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対決・怪盗ルノワール!!波乱の舞踏会!!(前編)

 【一】


 ――舞踏会の夜九時に『星影の乙女』を頂きに参上する。

 それが、怪盗ルノワールからブルックリン公爵家に送りつけられた犯行予告の内容だった。


 アルネイア共和国はその名の通り共和制の国家だが、封建制だったころの名残で未だに貴族階級の力は強い。

 今回の舞踏会の会場となるブルックリン公爵家も、そんな貴族の家の一つだ。


 ブルックリン公爵家の当主オーガスト=ブルックリンは、趣味で彫刻や絵画などの美術品を収集しているらしい。

 今回の舞踏会では、ブルックリン公爵が最近入手した『星影の乙女』という絵画がお披露目されるという話だった。何でも、著名な画家の遺作で最近まで所在が分からず、「幻の名画」と呼ばれていたとか何とか……


「……なあ、アイラス。本当にそんなベタな怪盗がいると思うか?」

「さあ、どうかしら」


 俺の問いに、アイラスは素っ気なく答える。

 ――や、やっぱり怒ってるのか? あくまで婚約者のふりをするだけだろ……?


 怪盗ルノワールから『星影の乙女』を守るため、ブルックリン公爵は冒険者ギルドに依頼を出し、腕利きの冒険者を警備に雇ったというわけだ。


 ――うーん、やっぱりおかしいよなぁ。アニメじゃあるまいし、わざわざ予告状なんて送って相手を警戒させる必要がどこにある……?


 俺は何となく怪盗ルノワールの存在に違和感を覚えていた。

 まあ、そっちはアイラス達に任せて、俺は自分の仕事に集中するか……



 【二】


 そして、舞踏会当日。

 アイラスとグエインの二人は、警備の打ち合わせがあるとかで一足先にブルックリン公爵家へと向かった。

 ちなみに、ミアは今回はお留守番だ。屋敷の中でミアの魔法をぶっ放すのは危険すぎるからな。



 一方、俺はまずマリエラお嬢様のロイマール家に赴いた。

 そこで衣服を着替えさせられ、髪型もばっちり整えてもらう。――こういう貴族風の衣装を着るのも久しぶりだ。


「ふ、ふん……、まあ悪くないじゃない……?」


 貴族然とした俺の姿を見て、マリエラお嬢様はガラにもなく頬を赤らめる。

 ――おっと、本気で俺に惚れるなよ? アイラスが怖いからな。


「では行こうか、マリエラ?」

「え、ええ……。レーンド……」


 俺は着飾ったマリエラと一緒に馬車に乗り込み、その日限りの婚約者としてブルックリン公爵家へと向かった。



 *****


 ブルックリン公爵家は、小高い丘の上に建っていた。まるで城のような大きなお屋敷だ。

 ――ロイマール家も凄かったけど、この屋敷もレーイライド城より広いんじゃないか……? まあ当然か、元は封建領主だもんな。


 屋敷の中には、すでに警備のための日雇い兵士たちが配置されていた。

 その中に、グエインの姿を見つける。


 偶然すれ違った際、グエインは信じられないものでも見るような目で俺のことを二度見していた。――せいぜい目に焼き付けておくんだな、俺の高貴な姿を。




 舞踏会の会場は、吹き抜けの大広間だった。

 天井の大きなシャンデリアには光の魔法が仕込んであり、広間全体を明るく照らしている。


 壁には高そうな絵画がいくつも飾られており、ちょっとした美術館のようだった。――恐らく、これがブルックリン公爵のコレクションなのだろう。


 俺はマリエラをエスコートしながら、大広間の中へ颯爽と足を踏み入れた。

 謎の美男子(俺)を連れて現れたマリエラお嬢様に、会場の貴族たちの視線が一斉に集まる。


「まあ……、マリエラ様と一緒にいるのは一体どちらの貴公子かしら……」

 そんな風に囁き合う声が聞こえる。淑女たちの視線が俺に釘付けになっているのが分かった。


 ――フフン、まあ悪くない気分だな。

 マリエラお嬢様もどことなく得意げだった。


 さりげなく会場の貴族たちの様子を眺めていると、一人の青年が愕然とした表情でこちらに歩いてきた。

「マ……、マリエラ……!!」

「あら、ごきげんようロレンス。今日はカトリーヌ様はご一緒ではないのかしら?」


 マリエラは、青年に向かって言った。ロレンスという青年はばつの悪そうな顔をする。

 ――なるほど、この男がマリエラの元恋人か。


「こ……、この男は一体誰なんだ……!?」

 俺の顔を見て、ロレンスは憎々しげに言った。


「この方は私の婚約者ですわ。レーンド様と言いますの。とある小国の王家の血を引くお方ですのよ」

 勝ち誇ったように、マリエラは言った。

 ――俺の設定はマリエラが適当に考えたものだが、当たってるんだよなぁ……


「初めまして、ロレンス様。レーンドと申します」

 俺は貴公子スマイルを浮かべて、ロレンスに丁寧に挨拶した。


「こ……、婚約者……だと……」

 それを聞いて、ロレンスはがっくりと肩を落とす。――悪く思うなよ、ロレンスとやら。これも仕事なんだ。




「ご覧になりました? さっきのロレンスの顔!! 最高にスカッとしましたわ……!!」

 元恋人の鼻を明かして、マリエラお嬢様はご満悦だった。


「……それは良かったな」

 これで俺の仕事はほとんど終わったようなものだ。

 あとは舞踏会が終わるまでお嬢様に付き合って、美味い飯でも食って帰りたいところだ。このまま何事もなく舞踏会が終わってくれればいいんだが……


 その時、俺は大広間の中にアイラスの姿を見つけてしまった。

 彼女はメイド姿で給仕を行っていた。――なるほど、メイドに混じっていれば舞踏会の会場内でも自然に警備できるというわけか。


 ――というか、アイラスのメイド姿……だと……。くっ、じっくり見たい……!!


 よそ見をしていたら、マリエラに思いっきりヒールで足を踏まれた。

「……どこを見ておりますの?」

「す……、すみません……」

 俺は慌ててマリエラをエスコートする仕事に戻った。



 *****


 貴族たちがおおむね集まった頃だった。

 主催者であるブルックリン公爵家の当主、オーガスト=ブルックリンが大広間に姿を現した。上品な衣装に身を包んでいるが、腹部のふくよかさは隠せていない。


「お集りの紳士淑女の皆様、本日は我がブルックリン家の舞踏会にご列席いただき、誠にありがとうございます」

 大広間に集まった貴族の面々に向かって、ブルックリン公爵は何やら長々と挨拶を始める。


「本日は是非我が家のコレクションをお楽しみ頂きたく……(中略)……この大広間にあるのはほんの一部でして、古今東西の名品を選りすぐっております……(後略)……」


 形式的な祝辞から、彼のコレクション自慢が延々と続く。

 ――は、話が長いな。校長先生かよ……!!


 彼の長話に若干うんざりしてきた頃、ブルックリン公爵はようやく本題に入った。


「……それでは皆様ご覧ください。こちらが、先日入手したばかりの幻の名画、『星影の乙女』でございます……!!」


 その絵画は、大広間の中で最も目立つ場所に飾られていた。

 ブルックリン公爵の言葉に合わせて、絵画を覆っていた布を使用人がうやうやしく取り外す。


 仰々しい額縁に飾られたそれは、星空を背景にした乙女の絵だった。

 大広間の貴族たちの間から感嘆のため息が漏れる。――うーん、綺麗な絵だとは思うけど、俺にはよく分らんな……


 マリエラお嬢様も感激の表情を浮かべていたので、俺も一応周りに合わせて感動のリアクションをしておいた。


 ――怪盗ルノワールが狙っているのはこの絵か。

 犯行予告の夜九時にはまだ時間がある。こんなに人が大勢いる大広間から、どうやってこの絵を盗み出すつもりなんだ……?



 【三】


 しばらくの間、舞踏会は何事もなく進行していった。


 俺はマリエラお嬢様に付き合って社交ダンスを披露したりしていたが、時折アイラスの刺すような視線を感じていた。

 ――許してくれ、アイラス。これ、お仕事だから……!!



 その時、大広間の時計が鳴った。――夜9時。

 怪盗ルノワールの犯行予告時間だ。


 次の瞬間、大広間を照らしていたシャンデリアの明かりがふっと掻き消えた。

 突如として暗闇に包まれ、貴族達の間から悲鳴と困惑の声が上がる。


 ――魔力阻害か何かで光の魔法を打ち消したのか……?


 俺が自分で光の魔法を使おうとした、その時だった。にわかに会場内がざわめいた。

 大広間の壁の一角に、スポットライトのように丸い光が当たる。


 スポットライトの中には、マントをひるがえす男の姿が影絵のように映し出されていた。


 ザワザワする貴族たちの目の前でスポットライトはスッと移動し、大広間の上部にある天窓を照らし出した。

 天窓はいつの間にか開け放たれており、そこに、黒マントを羽織った男がいた。顔は仮面で隠している。

 ――な、何だ!? あれが怪盗ルノワールなのか……!?


「『星影の乙女』は頂いた……!!」


 わざわざ拡声魔法を使って、大広間全体に響き渡る声で男はそう宣言した。

 そして、凧のような飛行道具を使って天窓から上空へと身を踊らせる。


 男が飛び立った直後、大広間の明かりが回復した。

 慌てて『星影の乙女』が飾られていた場所を見ると、そこには空っぽの額縁だけが残されていた。絵画は、跡形もなく消えている。


「そ……、そんな……。いつの間に……!?」

 ブルックリン公爵は、真っ青になって狼狽していた。


 ――大広間の明かりが落ちてから回復するまで、一分もかからなかったはずだ。

 そんな短時間で、どうやって絵画を盗み出したっていうんだ……?


「だ、誰か、怪盗ルノワールを捕まえろ……!!」

 ブルックリン公爵がヒステリックに叫んだ。


 屋敷の中は、にわかに騒がしくなった。

 雇われた傭兵や冒険者たちが、怪盗ルノワールが姿を消した方角へ向けてバタバタと走っていく。


 ――何だろう。何かおかしいぞ……?

 そんな中、俺は強烈な違和感を覚えていた。


「一体何が起こっておりますの……?」

 マリエラが困惑したように呟く。


「……すまん、マリエラ。野暮用だ……!!」

「えぇ!? ちょっと……!!」

 俺はマリエラを置いてその場から駆け出した。



「アイラス……!!」

 会場内にいたアイラスの姿を探し出し、俺は声をかける。アイラスも、他の冒険者たちと一緒に怪盗ルノワールを探しに向かおうとしていた。


「レーンド!? ど、どうしたの……?」

「この屋敷の見取り図は頭に入ってるか?」

 俺はアイラスに尋ねる。


「え、ええ……。事前に警備の打ち合わせがあったから、一応は……」

「ちょっと気になることがあるんだ。付き合ってほしい」


「わ……、分かったわ……」

 アイラスは頷いた。


次回「対決・怪盗ルノワール!!波乱の舞踏会!!(後編)」

次回は、間に合えば水曜日に投稿します(目標)

間に合わなかったらみません…


読んで下さってありがとうございました!!よかったら、評価やブックマークよろしくお願いいたします!!

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