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魔導協会の会長はエルフのお姉さんだった

 【一】


 センタの町はいくつかの区画に分けられており、同系統の職種が自然と集まって職人街が形成されている。魔導書や魔道具を扱う店が多いその区画は魔法街と呼ばれ、その中心にアルネイア魔導協会はあった。


 協会の建物はちょっとした城くらいの大きさがあった。高い尖塔が何本も空に向かって伸びている。

「おお……、すげぇ……」

 地元では見たことのない建築物に感動し、俺は思わず声を上げた。

 ――しまった。田舎者くさかったか……?


 玄関ホールも広く、黒い石造りの床はピカピカに磨き上げられている。

 窓口らしき机に若い魔法使いのお姉さんが座っていたので、俺は声をかけた。


「……あの、すみません。魔道具の鑑定を頼みたいんですけど……」

「はい、アイテムの鑑定ですね。……鑑定するアイテムをお預かりしてもよろしいですか?」


「あ、この指輪なんですけど。魔力のせいか指から外れなくて……」

「はあ、なるほど……。じゃあちょっと失礼しますね~」

 お姉さんはそう言うと、宝玉のついた杖をおもむろに俺の薬指の指輪へと向けた。そして、何やら短い呪文を詠唱する。


 次の瞬間、宝玉から色とりどりの光がブワッと広がった。

 その光は全く収まらず、光の洪水が俺達を飲み込み、周囲に広がっていく。


「ええっ……!? 何これ……!?」

 俺達も驚いたが、魔法をかけたお姉さんが一番驚いていた。


 その宝玉は魔力の大きさと属性を調べるためのものだった。

 レーイライドに居た頃に、俺も魔力を測定してもらったことがある。俺の魔力なんて微々たるものだから、宝玉は大して光らなかった。


 ――じゃあ、この輝きの大きさは何だ?

 この指輪にはそれだけ大きな魔力が込められているってことか……!?


 お姉さんが呪文を解除すると、宝玉の光はようやく収まった。周囲にいた他の魔道士たちがこちらを見てザワザワしている。


「あ、あなた達、この指輪を一体どこで……!?」

「そ……、それは……」

 俺は口ごもった。

 ――どうしよう、レーイライド王家に伝わる家宝だなんて正直に言うわけには……


 その時だった。


「一体なんの騒ぎだい?」

 そんな声と共に、建物の奥から一人の女性が姿を現わした。

 萌黄色の長い髪をゆるく三つ編みにし、眼鏡をかけている。髪の毛からのぞく耳は長く、先端が尖っていた。


 ――エルフだ!! エルフのお姉さんだ……!!

 初めて見る亜人種に、俺は内心興奮した。外見は二十代くらいに見えるが、実際は何歳なんだろう。


「か……、会長……!!」

 窓口のお姉さんは、彼女の姿を見てそう言った。

 ――会長? もしかしてこのエルフが、アルネイア魔導協会の会長なのか……?


「君達、どうやら珍しいアイテムを持っているみたいだね。――おいで、私が直々に鑑定してあげよう」

 エルフのお姉さんは、そう言って俺達を手招きした。



 【二】


 建物の奥のとある個室に、俺達は通された。

 部屋の本棚にはたくさんの魔導書が並び、一部は本棚に収まりきらず床に溢れている。用途の分からない魔道具が雑然と散らかっており、お世辞にも綺麗な部屋とは言えない。

 ――ここ、もしかして会長さんの仕事部屋か……?


「挨拶が遅れたね。私はイーリィ。こう見えて、アルネイア魔導協会の会長をやらせてもらっている」

 エルフのお姉さんは、そう名乗った。

 俺とアイラスも苗字を伏せて名前を名乗る。


「では早速だが、その指輪を見せてもらおうか」

「はい、お願いします……」

 俺はイーリィさんに向かって左手の甲を差し出した。


 イーリィさんが呪文を詠唱すると、目の前に魔法陣が出現した。見たことのない複雑な魔法陣だ。

 ――解析魔法……なんだろうか。


 一般的に、高度な魔法になるほど術式――つまりは魔法陣の紋様が複雑になる。熟練の魔道士は魔法陣の紋様や文字列から相手の魔法を見破ったりできるらしいが、俺にはさっぱりだ。


「ふむ、珍しい魔法がかかっているね。初めて見るよ……」

 目まぐるしく変化する魔法陣の形状を眺めながら、イーリィさんは言った。


「ど……、どんな魔法がかかってるんですか……?」

 おそるおそる、俺は尋ねる。


「指輪の装着者同士を繋ぎ止める魔法だ。――具体的にはね、相手から離れようとすればするほど指輪同士に引き合う力が発生する仕組みになっている」


「引き合う力……ですか。それって、具体的にどれくらい離れたら発生するんですか……?」

「うーん……、物理的な距離というより、心の距離の方かなぁ」


 ――ど、どういう意味だ……?


「つまりね、離れようとする気持ちが強いほど、逆に強く引き合ってしまうのさ」

 俺は何となく理解した。――なるほど、俺が昨日謎の力でアイラスの方に引っ張られたのは、彼女から逃げようとしていたからなんだな。


「逆に、お互いの心が強く結びついていれば、どれだけ離れても問題ない。絆の力が強ければ、便利な効果もあるよ。離れていても気持ちが伝わったり……とかね」


「……これって、そんな指輪だったのね」

 アイラスが言った。

「すまん……、俺も知らなかったんだ……」


「別に謝る必要なんてないわ。離れていても気持ちが伝わるなんて、ロマンチックじゃない」

 アイラスはむしろうっとりしている。


 ――アイラスさん? マイナス効果のことちゃんと聞いてた……?

 例えばだが、喧嘩して関係が悪化したら悲惨なことになるのは容易に想像できる。離れたくても指輪の引力で物理的に引き合ってしまうのだから。


「ち、ちなみになんですけど……。これ、解呪ってできるんですか……?」


「残念ながら、無理だ」

 にこやかに、きっぱりと、イーリィさんは無慈悲にそう言い切った。


「え……、無理……?」

「ああ、無理だ。――正確に言うと、私には無理だ。術式が複雑に絡み合って、すでに君たちの精神に根を張っている。強引に引き剥がしたら、発狂してしまうかもしれないよ?」


 ――え、えええええぇぇぇ……!!

 俺は心の中で絶望の声を上げた。


「ち、ちなみに、イーリィさん以外で解呪できそうな魔道士っていないんですか……?」

「謙遜せずに言わせてもらうと、私はこの国で最高位の魔道士だと自負しているよ。私で無理なら、この国にこれを解呪できる魔道士はいない。……そうだな、伝説の賢者クラスの魔道士なら解呪できるかもね」

 にこやかに微笑みながら、イーリィさんはそう言った。


 ――何てこった。つまり俺は、アイラスから離れられないし逃げられないってことだ。


「別に困ることないじゃない。私たち、婚約者でしょ?」

 アイラスは、のんきにそう言った。

「はは……、そうだね……」

 俺は引きつった顔で笑った。――どうやら、異世界ハーレムは諦めるしかなさそうだ。



 【三】


「指輪については分かりました……。色々ありがとうございました……」

 俺はイーリィさんに礼を言った。


「構わないよ、こちらも珍しいものを見せてもらった。よかったら術式を記録させてくれないか?」

「あっ、はい……。どうぞご自由に……」


 ――記録ってどうやって? と思った俺の目の前で、イーリィさんは何か魔法を唱えた。

 次の瞬間、指輪から大量の文字のようなものが空中に溢れ出る。


「うわっ……、何だこれ……」

「これが指輪に込められた魔法の術式さ。まったく、この術式を組んだ魔道士は天才か変態のどっちかだと思うね」

 溢れ出た文字はイーリィさんが持つ白紙の魔導書に吸収され、白いページを埋めていく。


 ――お、おお……、何かすごいものを見た気分だ。高位の魔道士ってこんなこともできるんだな。



 俺はふと、イーリィさんに尋ねた。

「あの、ついでと言ってはなんですが、俺の魔力を調べてもらってもいいですか?」


「――ん? ああ、構わないよ。そこの宝玉に触ってみたまえ」

 イーリィさんは、テーブルの上に無造作に転がった宝玉を指差した。


 俺が以前に魔力を測定したのは子供の頃だ。宝玉は大して光らず、自分に魔法の才能がないと知った俺はそれから魔法の勉強をサボるようになった。


 俺はテーブルの上の宝玉に手を触れた。

 宝玉は、ぼんやりとくすんだ色の光を放つ。火や水のような属性魔法に適性があれば光の色が変化するはずなのだが、俺の場合は灰色だ。――無属性、か。


「……やっぱり俺って、魔法の才能ないんですかね」

「うーん、まあ一般人はそんなものだよ。魔力量は訓練すれば後天的に増やせるし、頑張りたまえ」

 イーリィさんは、さほど興味がなさそうな口調で言った。


「訓練って、具体的には……?」

「魔法を色々覚えて、たくさん使ってみることだ。運動すれば筋肉が鍛えられるのと同じように、魔力回路が強化されるんだよ。まあ、この感覚は人間には分かりにくいかもしれないが……」


「地道にやるしかないってことですね……」

 俺は小さくため息をついた。せっかく異世界に転生したんだから、チート能力とかあればよかったのに。


「ああ、もちろんだ。魔法を覚えるのに近道はないよ。……とりあえず簡単な魔法から覚えたいなら、魔導協会の売店で売っている『五歳から始める魔法入門』を買っていくといい。君にも使える魔法があると思うよ」


 ――くっ、商売上手め。後で買ってみるか……




 その後、アイラスも宝玉に触れてみたが、宝玉は一切反応を示さなかった。


「へぇ、魔力が全くないというのは逆に珍しいね。普通は、誰でも少しくらいはあるものなんだけど」

 興味深げに、イーリィさんは言った。


「私でも、訓練すれば魔力量は増えますか……?」

「残念だけど、君のそれは特異体質のようなものだよ。ゼロには何をかけてもゼロにしかならない」

 アイラスの問いに、イーリィさんは無慈悲にそう答えた。イーリィさんは研究者気質なのか、オブラートに包まずはっきりとものを言う。


「そう……ですか……」

 アイラスは露骨に落胆した表情を見せた。


「まあ、気にするなって。魔法が使えなくても死ぬわけじゃないし」

 俺はアイラスをなぐさめる。

「うん……」


 ――魔法が使えなくても、アイラスはフィジカルだけで無双できるしな。

 指輪が簡単に解呪できないと分かった以上、当面はアイラスと二人でやっていくしかない。俺はそう覚悟を決めるしかなかった。


次回、「脳筋聖女は闘技場で無双する」

読んで下さってありがとうございました!!よかったら、評価やブックマークよろしくお願いいたします!!

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