金がない俺たちは温泉を目指す
くつくつと鍋の煮える良い音がする。
もうすっかり料理に慣れてしまった俺は、今日も今日とて晩飯の準備をしていた。
「ミアも舞踏会行ってみたかった、です……」
先日お留守番をさせられたミアは少々ご機嫌ななめだった。
「大きくなったらミアも連れてってやるよ。デザートにプリン作ってやるから機嫌なおしてくれ」
「プリン……!?」
ミアはパッと顔を輝かせる。――うーん、チョロ可愛いな。
そうこうしているうちに、闘技場での試合を終えてアイラスが戻って来た。
「……ただいまぁ」
「おう、お疲れ。晩飯できてるぞ」
アイラスの試合が終わる時間に合わせるとどうしても夕飯の時間が遅くなってしまうのだが、まあ仕方がない。
「いい匂い……。今日のごはん何?」
「フフン……、今日は肉じゃがを再現してみたぜ……!!」
俺はドヤ顔で料理を披露する。相変わらず、俺は前世の味を再現することにハマっていた。
リビングのテーブルに食器を並べ、三人で食卓を囲む。
夕飯はエリーゼさんも一緒に食べることもあるが、彼女は何かと多忙なため時間が合わないことも多い。
「すごい……、懐かしい味……」
一口食べて、アイラスが感動したように言う。
「だろ? 醤油っぽい味を再現するのに苦労したぜ」
この世界にはさすがに無いからな、醤油。調味料を色々と試して、肉じゃが風の味を再現してみたのだ。
「パパのごはんおいしいです」
ミアも美味しそうに食べている。
「そうか、よかった。ミアのために少し甘めに作ったんだ」
「ふふ……」
肉じゃが(っぽい料理)を食べながら、アイラスは幸せそうな顔をしていた。
「……そんなに美味いか? 肉じゃが好きだったのか?」
「あっ、うん……。それもあるんだけど……。あのね、こういうの、ずっと夢だったの……」
「こういうの……?」
「うん……。こういう……、家に帰ったら誰かが待っていてくれて、一緒にご飯を食べて……っていうの。……私、前世でも今世でも家族と仲悪かったから、家族でご飯を食べた記憶があんまりなくて」
「そ……、そっか……」
――そういえば、アイラスの前世の話ってあんまり聞いたことないな。……プロレスラーだったことは知ってるけど。
アイラスはみつきなのか、今度確かめてみるか……?
「あっ、ごめん。暗い話しちゃって。……肉じゃが、本当に美味しい。レーンドって料理上手よね」
「料理上手になりつつあるな。おかげさまで」
実は俺には料理の才能があったのかもしれん。――こんなに喜んでもらえるなら料理を作るのも悪くないな。
その時、下宿の扉を叩く者があった。
エリーゼさんが帰ってきたのかと思ったが、そこにいたのはグエインだった。
「よっす、晩飯中だったか?」
「……よっすじゃねーよ、わざと晩飯時を狙って来ただろ……!! 飯が食いたかったら金を払え!! 材料費だってタダじゃないんだぞ!!」
「分かったよ……。というかお前、この前の舞踏会で結構稼いだんじゃなかったのか?」
「そうなんだけどさぁ……」
俺は渋い顔をする。
まだ高ランクの冒険者に魔族退治を依頼するには全然足りないのだ。
このままではイードを倒すなど何年先になるか分からない。金を貯めている間に俺達の方がベテランになってしまいそうだ。
もっと別の方法を考えるべきなのか……?
「まあとにかく……、あの程度の金額じゃ全然足りないんだよ」
俺はグエインに適当に返事をした。
「ふぅん……。何でそんな一生懸命金を稼いでるんだ? アイラスとの結婚資金でも貯めてるのか?」
「関係ないだろ、お前には……」
――こっちには色々と複雑な事情があるんだよ。
「そんなに金が必要なら、また何か依頼でも受けるか? 実は、報酬の良い仕事を見つけたんだ。ちょっと場所は遠いんだが……」
グエインが持ってきた依頼は、魔法の研究に使われる火の精霊の収集だった。
火山帯に多く生息しているらしく、センタの街からは数日がかりの移動になる。
「フラミール山脈まで行く必要があるんだが、あの辺の町には温泉も多いんだぜ。火山帯だからな」
「温泉……だと……!?」
俺はアイラスと顔を見合わせた。
センタの街は上下水道が整備されているおかげでシャワーは浴びれるのだが、ゆっくり湯船に浸かれる機会はなかなかない。
――闘技場の仕事はしばらく休みをもらって、気分転換に行ってみるのもいいかもな。
「パパ、温泉って何ですか?」
ミアが興味深々といった様子で尋ねる。
「天然の、大きなお風呂だよ。ミアも温泉行ってみたいか?」
「はいです……!!」
「よし、行ってみるか。温泉……!!」




