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高ランクパーティとの激突、そして聖女は覚醒する

 【一】


 長老の説得もあって、集落の魔族たちはようやく俺たちの話を信用してくれた。

 ――どっちみち、俺達人間に見つかった時点で集落を捨てて逃げないといけない。そうやって、今まで何とか生き延びてきたのだと長老は語った。


 しかし、残念ながら少し遅かったようだ。

 俺たちは説得に時間をかけすぎてしまった。


 集落を覆い隠していた幻影の岩肌が、不意に掻き消えた。――誰かが外部から幻影魔法を強制解除したのだ。


「結界が破られた……」

 険しい顔で、長老が言った。


「……こんなショボい幻影魔法で隠れてるつもりなの?」


 結界を破って現れたのは、一人の少女だった。

 桃色の長い髪をツインテールにしたハーフエルフの少女だ。先端に宝玉のついた杖を持っている。


「エルシィ……!!」

 リーシャが彼女の名前を呼んだ。

 ――もしかして、彼女はレオルスのパーティの一人なのか?


「あれ? リーシャじゃん。何であんたがこんな所にいるの? ここの魔族を退治しに来たの?」

 エルシィと呼ばれた少女は、怪訝そうな顔で尋ねる。


「違う……!! 私はお前たちを止めるために来たんだ。もうこんなことは止めるべきだ……!!」

 リーシャは、かつての仲間に向かってそう言った。


「はぁ? 何言ってんの? 魔族を退治して何が悪いの? ……それとも、もしかしてパーティを追い出された腹いせに私達を邪魔するつもり? だっさ……!!」

 しかし、リーシャの言葉をエルシィは鼻で笑う。


「邪魔したいならしてみれば? お前も一緒に焼き殺してやるから……!!」


 エルシィは、問答無用で魔法陣を展開した。

 一般的に、高度な魔法になるほど魔法陣の紋様が複雑になる。エルシィが展開した魔法陣は、俺が見たこともないような複雑な形状をしていた。――よく分からないが、高位の魔法だということだけは分かる。


 エルシィの周囲に、渦を巻くように巨大な火柱が出現した。火柱はまるで意思を持つ龍のように俺達の方に向かって襲い掛かってくる。


「くっ……!!」

 エルシィが魔法を発動させるのとほぼ同時に、リーシャも魔法陣を展開していた。

 突如として俺達の周囲の空気が冷えて吹雪が巻き起こる。巻き起こった吹雪が壁となり、炎の龍の行く手を阻んだ。


「……ここは私が食い止める!! 今のうちに、君達は魔族達を連れて逃げてくれ……!!」

 エルシィの魔法を防ぎながら、リーシャは言った。


「わ……、分かりました……!!」

 高ランク同士の魔法戦を目の当たりにして、俺は頷くことしかできなかった。とてもではないが、俺なんかが手出しできる次元ではない。


「今のうちに逃げましょう……!! 抜け道とかありますか!?」

 魔族の長老に向かって、俺は言った。


「あ、ああ……。集落の反対側からも抜けられるようになっておる……!!」

 長老は答える。

 エルシィの魔法に恐れをなして、すでに反対側へ向かって逃げ出している魔族達もいた。


 ――しかし。

 彼らが逃げ出した方向から、悲鳴が聞こえた。


 そこに、一人の青年が立っていた。

 二十代後半くらいの精悍な顔立ちの青年だ。青い鎧に身を包み、抜き身の剣を手に持っている。逃げ出そうとした魔族達を容赦なく斬り殺し、その剣は血に濡れていた。


「ミア、見ちゃ駄目だ……!!」

 俺は咄嗟にミアの体を抱きしめて、その目をふさいだ。――あんな光景、ミアに見せるわけにはいかない。


「英雄レオルス……」

 グエインがそう呟くのが聞こえた。


 ――こいつがレオルスか。『英雄』と呼ばれるAランク冒険者。


「君達、人間か……? こんな所で何をしている?」

 レオルスは、俺達に向かって尋ねた。


「それは……」

 俺が何か言う前に、殺された魔族達を見たアイラスがキレてしまった。


「何してるはこっちのセリフなんだよ……!!! 魔族だからって殺していいと思ってんのかあぁ……!!!??」

 そう叫びながら、無謀にもレオルスに向かって殴りかかっていく。


 ――馬鹿!! やめろ……!!


 レオルスは別段慌てることなく、持っていた剣を無造作に投げ捨てる。そして、アイラスの拳を片手で容易く受け止めた。


「――――!?」

 あっさりと攻撃を防がれて、アイラスは驚愕に目を見開く。次の瞬間、レオルスは彼女のみぞおちに拳を入れていた。


「がはっ……!!」

 強烈なボディブローに、アイラスの体が吹き飛ばされる。


「……アイラス!!」

 俺は咄嗟にアイラスの体を受け止めようとしたが、力を受け止めきれずに一緒に倒れて地面に転がった。


 ――嘘だろ……、あのアイラスがこんな簡単に……

 Aランクとの圧倒的な実力差に、俺は戦慄した。全く勝てる気がしない。


「い……、いやあああぁぁぁぁぁ……!!」

 その時、ミアが悲鳴を上げるのが聞こえた。俺が手を離した隙に、ミアは殺された魔族達の死体を見てしまった。


「もうやめて……!! ひどいことしないで!! ミア達、何もしてないのに……!!」


 泣きながらミアは叫ぶ。彼女の周囲に、黒い魔法陣が浮かび上がった。

 ミアの魔法が発動し、黒い炎がレオルスに向かって襲い掛かる。


 同時に、魔族の長老も黒い雷のような魔法をレオルスに向けて放った。


 しかし、それらの攻撃はレオルスには届かなかった。

 レオルスは、自身の周囲に白い魔法陣を展開する。ミアの炎も、長老の雷も、白い魔法陣に全て弾かれた。


 レオルスが使った魔法は、対魔法防御系の高位魔法だった。

 闇属性の魔法を完全に遮断する絶対障壁だ。――俺は、レオルスが魔族に対して圧倒的な強さを誇る理由を理解した。これでは、魔族達はレオルスに対して手も足も出ない。


 レオルスは剣を拾い上げると、まるで虫でも潰すかのように無造作に長老を斬り捨てた。


 そして、ミアに向かって剣を振り上げる。

 相手が幼い少女だろうと、レオルスの動作には一切の躊躇もなかった。


「やめろ……!!」

 俺は叫んだ。体が勝手に動いて、俺はミアを庇うようにレオルスの前に飛び出していた。


 レオルスの振り下ろした剣が、俺の体を斬り裂いた。


 焼けるような痛み。

 自分の体から血が噴き出すのが、スローモーションのように見えた。


 ――あっ、やばい……。俺、死んだかも……



 【二】


 悲鳴が聞こえる。

 ――これは、誰の悲鳴だ?


 血を流して倒れる俺の姿が見えた。

 ――あれ? これは誰の視点だ……? 俺、本当に死んだのか……?


 ミアが泣きじゃくりながら俺の体にすがりついている。グエインが、慌てて俺の傷を止血しようとしていた。

 その様子を、俺は他人事のように眺めていた。


 レオルスに切り裂かれた俺の体の傷は深く、致命傷のように見える。


 悲鳴を上げているのは、アイラスだった。

 そこでようやく俺は気が付いた。――これは、アイラスの視点だ。


 何故か俺はアイラスの視点から世界を見ていた。

 ――何だ? 一体何が起こっている? これももしかして指輪の魔力なのか……?


 アイラスの感情が濁流のように俺の中に流れ込んできた。

 混乱と激しい悲しみ、絶望、そして怒り。彼女の感情の渦に飲み込まれて、頭がおかしくなりそうだった。


 ――落ち着いてくれ、アイラス。俺はここにいるから……


「ああああああああああああああああああああああ……!!!!!」


 アイラスが慟哭(どうこく)する。

 その時、『愛の指輪』を介して俺とアイラスの魔力回路が繋がるのが分かった。


 俺の体から魔力を吸い上げて、アイラスの体に魔力が満ちていく。

 魔法を使えないはずのアイラスの体の周囲に、白い魔法陣が展開された。


 ――何だ、この魔法は……!?


 アイラスの肉体に人智を越えた力が宿る。

 筋肉は限界を超えて躍動し、皮膚は鋼のような強靭さを得る。


「ウルアアアアアァァァァァァァ!!!!!」

 雄叫びと共に、アイラスが地面を蹴った。一瞬でレオルスと距離を詰め、蹴りと拳で攻撃を叩きこむ。


 膝、脇腹、みぞおち、そして顔面、――瞬時に四発、アイラスの打撃は全て人体の急所を的確に狙っていた。

 レオルスの体は派手に吹き飛び、岩肌に激突する。岩が抉れて体がめり込むほどの破壊力だった。


 目の前で展開されるバトル漫画のような光景に、俺は唖然とする。


「くっ……、くそっ……」

 さすがは英雄と呼ばれるだけあって、レオルスはその攻撃を受けてまだ立ち上がった。咄嗟に物理防御の魔法を使ってダメージを軽減したのだろう。


 アイラスはすかさずレオルスに追撃をかける。

 レオルスは自身に『身体強化』の魔法をかけて彼女を迎え撃つ。しかし、アイラスの攻撃はレオルスの身体強化などはるかに凌駕していた。


 レオルスの『物理防御』の魔法陣を拳でぶち抜き、彼の反応速度を超えるスピードで打撃を叩きこむ。

 攻撃の余波で背後の岩肌が粉砕されて崩れ落ちた。


 俺は最近がんばって読んだ魔導書の内容を思い出す。

 アイラスが使った魔法は恐らく、身体強化系の最高位魔法――『超越強化』だ。


 その名の通り、人間の限界を超越したパワーとスピードを得られる魔法だ。この魔法を自身に付与したアイラスは、もはや人間兵器と言っても過言ではない。


 ――しかし、どうしてアイラスがそんな高位の魔法を使えるんだ?

 もしかして、これがアイラス本来の『聖女』の力なのか?


「……これはレーンドの分!! ……これは長老の分!! ……そしてこれはお前に殺された魔族達の分だあああああぁぁぁぁぁ!!!!」


 アイラスは泣きながらレオルスの体をボコボコにぶん殴っていた。


「レオルス……!!」

 その様子を見て、エルシィが悲鳴のような声を上げる。


 エルシィのその一瞬の隙を、リーシャは見逃さなかった。

 リーシャは氷結の魔法を操り、空中に先端の尖った氷柱を何本も形成する。氷柱は、容赦なくエルシィに降り注いだ。


「きゃああああぁぁぁぁぁ!!!」

 エルシィの悲鳴が響き渡る。――しかし、氷柱は何もない地面を貫いていた。


 エルシィは、空間転移の魔法でレオルスのすぐ側に瞬間移動していた。

 レオルスに追撃をかけようとしていたアイラスに向かって、エルシィは炎の魔法を放つ。


「――――っ!!」

 アイラスは人智を越えた反応速度で身をひるがえし、至近距離から放たれた炎を避けて距離を取る。


 エルシィはレオルスの体を助け起こし、アイラスを睨みつけた。

「人間のくせに魔族の味方するなんて何考えてんの!? 意味分かんない!! 覚えてろよ、バ――――――カ!!!!」


 口汚い捨て台詞を残し、エルシィはレオルスを連れて空間転移魔法でどこかへと消えた。


 ――レオルス達を撃退した。俺達は助かったのか?

 いや、俺は助かってないか……


「レーンド……!!」

 レオルス達が消えるや否や、アイラスは俺の体に駆け寄った。


 グエインが何とか止血しようと応急処置をしてくれていたが、傷が深すぎて流れる血は止まらない。普通の回復魔法では、もうどうにもならない状態だった。


 アイラスは、俺の傷口に手を当てて白い魔法陣を展開した。

 白い光が俺の体を包み、傷口があっという間に塞がっていく。


 ――『完全治癒』の魔法。

 ちぎれた手足も瞬時に治せるという、回復系の最高位魔法だ。


 傷が癒えると同時に俺の意識はアイラスから離れ、自分の体に引き戻された。

 瞼を開くと、目の前にアイラスの顔があった。


「……アイラス」

 呟くように、俺は彼女の名前を呼んだ。


「レーンド……!!」

 アイラスは俺の体に抱きついて、思い切り抱き締めてきた。俺の骨がミシミシと音を立てる。


「アイラス……!! 手加減……!! 手加減してくれ……!!」

「あっ……、ごめんなさい……」

 アイラスは慌てて俺の体から手を離した。――あ、危うくもう一度死にかけるところだった。


 俺は自分の体を確かめてみたが、傷は完全に治っていた。傷跡一つ残っていない。


「アイラス、お前、魔法を……」

 そう言いかけた俺に、今度はミアが抱きついてきた。


「パパあぁぁ――――!! 死んじゃったかと思ったああぁぁぁ――!!!」

 俺の体にしがみついて、ミアはわんわん泣く。


「ミア……。ミアが無事で本当に良かったよ……」

 俺はミアの頭を優しく撫でた。


 ――そうだ、長老さんは……

 俺は慌ててそちらを見たが、長老は集落の魔族達に看取られながら亡くなっていた。


 ――助けられなかった。

 自分の無力さに心が痛んだ。




「……ありがとう、長老に代わって礼を言うよ」

 生き残った魔族の青年は、俺達にそう言った。


「いや、長老さんを助けられなくてすまなかった……。私がもう少し早く動いていれば……」

 申し訳なさそうに、リーシャはうなだれる。

 魔族の青年は首を横に振る。


「皆殺しにされずに済んだだけで十分だ……」


「……これからどうするつもりなんだ?」

 俺は青年に尋ねる。

 レオルスが戻ってきたら、今度こそ彼らは皆殺しにされてしまうだろう。


「ここから逃げて、またどこか住めそうな場所を探すしかない」

 魔族の青年は、そう答えた。


「噂によると、レーイライドという国が魔族を受け入れてくれてるらしい。……本当かどうかは分からないが、行ってみるつもりだ」


「えっ……?」

 思わぬ名前が出て、俺は思わずアイラスと顔を見合わせた。


 ――レーイライドだって? どういうことだ……?


次回「君と繋がる日(仮)」

次回の更新は水曜日の予定です(目標)


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