい……。確認したかっただけです……」

 俺は適当に言葉を濁した。



 ***


 ――強い冒険者を雇うためには、大金が必要だ。

 その現実を突きつけられた俺達は、本気で金を貯めることにした。


 アイラスのファイトマネーだけで稼ぐのは限界がある。そこで、俺たちは闘技場での仕事のかたわら冒険者として依頼をこなし、ランク上げを目指そうと考えた。

 冒険者ランクが上がれば、高額の依頼も受けられるようになる。依頼内容によっては、一発で大金を稼ぐことも夢ではないはずだ。


「……というわけで、まずは装備を整えるか」

 冒険者として依頼をこなすにしても、さすがに「装備:布の服」で冒険に出るのは御免だ。


「そうね、ナックルとか売ってないかしら」

「それは……、どうだろうな……」



 最初に入った防具屋は、中年のおっさんが店主だった。

 店に入ってきたアイラスの顔を見て、おっさんはスケベそうな笑みを浮かべながら言った。


「お嬢ちゃん、お嬢ちゃんにおすすめの装備あるよ。……これなんてどうだい?」


 そう言っておっさんが差し出したのは、いわゆるビキニ鎧だった。

 ――これは……、ある意味裸よりエロいな。布面積が異常に小さく、果たして防具としての意味があるのか疑問になるデザインだ。


 アイラスはにっこりと微笑んで、おっさんをワンパンした。

 彼女としてはかなり手加減したのだろうが、おっさんの体は盛大に吹き飛んで見事に天井に突き刺る。


「……他の店に行こうか」

「ええ、そうね」



 二軒目に入った武器・防具の店は、女性の店員さんが熱心に接客してくれた。


「お客様、こちらの鋼の鎧はいかがでしょうか!?」

「え、いやその、あんまり重いのはちょっと……」


 店員さんは丁寧に色々紹介してくれたものの、結論から言うと俺たちが装備できるような防具はあまりなかった。

 ――重量級の防具は着ても重くて動けないのだ。俺の体力のなさを舐めないでほしい。


「私も重い防具はいいかなぁ。動きが制限されるのはちょっと……」

 アイラスもそう言った。


「はあ……、でしたらこちらの皮の鎧はいかがでしょう」

「あ、じゃあそれで」

 結局俺は一番安い皮の鎧を買った。

 アイラスは皮の胸当てとグローブだけ購入する。


 それと、軽くて俺でも扱えそうな短剣もついでに見繕ってもらった。いつまでもアイラスばかりに攻撃を任せているわけにもいかないし、まあ、ないよりはマシだろう。


 最初は長剣をおすすめされたのだが断った。――剣術なんてまともに習っていないし、それ以前にあんなもの重くて持ち歩けない。本当に俺の体力のなさを舐めないでほしい。



 【二】


 魔導協会ほどではないが、冒険者ギルドも大きな建物だった。

 ギルドのロビーは重そうな鎧を着こんだ屈強な戦士や、ローブを着た魔法使いなど、いかにも冒険者といった風体の者たちで溢れかえっている。


 ロビーの壁には、様々な依頼書が貼り出されていた。

 雑然と貼られているのは、俺達のような見習い冒険者でも受けられる低ランクの依頼ばかりだ。


「とりあえず、薬草採取とか安全そうなやつから始めない?」

 依頼書を眺めながら、アイラスが言った。

「いやいや、薬草の知識なんてないだろ……。やっぱり魔物退治がいいんじゃないか?」


 そうやって俺達が依頼を物色していた、その時だった。

 突然、何者かが俺の背中にぶつかった。


 ――痛ってぇ……!! わざとだな、今の……!!

 俺が振り返ると、そこには体格の良い体に重そうな鎧を着こんだ、重戦士風の男が立っていた。


「ん? 今ぶつかったか? 悪ぃ悪ぃ、ヒョロすぎて気づかなかったぜ」

 男は白々しくそう言って俺を嘲笑う。――何だこいつ、感じ悪いな。


 その時、俺はその男の顔に見覚えがあることに気づいた。

 俺より先にアイラスが口を開く。


「――あら、あなたこの前の……」

 アイラスの顔を見た瞬間、男の顔が青ざめた。

「げっ……、アイラス……、いや、アイラスさん……!!」


 彼は、先日の闘技場でアイラスに三角絞めで落とされた男だった。


「……お前、確かグエインとか言ったっけ。この前闘技場でアイラスに絞め落とされて負けたグエインだよな……!!」

 俺はわざと周囲に聞こえるような大声で言った。


「や……、やめろ……!! その話はするんじゃない……!!」

 グエインは慌てて俺の言葉を遮ろうとする。


「あ~、そうだよなぁ、お前みたいな大男がこんな美少女に負けたなんて恥ずかしくて言えないよなぁ。しかも太ももに挟まれて何か幸せそうな顔してたもんなぁ……!! このド変態が……!!」

「や、やめろ――――!!!」


 周囲の冒険者たちがヒソヒソしながらこちらを見ている。羞恥に耐えかねて、グエインはどこかへ走り去って行った。

 ――フッ、ちょっとスカッとしたぜ……


「レーンド、あんまり意地悪したら可哀想よ」

「……いいんだよ、先に絡もうとしてきたのはあっちだろ」


 弱そうな見習い冒険者にちょっかいを出して笑いものにしようとしたんだろうが、そうは行くか。

 冒険者の中にはああいう奴もいるんだな……


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