表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/32

脳筋聖女に愛を試される


 台所も自由に使っていいと言われたので、翌日から俺達は早速自炊してみることにした。食事代も馬鹿にならないからな。

 とはいえ、王族だった俺は当然今まで料理などしたことがない。前世でも料理らしい料理はしてこなかった。


「ちなみに、アイラス……、料理はできるのか?」

「ええ、まかせて……!!」


 俺の問いに、アイラスは自信満々に頷いた。

 ――彼女も王家の血を引くお姫様だったはずだが、料理なんてする機会があったんだろうか? 前世で自炊してたのか……?


 しかし、疑うのも悪いのでその日はアイラスに料理を作ってもらうことにした。

 何やら色々と食材を買い込んできたアイラスは、エプロンを付けて上機嫌で台所に向かった。


 なお、センタの町は俺が思っていた以上に近代的だった。

 上下水道は整備されているし(魔法で水を浄化する浄水施設があるらしい)、ワンタッチで火を起こせる炎の魔法が仕込まれた魔道コンロなんてものも普及している。……薪を割って火を起こしていたレーイライドとはつくづく大違いだな。


 ――それにしても、女の子の手料理か……。うん、いいな。悪くない……

 何だかんだで、俺はアイラスの手料理を楽しみにしていた。――しかし、その期待は儚くも打ち砕かれる。


「ウォルアアアアァァァァァァァ!!!!」


 台所から、とても料理をしているとは思えない雄叫びが聞こえてきた。

 俺は慌てて台所の様子を伺う。


「……あら、レーンド。ゆっくり待っていていいのよ?」

 そこには、包丁を使わず握力だけで材料を粉砕しているアイラスの姿があった。


「いや、待ってくれアイラス。料理と言うのは、材料を素手で粉砕するものじゃない。包丁を使うんだ……!!」

「そうなの……?」


 アイラスはキョトンとして首をかしげる。

 ――くっ、その動作だけは可愛いな……!!


 俺はこの時点でアイラスを止めるべきだった。止めるべきだったのだ。

 しかし、状況に流されて俺は彼女に最後まで料理をさせてしまった。――ああ、認めよう。包丁の使い方も知らない彼女が作った料理の完成品がどうなるのか、若干の好奇心があったのは事実だ。

 結果として、俺はその好奇心に首を絞められることになる。


「おまたせ……!!」

 そう言ってアイラスが満面の笑顔で出してきたのは、名状し難い『何か』だった。


 ――これを『料理』と呼ぶのは料理に失礼な気すらする。

 俺は彼女が錬成したその『何か』に宇宙的な恐怖を感じた。


 可愛い女の子が殺人料理をお出ししてくるのは漫画ではまあありがちな展開ではあるが、しかし、食べられる食材を使ってこんなものを錬成することが果たして可能なんだろうか。


「アイラス……、こ、これは……?」

 おそるおそる、俺は尋ねた。


「特性スタミナシチューよ。前世でも、試合の前日とかによく作っていたの。体力付くのよ?」

 ――前世でもこれ作ってたの? 近所から苦情とか来なかった?


 どうやらアイラス的にはこれは「普通に食べられるもの」という認識らしい。

 ――本当か? 俺とは見えてる世界が違うのか……?


「さあ、遠慮しないで食べて……?」

「あ……、ああ……」


 いっそこの場から全力で逃げたい――そんな気持ちでいっぱいだった。だが、「愛の指輪」がその気持ちに反応し、俺をこの場に縛り付ける。本当に呪いの指輪だなぁ、これ……!!


 名状し難い宇宙色の泥――もとい、特性スタミナシチューにスプーンを入れ、ドロリとした粘性の高い液体をすくい上げる。

 ――俺は一体何を試されているんだ? 愛か? 愛を試されているのか……?


 もうどうとでもなれという気分で、俺はそのシチュー(?)を口に運んだ。

 ――――ん?


「思ったより味は悪くないな……」

 どんな味とは説明しにくいが、思ったより普通に食える。――うん、食えるぞ。


「でしょ? 得意料理なんだから」

 アイラスはその謎シチューを普通に食べている。


 ――おかしいのは見た目だけか……?

 何だ、そんなに警戒することなかったな……と、俺は謎シチューを口に運び、……数秒後、盛大にその場に倒れた。


「キャアアアアァァァ!? 大丈夫!? レーンド……!!」

 突然泡を吹いてぶっ倒れた俺に驚いて、アイラスが悲鳴を上げる。


 ――大丈夫じゃない。う、宇宙が見える……

「味が普通」というのは、ただの罠だった。名状し難いシチューはやはり殺人料理だったのだ。これまでに体験したことのない腹痛と吐き気と悪寒が俺を襲う。


「レーンド!! しっかりして!! 死なないで……!!」


 ――な、何でお前は平気なんだ……?

 慌てて駆け寄って来たアイラスの腕の中で、俺の意識は薄れていった。




 数時間後。腹痛で寝込んでいる俺に向かって、アイラスは申し訳なさそうに言った。

「ごめんね、レーンド……。そんなに胃腸が弱いなんて知らなかったの……」


 ――お、俺の胃腸が虚弱みたいな言い方をするな!! お前の胃腸がおかしいんだよ……!!

 そう言ってやりたかったが、言い返す気力すら俺には残っていなかった。


 なあ、アイラス。お前がファリスから追放されたのは本当に魔力がゼロという理由だけか?

 もっと他の問題もあったんじゃないのか……?


 とにかく、俺は固く心に誓った。

 ――明日から、料理は俺が作ろう。


次回、「冒険者稼業は楽じゃなかった」

読んで下さってありがとうございました!!よかったら評価やブックマークよろしくお願いいたします!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ