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魔族の幼女のパパになった

 【一】


 ダリルの野郎が馬車で逃げてしまったので、俺達はセンタの街まで徒歩で帰ることになった。

 水分の補給がてら、途中の川のほとりで休憩をする。


「……でも、やっぱり魔族ってことがバレたらまずいよな。ミア、人間の姿に化けたりできるか?」

 俺はミアに尋ねた。

「あ、あの……、変化の呪文はとても高度な魔法です、ので……、ミアにはまだ……」

 ミアは申し訳なさそうに答える。


「そ……、そうなのか……」

 ――ん? じゃあ5歳の頃からずっと人間に化けていたイードはもしかして凄いのか……?

 まあ、今となっては彼の実年齢も怪しいものだが。


「大丈夫よ。羽根はローブを羽織れば隠せるし、角だって髪で隠しちゃえばいいのよ」

 アイラスは、ミアのボサボサの黒髪に丁寧にくしを入れる。

「こうして三つ編みにして、お団子に巻いちゃえば……、ほら、自然に隠れるでしょ?」


「おお……、可愛いじゃん」

 俺は素直な感想を述べた。

「あ……、ありがとうございます、です……」

 新しい髪形を水面に映して、ミアは嬉しそうな顔をする。


「街に着いたらリボンとか買いましょう? きっと似合うわよ」

「はい……!!」

 そう言って無邪気に微笑むミアは、人間の少女と何も変わらないように見えた。



 *****


 ヘトヘトになりながらセンタの街に着いた頃には、もうすっかり夜も更けていた。

 石造りの建物が並ぶ都会の風景に、ミアは目を丸くして周囲を見回している。


「お帰りなさい、ずいぶん遅かったわねぇ」

 下宿に戻った俺達を、エリーゼさんが出迎えてくれた。


「すみません、ちょっと予定が狂ってしまって……。あ、これ、お土産のドラゴン肉の塩漬けです」

「あら、ありがとう」


 俺は土産を手渡して、エリーゼさんのご機嫌を取る。――ミアを同居させてもらうためには、エリーゼさんを懐柔しないと。

 その時、俺の背後に隠れているミアの存在にエリーゼさんは気がついた。


「……もう、レーンド君ったら。いつの間に子供なんて作ったの?」

「お、俺の子供じゃないですよ……!! その、訳あって知人から預かることになったんですけど、一緒に住まわせてもいいですか……?」


 ミアは俺の背後から恐る恐る出てくると、エリーゼさんに向かってぺこりと頭を下げる。

「あ、あの、ミアです……。よろしくお願いします、です……!!」


 そんなミアのいじらしさに、エリーゼさんはキュンと来たようだった。

 ――よし、反応は悪くない。もう一押しだ、ミア……!!


「そ、そうなの……? でも、こんな場所でこんな小さい子を預かるのは……」

「ミア、小さくない、です……!! 良い子にできます、です……!!」

 ミアは一生懸命アピールする。


「あの、私からもお願いします。面倒は私たちが見ますし、ご迷惑はかけませんので……」

 駄目押しのように、アイラスも頭を下げる。


「アイラスちゃんがそう言うなら、仕方ないわね……。ミアちゃん? ちゃんとお手伝いできる……?」

「はい……!! ミア、お手伝いできる、です……!! がんばるです……!!」


 ミアの無邪気な笑顔に、エリーゼさんはメロメロになっていた。

 ――フッ、さっきしっかりミアに演技指導しておいた甲斐があったな。



 *****


「これでようやくゆっくり眠れるな……」

 無事にミアも同居させてもらえることになり、俺たちは一安心して自室へと向かった。

 ミアはアイラスの部屋で寝てもらおうと思ったのだが、何故かミアは俺の体にぴったりとくっついて離れようとしない。


「ミア……? アイラスの部屋の方が広くていいぞ……?」

「…………パパ」

 小さい声で、ミアはぽつりとそう言った。

 ――お父さんが恋しいんだろうか。


「レーンド、今日だけ一緒に寝てあげたら? ……ミア、明日からは私の部屋で寝ようね」

 アイラスの言葉に、ミアはこくりと頷く。


「わ、分かった……。じゃあ今日は一緒に寝ような、ミア」

 俺がそう言うと、ミアは嬉しそうについて来た。


 俺の部屋の狭いベッドの中に、ミアはもそもそと潜り込んでくる。そして、俺の体にぴったりとくっついた。――こ、子供の体温って温かくて落ち着かないな……


 念のため断っておくが、俺にロリコンの趣味はない。

 俺の好みは年上でクール系美人のお姉さんだ。……例えば、イーリィさんみたいな。


「パパ……」

 ふと気づくと、ミアは俺の体にくっついて声を殺して泣いていた。

 ――そうか、人間に捕まって、怖い思いをたくさんしたんだもんな。今まで我慢してたのか……


 ミアの父親が人間に殺されたという話を、俺は思い出す。――ミアのお父さんは、一体何をして殺されたんだろう?

 父親が何らかの理由で人間に「討伐」されたのだとしても、子供のミアに罪はないはずだ。


 泣いているミアの背中を優しく撫でながら、俺は何が正しいことなのかよく分からなくなった。



 【二】


 幸いなことに、冒険者ギルドへの登録に年齢制限はない。

 ミアを登録したことで、俺達のパーティーは三人になった。


「よし、せっかくミアが仲間になったことだし、何か一つ依頼を受けてみるか!!」

「はいです……!! ミアがんばる、です……!!」


 そんなわけで、俺達は比較的安全そうな薬草採取の依頼を受けた。

 ――薬草には詳しくないが、まあ図鑑を見ながらやれば何とかなるだろう。


 目的の薬草は特定の条件がそろった洞窟の中にしか生えていないらしく、まずはその洞窟を探すのに森の中をだいぶ歩き回った。

 ようやく見つけたその洞窟は入口が狭く、内部は暗くてジメジメしていた。


 中に入る前に、俺は光の呪文で洞窟の内部を照らしてみる。

 その瞬間、アイラスが悲鳴を上げた。


「いっ……、いやあああああぁぁぁぁぁ!!!」

 洞窟の壁や天井には、巨大なヒルのような魔物がびっしりと貼り付いていた。


「む……、無理無理無理!!! あれは無理……!!」

 半泣きになりながら、アイラスは首を横に振る。


 この巨大ヒルの中に飛び込むのはさすがに自殺行為だ。

 ――だが、今ならミアがいる。


「よし、頼んだぞ……!! ミア……!!」

「はいです、パパ!! ――ダークブレイズぅ!!!」


 ミアの目の前に現れた魔法陣から黒い炎が放たれ、洞窟の壁を舐め尽くしていく。ヒルの魔物は炎に巻かれてボトボトと地面に落ち、炭化して黒いスミになる。

 あっけなく、魔物は全滅した。


「よしよし。えらいぞ~、ミア」

「えへへ……、もっと褒めてほしいです……」

 俺に頭を撫でられて、ミアは嬉しそうに微笑む。

 ミアの使う魔法は闇属性の攻撃魔法だ。使える魔法のバリエーションは少ないようだが、威力は十分だった。


 ミアのおかげで俺達は楽々と洞窟の奥に進み、目的の薬草を採取することができた。

 ――うむ、この分ならランクアップもそう遠くないんじゃないか……!?


次回「簡単な採掘依頼のはずが大変なことになった」

次回更新は水曜日の予定です。


読んで下さってありがとうございました!!

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