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脳筋聖女はダンジョンでも無双する

 【一】


 ――ダンジョンでは、一瞬の油断で即死する可能性もある。

 その事実を、俺たちは改めて胸に刻んだ。


「ありがとうございます、アレンを助けてくれて……。何てお礼を言ったらいいか……」

 アイラス達に諸々の経緯を説明したところ、アレン本人よりもニーナに感謝された。


「レーンド、疑ってごめんね。指輪の魔力を引き出すためだったのね……」

 アイラスは言った。

「あ、ああ……。俺が浮気なんてするわけないじゃないか」

 ――するわけないし、できるわけがない。命は惜しいからな……


 とにかく全員無事で合流できたことを喜び、俺たちは改めて先へと進んだ。



「……そもそもダンジョンってさ、盗掘から財宝を守るのが目的で作られたんだろ?」

 何気なく、俺はそう尋ねた。

「諸説あるらしいけどな。当時の権力者たちがダンジョンの出来を競うことで権力を誇示していたという説もあるらしい」

 アレンが答える。


「へぇ……」

 何にせよ、仮に王墓を守るのが目的なのだとしたら、番人とかそういうのがいるんじゃないか?

 俺のその予想は、残念ながら的中することになる。



 *****


 マッピングしながら地道に歩いた末、俺たちは何やら広い通路へとたどり着いた。天井も高く、太い柱が何本も立ち並んでいる。


 通路の先には巨大な扉があり、その扉を守るかのように、一体の大きな鎧が鎮座していた。顔まで全て覆うタイプの金属製の全身鎧で、黒地に銀の紋様が入ったデザインはなかなかかっこいい。


 ――なんかあの鎧、動きそうだな……。このダンジョンのラスボスという感じがする。

 前世でRPGはたくさんやったからな。俺は詳しいんだ。


「……ミア、どう思う? 何か見えるか?」

「はいです……。あの鎧には強い魔力がこもっている、です……」


 そんな会話をしているうちに、想像通り、鎧は台座からゆらりと立ち上がった。

 ――やっぱりか。こんな意味ありげに置いてある鎧がただの鎧なわけないもんなぁ……

 自律行動する生きた鎧、リビングメイル。初めて見るレアモンスターだ。


「ミア!! 先制攻撃!!」

「はいパパ!! ――ダークブレイズぅ!!」


 できるなら、奴が攻撃してくる前に倒してしまうのが一番いい。地竜も一瞬で丸焼きにした黒い炎がリビングメイルに襲い掛かる。

 しかし、炎はリビングメイルに一切ダメージを与えなかった。金属の鎧は全く速度を落とすことなく、炎の中を突っ切って突進してくる。


 ――くそっ、こいつ、魔法攻撃無効か……!?


 リビングメイルは、重量級の外見とは裏腹に俊敏だった。あっという間に俺たちの目の前まで距離を詰め、背中に背負っていた大剣を振り下ろす。

「ぐっ……!!」

 前衛のグエインが剣を抜き、リビングメイルの攻撃を受け止めた。


 金属同士がぶつかる音が響き渡る。

 しかし、体格の良いグエインですら明らかにパワーで負けていた。


 鎧はもう一度大剣を振り上げ、グエインの体を横なぎにする。

「ぐああぁっ……!!」

 その力を受け止めきれず、グエインはあっさりと吹き飛ばされた。――おいおい、タンク役が簡単にやられてんじゃねーよ……!!


「ニーナ、補助魔法頼んだ!!」

 アレンが言った。

「はい!! ――ファリスの加護よ……!!」

 ニーナがアレンに魔法をかけ、攻撃力を強化する。


 アレンはリビングメイルに斬りかかり、激しい剣戟の音がダンジョンの壁に反響する。

 何度目かの攻撃でリビングメイルの剣筋を見切ったのか、攻撃をかいくぐってアレンは前に踏み込んだ。

 そして、鎧の首をめがけて剣を一閃する。


 ガキイィィン――、と、金属同士がぶつかる鋭い音が響いた。


 しかし、折れたのはアレンの剣の方だった。リビングメイルは全くの無傷である。

「う、嘘だろ……!?」

 アレンは思わず声を上げた。


 まるで露払いでもするかのように、リビングメイルは大剣をアレンに向かって振り下ろす。

 アレンは咄嗟に折れた剣でその攻撃を受け止めたものの、力で押し負けて吹き飛ばされてしまう。


 ――これは、まずいな。

 アレン達が勝てないなら、俺達のレベルで勝てるはずがない。


「どうする!? に、逃げるか……!?」

「でも、この先に出口があるかもしれないでしょ。――私が戦うわ」


 逃げ腰の俺に、アイラスは言った。

 ――正気か!? 魔法も効かない、剣も通用しない相手と素手でどうやって戦うんだよ……!?


「何か勝算はあるのか!?」

「まあ、一応ね……」

 アイラスは答える。


「レーンド、私に強化魔法をかけて」

 有無を言わさぬその口調に、俺は頷くしかなかった。


「わ……、分かった……。無理そうだったらすぐ逃げるんだぞ……!?」

 俺にできる限りの魔力を込めて、『攻撃力強化』と『防御力強化』の魔法をアイラスに付与する。


「わ、私からも……!!」

 ニーナも、強化魔法をアイラスに重ね掛けした。


「ありがとう、二人とも!! ――行ってくる……!!」

 言うやいなや、アイラスは強く地面を蹴ってリビングメイルに突進した。


「オルアアアアアァァァァァァァァァ!!!!!」


 ――おいおい、正面から行くのかよ!? さっきアレンの剣が折られたのをもう忘れたのか……!?

 アイラスは突進した勢いのまま、渾身の右ストレートを繰り出す――かと思われた。

 突進してくるアイラスに向かって、リビングメイルは大剣を振り下ろす。


 パンチを打つと見せかけて、アイラスは右手でリビングメイルの襟首(というか、首のパーツ)を掴んだ。そして、大剣を持ったリビングメイルの右腕を左手で受け止めて、そのまま背負い投げる。


「ウルアアアァァァァ!!!!!!」


 雄叫びと共に、アイラスはリビングメイルを地面に叩きつけた。

 激しい金属音がダンジョン内に響き渡る。


 ――お、おお……!! すげぇ……!!


 すごいが、残念ながらこの程度で破壊されるほどリビングメイルは脆くはなかった。人間と違って痛みで気絶することも、降参することもない。


 当然、それはアイラスも分かっている。

 リビングメイルが起き上がろうとしている間に、彼女は背後に回り込んでいた。掴んだリビングメイルの右腕を後ろに回し、背中を踏みつけながら右腕をひねり上げて肩関節を極める。

 鎧の肩関節部位に負荷がかかり、ミシミシと軋むような音が鳴った。


「ハッ……、ギブアップなんてさせねぇぞ、このデカブツがあああぁぁぁぁぁ!!!!!」


 ――関節技というのは、文字通り関節を破壊するための技である。

 バキンと大きな音を立てて、鎧の肩関節のパーツが破壊された。アイラスは千切れた鎧の右腕を投げ捨てる。


「グエイン!! 今のうちにあの剣拾え!!」

「……お、おう!! ……何でお前が俺に指図するんだよ!?」


 文句を言いつつも、グエインはリビングメイルが落とした大剣をダッシュで拾い上げる。

 ――よっしゃ、これでもう奴に武器はない……!!


「まだ終わらねぇぞデカブツ!! かかって来いやオルアアァァァァァ!!!!」


 右腕を失ったリビングメイルは、残った左腕でアイラスに殴りかかってきた。

 アイラスは、パンチを打ってきたリビングメイルの左腕をつかみ、相手の勢いを利用してその巨体を再び投げ飛ばす。


 リビングメイルが地面に叩きつけられると同時に、アイラスはそのまま左腕の関節を極めた。右腕を破壊した時と同じ要領で、アイラスは左腕の関節も破壊して引き千切る。


 破壊した鎧の腕を掲げて雄叫びを上げるアイラスの姿は、まさにアマゾネスだった。


「念のため両足も破壊しとく?」

 アイラスはにこやかに尋ねる。俺が何か答える前に、彼女はリビングメイルの膝関節を逆向きにへし折っていた。

 ――ひぇ……。中身のない鎧だと分かっていても何となく痛々しい。


 うーん、まさかリビングメイルを関節技で倒すとは……。ダンジョンの制作者も想像していなかったんじゃないだろうか。


「グエインから話は聞いていたけど、本当に強いんだなぁ……」

 アイラスの戦いを見ていたアレンが、心底驚いたように言った。


 アイラスは人間および人型のモンスターが相手なら無双できる。その無敗伝説にまた新たな一ページが加わってしまったな……



 【二】


 リビングメイルを無力化した俺たちは、巨大な門の前に立った。

 念のため、ニーナが解析魔法を使って門を調べる。


「……どうだ? ニーナ」

「罠はなさそうだけど……。この門、強力な反魔法の封印がかかっているわ」

 アレンの問いに、ニーナはそう答えた。


「……反魔法?」

 俺はオウム返しに尋ねる。

「文字通り、魔力を拒む封印です。魔力の強い者ほど反発を受けて、門に触れることすらできません……」


「なるほど……」

 試しにアレンが門に手を近づけてみると、バチッと静電気が走るような音がして弾かれた。


「ニーナ、解呪はできるかい?」

「ええ、多分……、時間がかかるかもしれないけど……」

 ニーナは答える。


 しかし、アイラスが言った。

「――その必要はないわ」


 アイラスは、何の抵抗もなく門に触れた。


「え、嘘……、どうして……?」

 ニーナも、アレンとグエインも驚いてアイラスを見る。魔法を使わないグエインですら、微量の魔力は持っているのだ。


「私、魔力ゼロだもの……」

 拗ねたようにそう言って、アイラスは石造りの重そうな門を力任せにこじ開けた。



 *****


「そう都合よく金銀財宝とはいかないか……」

 門の中を見て、ぼやくように俺は言った。


 そこは、石造りの棺が安置された部屋だった。

 恐らくはかつての権力者の墓なのだろう。門の前にいたリビングメイルは、さしずめ王を守るナイトと言ったところか。


 棺の周囲には、よく分からない彫刻の類が副葬品として置かれている。――これは売ったら金になるんだろうか……? 俺には芸術の素養も考古学の知識もないためよく分からなかった。


「……どうする? もう一回迷宮を探索して地道に出口を探すか?」

 俺は言った。

 ここがダンジョンの最深部なのだろうが、外に出られなくては意味がない。

 ――リ○ミトみたいな魔法ってないのか?


「それよりも、ここで隠し通路を探した方が早いと思うよ」

 アレンがそう言った。

「隠し通路……?」


「ああ。……こういう遺跡には、だいたいあるんだよ。王の棺を搬入するための隠し通路がさ」

「………!! なるほど……!!」

 その通路なら地上まで直接繋がってるってわけか……!!


「よし、アイラス!! この部屋の壁片っ端からぶっ壊そうぜ!!」

「オッケー……!!」


「ま、待て待て待て!!! 脳筋か君らは……!! ニーナが探索魔法で調べるから……!!」

 アレンが慌てて俺たちを止める。


「……何だかんだお似合いのカップルだよ、お前ら」

 呆れたように、グエインがそう言った。




 ニーナの魔法によって無事に隠し通路を発見した俺たちは、狭い通路を這うように登ってようやく地上へと戻ってきた。

 ――夜空が見えた時は感動すら覚えた。地上の空気を肺いっぱいに吸い込んで、俺は生きて戻って来れた幸せを嚙み締める。


「本当に、今回は巻き込んでしまって済まなかったよ。特にレーンドにはでかい借りができてしまったなぁ」

 アレンは言った。


「……いいって。俺も道中はあんたにたくさん助けてもらったしな」

 冒険者歴の長いアレンやニーナの助けがなければ、俺たちだけでは生きて地上に戻れなかったと思う。


「それじゃ、ニーナと幸せにな」

「ああ。……ところで、ものは相談なんだが。よかったらグエインを君たちのパーティに入れてやってくれないか?」

 アレンは、急にそんなことを言い出した。


「え……、でもなぁ、グエインってアイラスより弱いじゃん……」

「う、うるせぇ!! アイラスさんより弱いがお前よりは強いぞ!?」

 グエインは俺に食ってかかる。


「それはそうだけど……、まあ、考えといてやるよ」

「な、何でお前がそんなに偉そうなんだ!? リーダーはアイラスさんじゃないのか!?」

「え……、いちおう俺だけど……?」


「やっぱり解せん……、どうしてお前みたいな男がアイラスさんの婚約者なんだぁ……!!」




 後日。

 ダンジョン発見の実績が認められて、俺たちは晴れてランクアップを果たした。高ランクにはまだほど遠いが、ようやく脱・見習いというわけだ。

 これでもう少し報酬の高い依頼も受けられるようになるかな?


次回「激闘!!アンソニー商店街お料理対決!!」

次回の更新は水曜日の予定です。


読んで下さってありがとうございました。よかったら、評価やブックマークよろしくお願いいたします!!

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